●写真:小川裕之/カワサキモータース 撮影:東京ドイツ村
カワサキとの関係が始まり、それまではほんの一部のエンスージアストに向けたものだったBIMOTAが途端に現実的なものになった。普通に買える。普通にアフターサービスも受けられるようになったイタリアのプレミアムブランド。400㏄モデルまで登場できたのはカワサキとの協働のおかげである。そんな新生BIMOTAのフラッグシップ2台に乗った。
目次
町工場の手作り
BIMOTAブランドは紆余曲折をしながらも長くフレームを作ってきた。かつては各社のエンジンを搭載したモデルが多数あったことをご存じのファンも多いだろう。イタリア東部の多くの小さなメーカーがひしめく「モーターバレー」と呼ばれる地域の小さな町リミニに拠点を持ち、そして2018年からはカワサキとの新たな関係をスタートさせた。
カワサキが協力するようになって、カワサキのエンジンを搭載している近年のBIMOTAだが、実はそこに強制性はないらしい。BIMOTAは今でも自由にどこのメーカーのエンジンを使ってマシンづくりをしてもいいという、カワサキとはわりとユルイ契約なのもおもしろい。そして日本のビッグメーカーカワサキとタッグを組んだにもかかわらず、今でも生産はそのリミニ町で行われ、ワンロットわずか5台という手作りのシステムは変わっていない。工業品ではなく、限りなく芸術品に近いのである。BIMOTAの歴史は公式HPの「ヘリテージ」欄に詳しいため確認していただきたい。
KB998 RIMINI
TESI H2 TERA
リミニとテージ テラ
今回試乗することができたのは、Ninja ZX-10Rエンジンを搭載しWSB選手権にも参戦するKB998 RIMINIと、BIMOTA初のアドベンチャーモデルであるTESI TERAの2台だ。
KB998 RIMINIについては、カワサキがWSBに参戦する代わりにBIMOTAがその役目を請け負うという意味があるモデルであり、ZX-10R以上にレースにフォーカスしている。通常はZX-10Rのような量産車をベースにレース仕様を作り上げていくのに対し、KB998 RIMINIの存在のおかげでレーシングマシンが何よりも優先、そしてそれをベースに公道仕様もリリースするという反対方向からのアプローチが可能になっている。
これを優位にするのがアルミではなくクロモリのフレームらしい。量産車では良い落としどころを見つけて、かつ量産体制も見据えてフレームづくりをするのに対し、BIMOTAのフレームならば後から細かな変更を加えやすくレースシーンでの様々な要望に応えやすいという。一方で今回試乗できた公道バージョンにおいてはエンジンや電子制御はカワサキのものをそのまま使っていて、その点においてはBIMOTAの思想は入っていない。むしろ「我々が作るよりもKAWASAKIの方が信頼性が高い」とBIMOTA側が言ったそう。我々はフレーム作りに集中させてもらう、という信念も感じさせる話である。
そしてもう一台のTESI H2 TERAである。こちらはBIMOTA初のアドベンチャースタイルモデル。BIMOTA側に、実績のあるセンターハブステアを使った長足モデルを作りたいという気持ちがあったらしく、スーパーチャージドエンジンのNinja H2という、パワフルで上質なエンジンと組み合わせることでこのモデルが誕生した。センターハブステアでありながらアドベンチャー系モデルに求められるハンドル切れ角をしっかり確保したり、ブロックパターンでありながら超高速に対応するタイヤを専用に作るなど、その思い入れはかなり強い。
KB998 RIMINI 純レーシングマシンに酔う
カーボンによる独創的なスタイリングを持つ外装と、BIMOTAカラーによって特別感が漂ってくるKB998 RIMINI。ヘッドライトやメーター類などはZX-10Rのものをそのまま使っているが、しかしスペシャル感は隠しようもなくアピールしてくる。発表された価格は693万円。ほぼ手作りであること、カーボンパーツがふんだんに使われていること、WSBにそのまま出られることなどを踏まえれば納得の価格、なのかもしれない。
しかし近くで見ると良くも悪くも「手作り感」溢れている。カーボン外装は市販車のカウルのようにフチが丸められたりしておらず、レーシングカウルそのままといった雰囲気。しかも非常に薄い部分もあり、走行中にクラックが入ってきそうなほど。耐久性や細かな精度よりも軽さや一発の性能を追求したような構成だ。
立てつけも同様で、各部のチリの合わせや、接合部のギシギシ感もまた市販車のそれではなくレーシングマシン的。市販車だったらカウルにも強度や耐久性がしっかり持たされた上に、風切り音やビビリ音がしないような配慮がある。留めているところにもゴムワッシャーやグロメットが使われるが、KB998 RIMINIではそうはならない。軽さ、着脱のしやすさ、シンプルさ。レーシングマシンに求められる性能が最優先である。
可変式のウイングもしかり。速度によって角度が変わるウイングを備えるのだが、市販車だったらシュイン! とかウィン! とかいう音で動きそうなところ、KB998 RIMINIではパカン!カコン!と動く。その様はあまり高級には思えないのだが、しかし機能を果たしているのであればそれでよし!という潔さにも思える。
これら要素全てがBIMOTAでありKB998 RIMINIなのであろう。これは量産車であるZX-10Rではなく、あくまでWSB用に作られたレーシングマシンを公道用に最低限仕立て上げただけ、なのである。だからこそそこに価値があるわけだが。
さすがフレームビルダーの意地
