
新品のブレーキパッドに交換したら組付け前にブレーキパッドの角を面取りしておきましょう!面取りしておく事で初期の馴染みを促進できるし、鳴き防止にもなります!
……と言われる事が多いバイクのブレーキパッドの面取り作業。
でもコレ、本当なんでしょうか?
ブレーキパッドの面取りは完全否定派も存在し、主張が正反対なので面取り必要派(面取りした方が良いと思う派)と持論をぶつけあって来た歴史があります。
そんなブレーキパッドの面取りについて、ちょっと冷静になって整理してみましょう。
目次
ブレーキパッドの面取りをする理由
そもそもなぜ新品のブレーキパッドを組付ける前に面取りするのでしょうか。
様々な意見がありますが、おおよそ下記の理由が主流なようです。
- 初期の馴染みを促進するため
- 鳴き防止のため
- パッド端の欠け防止のため
まず、面取りするとその分だけブレーキディスクとの接触面積が減るので、初期の馴染みが促進するのは間違いありません。
パッドの端がディスクに噛み込む確率が減るのでブレーキの鳴き対策、異音対策にも有効でしょう。
同じ理由で欠け対策としても有効そうです。
鳴き対策としてはパッド裏面にパッドグリスを塗るという方法もありますが、パッドグリスが『ディスクに引っ掛かって振動するパッドの振動を抑える』に対して、パッドの面取りは『そもそもディスクに引っ掛かりにくくする』という事なので、鳴き対策としてパッドグリスより有効そうに思えます。

一般的な面取りの例、全周にわたって斜めに角を落としています。

人によっては軽い面取りではなく思いっきり面取りする人もいます。角の落とし方も45°でパキッと落とす人、角を丸くする人、浅い角度で斜めに豪快に削る人など千差万別。
ブレーキパッドの面取りをしない理由
上記とは全く逆に面取りをしない人も存在します。
パッドの面取りそのものを知らない場合も多いのですが、明確な意思を持って面取りしない人も多いのが特徴かもしれません。
その明確な意思とは、だいたい下記の理由であるように思います。
- パッドの接触面積を減らしたくない
- 鳴き対策に面取りは効かない
- 欠け防止の意味はない
- ディスクが摩耗するのでイヤ
面取りするとその分だけ接触面積が減るのは間違いないので、それを嫌っているのが特徴です。
初期慣らしのために接触面積を減らすなんて!パッドは全面が接触するべき!という原理主義型。
鳴き対策については「面取りで鳴きを止めるのは邪道!」、欠け防止は「面取りしなくても欠けないので不要!」と一刀両断。
ディスクの摩耗については「面取りすると砂利を噛み込んでディスクに筋が入るからダメ!」という意見が多いようです。

新品を面取り無しでそのまま装着!「敢えて」面取りしていない場合が多い印象。

面取り無しで使用過程のパッドの図。
面取りすると本当に初期馴染みは向上するのか?
面取りする派の理由の一つが新品パッド交換後の初期馴染み向上のためですが、面取りしただけで初期馴染みが向上したりするものなのでしょうか?
結論から言うと初期馴染み向上効果は確実にあります。。
なぜ「確実」とまで言い切れるのか?
それは、面取りすると「確実に」ディスクと接触するパッド表面積が減るからです。
僅かとはいえ面取りで接触面積が減った分だけ残った部分(ディスクと接触する部分)の荷重が高まるので、その高まった荷重の分だけパッドの減りが早くなります。
パッドが早く減るという事は早く馴染むという事。
面積が減れば必ずそうなります。

僅かとは言え、接触面積の減ったパッドは早く減る事になるので、その分だけ初期馴染みしやすくなります。
面取りすると本当に鳴き(異音)防止になるのか?
ブレーキを掛けた時に鳴る音を防止するために面取りをするという方も居ます。
その多くは体験的に面取りをしたら鳴きが止み、パッドが減って面取り部分が無くなったら再び鳴きだした経験があるのでしょう。
単純に考えて接触面積が減ればブレーキング時にパッドに掛かる荷重が変わるので、それによって鳴きが止まる事は十分ありえます。
パッドが傾いた時にディスクに引っ掛かる確率が減るので、鳴きにくくなるのもありえるでしょう。
面取りすれば必ず鳴きが止まるわけではありませんが、鳴きが止まる事はあります。
これは経験された方なら知っている紛れもない事実。

