
数年前までほぼ存在しなかったカスタムパーツが「シフトホルダー(シフトガイド、シフトスピンドルホルダー)」です。
シフトタッチが良くなるとか、シフトフィールが良くなるとか言われていますが本当なんでしょうか?
小さなパーツですし、装着するとほぼ見えないから自慢にもならないし、そんな小さなパーツでシフトタッチが向上するとか言われても「ホントに~?」と思っている方も多いでしょう。
そのくせ結構高額ですし……。
ですが、このパーツ『かなり効く』パーツなのです。
今回はこのシフトホルダー(シフトスピンドルホルダー)が有効な理由を簡単に解説します。
目次
そもそもシフトホルダー(シフトスピンドルホルダー)とは?
シフトホルダーという名称なのでマニュアルの4輪車でも同様の物がありそうですが、ありません。
シフトホルダーはバイク専用の部品です。
車のシフトレバーはHパターンと呼ばれ、シフトレバーを前後左右に動かして変速するのが普通です。
それに対してバイクはロータリー式やリターン式と呼ばれる形式が採用されています。
同じシフト(変速)でも操作の動きが全然違う。
バイクはシフトペダルを使ってシフトシャフトを『僅かに回転させる事で変速』します。
そして、僅かに回転するシフトシャフトを支える部分を増設してガッチリ支えるのがシフトホルダーと呼ばれる部品です。

典型的なシフトホルダーの製品形状。

典型的な装着図。残念ながら装着してしまうとほとんど見えなくなります。
どんな効果があるのか?
どのブランドの製品でも効能は同じです。
『シフトタッチの向上』とか『シフトフィールの向上』と書かれている事が多いですが、効能としては同じこと。
素早いシフトができるようになるとか、ミッション(変速機)の耐久性が上がるとか、パワーアップするとか、そういったわかりやすい性能向上はありません。
あくまでもペダル操作時の感触が向上するのが目的。

装着するだけでパワーアップするとか、そういうわかりやすい効果のある物ではありません。
どういう原理でシフトタッチが良くなるのか?
製品メーカーの言うように感触が良くなるとして、どういう原理で感触が向上するのでしょう?
そもそも僅かに回転するだけで変速してしまうバイクのシフトで『良い感触』とは何でしょう?
ここを理解しないまま製品を装着すると誤解を生んでしまうので、ちょっと面倒ですが原理を理解しておきましょう。
まず『良い感触』とは何でしょう?
パッと思い付くのはスパッとニュートラルが出るとか、ギア抜けしにくいとか、シフトペダルがグニャグニャしないとかです。
剛性感のあるペダルでカチッと確実に変速できる、これが重要です。
シフトホルダーを装着すると程度の差こそあれ、基本的にはこれらの事象が改善します。
まず、バイクのミッション(変速機)は車用の変速機とは構造がかなり異なり、使用するギアを横にスライドする事で変速しています。
変速機の構造解説は超難解なので端折りますが、簡単に説明しておくと……ギアを横にスライドするために「シフトフォーク」という部品が各ギアに組み合わされており、このシフトフォークを横にスライドさせるとギアも横にスライドして変速する仕組みです。
ではシフトフォークはどうやって横にスライドさせているかというと、シフトフォークの一端が「シフトドラム」という溝の彫ってある円筒形の部品に組み合わせてあり、シフトドラムが回転すると溝に沿ってシフトフォークが横にスライドする仕組みです。
そのシフトシャフトの端っこに変速ペダルが取り付けられている……それがバイクの変速機の構造。
簡単な説明ですらややこしい!
非常に複雑ですが、これでもシンクロメッシュを持つ車の変速機と比較すると極めてシンプルで無駄の無い構造で、車ではフォーミュラカーなどの特殊なレース用途でないと採用されていない物です。
誰もが普通に扱っていますが、市販の4輪車用マニュアルミッションでは不可能な素早い変速が可能になる良い物なのですよ、実は。
下記の画像を見れば一目瞭然ですが、シフトドラムを回転させるためのシフトシャフトは長ーいシャフトで構成されている事が多いです。
これだけ長いと僅かなガタでも動作に影響が出てしまいます。
しかもシフトシャフトはほぼ全車が2点支持なので、その端っこを捻って回転させようとするとどうしてもブレやすい宿命にあります。
僅かでもブレるとニュートラルを出そうそしてもシャフトがしなって正しいニュートラル位置にギア(シフトフォーク)を持って来れなかったり、正しく変速しきれなくてギア抜けしたりするのは何となく想像できますよね?
そこで、そのシャフトの一番外側、一番力が掛かる部分に3点目の支持部を追加してやろう!というのがシフトホルダーです。
装着するとシフトシャフトがグラグラしにくくなります(取付け剛性が上がります)
構造を理解すればどう考えても『効く』のがわかると思います。

