
軽中量級にまで普及してきた倒立フォークとラジアルマウントキャリパー
以前だと、スーパースポーツあるいは大型車に限られてきた倒立フォークやラジアルマウントキャリパーの採用が、ここのところは普及モデルや軽中量級にまで拡大してきました。正立+アキシャルマウントから倒立+ラジアルマウントになった22年型CBR400Rがその好例でしょう。また欧州車では、KTMの390やBMWの310が採用済みです。
正立+アキシャルのMT-07をベースにしたYZF-R7が倒立+ラジアルとしていることからも、スポーティさに関して優位にあることは確かです。特に私はMT-07を愛車にしているだけに、その違いを実感したものです。
R7はフォークが倒立化されただけでなく、左右ピッチも拡大されているため剛性感が高く、相対的に柔軟なアクスル側から接地感や操舵感覚がダイレクトかつ豊かに伝わってきます。逆に正立型の07は、ダイレクト感には劣っても疲れない快適さが保たれています。R7のラジアルマウントキャリパーとラジアルポンプマスターシリンダのフロントブレーキもいい感じで、自信を持ってレバーを握り込める特性です。
ヤマハ YZF-R7(2021)
倒立フォークも当初はいいことづくめではなかった
そもそも倒立フォークは80年代、モトクロッサーのストロークが大きくなった正立型では、アクスルの下側に突き出したアウターチューブがコーナーで路面と接触することを避けるためのものでした。そのうち、剛性面でのメリットに気が付き、80年代の後半期にはワークスロードレーサーにも採用され始めました。
そうして間もなく、市販車にも展開されていきました。ロードスポーツへの初採用は89年のカワサキZXR250だったと思います。ただ、そのときの印象としては違和感もありました。高剛性感が鼻につき、まだ重量的に重かったことが、そのことを助長していた気もします。何より、それまで正立型で親しんできた剛性感とは違っていたのですから当然です。
カワサキ ZXR250
そうした違和感がなくなるのに10年以上を要した気がします。そのことには、倒立型フォークそのものの剛性の適正化、重量軽減のおかげもさることながら、私はフレームの縦曲げ剛性が高められるという進化によって、車体全体の剛性バランスが最適化されていったおかげではないかと思っています。
私は90年頃、KYBに倒立フォークについて話を伺いに行ったことがありました。「ロードレーサーではブレーキングの安定性などにメリットがあっても、トータルで見ると一般市販車では違和感があるし、見た目にも奇異に映る」と言う私に、当時の二輪サス部門の部長さんは、
「いえ、私にはむしろ自然に見えるんです。だって、フォークを片持ち梁に例えて考えれば、高い応力が掛かる根元の支持側を太くしたほうが、応力を均一にできるし、変形も抑えられます。理に適っているじゃないですか。だから、これから倒立型はどんどん普及していきますよ」
まさにその通りだったのです。
ラジアルキャリパーにも当初はネガもあった
ラジアルマウントキャリパーが初めて採用されたのは、99年のドゥカティのSBKマシンであるワークス996でした。私はそのシーズンオフにミザノサーキットで、そのカール・フォガティのマシンに試乗する機会を得ました。ここで、当時の私の試乗記からフロントブレーキに関する記述を引用させていただきます。
「フロントブレーキは、キャリパーがラジアル方向に取り付けボルトを締めつけるタイプとなっているが、これがまた絶品である。剛性感が高くなっているが、油圧比や油圧経路の剛性向上による剛性感とは異なり、握り代の変化からブレーキ入力のフィードバックを如実に伝えてくれているようなしっかり感だ」
現在、ラジアルキャリパーはスポーツマシンにおいて一般的
一般的なアキシャルマウントだと、支持面(取付面)とブレーキ力が掛かるディスク面との間にズレがあるので、キャリパーを捩じるような変形が生じるのですが、ラジアルマウントだとそれがありません。ですからフィードバックが妨害されないのです。
なるほど、これも理に適っています。そして、そのメリットを最大限に生かすため、モノコックタイプが主流になっています。
これも02年ぐらいから市販車に投入されていくのですが、ただ、ストリートモデルには一筋縄ではなかったと思います。剛性感の高さが災いして、効きが唐突に感じられがちだったのです。00年代初頭当時はまだ倒立フォークに固さのネガも残っていて、ステアリングフィールにシビアさもあったものです。
でも、今ではこれが親しみやすいモデルまで普及してきました。やはりそれは、理に適っていることを信じ、その方向で改良を加え続けてきたからに他ないのです。
この記事にいいねする