
夏は暑くてグッタリしてしまいますが、それはエンジンだって同じ事。
水冷エンジンなら電動ファンで『水温は』適正範囲内に留めておけますが、エンジン内部を循環しているオイルの温度は普通に大ピンチ。
もっとピンチなのは空冷エンジンで、エンジンはかなり過酷な状態に陥ってしまいます。
そこで、エンジンオイルを冷やすために装備するのがオイルクーラーというワケですが……。
「オイルクーラー」という名前は知っていても実は良くわかっていないオイルクーラーについて、基本をおさらいしておきましょう。
目次
オイルクーラーの役割
水冷エンジンはエンジン内部を巡って熱くなった水をラジエーターに送り、走行風を当てる事で冷やします。
エンジンの表面でしか冷やせない空冷エンジンと違って、大きな面積を一番走行風の当たる場所に設置出来るので効率よく冷却出来るのが水冷エンジンのラジエーターというわけです。
これと同じ理屈で、エンジン内部で熱くなったオイルをエンジン外に設置した放熱器に循環させ、水冷エンジンのラジエーターのように広い面積で効率的に冷やしてあげよう!というのがオイルクーラーの役割です。
夏のエンジンの救世主!
オイルクーラーの仕組みと構造
ラジエーターみたいな構造になっている……のは外観から解かっている方は多いでしょう。
もっと詳しく分解すると、下図のような構造になっています。

オイルクーラー本体正面図:モナカ合わせした板の狭い隙間の中にオイルを通し、オイル通路の間に挟んだ放熱フィンに走行風を当てて効率良く放熱する構造

左右のタンク部分の断面図(Aの破線部):ここも積層構造

本体の断面図(B、Cの破線部):モナカ合わせの狭い通路にオイルを通し、面積が広いフィンに熱を伝導して走行風により放熱
分解できる良い素材が無かった事と、仮に現物を分解したとしても写真ではイマイチ解かりにくいのでイラストを書いてみました。
板をモナカ合わせにしてオイル通路を作り、その通路で放熱フィンを挟んだ積層構造になっている事がお解りいただけるのではないかと思います。
シロウトなので綺麗なイラストでは無いけれど、解かれば良いんですよ!
よくオイルクーラーのスペックで『〇インチ〇段』という言い方がありますが、これはこの積層が何段あるか?を表した言葉です。
当然段数が多い方が面積が広くなるので冷却性能が高いです。
〇インチの方は幅を表しています。
4.5インチと9インチが主流。
実際の冷却性能は面積だけでは決まりませんが、おおまかな目安にはなります。
横がイラストのように段々になってない四角い物も良く見かけますが、その多くは段々の部分を保護しつつ全体を補強するためにカバーがしてあるからです。

海外で良く見かけるセントラルヒーティング装置。建物の地下などにあるボイラーで沸かしたお湯を建物全体に循環させ、この放熱版から放熱する事で室内の空気を温めます。オイルクーラーやラジエーターから冷却フィンを無くしたのと全く同じ構造です。(※冷却フィンが無いのは室内だと走行風が無いため)
オイルクーラーとラジエーターの違い
ラジエーターは水冷エンジンの冷却水を冷やすパーツ、オイルクーラーはエンジンオイルを冷やすパーツ部分です(エンジン冷却方式とは無関係)。
似たような形状で冷やす物が違いますが、基本的な構造に違いはありません。
液体が通る板状の通路で冷却フィンを挟み込んでいるのは全く同じ。
ただし、オイルクーラーが積層だけで全体を組み立てている事が多いのに対して、ラジエーターは横の部分が一体式の箱型になっていて、放熱フィンだけ積層した物の横からペタっと貼り付けて合体している事が多いです。
理由は冷却用の水は流量が圧倒的に多く、バンバン流してドンドン巡回させるのが前提だから。
流量が多いのは冷却水のホースが極太な事からも想像できると思います。
あと、内部圧力にどれだけ耐えられるか?という設定値が全然違います。
冷却水にはあまり大きな圧力が掛からないのが普通ですが、粘度の高いオイル、特にオイルクーラーに回す為に油圧ポンプで加圧されたオイルはかなりの高圧になっています。
だから冷却水用のラジエーターをオイルクーラーとして使用すると、圧力に耐えきれず破裂してオイルをブチ撒けてしまう可能性大です。

ラジエーターかと思うほど巨大ですが、これでもオイルクーラー。GSX-R1100などの油冷エンジンではおなじみの物。
バイクのオイルクーラーと車用オイルクーラーで違いはある?