変速機の概念図。実際はもっと複雑ですが(1変速で特定の角度までしか回さない機構が加わる)概ねこんな構造だと思っていただければOK。
オレンジ色のパーツが変速ギア(左右に移動)、緑がシフトフォーク(左右に移動)、青がシフトドラム(回転)、赤がシフトシャフト(回転)、左側に飛び出ているシフトシャフトの左端に支持部(赤線の部品)を追加するのがシフトホルダーです。

これが一般的なシフトシャフトの形状(図の18番)。車種によって多少違いますがとても長いシャフトで構成されています。1、2、3、がシフトフォーク、6がシフトドラム。
本当に効果があるのか?
インプレッションを見ると「ほとんど効果ない」「プラシーボ」といったインプレッションが一定数ある事がわかります。
確実に効果があるはずなのになぜ?
これはインプレッションを投稿した人が鈍感なのではなく、ほぼ新車状態の車体に装着しているからだと思います。
当然ですが新車時からガタが大きいなんて事は無く、キッチリカッチリ取付け剛性が確保されています。
その状態で更に剛性を上げても……あまり効果が感じられないというわけ。
つまり『ある程度走行距離を重ねた車両ほど効く』という事になります。
では新車に装着するのは無意味なのかというと、そんな事はありません。
装着しなかったら走行距離に応じて増加してしまうガタの発生を大幅に抑える事ができるからです。
末永く新車時のフィーリングが楽しめるって事です!

大きなガタの出ている過走行車などでは効果テキメン!

新車に近い状態で装着するとほとんど効果を感じられない事もあります、しかし、それは新車時のシフトフィール維持に役立っているという事でもあります。
オススメの車種
シフトシャフトのブレを抑えてシフトフィール(感触)向上を果たすシフトガイドですが、発売されている車種と発売されていない車種があります。
人気の新型なら全部発売すれば良いのになぜ?
これはシフトシャフトの内部構造や、シフトシャフトの支持構造によります。
車種によってはシフトシャフトが非常に短い(変速機構がクランクケース左側にある車種ではシフトシャフトが短くて済む)場合や、シフトシャフトの支持に強固なベアリング支持を採用していてほぼガタの発生しない場合があります。
そういった車種ではシフトガイドを装着しても何も変わらないので、ルックス向上目的でなければ発売されにくいでしょう。
そもそも見えにくい場所に装着するパーツなので、ルックス向上効果がそこまであるとも思えませんし。
また、シフトガイドはエンジンの外側に装着するので、構造的に装着不可能な場合は発売されません。
例えばシフトシャフトに装着するシフトペダルとエンジン外壁の隙間がほとんど無いような車種では、そもそもシフトガイドの装着スペースがありません。
このように、本当は発売したいけれど出来ないという車種もあります。
効果が発揮できない車種用が発売されない傾向にあるのは、多くのメーカーが真面目だという証でもあります。
逆に言えば、発売されている車種の製品は基本的に全ておすすめです。

非常に奥まった場所にシフトペダル取付けがあるうえ、スプロケットやチェーンなどが邪魔、ペダルとレバーの隙間もほぼ無いのでシフトガイド装着が困難な例。

発売されている車種であれば基本的に全ておすすめです。装着のデメリットはシフト周りの整備の際に外すパーツが増える手間と僅かな重量アップですが、シフトフィール向上効果の方が有効だと思います。
そんなに効くなら、なぜメーカーは純正で装備しないのか?
そんなに効くなら最初からそうしとけば良いじゃない!と単純に疑問に思いすよね?
一概には言えませんが、メーカーが純正採用しないのは主にコスト削減のためだと思います。
高剛性な部品を用意しなければならないので部品代そのものが高いですし、その部品を装着するには組み立て工数が増えるので製造時間が伸びます。
製造時間が伸びるという事は人件費増加に直結しますし、部品が増えればトラブルの可能性が増えます。
後付けではなくエンジン本体の設計で剛性を上げる事もできますが、それもコストの関係で難易度が高い場合があるでしょう。
全車が専用エンジンを使えるわけでもありません。
そういう『大人の事情で出来なかった事』を補完するのがシフトホルダーですので、愛車に設定がある方は装着してみてください。
ほぼ見えないパーツなのに比較的高価、僅かな重量増加、整備時に外す部品が僅かに増える、これ以外のデメリットは特に無いので非常にオススメです。

ゴリゴリの最新型でもコスト無視して何でもできるわけではないです。
この記事にいいねする
久々にわかりやすい記事でしたね。
ただアフターパーツってのはドレスアップ的なものも機能的なものもちょいと年式が古くなると在庫切れ、生産中止とかになるからねー。年式違いも含めると膨大な車種があるわけですがそれぞれのモデルの持病?と対策を検索できるようなアプリがあればいいのになぁ。ウェビックさん作ってください。