モチュールの最高峰オイル=300Vが全面リニューアルを果たした。長年のパートナーであるスズキとヨシムラらとともに実戦で培った技術&ノウハウをフィードバック。オンロード用はエンジンベンチテストの高回転域で最大2.7馬力ものパワーアップを達成する。

さらにオンロード、オフロード向けに専用設計とし、走りの特性に最適化した仕様も実現。その詳細をモチュールR&D常務取締役の新井氏に訊いた。

MotoGP™(モトGP)、世界耐久ほかトップレースで磨いた性能を11年ぶりに注入した

モチュールは、フランスに本社を置くオイルメーカー。今では一般的なマルチグレードオイルや100%化学合成オイルを世界で初めて市販化したブランドだ。創業は、自動車が発明される以前の1853年。常に革新的なオイルを発信し続けている。

様々なチームとパートナーシップを結んでいるが、特にスズキ、ヨシムラとの関係が深い。以前から鈴鹿8耐や世界耐久マシンに、2022年まではMotoGP™マシンのGSX-RRに「MOTUL」の名が踊っていることをご存じのライダーも多いだろう。

中でも「300V FACTORY LINE」は2輪レース対応の最高峰シリーズ。300Vシリーズは1971年に世界初のエステル技術(詳細は後述)を活用したエンジンオイルとして発売され、時代に応じて進化してきた。

この春、2013年のリニューアル以降、実に11年ぶりの全面変更を敢行。従来もオンロードとオフロード向けに最適化していたが、今回はベースオイルから完全に専用設計とし、それぞれの走りに合致した性能としている。

300Vは、独自のエステルコア®テクノロジーをはじめ、MotoGP™や世界耐久、モトクロス世界選手権などのトップレースを通して磨かれた添加剤の配合がキモ。有力チームの要求に限りなく近づけるオイルづくりをしてきた技術が遺憾なくフィードバックされている。

結果、オンロード用では内部摩擦の低減などにより性能を評価する為に実施したエンジンベンチテストで、旧300V比2.7馬力もの出力向上を実現した。また、高温耐性と油圧安定性を一段と向上し、最大で1.8%の対油圧性能をアップ。信頼性が増し、油圧低下によるリスクを回避してくれる。

キーマン直撃、保護性能と摩擦低減を両立するESTERCore®(エステルコア)®テクノロジーがキモ

モチュールはフランスのブランドながら、二輪用の300Vは日本の新井氏が開発している。新井氏は工学博士で、20年以上モチュールオイルの研究開発に携わり、モータースポーツの最前線でエンジンオイルを日々開発している人物だ。

ここからは新生300Vの詳細を新井氏に訊いてみたい。

まず“エステルコア®テクノロジー”とはどんな技術なのだろうか?

「エステルという化合物を中心に、他のベースオイルと組み合わせて、最も用途に合った性能を出せる配合技術のことです。同じ調味料でもその使い方・量によって料理の味が変わるように、たとえおなじ原料を使用してもその配合比率で達成できる性能は大きく異なります。したがって、原料の選択とその配合比率は目的により変わります」(新井氏 以下同)

エステルという化合物は、オイルの性能を決める上で非常に重要。モチュールではエステルの使い方のノウハウ、構造を含め、2輪のエンジンに最も合う配合としているのだ。

オンロード用の新300Vについてポイントを訊いてみた。

「エステルコア®テクノロジーそのものが持っているエンジンを保護する性能、それから摩擦力を下げて出力を出す性能を追求しました。この両方に対して一つ一つの原料が出力に与える影響を丹念に吟味し、新しいエステルコア®テクノロジーとして造り上げています。ここにもヨシムラからのフィードバックがかなりあります。
エンジン保護性能が格段に上がり、その取り分を低摩擦性能に振り分けることが可能になりました。その結果、高回転域や最高出力付近での出力向上を達成したのです」

新井氏によると、モータースポーツ用オイルに重要なのは「摩擦を減らすことと、力の伝達を増やすこと」の2点という。

「摩擦係数を下げる、あるいは粘度を下げるとエンジンダメージにつながります。しかし、エステルコア®テクノロジーを使えば、摩擦力が上がらずエンジンにダメージを起こしません。そして、エンジンの燃焼室の力をできるだけコンロッドに伝えられることが重要です」