一般的な後付けオイルクーラー
何も違いません。
というより、アフターマケット用オイルクーラーを製造しているメーカーは車用、バイク用、船用、といった設定をしていません。
単にエンジン用。
車の場合はエンジンオイル以外に変速機用(車の変速機はバイクと違って別体式である事が普通)のミッションクーラーやディファレンシャルオイル用のデフクーラーなどが存在しますが、基本的に同じ物を使用します。
もちろん使用部位や特殊な用途用に大変な高圧に耐えられる物や物凄い流量を優先した物などもありますが、一般に流通している『オイルクーラー』と呼ばれる物は基本的に4輪2輪の区別はありません。
オイルクーラーを後付けするには?

一般的なオイルクーラー装着例
人気車種であれば各社から車種別の専用キットが販売されている事が多いので、車種別の専用キットを購入するのが最も安全で確実です。
と言うのも、全部自分でやろうとすると相当難易度が高いのです。
装着するだけでも一苦労で、
- オイルクーラーの本体サイズはどのサイズが適正か?
- 本体サイズに対してオイル吐出量は過不足無いか?
- そのサイズのクーラー本体を収める場所はあるのか?
- クーラー本体をどうやってマウントする?
- マウント用のステーはどこにどうやって留める?
- 連結ホースとの接続はどの方式にする?
- ホースのサイズはどれにするのが正しい?
- ホースの取り回しはどうする?
- 油圧の掛かったオイルはエンジンのどこからどうやって取り出す?
- 取り出す為のパーツは存在するか?(多くの場合は無い)
- 装着後に正しく機能しているか?
- 耐久性に問題は無いか?
- 破損した際の安全性は確保出来ているか?
これらを全て考慮する必要があります。
車種別キットが無い車種に装着したり、市販品の設定とは大幅に異なるサイズのオイルクーラーを装着したりするカスタムショップがいかにスゴイか、何となくお解りいただけるのでは?
そういった事を無視して装着するだけ!どこまで効いているのか解らないけど形だけ!それで良いなら何とかなる事もありますが、ちょっと本末転倒な気がします。
余談ですが、世の中には性能は無視して見た目だけを重視する人も居て、オイルクーラーを装着していてもホースそのものはエンジンと繋がっていない、単なる飾りとしてオイルクーラーを装着している方も居ます。
もちろんシャレでやっているのですが、当然ながら何も冷えないので、そういうのは「なんちゃってクーラー」と呼ばれていたりいなかったり……。
オイルクーラー本体とエンジンを繋ぐホースについて

大排気量で良く使われるステンレスメッシュホース

4mini系で良く使われる耐油性ゴムホース
オイルクーラー本体とエンジンとを繋ぐのが油圧ホースです。
結構な圧力が掛かった高温のエンジンオイルが流れるので、庭に散水する時に使う水道ホースのような軟弱な物では耐えられません。
熱さ、圧力、油に耐えられる頑丈なホースの必要があります。
ホースは必然的にエンジン付近を這う事になるので、走行中の振動でどこかと擦れたり(振動で接触するような取り回しは本来ダメですが)、走行中の飛び石が直撃しても容易には破れない外殻の頑丈さも必要です。
そこで、耐油性のゴムホース(それ自体が2重構造になっている場合が多い)の外側にステンレスのメッシュで覆うホースが使われるのが一般的です。
金属のメッシュ部分は膨張しないので高圧に耐えられますし、金属なので外部から破壊しにくい事からオイルラインに最適なホースと言えます。
ただ、ステンレスメッシュホースは重くて高価……。
そこまであまり高圧にならない、飛び石で破損するほどの走行速度では無い、などの理由から、より軽量で安価な耐油耐圧ゴムホースが選ばれる事もあります。
安価とはいえ単純なゴムホースではなく複数の素材を組み合わせた物です。
また、ホースの素材とは別に接続方法も大きく分けて2種類かあります。
一つはラジエターホースなどと同様に突起にホースを差し込んだ後、ホースバンドで締めて固定する方法。(ホースバンド式)
安価なのでゴムホースの物で良く利用されます。
もう一つが金属製のパーツでガッチリ固定する方法。(フィッティング式)
ステンレスメッシュホースと組み合わせますが、金属パーツとメッシュホースの接続も単なる差し込みではなく、ホースに金属パーツをメリ込ませて挟み込むようにガッチリ固定します。
噛み込んでいるので思いっきり引っ張った程度で抜けたりはしません。
また、そうやってホースに接続した金属パーツとオイルクーラー本体に固定してある金属パーツとをネジ込んで固定するので、非常に堅牢な接続になります。
航空機の油圧回路は必ずこの方式を採用しているといえば、その堅牢さと性能が解ると思います。

