
だんだん始動性が悪化していったりする通常のバッテリー劣化とは違い、突然バッテリーの劣化が限界を突破してしまう現象を「バッテリーの突然死」などと言います。
前日までは普通に使えていたのに翌朝始動しようとしたらセルモーターが回らないどころかインジケーターランプすら光り方があやしい……というのが典型的な症状ですが、そんな事ホントに起こり得るのでしょうか?
目次
鉛バッテリーの突然死など有り得ないと信じていました
「軽量コンパクトで高性能な最新の蓄電池であるリチウムイオンバッテリーはシビアな電圧管理が必要なので、車体側のトラブルが原因で急に劣化してしまう可能性がある。
例えばレギュレーターが故障してバッテリーに高電圧が流れてしまった場合、鉛バッテリーならギリギリ耐えれたとしてもリチウムバッテリーでは耐えらないかもしれない。
だから車体側に問題が発生した場合にリチウムイオンバッテリーが突然死したように見える事があっても、鉛バッテリーは徐々に劣化するだけで突然死するような事は無い。」
筆者はずっとそう信じて来ました。
バッテリーが突然死した!と騒いでいる人は単にメンテナンス不足なだけであろうと。
しかし、最近はそうとも言い切れないようです。

充電系統に故障が無ければ、鉛バッテリーが突然使えなくなる事など無いと思っていました。
鉛バッテリーは徐々に劣化する物で、前日まで始動できていたのにある日突然始動できなくなる事など有り得ないだろう、と。
そもそもバッテリーの劣化とは?
永久に劣化しないバッテリーは存在しません。
バイクに使用されている鉛バッテリーも使用と共に劣化し徐々に本来の性能を発揮できなくなって行きます。
バッテリーの種類によって劣化の原因は異なりますが、化学反応によって起電している鉛バッテリーでは「サルフェーション」と呼ばれる電極の劣化が主な劣化原因です。
※サルフェーションに関する詳しい解説記事はこちら
電極の表面に電気を通しにくい物質が溜まってきて化学反応が弱まる、それが鉛バッテリーの劣化だと思えばだいたい合ってます。
なぜ劣化が進行するのか?
最近の鉛バッテリーは大昔の鉛バッテリーと比較して高性能に進化しています。
内部構造も進化しており、それによって高性能を得ているのです。
大昔は開放型の液入り鉛バッテリーしかありませんでしたが、密閉式(メンテナンスフリーバッテリー)ではバッテリー液補充の必要がありませんし、バッテリー液を内部の綿状の物に染み込ませてある物では破損してもバッテリー液である希硫酸が流出しない構造(AGM構造)になっていたりします。
電極の接触面積を増やしたりして高性能(電池内部の通電抵抗が低い事で大電流を流せる)を得ています。
車体側も進化しています。
フューエルインジェクション化がその最たるもので、寒かろうが暑かろうがその時の状況に合わせて最適な燃料を噴射するので、いつでもどこでもセル一発で誰でも簡単にエンジン始動できます。
古いキャブレター車では車体各部に配置した多数のセンサーからの情報を基に燃料供給量を変化させるような能力は無いので、気温、湿度、気圧などの影響で始動性が悪くなるのは普通の事でした。
条件によって始動性が悪化するとセルモーターを回す時間が増えたりしますが、その時にバッテリーが弱っていると始動不能になったりしたものです。
ところが、インジェクションと高性能なエンジン制御によって簡単に始動できるようになった結果、バッテリーの劣化に非常に気付きにくくなりました。
なにしろ弱ったバッテリーでも最適な燃料供給によって簡単にエンジン始動できる(=セルモーターがちょっと回れば始動できてしまう)ので、気付きにくいのは当然です。
ところで、鉛バッテリーは充電が不足していると劣化が進行しやすい特性があります。
電熱ウェアやグリップヒーターなどで容量が減っていると劣化が進行しやすくなっているという事ですが、通常であれば走行中に充電されて満充電になるので気にする必要は無いはずなのですが……。
何らかの事情で充電が追い付かず残量が減ってしまうとサルフェーションが進行してバッテリー内部の電極で化学反応できる面積がだんだん減って行き、本来なら充電が追い付くはずの走行中でも十分な充電ができなくなって行きます。
すると徐々にバッテリー残量が減り続け、劣化の進行がますます早まるという悪循環に突入し……最後はエンジン始動不可能になります。
「電装品を大量に付けるとバッテリー負担が高まる」というのは単に消費電力が増える事を指す場合が多いですが、全然違う意味でバッテリー負担が高まってしまう可能性もあるのです。