面取りすると鳴きが止まる事があるのはホント。
面取りのデメリットとは?
初期馴染みに有効で鳴きが止まる事もあるなら面取りしない手は無いように思えますが、面取りしない派が居るのは面取りにはデメリットもあるからです。
パッと思い付くのは接触面積が減る事に伴う制動力の低下ですが、実は僅かな面取り分の接触面積が減ったからといって制動力が低下したりはしません。
パッドの材質や特性にもよりますが、高荷重になった分だけ摩擦力が上がり、トータルでは制動力に差が出ないのが普通だからです。
motoGPのような頂点レースの限界ブレーキングならともかく、公道のブレーキングで面取りのせいで制動力が低下する影響なんか無いです。
では何が問題なのか?
それはブレーキディスクとブレーキパッドの間に砂を噛み込んでディスクを傷つける事!
そんな大げさな……と思うかもしれませんが、僅かな面取りで鳴きが止まったりするのと同様、僅かな面取りで砂を噛み込みやすくなるのも本当です。
ブレーキディスクは回転しているので砂を噛み込むとディスク板に円周状のキズが入ります。
面取りの僅かな隙間に偶然砂粒を噛み込むだけなので1つのキズそのものは浅く、大した事は無いと言えば大した事ないのですが……、砂は1粒で済むワケがないので、面取りしながら長期間使っているとレコード盤やバウムクーヘンのような見た目になってしまって見栄えが良くないです。
砂粒は一種のヤスリのようなものなので、高価なディスク板の消耗を早めてしまう事にもなるはず。
晴れている日しか乗らなければ砂を噛み込む事は比較的少なく済みますが、雨の日に乗るとかなり明確に砂を拾います。
体感的にわかりやすい例として、雨の日に乗ると車体、特にエンジン前面が砂だらけのジャリジャリになりますよね?
あれは路面に落ちていた砂をフロントタイヤが雨水と共に巻き上げて付着したからです。
当然ブレーキ周りにも雨水は掛かるので、いかにも砂粒が噛みそうな隙間があれば砂を巻き込むのは当然です。

異物(恐らく砂粒)を噛み込んだ痕跡の残るブレーキパッドの例。右側のパッド上側に明確な筋が出来ています。画像のパッドは面取りされていない物ですが、面取りするとこうなる確率がさらに上がってしまいます。
面取りのやり方
ところで面取りはどうやって実施するのでしょう?
やり方は実に簡単で、ブレーキパッドを外し(あるいは新品のパッドを用意して)金属用のヤスリでパッドの端を斜めに少し削るだけ。
パッドさえ単体にできれば面取り作業そもののはメチャクチャ簡単です。
注意する点があるとすれば無駄に削り過ぎない事くらい。
初期馴染みを促進するという事は、別の言い方をすればパッドの寿命を短くしている事になるので、必要以上に削る意味は無いです。
また、パッドのベースプレート側(金属の板側)を面取りするのは危険なので絶対に削らないようにしましょう。
ブレーキは命に直結する重要保安部品なので、パッドの外し方や構造がよく解かっていない場合は安易に手出しすべきではありません。
作業に自信が持てない場合はバイクショップに面取り作業を依頼しましょう!

