元WGPライダーでミシュランのタイヤテストの経験も豊富な岡田忠之氏が、箱根のワインディングでMICHELIN POWER 5(パワー5)とMICHELIN POWER GP(パワーGP)を比較テスト。

一般ライダー代表・ウェビックスタッフ楠山とともにパワー5とパワーGPのそれぞれの特徴を実際に走って探ってみた。

パワー5はハイグリップでありながらツーリングもカバーする懐の広さがある

 

パワー5をテストする岡田忠之氏。テスト車両はMVアグスタのF3ロッソだ。

 

楠山──ミシュランのパワー5とパワーGP、ミシュランが2020年に発売したスポーツハイグリップラジアルタイヤを2種類、なんと岡田忠之さんと一緒にテストさせていただきました。ありがとうございました! 岡田さんにお聞きしたいのですが、ワインディングで乗ってみてどのような違いがありましたか?

岡田氏──まず、パワー5は前後ともギャップの追従性がより向上していますね。ロングランをする方にとっては疲れにくいタイヤです。僕は腰痛持ちなので、ツーリングで長く乗ると路面からの突き上げで次の日に腰が痛くなったりするのですが、その辺りが改善しています。

また、今日のように下ろしたての新品タイヤでも違和感なく乗れます。新品タイヤだと皮むきしなければいけないという抵抗感が普通ありますが、乗ってすぐに「あれっ、大丈夫!?」という感じで行けちゃうくらい進歩しています。冬のように気温が低くて条件が悪い時でもこれはすぐに体感できますね。

また、パワー5はウエット性能が抜群です。昔は水を流すセンターグルーブがあったのが今はスリックに近いような見た目になっていますが、シリカが入ったおかげで雨の日でもグリップが感じられる楽しいタイヤに仕上がっています。

楠山──パワー5は、カテゴリーではスポーツラジアルですけど低温でも安心、乗り心地もいい、路面が濡れていても怖くない。というともう、ツーリングタイヤじゃないかと思ってしまいますね。

岡田氏──でもグリップがいいんです! 一般的にタイヤはスポーツかツーリングかどちらかに偏りがちなんですよね。それがミシュランの開発力でここまで用途を広げられるのが、今までにない技術だと思いますね。

楠山──守備範囲が広いですよね。パワー5はワイドレンジでバイグリップとだけどツーリングも大丈夫という。

岡田氏──全然問題ないです!

 

パワー5をテストするウェビックスタッフ楠山。草レースで優勝経験もある中級ライダーだ。

 

走行後のパワー5。トレッド面はなめらかなままだ。トレッドショルダー部にはゴルフボールデザインが施されており、ウェット走行時の安心感をデザイン化している。

パワーGPは荷重をかければかけるほど応えてくれる!

楠山──パワーGPはどういう特性を持っていますか?

岡田氏──より荷重を与えた時に、パワー5よりしっかりした感じがあります。比較するとパワー5は穏やかに動いてくれますね。ツーリングに行った時に路面の継ぎ目とかギャップの追従性を上げています。

パワーGPは硬くはないんですが、タイヤ全体のしっかり感を剛性を高めることで上げていてよりハイグリップになっていますから、峠をより攻められる方、サーキットでより楽しみたい方向けのハイグレードなタイヤになっていますね。

楠山──ワインディングではあまりないと思いますが、ブレーキを残して荷重をかけてタイヤを潰すようなことをしても応えてくれるのがパワーGPということですね。

岡田氏──荷重をかければかけるほど応えてくれるので、パワー5とはキャラクターがちょっと違うんですよね。

あまりスピードを出すのはちょっと怖いかなという方はパワー5でタイヤのたわみを感じながら走っていただき、スピードを求めて荷重をかけられる方はパワーGPの方がおススメだと思います。

楠山──今日のようなワインディングでは流すような感じで走ってきたので、私自身のマッチングではパワー5の方が優しいところがあってよかったです。それでいて構造的に潰れすぎてたわむとかよじれるということはまずありませんでした。

岡田氏──そこまで剛性は低く作ってないので十分いけますね。

 

パワーGPをテストする岡田忠之氏。テスト車両はMVアグスタのF3RRだ。

 

パワーGPをテストするウェビックスタッフ楠山。

 

楠山──パワーGPは、サーキット走行会レベルも行けるわけですよね。どちらかというとサーキットを中心に置いているくらいでしょうか?

岡田氏──パワーGPは、プロライダーがガツガツ荷重かけても応えてくれます。へこたれません。それでも一般道を走れてしまう。

分かりやすいのはサーキット走行でのパワー5とパワーGPの違いで、ハンドリングが若干違うんですね。パワーGPは剛性がしっかりしてるのでバイクを倒していくと舵角がついてくれて、しっかり感を維持したままフロントの旋回が始まるんですね。より速いスピードでコーナーに入れるようになりますが、それに応えるリアのグリップがあるのでサーキットを存分に楽しめると思います。

楠山──パワーGPでサーキットを思いっきり走ってみたくなりますね。クリッピングポイントから開けて起こしていく立ち上がりでパワー5とパワーGPのリアタイヤのキャラクターの違いはありますか?

岡田氏──パワー5の方がグリップレベルが少し落とされてます。ただ、分かりやすいグリップなのでスキルがない方でも滑っても恐怖感がない特性を持っています。パワーGPは僕らでもなかなか滑らせることが難しいぐらいのレベルですね。

楠山──温まってくるとリアはレーシングタイヤレベルですか?

