
戦後間もない1953年に開業したiB井上ボーリング。
2023年で創業70年になる同社代表の井上壯太郎(いのうえそうたろう)さんにお話しを伺うと、内燃機加工業者とは思えないようなお話を次々とお聴きすることができました。
今回はiB井上ボーリングがなぜアルミメッキスリーブや2stセンターシールを自社開発して発売するに至ったのか?その理由から見えるエンジン(内燃機関)の将来展望、そしてバイク業界全体を見据えて自社だけが持つ特殊技能をいかに活用して行くべきなのか?といった企業理念についてお聴きした内容を紹介します。
目次
老舗中の老舗、でも中身は最先端
冒頭に記したように2023年8月7日で創業70年になるiB井上ボーリング。
終戦から8年目、日本が高度経済成長に突入するまさにそのタイミングでの創業です。
日本経済の発展と共にモータリゼーションも始まりましたが、当時のエンジンは現代の常識から考えるとまだ耐久性が極端に低く、車検ごとに減ったシリンダーのボーリングとピストン交換が行われていました。
この需要に応えていたのが日本各地に存在していた多数の内燃機屋(ボーリング屋)で、iB井上ボーリングもそうした内燃機屋の一つです。
その後、高性能なメッキピストンリングの登場などでエンジンの耐久性はみるみる向上し、現在はシリンダーブロックと一体化したアルミメッキシリンダーなどで車体よりも耐久性のあるエンジンとなっています。
需要縮小に合わせて全国に多数あった内燃機屋の件数は減りましたが、時代の先を見越した投資で最先端の加工機械を導入したり、早くからコンピューター制御を駆使したり、メーカーの下請け依頼に依存した業務形態から脱したり……、同業他社との差別化を図った事と確かな技術でiB井上ボーリングは創業70周年を迎えています。

増改築を繰り返したであろう、70年の歴史を感じるiB井上ボーリングの外観

iB井上ボーリングにあるマシニングセンターで削り出されている途中のシリンダーヘッド
単なるボーリング加工業だけに留まらない
iB井上ボーリングは「内燃機屋(ボーリング屋)」と呼ばれる業務形態をメインとしています。(当然ですが)
バイクショップさんやカーショップさんからの依頼に応じてエンジンに関わる作業をするのが主な業務形態です。
擦り減ったり焼き付いたりして使用できなくなったエンジンに対して1サイズ大きな径のピストンにピッタリ合うサイズにシリンダー内径を拡大したり(一般的にボーリングと呼ばれる作業)、擦り減ったバルブガイドを作り直して打ち換えたり、バルブの当たり面を整えたり、バルブの当たるバルブシートを制作して打ち換えたり……そういう事を専門的に行うプロが内燃機屋です。
最新型のエンジンでは定期的なボーリング作業を要求される事は無くなりましたが、それ以前のエンジンは今でも普通に動いており、ボーリングの需要が無くなったわけではありません。
バイクショップさんからの難しい指示通りに仕上げる高度な技術があることが優秀な内燃機屋の条件ですが、iB井上ボーリングと同様にボーリング需要減少している中を生き残った優秀な内燃機屋は日本全国(というより世界各地)の様々な地域に存在します。
しかし、そんな内燃機屋の中で、単なるボーリング作業の請け負いに留まらず、『独自開発した製品を販売』するiB井上ボーリングはかなり特殊な存在です。
販売するとものすごく儲かるからでしょうか?
もちろん採算度外視のボランティアではないので儲ける事も大事ですが、それよりも大事な『心意気=企業理念』があるからこそ特殊パーツの販売をしている……、それがiB井上ボーリングの実態です。
※心意気の中身については後述