ブレーキキャリパーからブレーキパッドを取り外して金属ヤスリで端の角を少し削るだけ。
バイクショップに依頼すると工賃(料金)はいくらくらい掛かる?
自分で出来なければバイクショップに依頼する事になりますが、簡単な作業なので物凄い工賃を請求される事は無いはずです。
新品のブレーキパッドを購入して交換を依頼すれば、組込み時のサービスとして無料で面取りしてくれる事も多いでしょう。
使用途中のパッドの面取りを依頼するとしても、5000円以内で収まる事がほとんどのはずです。
具体的な金額は作業依頼する前に聞いてみる事をオススメします。
でも簡単な作業だから無料で……などと言ってはいけませんよ!プロに作業を依頼するのだから対価はキチンと払うべき!
それに、面取り作業は簡単ですが、面取りのためにパッドを外す作業は想像するほど簡単ではないです。
ただし、面取りを否定しているショップでは作業をお断りされる場合もあるので要注意。
また、面取りの為に分解しようとしたら別の問題が発見されてしまい、その修理のために予想外に金額が嵩む事もあります。
(パッドを固定しているボルトがナメていて容易に外せない、など)
その場合に工賃が跳ね上がるのは仕方ありませんし、むしろ見落としていた問題を発見してくれた事に感謝しましょう。

面取り作業の工賃は大した事ないはずですが、そこに辿り着くために他の部品を外す必要があったりすると工賃が嵩むのは仕方のない事です。
で、結局面取りはするべきなの?
面取りしても何も変化しないなら「するべきではない」と言い切れますが、上で解説したように変化もするしデメリットもあります。
ですので、各々が置かれている状況によって「するべき」と「するべきでない」が変わります。
例えば、ブレーキ時に振動が出る程の激しい鳴きに困っていて、それが面取りで解消する事がわかっているなら「するべき」でしょう。
多少デメリットがあったとしても、メリットの方が上回ります。
使用途中のディスクに新品パッドを組み合わせる場合も、できるだけ早く馴染ませたいのであれば「するべき」ですし、使っていればそのうち馴染むから別にいいやという事なら「しなくても良い」です。
つまり車両オーナーが何を望んでいるかによります。
重要なのは、面取りは『しなければならない』作業ではないという事。
「するべき」も「するべきでない」も意見が極端すぎです。
時と場合によって「してもしなくても良い」であり、杓子定規に決める事ではないです。
メーカーで「するべき」と判断されれば最初から面取りされているはずですし、整備マニュアルにもその旨が記載されるはずですが、純正パッドは面取りされていないのが普通です。
ところが最初から大きく面取りされている純正パッドも存在します。
どちらかが正義でもう片方は悪と決めつけられるものではないという証拠です。
「面取りするべき」「面取りしない方が良い」と決めつけず、臨機応変に対応するのが最良だと思います。

