写真:DUCATI 文:ケニー佐川(佐川健太郎)
新世代V2エンジンによって大胆な進化を遂げた新型ハイパーモタードV2。その実力をイタリア・ボローニャで開催された国際試乗会からケニー佐川がレポートする。
目次
デスモ廃止とモノコック化で次なるステージへ

試乗したSP仕様。モタードらしいビーク形状と極限まで削ぎ落としたボディが生む、軽快かつ攻撃的なスタイリング。ドゥカティ史上最軽量の新世代Vツインを車体構成の一部として使うことで、驚くほどコンパクトでマス集中したシルエットを実現している。
初代ハイパーモタードが登場したのは2005年のミラノショー。モタードというジャンルをドゥカティ流に再解釈したその姿は、“遊べるドゥカティ”として強烈な個性を放っていた。そして4代目となる新型V2は、その歴史の中でも最大級の転換点を迎えている。
注目は完全刷新されたパワーユニットだ。搭載されるのは新型パニガーレV2譲りの890cc・90度Vツイン。長年ドゥカティの象徴だったデスモドロミックを廃し、バルブスプリング式へ移行。IVT(吸気可変タイミング)を搭載し、10750rpmで120psを発揮しながら、4000rpm以上では最大トルクの80%以上をキープするという。しかもエンジン単体重量はわずか54.5kg。従来型950より大幅な軽量化を果たし、バルブクリアランス点検も4万5000kmごとという驚異的なロングスパン化を達成している。
車体も完全新設計だ。鋼管トレリスフレームを廃し、エンジンを強度部材の一部として活用するアルミモノコック構造へ刷新。さらに両持ち式アルミスイングアームを採用し、SP仕様ではオーリンズ製サスペンションと鍛造ホイールを装備。車重はSPで177kg(STDで180kg)という軽さを実現した。
そして、電子制御も最新世代へ進化。6軸IMUを核に、コーナリング対応のABSとトラコン、ウィリー制御などをフル装備。さらに新採用のスライド・バイ・ブレーキは、コーナー進入時のスライド量を電子制御でアシストし、まるでプロライダーのようなドリフト感覚を味わえる。スタイル面でもシャープなビーク形状やコンパクトなテールまわりによって、従来以上に筋肉質かつ軽快なシルエットへと進化するなど、文字どおりのフルモデルチェンジとなっている。
170kg台とは思えない“軽さ”と自由度
走り出した瞬間、まず身体が反応したのは数値以上の“軽さ”だった。フッと倒し込むと、思わず曲がりすぎてしまう。だが本当に印象的だったのは、その先にある“自由さ”だ。車体がライダーの入力を待つのではなく、まるで意思を先読みするようにスッと向きを変えていく。切り返しも驚くほど俊敏。それでいて挙動は神経質ではなく、常にコントロールの余白を残している。
今回試乗したSP仕様は、オーリンズ製サスペンションと鍛造ホイールの威力も大きい。前後ともストローク量はたっぷりあるのに、動きは驚くほど引き締まっている。ブレーキングで沈み込み、その荷重を利用して一気に向きを変え、立ち上がりで伸び上がるまでの一連の動きが実に滑らか。長いサスペンションが生み出す独特のピッチングモーションが絶妙で、荷重移動そのものを操る楽しさがある。
しかも単なる“暴れ系モタード”では終わらない。フロントの接地感が高く、旋回中の情報量も豊富だ。従来型950にあった腰高で荒々しいキャラクターは影を潜め、車体全体の一体感が増している。オンロードスポーツとしての完成度を高めながら、モタードらしい奔放さだけはしっかり残してきた印象だ。
新世代Vツインが生む“洗練された速さ”
搭載される新型890cc Vツインは、従来のドゥカティLツインとはかなり性格が違う。まず驚かされるのが回転フィールの滑らかさだ。街乗りで使うような低回転域でも神経質さがなくストレスがない。それでいて3000rpmを超えたあたりから厚みのあるトルクが立ち上がり、中速域では強烈な加速を見せる。IVT(可変吸気バルブタイミング)の効果も大きく、レスポンスは鋭いのに唐突さがない。アクセル操作に対して、どこまでも自然についてくる。さらに高回転域では、従来のLツインにあった“ドコドコ感”よりも軽やかに吹け上がるシルキーさ際立つ。歴代ドゥカティVツインの中でも、間違いなく最も洗練されたエンジンのひとつだろう。
電子制御の完成度も高い。クイックシフターは極めて自然で、サーキットではクラッチ操作を忘れるほど。そして「RACE」モードではフロントをわずかに浮かせながら最大効率で加速していく。ウィリー制御の介入度を下げればさらに大胆なフロントアップも可能だ。試乗会が行われたモデナ・サーキットでは、400mほどの短いストレートでもメーター読み210km/hを記録したが、しかし不思議なほど速度感が薄い。エンジンの滑らかさと車体の安定感が、そう感じさせるのだろう。速いのに疲れない。気づけばほぼ一日中サーキットを走り続けていたが、最後まで集中力が切れることはなかった。
そして極めつけは「スライド・バイ・ブレーキ」だ。ブレーキング時にリアを適度に流しながら進入できる制御で、使いこなせばまるでMotoGPライダーのようなスライド進入も可能になる……らしい。実際、華麗な進入スライドを披露していたドゥカティのテストライダーは実に涼しい顔だった(笑)。残念ながら筆者はそこまで辿り着けず、リアが少しヨレた程度だったが、それでも“その先の世界”を垣間見せてくれるだけの懐の深さは感じられた。
“伝統破壊”の先にあったもの
新型ハイパーモタードV2は、明らかに速く、そして扱いやすくなった。だがその一方で、トレリスフレームも片持ちスイングアームも、そしてデスモドロミックさえ姿を消した。スペックだけ見れば「もはやドゥカティらしくない」と感じる人もいるかもしれない。
しかし実際に乗ると、その印象は一変する。フロントを浮かせ、リアを滑らせ、全身でマシンを操る高揚感はまさにモタード。むしろ軽量化と電子制御の進化によって、ライダーはさらに大胆に、もっと自由に“遊べる”ようになった。
伝統という装飾を削ぎ落としながら、それでもなお濃密な官能を失わない。“ドゥカティらしさ”の本質だけを抽出し、より純度高く研ぎ澄ませた一台なのである。
ディテール

