
SHORAIのリチウムイオンバッテリーは、優れたエンジンの始動性や大幅な軽量化に役立つ。それだけに続々とユーザーが増加し、「SHORAIに換えたらトルク感がアップした!」という声も上がっている。……が、本当にそんな効果があるのだろうか?そんな疑問を解消すべく、シャシーダイナモで数値検証をお願いする千葉のカワサキ正規取扱店・MSセーリングに向かった。
SHORAIバッテリーはオカルトパーツか!?
スマートフォンやパソコンなど電子機器でお馴染みのリチウムバッテリーだが、近年はバイク用バッテリーとしても注目されている。なかでもアメリカで2010年に設立したSHORAI社は、バイク&パワークラフト用リチウムバッテリーのパイオニアで、世界的にシェアを拡大している。
SHORAIバッテリーはエンジンの始動性に優れ、軽量。バッテリー上がりが起こりにくく、さらに長寿命と評判が高く、日本でもユーザーが増えている。それに加えて、じつは「SHORAIに換えたらトルク感がアップした」という声が、ユーザー間でささやかれているという。スタート時や加速でスロットルを開けた時の力が増したというのだ!
とはいえ、昔から「○○を装着するだけでパワーアップ!」のようなオカルトパーツも少なくないので、SHORAIもそれをメリットとして謳ってはこなかった。たとえばエンジンの始動性は「かかりにくい → スグにかかる」と明確な変化があるし、軽さも従来の鉛バッテリーと重量を計り比べれば明白だが、トルク感アップはあくまで「感覚の話」だからだ。
その感覚を数値として確かめるために、千葉県のカワサキ正規取扱店・MSセーリングにてシャシーダイナモに載せて鉛バッテリーとSHORAIバッテリーで本当に違いがあるのかをチェック!車両はカワサキのZ900RSを使用し、それぞれ満充電した新品バッテリーを用いて計測した。はたして結果はいかに!?
結論:全域でトルクとパワーがアップした!!
シャシーダイナモで計測した結果が以下のグラフ。一目瞭然でSHORAIバッテリーの方がトルクも馬力も向上している。しかも高回転のピーク域よりも、スタート時や一般道を走行する低~中回転域での変化が顕著。そのため、SHORAIユーザーが「トルク感が増した」というのは、気のせいではなく確かなフィーリングだったのだ!
パワーグラフ
青線:STD鉛バッテリー 97.30ps 赤線:SHORAIバッテリー 98.26ps
馬力も全域で向上! とくに低~中回転域でアップしているのがわかる。
その秘密は、内部抵抗が「限りなくゼロ」
……とはいえバイクのエンジンは、排気量アップや吸排気など何かしらの改造やチューンナップを行わなければ、設計値以上のトルクやパワーが出ることはないはず。なのにスペックが向上しているのは、やはりSHORAIバッテリーをオカルトパーツと疑う向きもあるだろう。
じつはエンジンのトルクやパワーは、何かしら抵抗やロスにつながる原因があればそれらの損失によって性能低下を起こす。従来からの鉛バッテリーは相応に「内部抵抗」があるが、SHORAIのリチウムイオンバッテリーは構造的に内部抵抗が「限りなくゼロ」。近年の多くのバイクはバッテリー点火方式(発電機が生んだ電気がバッテリーを経由する)なので、内部抵抗がトルクや馬力を損失しているのだ。
また現行バイクは電子制御式燃料噴射装置(FI)を採用し、電子デバイスとしては少なくともABS(アンチロックブレーキシステム)を装備している。またミドルクラス以上ならトラクションコントロールやクイックシフターなど様々な電子デバイスを装備するが、これらの電子機器が作動する際には当然ながら電気を使う。そして従来の鉛バッテリーは、それらが作動するたびにわずかに電圧降下(ドロップ)するため、それが点火系のロスに繋がっているのだ。
この症状を抑制するには鉛バッテリーを大型化して容量を増やすのが得策だが、積載スペースに制限があり、重量増加を良しとしないバイクにおいては、対策方法として難しい。しかしSHORAIバッテリーは「急速充電&大量放電が得意」だから、容量を大きくしなくても電子デバイスの作動時に電圧のドロップを起こしにくい。また構造的に軽量コンパクトに作れるため、従来の鉛バッテリーと同等のサイズでも十分以上のエネルギー密度を確保できるのだ。
