
「マフラー交換」はバイクカスタムの定番メニューの一つです。サウンドやパワーフィーリング、スタイルなど、ライダーごとにアフターマーケット製マフラーを選ぶポイントまちまちですが、誰もが“気持ちイー!”と口を揃えるのがSP忠男のパワーボックスです。何がどう気持ちイー!のか、マフラー作りの哲学とインプレッションを交えて紹介しましょう
スペック上の最高出力を求めるのか、街中での実用性能を求めるのか
純正マフラーに比べて圧倒的に軽快感に勝るサイレンサーエンド。サイレンサー本体はシンプルな円筒形ながら、近接騒音、加速騒音テストをクリアして政府認証を取得している。
バイクメーカーが長い時間を掛けて開発した純正マフラーの完成度は高く、あらゆるシーンで過不足のないパフォーマンスを発揮します。その上でユーザーに選ばれるマフラーを作るため、アフターマーケットのパーツコンストラクターはさまざまな観点から開発を行っています。
ユーザーの立場からすれば、せっかくマフラーをカスタムするのなら最高出力アップを求めるのは当然でしょう。ただ冷静に考えてみれば、街乗りやツーリングなど日常的な使い方の中で、エンジン回転をレッドゾーン近くまで引っ張る機会がどれほどあるでしょうか?カスタムでそんなことを気にしても仕方ないといえばそうですが、グリップ力の高いタイヤに交換したり制動フィーリングが向上するブレーキを装着する方が、ピークパワーを追い求めるマフラーよりライダーにとって分かりやすいかもしれません。
過去40年にわたってマフラー開発を行ってきたSP忠男にとっても、自社ブランドのマフラーにどのようなキャラクターを与えるかは大きな課題でした。同社では以前から、純正を超えるピークパワーを実現しながら、5000~6000rpmから大きなトルクを発生する特性を作り込んできました。
しかし街乗りやツーリングライダーの多くはもっと低い回転数、具体的に言えば1000ccクラスのビッグバイクなら2000~3000rpmあたりの回転数を常用していると知り、開発の方針を大きく変更します。
パワーボックスと名付けられた現在のSP忠男製マフラーは、排気量や機種によって異なるものの、それこそクラッチをつないでスロットルを僅かに開いた2000~3000rpm程度の回転数からトルクの厚さを実感できるように開発されています。低回転から豊かなトルクが出るというと低速型と勘違いされそうですが、そうではありません。低回転でのトルクアップに力を注ぎながら、アフターマーケット製マフラーとして純正を超える最高出力も実現しています。
このような特性を作り込んだことで、多くのライダーはミッションを1速に入れてクラッチをつないだ途端、交差点を曲がってスロットルを開けた際、2車線の道路で並走ししている車を抜こうと加速した時に、バイクが力強く前に進むのを実感できます。
スロットルを大きく開けてエンジン回転が上昇していくのを待つ必要はなく、開けた量に応じてどこからでも雄大なトルクがわき出てくる特性が作り込まれています。
街中でもツーリングでもライダーを疲れさせることのない心地よさと爽快感の両立を目指し、それをひと言で表すフレーズとして“気持ちイー!”というキーワードで表現しているのがSP忠男です。
250cc4気筒でも4000rpmからのトルクアップを実感できるPOWERBOX FULL
最高出力33kw(45PS)を1万5500rpmで発生し、最大トルク21N・m(2.1kgf・m)を1万3000rpmで記録する高回転型エンジンだが、パワーボックスフルによって4000rpmからトルクの盛り上がりを感じられるようになる。ピークパワーではなく過渡特性を作り込むために試作を繰り返すのがSP忠男流のマフラー開発。
Ninja ZX-25R用純正マフラーはエキゾーストパイプからサイレンサーまで一体式なので、パワーボックスもフルエキゾーストで開発。エキパイのバイパスパイプや集合部のレイアウト、メインパイプの長さは何種類もテストして、スタッフ自身が“気持ちイー!”と太鼓判を押せる仕様に仕上げてある。