ホースバンド固定式

フィッティング固定式
オイルクーラーを付けると油圧は下がる?上がる?
大きくて派手な箱を追加するし、油圧配管は長くなるし、何となく油圧が下がりそうな気がしませんか?
これは正解とも不正解とも言えます。
まずはエンジンが稼働中の話ですが、オイルポンプから常時オイルが圧送されており、油圧はオイルを放出する部分が絞られている事で発生するのが基本です。
途中に大きな箱(オイルクーラー)が有っても無くても、配管がどれだけ長くても、内部に掛かっている油圧は変化しません。
オイルを放出するのはエンジン内の様々な隙間、例えばクランクメタルの隙間、コンロッドビッグエンドメタルの隙間、カムシャフト受けの隙間、ギヤシャフトとギヤの隙間などですが、この隙間が変化しない限り油圧が低下したりはしません。
逆にオイルクーラーの流路が狭すぎる場合(本体サイズが小さすぎる場合やオイル流量に対してホースが細すぎる場合)は、その部分がボトルネックとなり油圧が上がってしまう事があります。
その場合、オイルクーラーまでの油圧は上がっているけどオイルクーラー後の油圧(油量)は不足している事になるので、エンジン破損の可能性大です。
これが自作する場合にクーラーサイズやホースサイズの選定が難しい理由です。
これとは別にエンジン始動直後は別の問題もあります。
始動直後は油圧配管内にオイルは無くて(オイルパンに落ちている)空気が入っていますから、この空間がオイルで満たされるまでの時間はエンジン油圧ゼロです。
ここまではオイルクーラーが有ろうと無かろうと同じ。
そこに巨大なオイルクーラーを装着すると、大きな空洞と配管が長くなるので通路をオイルで満たすまでの時間が長くなります。
すると、油圧の掛かっていない時間、言うなればエンジンが潤滑されていない時間が長くなります。
物凄い勢いでオイルを吐出しているオイルポンプにとってそれは僅かなコトかもしれませんが、それを僅かと笑う者にチューニングを語る資格はナイ……!というわけで、もっともっとオイルを吐出する強化オイルポンプを組み込む事もあります。
ただ、強力なオイルポンプは駆動するためのロスを生むので、無暗に強化すれば良いという物でもありません。
難しいですね。