iB井上ボーリングが内燃機屋の範疇を超えた仕事を推し進めるのには理由がありました
超高性能な特殊スリーブ(ICBM®)を製造、一般向けにはエバースリーブ®として販売
iB井上ボーリングの知名度を一気に高めたのがアルミメッキシリンダースリーブ(ICBM®)です。
ICBM®はそれまで使用されていた鋳鉄製シリンダースリーブの常識を覆すアルミ製スリーブ。
内面に特殊メッキを施す事で「減らない」シリンダーとなり、なんとシリンダーなのに永久無償修理が付くほどで(そんな補償を付けても大丈夫なほど減らない)、一度組み込めばシリンダー磨耗についての心配は一切なくなります。
さらにカワサキ2ストトリプル、500SS/H1、750SS/H2用として、大きな吸排気ポートの中央に「柱」を立てるブリッジポート仕様のアルミメッキシリンダーも開発。
純正には無いこの「柱」があるとピストンのクビ振りを抑制できるので、ピストンスカートの摩耗低減はもちろんカジリやダキツキ焼き付きに大きな効果を発揮します。
排気ポートの「柱」の加工は、iB井上ボーリングが量産型市販レーサー用シリンダーの製造過程に於いて開発したもので、iB井上ボーリングでしかできない特殊加工技術をフィードバックしたものです。
なお、「柱」の追加による効果はクランクシャフトへも及んでおり、摩耗によって落下する金属粉が無くなったことからクランクベアリングのコンディションが保たれるようになった他、オイルシールコンディションの維持にも貢献しています。
さらに、アルミシリンダーICBM®はiB井上ボーリングで組み込む事が前提の物でしたが、組み込み加工をしている中でアルミ製シリンダーブロックに組み込むと圧入などしていなくとも一体化して抜けなくなる事を発見。
これを逆手に取り、シリンダーボーリングするだけでオールアルミメッキシリンダーにコンバートできるキット「エバースリーブ®」の販売に成功しています。
エバースリーブ®とは、ICBM®メッキシリンダーが組込み時に圧入する必要が無いので内径が歪まない事を利用して『あらかじめシリンダー内壁をボーリング済み&メッキ加工済みとしてあるキット』の名称で、通常であれば必要になるシリンダー組み込み後の内径ボーリング加工が不要となるので、iB井上ボーリングにシリンダーブロックを送付せずとも全国にある優秀な内燃機屋で1回ボーリングするだけで組み込めるのがエバースリーブ®の大きな特徴です。(既存の鋳鉄シリンダーではボーリング→スリーブ圧入→内壁ボーリング→内壁ホーニングが必要)
自社での組み込み加工工賃(儲け)を失ってでも、全国の内燃機屋で簡単にオールアルミメッキシリンダー化できるようにする事を優先したのも、『心意気=企業理念』があるからこそでした。

鋳鉄スリーブを廃してオールアルミ製メッキシリンダー化を実現するアルミスリーブと、スリーブ内径の特殊メッキがICBM®の特徴

2ストロークシリンダーの排気ポート中央に立っているのが問題の「柱」

内面加工とメッキ処理まで終わっているアルミスリーブを挿入するだけで完成するようにキット化された物がエバースリーブ®
2ストロークエンジンのセンターシールをラビリンスシール化する製品(ラビリ®)を開発販売
2ストロークの大きな吸排気ポートの中央に「柱」を立てるブリッジポート仕様のアルミメッキシリンダーも開発販売しているなか、その技術の礎となった2ストロークV型2気筒のエンジンが多くの課題に直面している事に気付いたそうです。
その代表的な物が「センターシールの抜け」。
金属部品は作成再生可能ですがゴム製のセンターシールは再生できません。
センターシールは2ストローク多気筒エンジンの要の部品ですが、多くのオーナーが困っている事を知ったiB井上ボーリングはヤマハパラレルツイン系で採用されていたラビリンスシール(迷路のような細い通路を持つ非接触式シールの総称)に着目。
ラビリンスシールは圧力変化を吸収するだけの面積が必要なので非常に狭い隙間しかスペースの取れないV型エンジンでは採用されなかったのですが、過去に例の無い極薄型のラビリンスシールの開発に成功。
回転部分が非接触式なので一度組み込めば減る部分が無く、半永久的にシール機能を持つ「ラビリ/LABIRY®」を発売するに至っています。
従来のラバーシールであれば定期的にオーバーホールの必要が発生して自社への加工作業依頼が来るのに、何故無限に減らないセンターシールを販売してしまうのか?
実はここにも単なる儲けだけではない、『心意気=企業理念』がありました。

シール部分の幅が広く取れる2ストマルチエンジン用の削り出しLABIRY®。圧力移動特性を利用した非接触シールのラビリは半永久的に利用できるセンターオイルシールです。

