
2015年末にスーパーチャージャーを搭載したH2Rで385km/hを叩き出したトリックスターが、ZX-25Rで250km/hを目指すプロジェクトをスタートさせている。今度は過給機をターボに置き換えて未踏の領域に挑む!
最初のステップはターボなしで200km/hに挑戦
最高速には並々ならぬ意欲を見せるトリックスター代表の鶴田竜二氏は、2015年にH2Rで385km/h(実速352km/h)をマークした後も、2019年には米国ボンネビルで329km/h(204MPH)という電動バイクの世界記録を打ち立てるなどチャレンジを続けている。
そして、次なるターゲットに選んだのはカワサキのZX-25Rで、まずは200km/hを目標にチューニングを開始。エンジン内部には手を加えず、吸排気チューンとコンピューターのセッティングのみに留めたが、シェイクダウンの走行でいきなりメーター読み202km/hをマークした。
この時にトリックスターがこだわったのは国内仕様をベースにすること。50PSを発揮するインドネシア仕様に対して、国内仕様でもそれ以上のパフォーマンスを発揮させることががテーマとなった。そのため、ECUをコントールするためにサブコントローラーを介し、スロットル開度などの制限を取り払っている。
また、パーツも実際に購入できるよう、「TRICKSTAR レーシングフルエキゾーストマフラーIKAZUCHI」や「TRICKSTARパワーインテークダクト」、「ラピッドバイクレーシングフルセットTRICKSTAR仕様」などを開発および製品化している。
2020年11月20日、富士スピードウェイで開催された「MAX ZONE mini」に賞典外で参加し、1.5kmのストレートで初のメーター読み200km/hオーバーを記録。実速でも195km/hをマークした。
2021年5月3日、日本自動車研究所の高速周回路で開催された超MAX SPEED走行会にて、トリックスターの山本剛大選手がアタックし、ZX-25Rでメーター読み215km/h、実速205km/hを達成した。
ターボなしで最速を記録した5月の仕様は後輪45PSを発揮。ノーマルよりも高さのあるスクリーンとし、ヘルメットへ空気がスムーズに流れるようにしている。また、さらなるパワーアップのためエンジンのエアファンネルを14000rpm以上の高回転域でより伸びる仕様に変更した。
ZX-25Rでも、カワサキらしく過給機で異次元の速さを目指す
開発から約半年で200km/hを達成すると、トリックスターはターボ化に乗り出す。鶴田代表はZX-25Rが発売された当初から250km/hを目指しており、その実現のためにはエンジン内部のチューニングではなく、カワサキらしく過給機によるパワーアップを目指したのだ。
200km/hアタックで培ったコンピューターチューンのノウハウを駆使して、ターボ過給時のセッティングを煮詰め、最初のチャレンジは2021年11月18日に実施された第2回超MAX SPEED走行会が舞台となった。ブースト圧0.5kg/㎠、後輪58PSとなるセットアップで走行し、メーター225km/h、実速度217km/hと新たな領域に踏み出した。
さらに、この一か月後には後輪出力を71PSまで高めたセットアップで再び最高速に挑んだ。記録達成に期待が高まったが、メーター226㎞/h、実速219km/hと伸び悩む結果に。実走行では、あまりのパワーアップにクラッチ容量が足らず、本領を出しきれずに終わった形だ。
そして3月21日、ターボによる3回目の最高速アタックを日本自動車研究所の高速周回路で実施した。今回はブースト圧を1kg/㎠まで高め、なんと後輪出力を95PSまでパワーアップさせることに成功。問題だったクラッチは、プレートを一枚増やすとともにスプリングも強化することで万全の体制とした。
3回目のテストに臨んだトリックスターのZX-25Rターボ。4気筒250ccモデルでありながらエンジン出力は100PSオーバーとノーマルの倍以上を発揮するモンスターマシンに生まれ変わっている。
ターボは、排気圧でエンジン前方のタービンを回し、同軸上にある吸気側のタービンも回転させることで、大気圧以上の吸気圧をエンジンに送り込むもの。今回は1kg/㎠のブースト圧としたので大気圧の倍となっている。
ZX-25Rターボで慣熟走行をするトリックスター代表の鶴田竜二氏。高速周回路の走り方も熟知している。
戦闘機「飛燕」を始め、カワサキは過給機のイメージが色濃いメーカー。鶴田氏はその伝統を受け継いでZX-25Rターボの開発に着手した。左の750ターボの時代おいてはもちろん、現代でも夢のメカニズムであるのは変わりない。
試行錯誤の末、ZX-25Rターボでようやくたどり着いた250km/h!