犯人はサルフェーション。
突然死の真相
上で書いたように、実は鉛バッテリーは急速に劣化(突然死)したりはしません。
ただ、非常に劣化に気付きにくくなったので、急速に劣化して突然死したように感じるのです。
ある朝起きたら突然死していたのではなく、昨日までが限界だったのです。
その限界まで弱ったバッテリーで一晩経過したら劣化にトドメを刺してしまい、再起不能レベルまで劣化が進行してしまった……、これがバッテリー突然死の真相でしょう。
もちろん例外はあるでしょうけれど、大多数の突然死はこれで説明がつきます。

昔はだんだん弱ってきているのが体感できましたが、最近はバッテリーも車体も高性能なので弱ってきている事を体感しにくいです。
寒い時期は要注意
あいにく比較データが無いので断言はできませんが、夏より冬の方が突然死報告が多い気がしませんか?
今までの説明から、その理由は何となく予想できます。
バッテリーの化学反応は温度に依存されやすく、低温だと反応が鈍ります。
ただでさえ劣化によって反応しにくくなっているところに低温による反応悪化が加わり、これまた充放電しにくくなります。
寒いとセルモーターの回り方が弱々しくなったりするのは「寒さで放電しにくくなっているから」という事なのですが、これは理解しやすいですし実際に体験された方も多いでしょう。
しかし、「寒いと充電されにくい」は理解しにくい部分です。
普通にバイクに乗っている時に「おっ、ちょっと充電しにくくなってるな?」などと感じ取るのは不可能なのでなおさら。
各種の電熱装備などでバッテリーを酷使する冬はバッテリー残量が減りがちです。
寒い朝に突然死したようにバッテリーが機能しなくなるのは、悪条件が重なってギリギリまで頑張っていたバッテリーに最後のトドメが刺されてしまうからだと思います。

昨日までは普通に始動できたのに、ある寒い日に無反応になりがち。
劣化は防げるし、復活もできる
使用していると徐々に進行する鉛バッテリーの劣化ですが、劣化を防止して長期間使うには発生してしまったサルフェーションを溶解すれば良いという事になります。
ですので、最近の高性能充電器はこのサルフェーション防止機能を持っている場合が多いです。
そのものズバリ「サルフェーション防止機能」と謳っている製品もありますし、そこまで直接的でなくとも「パルス充電機能」と書かれている充電器はサルフェーション防止機能を持っていると考えて良いです。
※厳密にはパルス充電=サルフェーション防止機能ではありませんが、概ね同じ効果があると思って大丈夫です
サルフェーション以外にもバッテリー劣化の原因は多数あるので、パルス充電をしていればサルフェーションが発生しないので永遠にバッテリーを使い続けられる……なんて事はありませんが、パルス充電、それもトリクル充電機能と呼ばれる『常に満充電を保つ充電機能』を持つ充電器と接続しておけばバッテリーの劣化を遅らせる効果があるのは間違いありません。 既にサルフェーションが発生してしまっているバッテリーでもパルス充電によってある程度はサルフェーションを溶解できるので、軽微な場合は元通りに復活する事も可能です。

高性能充電器でサルフェーションを除去しつつ満充電を維持するのは非常に有効です。
劣化の兆候(前兆)はほんの僅か!
以前のキャブレター車なら季節の変化で始動性が悪化するので、セルモーター多用した際の勢いでバッテリー劣化は容易に気付く事ができました。
しかし悪条件でも簡単に始動してしまうインジェクション車ではバッテリー劣化に気付きにくい事は上で書いたとおりです。
ではバッテリーの劣化に気付くのは不可能なのかというと、そんな事はありません。
最近の高性能バッテリーは限界まで頑張るのですが、そうは言っても劣化が進むにつれて僅かにセルモーターの回転が悪化します。
一瞬でエンジン始動してしまうので気付きにくいですが、僅かでもセルモーターの回り方が苦しく感じたら、もうバッテリーは限界寸前の可能性大です。
また、以前なら走行中はずっと電熱ウェアやグリップヒーターがフルパワーで使用できたのに最近は電圧不足で発熱が止まる事がある、なども限界が近い証です。
元から発電量が不足気味で高回転まで回していないと連続発熱できないなら仕方ありませんが、『以前は大丈夫だったのに出来なくなった』と言う部分がポイント。
車体の発電装置関連に問題が無いなら、もう限界は近いはずです。
バッテリー交換してから数年経過している状態で僅かでも「弱ってるような……?」と思ったら、早めにバッテリー交換しておく事をオススメします。

思い切ってリチウムイオンバッテリーにしてしまうテもありますね!
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