こちらが極端に幅の狭いV型エンジン用のしLABIRY®、迷路のように折れ曲がった複雑な極小空間を確保する事でシール性能を確保します。もちろんこれも非接触式なので摩耗しません。
井上社長の持論
工業製品、とりわけ内燃機関(エンジン)に底知れぬ思い入れがあるのがiB井上ボーリング代表の井上壯太郎社長です。
そんな井上社長はボーリング屋(内燃機屋)という職業柄、バイクだけでなくクラシック系4輪車オーナーからの依頼も多く、クラシックカー的世界観に触れる機会が多数ありました。
そして、クラシックモデルに対する成熟度はバイクの世界よりもクルマの世界の方が進んでいると感じているそうです。
クラシックカーのオーナーでは『その製品(車やバイク)の生涯のうち、自分はその一時期に預かっているだけ』といった考えを持つオーナーが数多く居るそうです。
井上社長もこの考え方に賛同しており、「自分の所有するバイクが貴重なバイクだと気が付いたときには、後世の人たちにその素晴らしさを継承すべき心構えが必要ですよね?」と話していました。
その一方で、バイクの世界では、まだまだそんな考えが浸透していないようにも見えるとも。
速くするための大改造やエンジンチューニングはほどほどに、如何にコンディション良くバイクやクルマを後世に継承するか?それが大切であって、すでにそんな時代が到来していると力説していました。

iB井上ボーリングが内燃機屋の範疇を超えた仕事を推し進める理由は、「機械遺産を次の世紀まで自分たちの手で未来に残したい」という心意気=企業理念があるためでした。
近年のエンジン設計傾向を憂う
基本的にエンジンは使うにしたがって減る物です。
回転部分にしろ摺動部分にしろ、部品が擦れている以上は避けられません。
問題はその先、減ったエンジンをどうするか?です。
今までは減った部品を交換する事で修理し、エンジン性能を蘇らせていました。
その際、例えば減ったシリンダーとピストンを交換する場合に新品シリンダーと交換するのではなく、僅かに大きな径のピストンを用意して、そのピストンに合わせてシリンダー内径を僅かに広げる作業が「ボーリング」と呼ばれる作業です。
その作業を請け負うのが内燃機屋(ボーリング屋)で、エンジンはそうやって修理しつつ使うのが通例でした。
しかし、最近のエンジンはボーリングする事を前提にされていません。
減った(壊れた)部品を丸ごと新品と交換するのが前提で、部品は使い捨てるように設計されています。
修正して再利用できるようにするとどうしても部品点数が増えて重くなってしまいますので、エンジン性能向上のためにそういった部品を減らし、丸ごと新品交換するのが前提の設計になって行くのは当然なのかもしれません。
しかし、そういったエンジンはメーカーから補修部品が出なくなった際に非常に困る事になります。
再利用する事が考慮されていないので補修ができないのです。
高性能化と併せて耐摩耗性能も向上しているので当面は何も問題無く使えますし、仮に破損しても補修部品がある間は新品に交換するだけで直ります。
でも50年後、メーカーから補修部品が出なくなった際にはどうでしょう?
50年後にはもっと高性能なエンジン(あるいはモーター)を搭載した新型があるのだから、そんな古臭い物は捨てて高性能な最新型に買い換えれば良い……。
そういう「買い換え」を前提として社会が動いているように感じること、そして「性能を優先して買い換えれば良いという考え方しか無い」事に井上ボーリングは危惧を抱いているようです。

シリンダースリーブを打ち換える、ボーリングしてオーバーサイズのピストンを組む、そういった『補修できる事を前提とした設計のエンジン』はどんどん減っています。
歴史的価値は未来に続く
補修可能な設計となっている過去の名車たちも、設計の古さゆえの弱点があり、現代の目で見るとツメの甘い部分が周知されています。
それらの弱点を克服しないと、弱点が生んだ小さなトラブルが原因で作成困難なエンジンパーツに致命的ダメージを負わせてしまうかもしれません。
もう2度と生産される事はないので、致命的な破損は現存するエンジン(や車体)が世界から1つ減ってしまう事を意味しています。
何としてでもそれは避けねばなりません。
もう2度と生産される事は無い歴史的価値を持つ車両を受け継ぎ、きちんとした状態で後世に託すのは、現在そういった車両を所有しているオーナーの使命とも言えます。