3回目のZX-25Rターボの最高速アタックは、慎重に進められた。序盤は鶴田氏が様子を見ながら実走行での最適なブースト圧を探り出していく。これを繰り返すうちに速度はメーター223km(実速215km/h)、同230km/h(同222km/h)と徐々に高まっていく。
ここで、クラッチが滑り始めたので新品に交換し、今度は山本選手がアタックに入る。最初の走行でいきなりメーター242km/h(実速236km/h)をマークし、速度はもはや250ccとは思えない次元に突入。しかし、この時エンジンはほぼ吹け切っていたので、ドリブンスプロケットを2Tロングに変更。
しかし、これが裏目に出て山本選手の2回目のアタックでは、メーター241km/h(実速232km/h)と記録を落としてしまう。今度はドリブンスプロケットを1Tショートに変更し、ついにメーター252km/h(実速243km/h)を達成! 最初のアタックから1年半、ターボでは約半年のチャレンジが実を結んだのだ。
オンボード写真を見ると、エンジン回転は上限の18000rpmに届いていないので、ブーストを上げればもう少し伸びそうな勢いだ。しかし、今回はエンジンをケアするためにもテストはここで取りやめて、最終的な目標である実速250km/h達成は持ち越すことにした。
次回のアタックは、5月3日の第4回超MAX SPEED走行会の予定。また、その前に4月8~10日に開催される名古屋モーターサイクルショーにZX-25Rターボが展示予定なので、ぜひ足を運んでみて欲しい。
メーター252km/hをマークしたオンボード写真。タコメーター上にあるのはGPSロガーのQSTARZで、これで計測した実速は243㎞/hだった。タコメーターは17500rpmあたりを指している。
ZX-25Rターボでアタックするトリックスターの山本剛大選手。アジア選手権AP250初代王者で250ccクラスを得意とする。
ついに目標を達成したトリックスターレーシングのメンバー。白いツナギが鶴田氏、黒いツナギが山本選手だ。開発においては、左から3番目の中村メカニックの影の力も大きい。
【番外編】市販版ZX-25Rターボに先行試乗、 2スト的なパワー感が楽しい!
3月21日のテストには、市販仕様の小型タービンでブーストを抑えた通称「弐号機」も持ち込まれていた。なんと、取材陣にも試乗の機会が与えられ、高速周回路の直線部分をZX-25Rターボで全開走行することができた。
事前の印象ではかなり扱いがシビアなのでは? と思っていたが、弐号機には気難しさがなく、発進もノーマルと同じようにできる。下の回転域では変わった様子はなく、ターボが付いているかどうかはほとんど分からない。
しかし、これが10000rpmあたりを境に豹変する。急激にパワーが湧き出るように盛り上がり、体感的には400~500ccくらいの加速力を見せるのだ。回転が上がるほど勢いが増していくフィーリングは2スト的な印象で、これがかなり楽しかった。
ただし、決してコントロールできないような出力特性ではないので、直線路でなくても扱いに困ることはないだろう。トリックスターのターボキットは、サウンドが官能的な4気筒250ccモデルに刺激的な走りまで与えてくれるスパイスのようなもの。ZX-25Rオーナーは要チェックだ。
詳細は不明だが、年内にも発売が予想されるトリックスターのZX-25R用ターボキットを装着した車両。すっきりとまとまっているので、違和感はない。
250km/h仕様よりも小径のタービンを採用しており、常用域を犠牲にしないようセットアップされるだろう。
試乗の様子。1500m以上ある直線路で全開にすることができた。2スト的出力特性だが、4ストらしい扱いやすさも併せ持っている。
市販仕様弐号機のパワーは上から2番目でなんと後輪72PSを発揮。まさに400~500cc級の出力となる。一番上は250km/h仕様で、後輪95PSを発揮する。
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タービン交換したFC3Sを乗っていたのでターボでどれほど速くなるのかを知ってます。
ターボ化するにあたってクラッチ、圧縮比、燃調などなど補機類もかかりますからいくらになるんでしょうね
それにターボ付けて、何の意味が有るの?
理屈では無い、バイクはね、着地点は無い、スゲーかダサいかの2択だけだよ?
理屈では無い、バイクはね、着地点は無い、スゲーかダサいかの2択だけだよ?
ただし公道は走行不可です。
楽しみすぎる
ことなかれ主義の人には解らない世界。
昔のZXR250にもターボキット出てたね
本体価格並に高額になりすぎて好き者にしか広まらなかったけど
「内燃機関の電動化待ったなし」のご時勢に「この挑戦をする」事自体が、商売ではなく「浪漫」であろう。
「売れるか否か」しか視点を持たぬ者には、理解不能な世界。トリックスターと鶴田代表に敬意を表します。