これが、「バッテリーを従来の鉛からSHORAIに換えるとトルク感がアップする」という理由だが、『SHORAIバッテリーに換えると電気の損失がなく、エンジン本来のトルクやパワーを発揮できる』というのが正しい表現だろう。だからSHORAIバッテリーは、決してオカルトパーツではないのである。
MSセーリングも太鼓判!安定した性能
今回、バッテリーの比較テストをお願いしたMSセーリング代表の竹内さんも、かつてはSHORAIバッテリーに懐疑的だった。しかし導入してみて、その印象は大きく変わったという。
「2020年頃からSHORAIバッテリーを扱い始めましたが、ユーザーさんによる取り付けのミスや、バッテリーが小さい小排気量モデルで電熱ジャケットフル装備などを除けばトラブルは一切ありません。……というより、電気的に怪しい症状があるバイクは、SHORAIに交換することで改善することも多々あります。頻繁に乗っている方よりも、たまにしか乗らないお客さんにオススメですね。たとえばZ900RS用なら価格も純正バッテリーとあまり変わらないですし。
とくに近年のバイクは電気を消費するパートが非常に多いので、SHORAIに交換すると違いがはっきり出ます。とにかく安定して電気を供給するので、スロットルの開け始めなど低中速が良くなるので、普通の街乗りでも体感できます。
これはショップとしてのメリットですが、純正バッテリーは車種によって細かく分かれていて種類が多いのですが、SHORAIバッテリーは対応車種の幅が広いので、最近のカワサキ車だとおおむね3種類くらいで対応できます。そのため在庫しやすいうえに、装着前の初期充電もほとんど必要ないので、お客さんが欲すればバッテリー交換してすぐに走り出せます。ちなみに従来の鉛バッテリーだと、バッテリー液の希硫酸を注入して充電器に繋いでから、大抵はひと晩くらい充電しますからね。
またSHORAIの専用充電器を使えば3分くらいで充電できてしまうので、当店ではたとえばオイル交換している間に充電サービスを行っています。これはお客さんも喜んでくれるし、ショップとしての信頼度もアップするので、SHORAIバッテリーのメリットは大きいですね」。
せっかくバイクに乗るなら、そのバイクが持っている性能をきちんと発揮できる方が嬉しい。しかも飛ばさなくても、普段の街乗りでもしっかり体感できるならなおさらだ。そんな「交換するだけでトルク感がアップする」SHORAIバッテリーの威力を、一度体験してみてはいかがだろうか?
MSセーリング代表の竹内義博さん。旧車から最新スーパースポーツまでカワサキ車のチューニングに深い造詣を持つ。
しかしバッテリーにも充電系にも問題がないのにバッテリー上がりが起きることも。その原因のひとつが「電気・電子アイテムの配線方法」だ。たとえばグリップヒーターやUSB電源などは、マイナス側の配線は車体のアースに、そしてプラス側の配線はバイクのメインキーを「ON」の位置にした時のみに通電されるアクセサリー配線(ACC配線。シート下やライトケースなどにACC端子を用意している車種もある)を使うのが基本だ。
とはいえバイクの電気配線は少々難解で、サービスマニュアルで配線図を確認しないとACC配線やACC端子を見つけるのが難しい場合も多い。そのため電気・電子アイテムの電源配線を、安易にバッテリー端子に直結してしまうパターンも少なくないようだ。いわゆる「バッ直」と呼ばれる手法だが、これだとバイクに乗っていない時(エンジンがかかっていない時)に電気・電子アイテム(グリップヒーターなど)の電源スイッチをOFFにするのを忘れたら、バッテリーが上がってしまう可能性が高い。
また近年はアクションカメラやスマートフォンをナビゲーションに使うライダーも多く、そのためにUSB電源ソケットの装備も増えている。そしてバイクから降りる時にカメラやスマホは必ず外すので大丈夫、とUSB電源ソケットをバッ直するパターンもあるようだが、これも変圧器に通電しているだけでわずかに電気を消費するためNGだ。
もちろんこれらの電気・電子アイテムに問題があるのではなく、悪いのはあくまで電源の配線方法。電気配線に自信のない人は、安易にバッ直せずにバイクショップや用品店などプロに依頼しよう!
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