ホンダCB750Four、世界初の量産並列4気筒エンジンを搭載した市販車として歴史的価値があります。
純粋に車体とエンジンの性能も素晴らしいのですが、それ以上に大切な「歴史」を生まれながらに持っている車両なのです。
安易に破損させるわけには行きません……。
高出力化だけが正解ではない?
エンジンをオーバーホールする際、現在は「ついでに高性能化する」のが通例です。
ボアアップによる排気量拡大、シリンダー面研磨による圧縮比アップなどを同時に行うというメニューで、オーバーホールと同時に純正よりも出力向上する手法です。
ただでさえ高額なエンジンオーバーホールですので、ついでに高出力化を達成できるのは魅力的です。
もちろんそれが悪いという事はありません。
しかし、『オーバーホール=チューンナップ』という選択肢しか無いのは少々残念です。
『オーバーホールでは本来の性能を完全に復活させるだけ=チューンナップはしない=出力向上よりも壊れない事や耐久性向上を狙う』という考え方があっても良いはずです。
冒頭で書いたように、このあたりの考え方はバイクよりもクラシック系4輪車の方が進んでおり、貴重な車両を安易にチューニングしてしまうのはもったいないという考え方が主流です。
車体にしても使い捨て覚悟で速さを追求するより、完調を保ったまま当時の姿で動態保存して末永く乗り味を楽しむ……、そんな世界です。
「チューンナップは邪道」という話ではないので非常に伝わりにくく、バイクでは限られた一部のマニア(エンスーと呼ばれる人々)が認識しているだけで広くは理解されていませんが、『そういう文化』もあるのです。

当時の外観を完璧に維持しつつ、その性能を全力で発揮させられるように修理して性能を楽しむ……そんな『文化』が4輪の世界にはあります。むしろそちらが主流。

現代の考え方を投入して当時とは比較にならない速さを手に入れる……バイクの場合はコレが主流です。
4輪で言うとこんな感じ。
最新パーツを投入する事で当時の同じ車体とは比較にならない速さを手に入れる事ができますが、本来であれば異端にあたるこの方向がバイク業界だと主流なのは、文化成熟度としてまだまだ未熟なのではないでしょうか。
壊さず次の世代に歴史を引き継ぐ、そのための製品群
内燃機屋はエンジンを修理するのに欠かせない職業で、優れた内燃機屋は壊れたエンジンを直す技術をを切磋琢磨しています。
井上ボーリングもその内燃機屋の中の1つですが、目指しているのはもう一歩先。
様々な製品を独自開発するのは、エンジンを消耗品と考えず健全な状態を維持して永遠に動かし続ける事、つまり歴史を我々の世代で終了させない事を目指しているからです。
アルミ製シリンダー内面にメッキを施した減らないシリンダー(ICBM®)も、接触部分が無いので摩耗しないラビリンスシール(ラビリ®)も、エンジンを壊さず次世代に託すために必要だったから作った製品です。
出来上がった製品は結果として低フリクションなので高性能化も果たしていますが、一番狙っていたのは性能向上ではありません。
また、ICBM®シリンダーもラビリンスシールもエンジンに組み込んでしまうと全く見えなくなります。
しかし『当時は解決できなかった問題を現代の技術で解決するけれど外観は当時のまま』というのは、そういった文化圏ではとても重要な事でもあります。
大改造している事が一目瞭然で派手に見える車両が最高とされがちな2輪業界に一石を投じたい、4輪クラシック界のような文化をクラシックバイク界にも根付かせたい、そんなiB井上ボーリングの気概を感じます。
現在のバイク界は「高性能な方がエライ、速い方がエラい、パワーがある方がエラい、最新型の方がエラい」という考え方が主流なので、誰もがすぐに共感できるとは思いません。
しかし、井上ボーリングの考え方に共感できる下地のある方(おそらく4輪のクラシックカーに造詣が深い方)なら、ちょっと応援したくなる話だと思います。

井上社長の愛車であり、長期耐久テスト中の実験も兼ねるSDR。
ホイールがワイヤースポーク化されている事からも判るように井上ボーリングは『純正至上主義』ではありません。
素性を失わない範囲内であれば愛着が持てる方が大事にできる……かも?

この先の長い歴史の中で「今は一時的に自分が車両を預かっている」という考え方になると、壊さず完調を保ち次の世代に託すのが使命であり、闇雲にチューンしたり最新のパーツに置き替えて速さを求めるだけが正解ではないという考えに至ります。
そういう文化を理解すると、井上ボーリング製品の素晴らしさにも気付けるのではないでしょうか。
バイク業界も少しづつ状況は変わってきている
シリンダーヘッドのバルブシートカットを請け負った際、「バルブガイドがガタガタで正しくシートカットできませんから、ガイドを交換しましょう」と提案しても、以前なら「そのまま何とかして下さい」という返答のバイクショップさんばかりだったそうです。
ところが最近では、ほぼフルコースに近いメニューで加工依頼を受注できているとの事でした。