オイル吐出量を増やした強化オイルポンプを組み込んだ例
水冷式オイルクーラーとは?
水冷エンジンにのみ使える方式です。
その名のとおり、エンジンを冷やすための冷却水を使ってオイルも冷やしちゃえ!という方式。
冷却水と言っても温度は100℃近くありますが、エンジンオイルは概ね120℃前後なので、熱い冷却水でも十分冷やす事が出来ます。
冷却水はラジエーターで効果的に冷却されていますし、何なら電動ファンまで装備してあるので渋滞中でも一定の温度を保っています。
走行風で冷やす事しかできない空冷式のオイルクーラーよりも安定してオイルを冷却出来るので空冷式より高性能と言えます。
水冷エンジンが高性能なのと同じ理屈ですね。
でも残念ながら後付けできる市販の『水冷式オイルクーラーキット』と言う物はほぼ存在しません。
オイルクーラーを後付けするデメリット
構造が複雑になるので整備しにくくなる事や、故障する可能性のある場所が増えてしまう事がデメリットと言えます。
余計な物は追加せず、シンプルに越した事は無いですからね。
そういう意味でも、追加せざるを得ないほど油温が上がるので止むを得ず付けるパーツです。
当然ですが純正ノーマルエンジンならオイルクーラー追加の必要はありません。
いくら日本の夏が暑くて過酷な環境であっても、その程度でエンジンが壊れないようにメーカーで嫌になるほどテスト済みですから心配ありません。
しかし何らかのチューニングを行った場合は話は別です。
仮にエンジン本体に手を入れていなくとも、車体の何かを交換する事でエンジン負荷が上がって油温上昇してしまう可能性はあります。
例えば外装を交換したら空気の流れが変わってうまく排熱できなくなってしまった……などなど。
また、夏はエンジンオイルを冷やしてくれる頼もしい存在のオイルクーラーですが、極寒の真冬もどんどんエンジンオイルを冷やしてしまいます。
油温が上がらないと重ったるいエンジンの回り方になりますし、そもそもエンジンオイルはある程度温度の上がった状態でなければ上手く機能しません。
つまり夏は良いけど冬は困るという事態になりがちです。
対策としてオイルクーラー配管用のサーモスタットキットもあるので、一年中使う予定の方は導入を検討してみてください。
筆者はお金をケチる事を優先し、寒くなりはじめたらテープを貼ってオイルクーラーを塞ぐ、もっと寒くなったらオイルクーラーを丸ごと外してしまいます。
しかしこのやり方は相当メンドクサイので、皆さまにはオススメしません。
空気が流れるはずの場所をテープで塞いで空気抵抗を増大させてしまうのは邪道ですし。

サーモスタットはこんな形
オイルクーラー増設した時はオイル量に注意
オイルクーラーを増設した際にオイル量をどうするか……、これは難しい問題です。
何となくオイル量を少し増やしている方が多いようですが……。
オイルクーラーを増設するようなチューニングを行うショップの方に聞いても、人によって言う事がバラバラです。
ただし、それぞれ言っている事が間違ってるとは思えないのでいくつかの説を紹介しておきます。
オイル増量派
- オイルが循環するとオイルクーラーの体積分だけオイル量が下がってしまう
- その状態で激しく加減速するとオイルが傾く
- オイルが正常に吸えずエアを噛んでしまう
- だからオイルクーラーの体積分だけ予めオイル量を増やしておく
うーん!合ってると思います!!
予め増やしておいたオイルはエンジン停止中はオイルパンに落ちてくるので、オイル量を点検すると上限の印を突破していたりしますが、それで正解という考え方。
オイル量変えない派
- オイルが循環するとオイルクーラーの体積分だけオイル量が下がってしまう
- しかしその程度でエアを噛んでしまうほどギリギリの設定ではない
- だからオイル量を変える必要は無い
- むしろオイル量を増やすと始動時のエンジン内圧が上がって始動性が悪化する
うーん!合ってると思います!!
ただ、これは元のオイル量がかなりある大排気量車だから言える事で、オイル量の少ない車両では無理がある気がします。
オイルパンの形状が良くて逆三角形の深いオイルパンになっているなど、元からハードに使われる事が前提のエンジンでは有効な気がします。
オイル量減らす派
さすがに出会った事ないです(笑)。
オイルクーラーの有無に関わらず限界までオイル量を減らす派の方は居ますけどね。
さて、皆さんのご意見やいかに?
正しく選べば間違いなく油温低下に貢献してくれる頼もしいパーツです。
見た目もメカニカル感満載でカッコイイ!※ココ重要
良い物を選んでしっかり油温を下げ、愛車のエンジンを労わってあげたいですね!
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>オイルクーラーを増設した際にオイル量をどうするか
>増量派・変えない派・減量派
面白い意見と視点だね。
オイルの粘度も考えてもらって
改造する人は自己満足して欲しい。
本人がかっこいい。と思えばいい
が落ちの記事。
結局、かっこいいと思うならwebikeで買えって事だろ。
とあるソアラを思い出した
>当然ですが純正ノーマルエンジンならオイルクーラー追加の必要はありません。
いくら日本の夏が暑くて過酷な環境であっても、その程度でエンジンが壊れないようにメーカーで嫌になるほどテスト済みですから心配ありません。
結局のところこれに尽きる