
文/Webikeスタッフ:nemo-T
ダウン“フォース”と共にあれ
車の世界では古くから、空力、とりわけウィングを活用したものが多数登場していました。GTウィングとか、リップスポイラーとかカナードとか。
一方、これまでバイクの世界では、原付などスクーターのリアについている、ちょびっとしたハネくらいしか目立つ空力パーツ?はありませんでした。(DIOハネ実は結構好き)
しかし今では事情は変わってMotoGPではもはやついていて当たりまえ。市販車でも続々と装着車両が増えてきているバイクのウィング(ハネ)。
でもこのウィングって本当に効果あるんでしょうか?そもそもどんな働きをしているのでしょうか。
目次
ウィングはダウンフォースを得るため
最近のスーパースポーツやレーサーについているウィングはダウンフォースを得るためについています。
ダウンフォースとは、走行中に空気の力によって発生する力で、地面に押さえつけられる力のことを言います。
この力を手っ取り早く体感するなら下敷きをもって扇風機の前に立つのが一番!
扇風機からの風が地面と平行にした下敷きに当たるとき、少し前側を持ち上げた時、後ろを上げた時では、力のかかり方が違うというのがわかります。
このうち後ろ側を上げた時に感じる下方向への力がダウンフォースの大元であり、これを基礎に作られたものがウィングなるものです。
詳しいウィングの原理としては、翼に当たった風の速度が上と下で異なることによって発生する負圧の力を利用して、下方向の力を発生させるというものです。
もう少しわかりやすくすると、流速が速い下側の方が気圧が低いので翼が下に吸われていくという仕組みです。
さて、上の図で疑問が出るのが、なぜ上の空気が遅くて下が速いのか。これは長さが違うから……ではなくて、翼の後端がとがっていることで空気に「循環」が起きているからだと現在では言われています。
ただ、この循環は見ることができません。なぜなら空気は前から後ろへ抜けるので、視覚上は循環の動きが負け、上側が遅く見える。という風にイメージしておけばよいと思います。
ダウンフォースの反対の力は飛行機の翼のように、浮く方向の力、揚力です。
つまり、クルマやバイクがウィングを使用してダウンフォースを得る場合、原理的には飛行機の翼の反対のことをしているといえます。
原理としてはとてもシンプルなものですが、シンプルな分、ウィングの角度や形状、個数、場所など様々なアプローチが存在しています。
ダウンフォースで得られる効果
ダウンフォースによって得られる効果はいくつかあります。
バイクに採用されるウィングはいずれも、翼にあてた空気の力で負の揚力、ダウンフォースを発生させて地面にタイヤを押さえつけるというのは大まかな図式は変わりません。
ここでは、バイク×ダウンフォース流行のきっかけともいえるMotoGPの事情に触れながらダウンフォースの効果を解説していきます。
タイヤのグリップ力が増す。
あら不思議!ダウンフォースでタイヤのグリップ力が増すなんて!!
これはタイヤがグリップする原理を考えるとわかります。
タイヤはざっくり言うと、摩擦力(摩擦係数)と遠心力(荷重)でグリップ力が決まります。(本当はもうちょっと複雑だけど割愛)
このうち摩擦は、タイヤにかかる力が重ければ重いほど摩擦力が高まりグリップするようになります。
ピンッと来ない場合は消しゴムをお手元に用意して、上から力をかけながらスライドすると、力をかけてないときに比べ動かしにくい=グリップしていることがわかると思います。
じゃあ、重いバイクを作ればいいじゃない!
ところがどっこい現実はそう簡単じゃなくて、タイヤのグリップを決定する要素のもう一つ、遠心力の増加が足を引っ張るのです。
水の入ったバケツを持って勢いよく振りましょう。からっぽのバケツと比べると、水の入ったバケツは外側に引っ張られる力が強いのがわかります。
タイヤに置き換えると重い車体のほうがコーナーで外側に向かう力が強くなる。
そして、車重を重くしてグリップ力を得る効果より遠心力の力のほうが勝ってしまうので、車重でグリップ力を稼ぐより軽量化で遠心力を減らした方が効果的なのです。
でも、タイヤにかかる重量が増える=押さえつける力が増えることが効果的なのはお分かりいただけたでしょう。
そこで、登場するのがダウンフォース!