岡田氏──そうですね。

楠山──岡田さんがパワードリフトが難しいというのは、どういうレベルかよくわからないですね(笑)。パワーGPのコンパウンドは温度依存性があるのかなと想像するのですがいかがでしょうか? 例えばタイヤウォーマーを巻かないとグリップしないよとか、秋冬は慎重に走り出さないと危ないよとかありますか?

岡田氏──まったくないです。僕らは冬も乗りましたから。タイヤウォーマーを巻かずに1周目からヒザが擦れます。パワーGPでも全ての環境下に適応したタイヤになっています。

楠山──ではタイヤウォーマーがなくて自走でサーキット走行会に行くライダーにとっても全然大丈夫ということですね。

岡田氏──はい、パワー5だと速度域が上がってきたときにもうちょっとしっかり感欲しいなとなったユーザーさんには、パワーGPを選んでもらえればと思います。

 

走行後のパワーGP。表面の溶け具合からグリップ力の高さが伺える。溝面積は前後6.5%で前後11%のパワー5よりグリップ重視なのが分かる。

 

岡田忠之■1989~1991年全日本ロードレース選手権250ccチャンピオン、ロードレース世界選手権最高峰クラスの日本人最多勝利記録保持者。現在はロードレースの後進の育成やミシュランのブランドアンバサダーとして活躍している。

MotoGPへの復帰でミシュランのタイヤ開発が加速! チョイスの幅を拡大している

 

バイカーズパラダイス南箱根でインプレを語り会う岡田氏とウェビックスタッフの楠山。世代も近いので盛り上がった。

 

岡田氏──昔からミシュランはタイヤのたわみを使ってグリップを出しています。そのバランスを作るのが非常に長けているんですね。そこが製品に投入され始めてきているのでよりバイクライフが楽しめる。用途を選んで皆様に合ったバイクにチョイスできる幅の広がったタイヤになってます。

楠山──幅の広さでいえはミシュランのラジアルではパイロットパワーという製品が20年くらい前にあって、今でも売っているんですけど、そのあたりから変わった気がしますね。

そこからパワーシリーズが進化してパワー5になったと。やっぱりパワーの血統というのはラジアルタイヤの中ではもう確固たる地位があってリピーターも多いんですよね。

岡田氏──ユーザーのお話聞いてみますと、タイヤ変えてウェット性能の素晴らしさとか普通の方でも極端に分かるぐらいタイヤが進歩してます。

やっぱりミシュランがモトGPを一時撤退して復帰した時期から本当にタイヤの性能が変わったんですね。モトGPで得られるノウハウが全て入ってますからね。

楠山──パイロットシリーズの長い歴史の中でパワーシリーズがあって、さらにパワーGPが生まれました。他にもミシュランのラジアルはもっとロングライフで雨に強いロードシリーズもありますしサーキットに寄ったタイヤもあります。その幅広いラインナップの中で感じるのは、それぞれのレンジの重なりも大きいしワイドレンジかなと思います。その中でそれぞれのライダーの乗り方やマシンに合ったものを選んで欲しいですね。

 

ミシュランが2020年にパワーシリーズをリリースした時に公開した資料。世界グランプリでの開発と市販スポーツタイヤが密接に関連していることが分かる。

 

【解説】パワー5とパワーGPはパワーRSから分家した新ラインナップ

ミシュランは、オンロードスポーツタイヤのラインナップを新たに4つの製品で構成される「MICHELIN POWER EXPERIENCE(ミシュランパワーエクスペリエンス)」シリーズとして2020年春より順次発売した。その中で最も公道寄りのラインナップがパワー5、最もサーキット寄りがパワーカップ2とし、その中間に位置しているのがパワーGPとなる。

パワー5は、公道で優れたドライ性能を発揮するとともに、シリカコンパウンドと新設計のトレッドパターンがウェット路面でも高いグリップ性能を確保。パワーGPは、サーキットとストリートで優れたパフォーマンスを両立するため、定評のあったパワーRSのトレッドパターンを継承した。パワー5とパワーGPは、従来品であるパワーRSの後継として位置づけられており、パワーRSがカバーしていた領域を2つの製品で細分化したものとなる。

パワーRSの直系は同じタイヤパターンを採用するパワーGPで、ウェット性能や耐久性を同等にしつつコーナリング性能や直進安定性が向上。ラップタイムもRSを上回る性能を確保している。一方、パワー5は、パワーRSにラップタイムは及ばないものの、ウェット性能や耐久性を大幅に伸ばしているのだ。それでいてパワーRSよりもコーナリング性能は優れており、その実力は侮れない。

 

パワーエクスペリエンスシリーズのラインナップ。このチャートでも分かるようにパワー5とパワーGPの立ち位置は近い。従来のパワーRSはこの2つの領域をカバーしていた。

 

パワー5とパワーGPの違いは主にリアタイヤでショルダー部分の結合剤に違いがある。パワーGPはグリップ重視でカーボンブラックを採用、溝の割合(Void ratio)も少ない。

 

パワーエクスペリエンスシリーズのサイドウォールにはベルベットテクノロジーによるグラフィックが施されている。ストロボデザインはスピード感を表現したものだ。

 

パワー5のサイズラインナップはフロント×1、リア×5種類。

 

 

パワーGPのサイズラインナップはフロント×1、リア×3種類。

 

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コメント一覧
  1. RED より:

    パワーGPは峠などのワインディングでここぞという所でたわむ感触が個人的に合わない、(グニャと腰砕け感と言うか…)なのでブリジストンR11等のバンク中の剛性感のある感じが好み

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