新世代パニガーレV2譲りの890cc・90度Vツインを搭載。ドゥカティ伝統のデスモドロミックを廃した新設計ユニットは、シリーズ最強120psを発揮しながら、従来型比で大幅な軽量化も実現。IVTにより4000rpm以上で最大トルクの80%以上を発揮する。

フロントブレーキはブレンボ製φ320mmダブルディスクにM50ラジアルモノブロックキャリパーを組み合わせる。強力な制動力と繊細なコントロール性を両立し、コーナー進入時に引きずりながら減速するブレーキでも扱いやすい。
ライポジ
ハイパーモタードV2(2026)主要諸元
ボディサイズ: 全長×全幅×全高=-×-×1150mm
ホイールベース: 約1514mm
シート高: 880mm(ローシート865mm/+ローサスペンション 850mm)
車両重量: 180kg/177kg(SP仕様)
エンジン: 水冷90度V型2気筒 DOHC4バルブ 890cc
トランスミッション: 6速リターン
最高出力: 120 PS / 88 kW @ 10,750 rpm
最大トルク: 94 Nm @ 8,250 rpm
燃料タンク容量: 12.5L
フレーム: アルミモノコック
サスペンション(ホイールトラベル):
フロント:倒立式テレスコピック(170mm)
リア:モノショック(160mm)
ブレーキ:F:φ320mmダブルディスク+ブレンボ製4Pラジアルモノブロックキャリパー / R:φ245mmシングルディスク+2Pキャリパー
コーナリングABS標準装着
タイヤ: フロント:120/70-17、リア:190/55-17
燃費: 5.4L/100km
予定価格:1,990,000円~(消費税込み)
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