ダウンフォースが発生することで、車重は増えませんが、タイヤを地面に押さえつける空気の力を手にすることができてグリップ力が向上するという仕組みなのです。
ここで思い出してほしいのがMotoGPでウィングが流行し始めた2016年何が起きたかということ。実はあの年、タイヤのサプライヤーが変わった年だったのです。
タイヤが変わればセッティングに苦労するのが世の常。この年は各チーム、フロントの接地感という問題に直面しました。
フロントの浮き上がりを防止できる
近年の大型スポーツバイクはもうover100psは当たり前。200psに突入する恐竜的進化を遂げています。僕はバイク乗りジェレミー・クラークソン説を提唱したい。
パワーが上がればフロントが浮き上がる、所謂ウィリー状態になりやすいのは皆さんご存知の通りです。
そのパワーを人間が扱えるようにするために昨今進化が著しいのが、トラクションコントロールやアンチウイリーをはじめとする電子制御で、アプローチは様々ですが、多くの車両で滑らない浮かないの良い塩梅に仕上がっています。
フロントの浮き上がりというのはこのように電子制御でコントロールできるものですが、その代償として開発費の高騰が起きます。市販のスーパースポーツも数年前に比べグングン価格が高くなってますよね。その一端を担っているのがこの問題です。
レースの世界ではそれが顕著で、2016年のMotoGPがこれに対して出した答えは電子制御の親玉ECUの共通化。
共通化したことで性能が事実上ダウン。そうなるとフロントの接地感問題が再び表面化し、そこで注目されたのがダウンフォースだったのです。
ダウンフォースを発生させることで、飛行機の翼と逆の力、すなわちタイヤを地面に押さえつける負の揚力が発生します。
そのおかげで、ストレートでの加速時のウィリーを抑制し、効率的に加速につなげられるというわけです。
四輪と二輪のウィングは活躍する場所が違う
四輪車と二輪車ではダウンフォースが活躍する場面・狙っている目的が異なるといわれています。
まず装着位置です。四輪の場合はリアウィングの比重が高め。バイクの場合はフロント付近です。
ダウンフォースはウィングに発生するので、この位置でまずどちらのタイヤを地面に押さえつけたいかが異なることがわかります。
四輪車の場合は車重が重いこともあり、コーナリング時の安定性を増す目的でコーナリング重視のウィングが多くみられる。
反対に二輪車の場合は、コーナーリングで過度なダウンフォースを得ると、たとえばS字の切り替えしなどで重さを感じてしまうこともある。なのでコーナリングそこそこ。
それよりも重視されるのがストレートでの加減速時の安定性向上。つまりストレート重視のダウンフォースです。
一口にダウンフォースと言っても目的や車両特性にあわせて様々な特性やアプローチがあるのです。
ダウンフォースを得る方法はウィングだけじゃない
意外かもしれませんがダウンフォースを得るためには翼を付けなくてはいけないというわけではありません。
と言っても四輪車レースでの話ですが。もしかしたら将来我々のバイクでも実現されるかもしれません。
その一つが、グラウンドエフェクト。
蛇口から流れる水にスプーンの底面を近づけるとピタッと吸い付く。そしてスプーンを離そうとすると水も曲がる。これと同じような原理で、流れる気流には物体を引っ張る力があります。
この原理を利用して路面と底面を通過する空気で負圧を発生させてダウンフォースを生み出したのがグラウンドエフェクトカー。またの名をウィングカーです。
そして、より効果的に負圧を発生させるために生まれたのがファンカーで、これは路面と底面の空気を巨大なファンで吸いだして負圧を得ようとしたものです。(面妖な技術者め!)
莫大なダウンフォースを発生するので、高い効果を得られる反面、段差などで、底面に空気が一気に流れ込むと、車体が浮き上がるという致命的な欠点がありました。
現在ではあえて不完全な形でグラウンドエフェクトを実現することで欠点の発生を抑えています。
構造上バイクでの実現は難しい……かな?
アフターパーツでウィングを付けられる!
ドカティのパニガーレや、新型CBR1000RR-Rなどすでに純正状態でウィングを装着している車両は続々と登場しています。
そんなウィングをあなたの車両にも装着できるパーツがあります。それがスクリーンの名門、Puig(プーチ)から販売されている『ダウンフォーススポイラー』です。
このウィングの特徴は、実際にサーキットでのダウンフォース性能を実証したうえで販売されていること。つまり本物の翼を授けてくれるというわけです。
KawasakiのZX-10Rでのテスト結果は、時速200kmの時に、下方向に2kgのダウンフォースを得ることに成功。さらにはスピードが上がるにつれてその効果は大きく、300km/h時には約5kgものダウンフォースを発生させるとされています。取り付けステーも車種ごとに用意されていて気合を感じる。
YZF-R3やCBR400R、ニンジャ400用など、しばらくは純正採用が望めない小排気量用もラインナップされている。
バイク用品でも空気の力は重要
空力パーツというと車両についているウィングを想像しがちですが、実はバイクの場合それだけではありません。
特にヘルメットは、空力への対策が進んでいる用品の一つです。
最近のヘルメットは後端が伸びているのがわかると思います。
あれはライダーが走行中に受ける風でヘルメットが浮く、振られるなどのありがたくない事象を防ぐために空力を意識しているためです。
最近ではアライから後付けのディフューザーが発売されるなど、各社空力パーツの開発を行っているのです。
一般公道でダウンフォースの恩恵にあずかるのは難しい
残念ながらウィングによるダウンフォースの力は速度に比例するのが現実です。
そして効果を発揮する速度域は200kmくらいが現実的。そうなると公道で体感するのは事実上不可能と言えます。
ただ、だからと言ってウィングは不要かと言われるとそうでもないと僕は思う。
機能美を突き詰めたいのもわかる。
ただ、かっこいいものはかっこいいのだ。理論でどう言おうとかっこいいものに勝るものはない!
たとえ本来の空力的効果を得られなくともかっこよさが得られるのであればよいではないか。もしかしたら話のダウンフォースを得られるかもしれないし。
かくいう僕も、KOSOのウィングが登場したときに喜び勇んで購入した。
だってハネかっこいいんだもん。
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