激しいブレーキングを繰り返しているとキャリパーが開くという話を聞いた事があるかもしれませんが、今回はそういう話ではありません。
タイトルのとおり、キャリパーが減るという話です。
恐らくほとんどの方が初めて聞く話なのではないかと思いますが、キャリパーが減るとはどういう事??
今回も超簡単に解説します!
(普通に使っているだけならほぼ気にしなくて良い話なのでご安心ください)

ブレーキパッドやブレーキディスクが減るのは当たり前

上が減ったブレーキパッド、下は新品。

減ったブレーキディスク、片面が僅か0.5mm減っただけでも両面だと1mm減っている事になるので、目視で段付きがわかるようなら要注意。

ブレーキパッドが減るのは皆さんご存知の通り。
減って交換するのは、何年か乗っていれば誰もが経験する普通の消耗部品の交換です。
同様にブレーキパッドと擦れるブレーキディスクも減る物です。
鋳鉄製からステンレス製になった事と、ブレーキパッドの性能が向上してディスク攻撃性が減少した事で昔のように強烈に減る事は少なくなりましたが、使っていると減るのは変わりません。
ディスクはパッドほど交換頻度が高くありませんが、減ったら交換する普通の消耗部品の一つです。

しかしキャリパーが減ったから交換なんて話は大多数の方にとって初耳でしょう。
でも減るのです、ホントに。

ブレーキキャリパーのどこが減るのか?

一般的な対向キャリパーの断面図。

キャリパーが減ると聞いて真っ先に想像するのはキャリパー内のピストンでしょう。
キャリパーを構成する部品の中で動く部品はコレだけなので、減るとしたら真っ先にここが減りそうです。

確かにピストンはものすごい圧力と熱に晒されるものの、それによって減る事はありません。(レースのような激しい条件では変形する事もありますが、そういうのは特殊な例)
ピストン表面の擦れる部分はメッキなどの硬い被膜でコーティングされていますし、グルグル回ったりする物でもないので、サビて交換する事はあっても減って交換する事は基本的に無いはずです。

ではどこが減るかと言うと、キャリパーの内側でブレーキパッドと接している部分が減ります。 
今回はわかりやすい『対向4ポットキャリパーでパッドピンが中央に1本あるキャリパー』で説明します。

対向キャリパー断面図のアップ。青い矢印の部分には必ず隙間がありますが(隙間が無いとパッドが装着できないので)、それが問題。

ブレーキパッドは回転しようとしている

キャリパーにブレーキパッドが簡単に装着出来るのは、上図のようにパッドが入るための隙間があるからです。
それに、パッドは擦り減った分だけブレーキディスク側にせり出して行く必要があるのでギチギチに固定されていてはダメで、自由に動けるだけの隙間がどうしても必要です。
キャリパーにピッタリ嵌っているように思えるブレーキパッドですが、実はキャリパーの中で動くスペースがあるという事。

そんな状態でブレーキを掛けると、パッドはディスクブレーキに引きずられてディスクの回転方向(タイヤの回転方向)に動こうとします。
ところがブレーキパッドは1本のパッドビンで固定されているのでディスクの回転方向に並行移動はできず、回転するように動きます。

なお、中央のパッドピンはブレーキパッドの位置を決めているだけで制動力を支える物ではありません。
制動力を支えているのはブレーキパッドのベースプレート端面と、キャリパーの内側にあるパッドと接触する壁面。
そこでパッドが回転しようとすると、極端に言えば制動力はブレーキパッドの下側からキャリパーに伝わる事になります。(下図の赤矢印部分が最も接触しやすい部分)

ブレーキディスクを挟んだパッドはディスクとの摩擦力で同じ方向に動こうとします。しかしパッドピンのせいで並行移動する事が出来ないので回転するように動きます。

制動力を支えているのはブレーキパッドの端とキャリパー内側の壁

上の図は隙間を大きく描いて極端に回転させているので実際にはここまで派手に回転はしません。
横に平行移動できるようにパッドビンが通る穴が横長になっているパッドも普通に存在するので、実際にはちゃんとパッドの横が全面で接触します。
しかし、そういう回転方向の力が掛かっているのは事実。

するとどうなるか?
長年使っていると、パッドのベースプレートと接して擦れている部分が減るのです。

パッドは比較的短期間で交換するのでベースプレートの端が多少減っても大丈夫ですが、交換の効かないキャリパーボディ側は大ピンチ。
しかも多くの場合、キャリパー本体は柔らかいアルミ製ですから大変です。

外したキャリパーを下から見た図。

更にアップしにした図。プレーキパッドのベースプレート端面がキャリパーに接触し続ける事で擦り減り、溝が出来てしまっている図です。

ちゃんと対策されている

パッドと接触する部分が擦り減ってしまう事はメーカーも把握しているので、当然ながら対策されています。
一般的な対向4ポットキャリパーであれば接触面積をできるだけ広げるように設計されていますし、パッドを支える面積が大きく取れない片押しキャリパーでは接触部分にステンレスの板を噛ませて摩耗を防止していたりします。

また、減るのはブレーキング中だけの話ではなく、ブレーキを掛けていない時にパッドがカタカタと踊っても減ってしまいます。
それでは困るので、パッドが踊らないように押さえてあるのが「パッドプレート」などと呼ばれる板です。
キャリパー背面にある謎の金属板と言った方が伝わるでしょうか。