「旧車を大切にする意義が伝わったのかもしれませんね。商売優先、儲け本位ではなく、コンディションが良いバイクに仕上げることが結果的にはお客さんが喜ぶバイク作りへの近道になるということにバイクショップさんも気が付いてもらえたのでしょう。」と感想を話されていました。
ユーザーと共にある、もの作りの大切さ
単純に仕事として作業する内燃機加工職ではなく、工業製品やエンジンの素晴らしさを後世に継承するための仕事として、内燃機加工技術の向上を目的に前向きに取り組んでいるのもiB井上ボーリングの特徴です。
井上社長から社員へは、仕事だけ、内燃機加工職人と呼ばれるだけではなく、バイクやエンジンに興味を持ち、愛情をもって接するようにと呼びかけているそうです。
その証拠というわけではありませんが、原則として毎週水曜日の午後は勤務時間中をなんと「水曜研究時間」と命名。現場スタッフ全員が、何らかの自己テーマに取り組んでいるとの事。
愛車エンジンのオーバーホールやレストアを研究する者、レースエントラントのスタッフは、マシンメンテナンスや部品作りを通じて、技術職人としての視野を広げているようです。
同時に、自らの考えを発信することを大切にしているのもiB井上ボーリングです。
およそ内燃機関屋とは思えない独特な広告もその一環で、少ない広告紙面では自社製品の特徴や製品存在意義を全て正確に伝えるのは不可能と判断し、イメージ広告に終始しています。
まずはiB井上ボーリングの存在を知ってもらい、実際の製品の解説などは自社HPなどで行うという、まるで大企業のような広告手法です。
クラウドファンディングで購入希望者を募り、NCマシンを駆使したオール削り出しのカワサキ750SS/H2用シリンダーやシリンダーヘッドを開発して受注数を製作、完売した実績もあります。
インターネット出現以前からパソコン通信などで最新の技術手法に触れてきた井上社長ならではの発想で、同じ事ができる内燃機屋はちょっと他では思い付きません。
削り出し部品ばかりではなく世界的に有名な3Dプリンターメーカー日本総代理店との協力関係も築き、今まさに新たなる世界の構築にも積極的に取り組んでいます。
すでに形状検討用の樹脂製ダミーシリンダーの製作を終えており、近日中には金属積層(溶解アルミの積層)によるシリンダーを作成、そこにICBM®スリーブを組み合わせた完全オリジナルのシリンダーも完成する予定との事。
実現すれば旧車然とした外観のシリンダーブロックの中に理想の吸排気ポートや掃気ポートを有する画期的なシリンダーが発売される事になるでしょう。
全ては「エンジンで世界を笑顔に!」をスローガンに、後世へ歴史遺産(機械遺産)を継承する事を手助けする、それが特殊技術を多数有するiB井上ボーリングの責務と井上社長は考えているようです。
また、そういった考え方を広く2輪車業界に広めて行きたい!それが出来るのは実際にユーザーからの依頼で加工作業を行う自分たちである!という自負を感じます。
最新型が出る度に乗り換えるのではなく、気に入った1台を大切に、しかも思い切り楽しみたいと考えているユーザーにとって、非常に共感できる理念なのではないでしょうか?
旧いクルマやバイクを『人類に残された機械遺産』と捉え、次の世紀までユーザーと一緒に「機械遺産」を未来に残したい……。
iB井上ボーリングの夢(=企業理念)はユーザーと2輪業界の意識改革と共にこの夢に挑む事だそうです。
「金属で造られたメカニズムは電子部品などと違って削り直し・削り出し加工して再生することができます。」という言葉が心強いですね。

削り出しシリンダーだけではなく、そのデータを展開することで3Dプリンターを動かしダミーの樹脂製シリンダーをプリント製作。これはあくまで、積層形状検討用のダミーパーツだが機械遺産を未来に残すためにこんな事にも挑戦している。

ヤマハSR400の純正クランクシャフトをベースに不快な振動が無く、ノーマルエンジン以上に軽く回り、ドコドコなトルク感も生み出している超軽量斧型クランクも発売中。

CADデータ化によって細部に至るまで同一な加工再現を可能にしている。

「サビないシリンダー」を表現するため海岸岩礁の海水溜まりに放り込まれたアルミスリーブ。イメージ広告なので潔く説明は無い。

「ガソリンエンジン生産の終焉や電動モーター駆動がこれからの主力と囁かれる世界の中で、内燃機屋は過去に作られたエンジンを未来永劫残していくという重要なミッションをこれから担うことになります。」と語る井上壯太郎(いのうえそうたろう)代表。
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