最近のトレンドに従いマフラー全長を詰めながら純正を超えるトルク特性として、なおかつ騒音規制値もクリアできるよう、サイレンサー内部も独自の仕様となっている。
SP忠男製パワーボックスシリーズには、スリップオンサイレンサータイプの「パワーボックス」、エキゾーストパイプのみを交換する「パワーボックスパイプ」、スクーター用の「ピュアスポーツ」、マフラー全体を交換する「パワーボックスフル」の4タイプがあります、ここではカワサキNinja ZX-25R用パワーボックスフルの印象をレポートします。
1980年代のレーサーレプリカブームの時代には国内4メーカーが揃って250cc4気筒モデルを販売していましたが、現在250ccクラスの主流は2気筒になっています。
カワサキも2気筒エンジンを搭載したNinja 250が人気ですが、Ninja ZX-25Rは久々の新設計4気筒エンジンが大きな話題となっています。吸気系がキャブレターだった80年代と違って、フューエルインジェクションで緻密なコントロールが可能となったZX-25Rのエンジンは低速からパワー感があり、街中での実用性もかなり良好です。
純正マフラーがエキゾーストパイプからサイレンサーエンドまで一体式のワンピースタイプのため、SP忠男が開発したパワーボックスもフルエキゾーストタイプとなります。エンジンのキャラクターが高回転型であっても、街中で多用する低中速域のトルクを追求するのはパワーボックスにとって不可欠で、ショートタイプのデザインの中に豊かな低速トルクを発揮する秘訣が隠されています。
純正マフラーはサイレンサーの手前に大きな膨張室があり、ここでトルクとパワーのバランスを取っています。対してZX-25R用パワーボックスフルは、スイングアーム下に斜めにレイアウトされた円筒形のサイレンサーがあるものの、パイプのレイアウトはシンプルでなおかつ全長は短めの印象です。こうしたマフラーは高回転高出力型の特性になりがちで、特に排気量の小さいモデルではその傾向が顕著になりがちです。
低いギアなら吹き上がるのはあっという間ですが、公道で他の車の流れに乗って走る場合は高回転ばかりを維持することはできません。また速度が低い中、低いギアでエンジン回転を上げればスロットルに対して反応が過敏になり、排気音も気になります。だからといって早めにシフトアップすると、エンジン回転数は下がりますがトルクが薄くてギクシャクしがち……というのが250ccクラスの泣き所です。
そうした先入観で試乗すると、印象はガラリと一変します。タコメーターに数字が刻まれるのが4000rpm以上というスポーティな演出が魅力のZX-25Rですが、その4000rpmから純正に比べてトルクの厚みがグッと増しています。
400ccクラス並みというとさすがに大げさですが、4000~8000rpm近辺のトルク感は250ccクラスをはるかに超えています。250cc4気筒スーパースポーツというZX-25Rのキャラクターからすれば、レッドゾーンまで使い切ったスポーツ走行に醍醐味があることは理解できますが、実際問題としてそうしたシーンがどれほどあるかを冷静に判断すれば、4000rpm以上で上乗せされたトルクのメリットは街中でライダーに“気持ちイー!”を実感させてくれます。
トルクバンドを低回転側に広げたとはいえ、1万7000rpmまで一直線に駆け上がる4気筒ならではの伸びの良さがスポイルされることはありません。街中はもちろん、高速道路でもこのマフラーの本領を発揮させることは容易ではありませんが、純正を超える最高出力を実現しているという実力の一端を知ることができます。
高回転をキープしなくても余裕で走行できる心地よさを実現するトルク特性と、エンジン回転の上昇とともにわき上がる爽快感。SP忠男が追い求める“気持ちイー!”は、Ninja ZX-25R用パワーボックスフルに盛り込まれています。
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