ブレーキダストは溜まりやすいし、冷却性が悪くなりそうだし、パッド交換しにくいし、いったい何のためにあんな板が付いているのか……?、ブレーキキャリパーをメンテナンスした事がある方なら疑問に思うあの板は、走行中にパッドが振動してブレーキキャリパー本体を摩耗させないようにする役割もあります。

下の画像はブレンボの対向4ポットキャリパーに装着してあるパッドプレートですが、良く見るとパッドピンを支点にパッドを回転方向に押さえている事がわかります。
単にパッドの動きを抑えているのではなく、回転方向に押さえつけているのがポイント。
初めから力の掛かる方向にパッドを回転させておき、タイムラグ無く制動力を発生させる目的もあるのでしょう。

ブレンボの対向4ポットキャリパーに装着してあるパッドプレートの例。画像右側が前方。パッドの振動防止の他、パッド後端を上から押させて初めからパッドを最適位置にセットしておく意味もあるのでしょう。

最悪の場合

摩耗は徐々に進行するもので、ハードブレーキングをしたら一発で減ったりするものではありません。
また、純正状態であればキャリパーの摩耗は非常に僅かで、普通に使っていればキャリパー交換が必要になるほど減るなんて事は起こりません。
「キャリパーが消耗したので交換」という話を大多数の方が聞いていないのは、そのくらい減らないという証です。
普通に使って普通にメンテナンスしていれば大丈夫なのでご安心を!

また、本物のレーシングキャリパーは走行毎に点検されるのが前提ですし、点検中に僅かでも摩耗を発見したら即交換です。
市販車のキャリパーとは考え方が全く異なり、減るまで放置される事は無い前提なので問題無し。

逆に明らかに問題なのはレーシングキャリパーをノーチェックで長期間使用し続けたり公道で使用する場合です。
特に公道で使用すると想像以上の速さで摩耗が進行するので、短時間で相当危険な状態に陥ります。
メーカーがレーシングキャリパーを「レース専用、公道使用禁止」と言っているのはそういった理由があるからです。

具体的には走行中の振動で踊ったパッドがキャリパー内側のパッドプレートが当たる部分を叩き続けるので、短時間で段差ができるほど摩耗する可能性があります。
もしこの段差にパッドのベースプレートが嵌ってしまうと……、ブレーキを握ってもパッドがディスクを挟めないのでブレーキが効かなくなります!
言うまでもなく超危険な状態ですが、表から見えない部分なので気付きにくく、本当に危険です。

溝にプレーキパッドのベースプレート端面が嵌ってしまった図。こうなるとパッドがディスクを挟む事ができないのでレバーを握ってもブレーキが効かなくなります。

オマケ:私の失敗談

卓上の空論や理論上の話ではなく、本当にキャリパーが強烈に減ってしまった経験があります。
理由は明確で、私がブレーキタッチの向上を求めて自己判断でパッドの押さえ板を外してしまったから。

メーカーで公道使用可とされていないレーシングキャリパーなどでは、耐久性を無視して性能だけを追求しています。
パッドをギリギリまで使わない前提でピストンの背が低かったり(キャリパー本体を薄く製造できるので軽くなる)、高頻度メンテナンスを条件にダストシールが無かったり(ピストンの摺動抵抗が減ってタッチが良くなる)しますが、パッドがスムーズに移動出来るようにパッド押さえの板が無いのが普通です。
カッコイイ!

というワケで、レーシングキャリパーを真似て公道で使うキャリパーのパッド押さえ板を外して使用していたのです。
キャリパー背面からパッドとディスクが丸見えになっているのはカッコ良かったですし、実際にブレーキタッチも良くなったように思います。

しかし、キャリパー内で踊ったパッドはキャリパーを削り続け、僅か半年で目視できて爪が引っ掛かるほど明確な溝をキャリパーに刻んでしまいました。
単なる板を外しただけで高価なキャリパーがサクっとゴミに……。

パッドを押さえているあの板は「平坦なサーキットと違って公道ではギャップがあるので、パッドが暴れて開いてしまって次のブレーキングでブレーキが効かなくなるのを防止するため」と教わりましたが、押さえの無くなったパッドが細かく振動してキャリパーを削ってしまうのを防止する意味もあったのだと学びました。
知ってしまえば「そりゃそうでしょ」という話なのですけどね。

キャリパー末期ではブレーキを掛けるとパッドが何かに引っ掛かる感触まで伝わってくるし、ブレーキの途中で効きが急激に変わるし、レバーストロークは毎回違うし最低最悪でした。
もしブレーキタッチの変化に気付かず使い続けていたら……、いつかフルブレーキが必要な場面でブレーキが効かなくなっていたはずです。
皆さんは絶対に外さないようにしましょう!

純正キャリパーに装着されているパッドを押さえる板、これを取ってしまったのがキャリパー摩耗の原因。

キャリパーに残るパッドと接触した痕跡。この画像のように跡があるだけなら問題ありませんが、使い続けるとココが減って溝が出来てしまいます。押さえ板の無いレーシングキャリパーなどでは顕著。パッドが嵌るほど深い溝になるとブレーキが効かなくなるので非常に危険。

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