内燃機加工のプロショップを訪ねると、どのモデル用だが?何用なのか?部品単位ではまったく理解できない内燃機部品の修理請け負いを見ることがある。しかし、同じエンジン部品でも、明らかに違った個性を感じるのがハーレー・ダビッドソン用のエンジン部品である。もうすぐ創業70年になる内燃機加工のプロショップ、井上ボーリングでは、創業当時から国産エンジンと同様に、数多くの実績があり、現在に至るまで、途切れることなく続く需要が多いモデルのひとつにハーレー・ダビッドソンがあるそうだ。修理することによって乗り続けることができる機械仕掛けのバイク。ここではハーレー・ダビッドソンの「フライホイールの修理」に注目してみよう。

クランクシャフトではなく「フライホイール」



他のエンジンには無い唯一無二のフライホイール構造を初代Vツインエンジンから継承し続けているハーレー・ダビッドソン。この大きなフライホイールが特有の走りと鼓動を生み出す。両端がテーパーになったクランクピンエンドにはネジ山があり、組み立て時の固定はナットの締め付けによって行なわれる。分解時は大トルクを発生させるインパクトレンチを使ってクランクピンを緩め、さらに左右フライホイールの隙間にクサビを打ち込むことで、左右フライホイール(左右クランクウェブ)を真っ二つに分解することができる。

激しい痛みがあるときは研磨仕上げ

クサビを打ち込んだことで左右フライホイールに分割され、片側にクランクピンとコンロッドが残る。コンロッドのビッグエンドサイドとフライホイール摺動面の間にガタが多く発生してしまうと、それによってビッグエンドとフライホイール摺動部に摩耗が発生する。段差ができてしまったときには、フライホイール側のクランクピン周辺を研磨加工で平滑に仕上げるそうだ。

特徴的なハーレーならではの設計思想



長年乗り続けられたことによる各部の磨耗で異音が発生……。そうなるとオーバーホール依頼が入るのが、ハーレーのフライホイール=大型クランクシャフトだ。モンキー用部品とは比べ物にならない大きさの違いである。2本のコンロッドが抱き合わさったようなビッグエンドと3分割のニードルベアリングが特徴的な設計で、このような組み合わせデザインにすることで、シリンダーのレイアウトは前後バンク一直線が可能になる。全面投影面積が小さくなる。

高精度な部品がラインナップされる

数多くの社外メーカーから様々なパーツがラインナップされているVツイン用エンジンパーツ。日本国内のホンダ横型モンキーチューニングシーン以上に、リビルド用エンジンパーツが豊富にナインナップされているのが、ハーレー・ダビッドソンの大きな特徴だろう。このコンロッドセットも高品質な社外品で、メーカー純正パーツと比べても、まったく劣らない品質を誇っている。

経験豊富な内燃機職人の凄技



分解したフライホイールは各部を洗浄&クリーンナップ。各部分にダメージが無いか、しっかり点検してから組み立て作業に入る。フライホイールシャフトのジャーナルベアリングにはテーパーローラー仕様が採用されている。目測で左右フライホイールのセンターリングを行ない、インパクトレンチでクランクピンナットを締め付ける。さらにプライバーを使って、ガッチリ締め付けられているか?職人さんの手によって最終的な締め付け確認が行なわれる。

大型銅ハンマーでガツンと一撃!!



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目測で組み立てても0.1mm以内の振れに入るのがハーレー・ダビッドソンのフライホイールらしいが、そこから先の振れ取り芯出し作業で、職人の腕前が明確になる。きわめて低回転でアイドリング可能なフライホイール。そんな部品のオーバーホールは、このような作業工程から生まれるのだ。文字通り「ハンマー一撃!!」で振れゼロに仕上がったフライホイール。これは職人さんにとっても驚きだったそうだが、つまり同時に、ハーレー用フライホイールの加工精度が安定している証明でもある。

取材協力:iB井上ボーリング https://www.ibg.co.jp/

POINT

  • ポイント1・なかなかお目に掛かれないハーレーの心臓部「フライホイール」の構造は国産モデルと大違い!!
  • ポイント2・内燃機修理で復活できる、組み立て式フライホイール=クランクシャフト

バイクエンジンで「フライホイール」と言えば、クランクシャフトに取り付けられる別部品、いわゆる「弾み車(はずみぐるま)」を指すことが多い。しかし、ハーレー・ダビッドソンのエンジンは、ユニークな構造を持っており、フライホイールというのは「クランクシャフト全体」を指す部品名称となっている。事実、ハーレーには別部品のフライホイールは存在しない。巨大で丸型のフライホイール(国産車ならクランクウェブと呼ばれる)が、「弾み車」としての役割を果たしている。そしてこのフライホイールが極めて重い!!こんな重い部品がエンジン内で回転しているのだから、あの野太い低速トルクを発生させるのだろう。
左右に分かれるフライホイールは、一本のクランクピンで接続され、そのピン両端はテーパー加工され、フライホイールにがっちり固定されながら組み立てられている。旧い英車や日本車では、このような構造例があるが現在は皆無。クランクピンエンドがネジ切されていて、ナットで締め付けることでテーパー部がフライホイールに強く噛み込み固定される。このテーパー圧入式も、一般的なストレート圧入構造の組み立て式クランクシャフトとは大きく異なっている。

ハーレー・ダビッドソンのフライホイール(クランクシャフト)で特徴的なのは、一本のクランクピンに2本のコンロッドの大端部が抱き合うように組み合わされていることだろう。一般的なV型エンジンは、2本のコンロッドを並列で組み合わせているため、その違いは明らか。初代ハーレーVツインの設計者は、エンジン全幅が広がることを回避したかったのかもしれないが、そんな構造のため、リヤバンクのシリンダーは冷えにくい!?と思えるのだが、いかがだろうか?

そのようなクランク構造のため、クランク幅はテーパー寸法によって決定されてしまう一面もある。ピン片側にはキー溝が掘ってあるため、回転方向は固定されやすく、通常の組み立てでも精度を維持しやすい構造となっている。この組み付け後に僅かな振れや芯出し作業を内燃機組み立て職人、クランク組み立て職人の腕前によってきっちり仕上げられるのだ。ここでの作業のように、クランクピンとコンロッド&ベアリングがセットになった部品交換なら高精度な組み立てが可能だが、修理ベースの部品加工&組み立て復元では、一筋縄ではいかないことが多いそうだ。
ここでは、国産車エンジンとはまったく違った考えのもと、開発製造されているハーレー・ダビッドソンの「フライホイール=クランクシャフトの修理」の様子をご覧いただいたが、こんな部分に魅かれてハーレー・ダビッドソンを愛するファンも多い。国産バイクのエンジンとは大きく違うハーレー・ダビッドソンの特徴を知っていただければ幸いだ。

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