走り始めると、ここまで書いてきた各部のギシギシ感は車体各部から伝わってくる。メーターもミラーもブルブル震えていて、本当にレーシングマシンのレーシングカウルに最低限の保安部品を付けただけという、まさにホモロゲモデル的感覚。スペシャルというか粗削りというか…少なくとも我々が慣れ親しんでいる量産車とは完全に異なる仕上げ感だ。
しかし走りの方はさすがである。
エンジンは吸排気の関係かほんのわずかに出力向上したZX-10Rのものを使っているのだから間違いはないし、先述したように電子制御系は信頼のカワサキ製をそのまま使用しているため付き合いやすさもしっかり確保されている。そして当然、速い。
車体こそがBIMOTAが本領を発揮するところ。イメージとしてはシートが若干高いのに、重心が低くてホイールベースが長いような感覚があったが、スペックを見比べるとその違いはごくわずか。にもかかわらずスーパースポーツモデルから得ることの多い硬質な印象は少なく、これほどまでにプレミアムな乗り物なのに親しみやすいと感じた。唯一ZX-10Rに対してスペック上で違いがそれなりに大きいのはキャスター角で、ZX-10Rが25°あるのに対してKB998 RIMINIは23.5°と立ち気味であること。しかしそれによってハンドリングがクイックだとか神経質といったことはなく、フロントの接地感はたとえ荒れ気味の路面でも上々。公道ワインディングでも積極的に走らせることができた。
特にフレームが良いと感じたのは速度が出ているときにギャップを踏んで車体が振られた時だ。弾かれてプルプルッとした硬い動きをするのではなく、昔の鉄フレーム車のように大き目な揺らぎ1回でそれを吸収し、その大らかな反応がライダーを怖がらせない。…ような気がした。公道を少し走っただけで本当にそこまで深いことはわからないだろうけれど、確かな包容力が隠れているのではないか?? と気づかせてくれ、その包容力が限界性能でも生かされているのだろうな、と思わせてくれただけでもBIMOTAは凄さが伝わってきた。
ただ、やはり市販車感覚で公道を走るには色々とハードルが高いのは事実のように思う。しばらく走っていて気づいたのは排熱の強烈さ。常に左右太ももに熱風が浴びせられていて、試乗日は特別暑いわけでもなかったのに「これはキビシイ…」と音を上げたほど。やはりこのプレミアムマシン、最もフィットするのはサーキットなのだろうな、と改めて思わせられた次第だ。
TESI H2 TERA・ソフトながら強烈、アドベンチャーの新機軸
TESI H2 TERAに乗り換えて嬉しかったのは、こちらはちゃんと公道走行を考慮して作られているということ。KB998 RIMINI同様のプレミアム感や高級感はあるし、ましてセンターハブステアという一目見て「他とは違う」雰囲気が溢れているわけだが、乗り味は極めてスムーズで外装の立てつけやビビリの少なさなど、良い意味で量産車的であった。
カウリング各部にはちゃんとグロメットや強度確保のためのステーなどが設けられているのだろう、ギシギシ感は極小で、すべてにおいて高級感があった。またがった時のソフトさやシートの低さ、ポジションのナチュラルさ、排気音の静かさなどなど、その肌触りの良さはビロードのようだ。
この好印象に大きく貢献しているのはエンジンだ。H2のスーパーチャージドエンジンの高回転域は無敵のパワーが炸裂するわけだが、常用域でも強力なトルクを発する上に非常に上質で振動も少なく音も静か。スロットルレスポンスのスムーズさやナチュラルな出力特性など、実はアドベンチャーモデルによくマッチした特性と言えるだろう。
そして車体がまた良かった。エンジンの特性は全く似ていないのにライダーの重心とバイクの重心が近く、安定感のある低重心フィーリングであるという点ではBMWフラットツインと共通するものがあるように思えた。サスペンションはとても柔らかくて乗り心地は極上なのに、かといって飛ばし気味に走ってもフニャフニャすることはなく、シタシタっと路面を引き寄せて後方へと送り出していく。接地感は抜群で、早めシフトアップと低回転域から大きめにアクセルを開けることによりH2エンジンのトルクバンドを活用した走りが快適。スムーズで労せずハイペースが維持できているさまは大排気量の高級四輪車的だ。
アドベンチャーといえば大排気量ツインが多い中で、カワサキは4気筒でもその世界観を作れるとヴェルシスで提案してくれてはいる。しかしTESI H2 TERAはそれを軽く上回っていく、4気筒アドベンチャーの完成形を示してくれたかのよう。これほどまで上質で高級な二輪車があっただろうか。すっかり感じ入ってしまったのだった。
BIMOTA復権
カワサキと協力関係となる前のBIMOTAの立ち位置については詳しくなかったが、今こうしてカワサキとタッグを組んだことは非常に前向きなことだと思う。こうしたプレミアムブランドが身近に感じられ、実際に購入でき、アフターも受けられるというのは大きな安心要素であるし、またパーツ供給などもカワサキの輸送網と一体化しているためスムーズに行うことができるという。
さらに言えば、近年は欧州発の老舗ブランドが名前だけ取引され独り歩きしているような場面もある中、BIMOTAのモノづくりのコアにあるものをしっかりと尊重しながら、協力関係を築き応援しているカワサキの判断にも拍手を贈りたい。
価格的なハードルは依然高いものの、現実に購入し、安心して走らせ続けられるという意味ではグッと身近になったBIMOTA。街を走っているのを見るだけでも嬉しくなるではないか。
KB998 RIMINI / TESI H2 TERAディテールチェック
KB998 RIMINI