面取りは『しなければならない』作業ではない。

画像はブレンボのパッド取扱い説明書ですが、『面取りしてから装着してください』とは書かれていません。これはメーカー純正ブレーキパッドも同じ。
オマケ:筆者の場合
筆者はGP参戦経験のあるプロのレーシングライダーだったり、メーカーで車両開発のテストライダーだった過去なんか無い『普通のライダー』なので、サーキットに於ける限界ブレーキング時の面取り効果……みたいな事は解りませんし知りません。
しかしパッドに関わる業種に居た事があるので、普通のライダーよりはパッドが気になってしまいます。
自腹で様々なパッドを購入し、あーでもないこーでもないと試すのは趣味の一つです。
そんな私は基本的に面取りしない派です。
「基本的に」という部分がポイント。
参考になるかわかりませんが、面取りしない理由と面取りする場合を記しておきます。
初期馴染みについて
使用過程のディスク側はそのままパッドだけ新品に交換したら、古いディスクとピッタリ接触できないのは当然でしょう。
だからパッド交換直後に全力で走り出すと、最初のブレーキ時に全然効かなくて焦る事になるに決まってます。
でも、それはパッド交換後にいきなり全力で走り出さなければ良いだけの話です。
そもそもブレーキ周りを触ったのなら様子を見ながら試して行くべきだと思います。
すると、感触を試しているうちにパッドなんかすぐに馴染んでしまうのですよ……。
交換後に短時間で急制動しなければならない事情が無い限り、面取りする必要など無いのでは?というのが私の考えです。
感触や様子を確認しているうちに無くなってしまうなら作業するのがメンドクサイですし。
逆に、交換直後に公道に出る以上、急制動しなければならない事態に遭遇するかもしれないから、できるだけ早く馴染ませるために面取りした方が良い!という意見も理解できます。
ショップでパッド交換した場合は交換直後に公道に送り出す事になるので、そういう意味でも面取り必須!という作業方針のショップが多数存在するのかもしれません。
鳴き防止について
面取りすると鳴きが止まる事があるのは事実ですが、鳴くかどうかは装着して走行してみないとわかりません。
だったら、最初から面取りしておくのではなく、鳴く事が判明してから面取りを試せば良いのでは?というのが私の考えです。
そもそもブレーキが鳴くのはブレーキ周りのどこかが振動しているからで、基本的にはパッドとディスクが擦れてグリップ → グリップし過ぎてジャンプ(パッドがハイサイド起こしているのと同じ) → 再びグリップ、この繰り返しで発生する振動で音が出る事を『鳴く』と言っているわけです。
「キー」音なら高周波の細かい振動ですし、「グー」音ならもっと大きく振動している事になります。
コップの端を指で擦ると鳴く事があるのと同じ現象です。
鳴かないためにはグリップしなければ良いだけなので、極端に言えば『全くグリップしなければ鳴かない』事になりますし、良く効くブレーキは異音が出やすい傾向にあるとも言えます。
しかし鳴きを気にして意図しない性能のパッドに交換するのはナンセンスですから、先ずは希望のパッドを装着してみて、鳴いたら対策すれば良いのでは?
面取りしたら必ず鳴きが止まるワケでもありませんしね。
なお、特定の車種に特定のパッドを組み合わせたら必ず鳴くというような事は無く、ものすごく微妙なバランスで鳴いている事がほとんどです。
前回鳴いたから今回も鳴くとは限らないので、最初から面取りするのがメンドクサイというのも本音です。
パッド端の欠けについて
ベテランライダーほど「面取りしておかないとパッドの端が欠ける事がある」と思っているように感じます。
それもそのはず、昔のパッドは本当に簡単に端が欠けたので心配になるのは仕方ありません。
しかし、現在のパッドは欠けにくいセミメタルが主流ですし、オーガニック系のパッドであっても端がポロポロ欠けるような製品は非常に稀です。
技術の進歩、科学の勝利、改善の賜物と言うより他ありません。
パッドの当たるディスク側も昔と今では全然違うので、パッドの端が欠ける問題は過去の物なんだなと思っています。
例えばブレンボ製のディスクは大昔はディスクに開いている穴の周りに豪快な面取りが施されていました。
非常に面取り角度が浅く、ほぼ穴径の2倍に匹敵する巨大な面取りでしたが、これはもちろんパッドが引っ掛かって欠けるのを防止するためだったのでしょう。
ところが、現在のブレンンボディスクの穴に面取りは全く施されていません。
面取りしなくてもパッドの端が掛けたりしなくなったのでしょうね!
そういう変化を鑑みて面取りしなくなって久しいですが、パッドの端が欠けた事は無いので、メンドクサイ作業はしたくないのが本音です。
ディスク摩耗について
面取りの有無でディスク摩耗がどう変化するかを同一条件で試した事が無いので確信を持てていませんが、面取りすると砂利を噛む確率が上がるのは間違いないと思います。
昔に面取りしていた頃はディスク表面がレコード盤のようにキズだらけになって「ディスクブレーキとはそういうもの」という認識で居たのですが、面取りしなくなった最近ではそういった事にならなくなったからです。
ただ、これが面取りの有無によるものなのか、ブレーキ素材が進化した事によるものなのかが判断できません。
面取りすると異物を挟みやすくなるのは確実だと思うので、面取りしなくても問題無いなら面取りしなくても良いのでは?メンドクサイし……というのが本音です。

通勤バイクで様々なパッドを試すのは趣味の一環。面取りの有無も試した結果、現在は『面取りしない』で落ち着いています。

ブレンボのディスクにある穴の様子。鋳鉄ディスクの頃はこの穴に大きな面取りが施されていましたが、今では面取り無しです。

面取りする/しないに関わらず、余分なゴミを落とすためにパッドやキャリパーを洗うのは超オススメです!
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