パワーアップの源は、レーシングオイルで培われた技術

それにしても、なぜオイルでパワーアップするのだろうか。

「過去10年余りに多くのファクトリーチームと共同でオイル開発を進める中で、いかに燃焼エネルギーを無駄なく路面まで伝達するかを常に考えていました。いくつかの仮説に基づいてテストを進め、エンジンオイルがかかわる部品一つ一つの作動条件と潤滑条件を試験結果の考察に反映させた結果、今回の新しいエステルコア®テクノロジーに行きつきました。根本を突き詰めたので、メーカーが異なるエンジンでもパワーアップが見込めることを確認しています」

高性能エンジンオイルは基本に立ち戻ったうえで新たに設計されたものだった。パワーアップは同じ燃料消費量で大きな動力を得られることだが、これは同じパワーを出すのなら少ない燃料消費量で済むことと同じで、エコでもあるのだ。

「信頼性に関しては、オイル粘度を硬くすれば簡単に上げられます。でも粘度を上げると出力が落ちてしまう。しかしエステルコア®テクノロジーなら油圧を維持でき、オイルの供給量を増やすことが可能。これが信頼性向上につながります」

新しい300Vでは、油圧を確保できる技術が確立したことから、さらに出力を上げる設計を検討。添加剤とベースオイルの両面から研究することで大幅な馬力アップが実現した。

「2.7馬力上がれば、ストレートエンドでトップスピードが見込め、追い越しがより容易になります」

と新井氏。また、開発にあたって250ccからストックの1000ccまで様々な車両でテスト。いずれも従来の300Vより出力がアップしたというから驚きだ。オイルによってちょっとしたチューニングが達成できるようなものだ。

オフロード用は別物、トルク容量が増え、クラッチが滑らない!

従来の300Vもオンロード、オフロード用が存在したが、最新版でより明確に性能の違いを打ち出した。

「以前はオンロード用の派生でオフロード用がありましたが、今回は各々専用に設計しました。オフロード用ではクラッチのトルク容量をオンロード用よりさらにアップしているのが特徴。大きなトルク変動があっても効率よくエンジンパワーをタイヤに伝えられる設計です」

オフロードでは、ジャンプから接地するシーン、あるいは凸凹が続くコースで、クラッチに大きなトルクがかかり、しかも変動する。そんな状況で「クラッチが滑らず動力を伝える設計」を重視した。

「オフロードライダーにとって、スロットルを開けた状態でクラッチをつないだ時に滑るのはNG。そこで新しいオフロード向け300Vでは、クラッチがつながり始めたらできるだけ早くトルクが立ち上がり、つながり切った後のトルク容量もロードレーシングよりも大きくなるよう設計しました」

クラッチが滑らずに余すことなく動力を伝える設計は、確かにオンロード用と異なる手法と言える。

「オンロードの技術だけでオフロード向けの性能は出ません。オンロードでは出力が出ないオイルの方がオフロードでは速かったりします。考え方が違うんです。“人馬一体”って言いますけど、そのおいしい所が違う感じですね。バイクが速ければいいのではなく、オフロードではライダーが自分の体の一部として使えるのがいいみたいです」

オンロード用とオフロード用で作り分けることで、それぞれ異なるライディングスタイルに対して性能は折り紙付きと言えるだろう。

ライバルは旧300V、バイクに合わせてオイルも進化していく

今回、11年ぶりのリニューアルに至った理由として、

「マシンの性能も上がっていますし、API(エンジンオイル規格)も新しくなっています。ラップタイムも上がっている中、オイルも一緒に向上しないといけないと思います。ヨシムラさんとの専用オイルも2~3年に1回見直しており、市販用に使える技術がやはり出てくる。今回の300Vにもこれをフィードバックしました」

新井氏によると、300Vという製品名は「トップカテゴリーのレースを300勝するためのオイル」という意味を込めて命名された。実は既に累計400以上の勝利を挙げているが、それでもより高みを目指して飽くなき進化を続けている。

高性能オイルはもはやチューニングパーツと言っていい。中でも新生300Vは、オンロード用で2.7馬力アップ、オフロード用でクラッチのトルク容量を増やすというから下手なカスタムより効果的だ。サーキットのみならず、ストリートでもその恩恵に預かれるという。実力を早く試してみたいものだ。

【画像】入れるだけで2.7馬力増!モチュールの300Vが11年ぶりに全面刷新された【新オイル詳細解説】 (12枚)

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コメント一覧
  1. 匿名 より:

    価格の半分くらい「広告宣伝費用」だってホントかなぁ…。(;^ω^)

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