ライト類はカワサキZX-10Rのものを使用するが、カウルは独自の造形をカーボンで制作。その作りは美しく、イタリアの町工場で手作りされていると思うと感動的だ。一方で随所に手作り感が残っているのも事実。中央にある大きなエアインテークの中にはボルトが飛び出していてナットで留まっているのだが、ナットから飛び出すボルトの長さが妙に長くて気になる。カウルのフチの処理や合わせ面の隙間なども、量産品のそれとは違う基準で作られているのがわかり、あくまでレーシングマシンであることが伝わってくる。

走行中に自動で可変するウイングを装着。走り出す時にフロントブレーキを握ると「カコン!」「カコン!」と作動確認をするためその動きがわかり可愛らしい。ただ今回の公道走行中にその効果を感じるのは難しかった。

サスペンションはスーパーバイク参戦をにらんでSHOWA製を採用するが、フロントフォークの下部アクスル部は専用に削り出しで作っている。そのせっかくの削り出し部品をカーボンのカバーで隠してしまっているのだから贅沢な話である。

ピボット部はアルミから削り出したプレートで、メインフレーム部はクロモリで構成されるフレーム。特にクロモリ部は太さや厚みの調整などレースシーンにおいて細やかな変更を加えやすいというのが魅力だという。しかしそれだけでなく、公道で走らせてもZX-10Rのアルミフレームとは違った得も言われぬ柔らかさというか包容力があったように思う。

堅めのシートもレーシングマシン的。前後に長さがあり、ライダーの体格を限定しないのと、積極的な体重移動を許容する。高さは830㎜とZX-10Rよりも5㎜高いのだが、車体全体はむしろ低重心に感じたから不思議だ。

灯火類同様にメーターもZX-10R純正を使う。エンジン及び電子制御関係はBIMOTAオリジナルのセッティングとすることなく、カワサキのものをそのまま継承する。BIMOTA側が「我々が作るよりもカワサキの方が信頼性が高い」と言ったとか。
TESI H2 TERA

スーパーチャージドされるH2エンジンを搭載。200psの最高出力はもちろん、常用域での豊かなトルク感や素直でわかりやすいアクセルレスポンスも魅力であり、その特性がアドベンチャーマシンに良くマッチしていた。当然、センターハブステアリングシステムを想定したエンジンではないわけだが、それでもBIMOTAはヘッド側から大きなプレートを伸ばすことで上手にこのエンジンにセンターハブステアリングを組み合わせた。

一般的にはリアサスが収まる空間に、2本のサスが並んでいる異様な光景。フロントのセンターハブステアリングは様々なリンクを経由してこちらにサスペンション機能を集約。それでいてどこにもガタや伝達感、ラグが発生していないのは素晴らしい。

アドベンチャーモデルとしてはかなり細身のシートであり、その点スポーツ性も追求しているのかと思う。同時にこのスリムさが車体を小さく感じさせてくれていて、足つき性も抜群である。タンデムシート部の方が幅があって快適そう。

TESI H2 TERAには固定式のウイングが装着される。センターハブステアリングはこれまでハンドル切れ角が少ないのが通例だったが、TESI H2 TERAではTESI H2の27°から35°へと切れ角が増やされた。Uターンもラクラクである。ブレーキングも強力で、全体的にソフトな乗り味にもかかわらず、ハードブレーキング時にはビターッと路面に張り付いて踏ん張ってくれる不思議な感覚があるのはセンターハブステアリングならではなのだろうか。

大き目なブロックパターンでありながら初めてZR規格を達成した専用のタイヤを開発。トルコ生産でサイドウォールにはしっかりBIMOTAのロゴが入る。TESI H2 TERAはオフロード走行も考慮していることのアピールだが、しかしこのマシンで不整地に入っていきたいかどうかは…。

リラックスしたライディングポジションと大きなハンドル切れ角、メーターもスイッチ類も親しみのあるカワサキ製ということもあってコクピットビューに違和感はない。目に入るインナーカウル類もみなカーボンで高級感があるし、立てつけの良さやビビり音の少なさなどは量産車に近い高品質仕上げとなっている。あえて言うならば細かな配線類などが見えてしまっているのが惜しいか。
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