2025年のEICMA(ミラノショー)で世界初公開され、今年3月の大阪&東京モーターサイクルショーでは日本でも初公開となったホンダの「V3R 900 Eコンプレッサー プロトタイプ」。2輪では世界初となる電動過給機を搭載し、現在開発が進められている超注目モデルだ。登場時にも概要をお伝えしたが、今回、V3Rの開発を統括する責任者にインタビューすることで、その概要や背景、今後の展開までが見えてきたぞ!

話を聞いた人
本田技研工業 二輪事業統括部
事業企画部 大型カテゴリーGM
楠田篤志さん 

ホンダにおける、600cc以上の量産オンロードモデルの総責任者。V3Rはコンセプトやパッケージなど、初期の検討段階で開発責任者を務めている。ちなみに展示されたV3Rのタイヤはドロドロに溶けていたが、これはPV撮影の際、楠田さん本人がHSR九州を走らせたタイヤとのこと。

誰にも真似できない、独創のレイアウトを問う!

Honda V3R 900 E-Compressor Prototype

 

Webikeプラス(以下W):現状では詳細なメカニズムなど、お話し頂けない部分もまだありますよね?
楠田さん(以下楠):はい。ですが車両はお見せしているので、語れるところは語れます。
W:わかりました。では早速ですが車名についてです。「プロトタイプ」ということは、このスタイルで市販に繋がると考えていいですか?
楠:はい、この形で世の中に出したいと思っています。
W:世に出るまでに、どのくらいの時間をイメージしていればいいですか?
:まだ開発中なので言えないところがありまして、残念ながら、もうちょっとお待ちください。

カモフラージュはされているものの、全体的なフォルムは一目瞭然。車体の前後をぎゅっと圧縮してマスを集中させたような、見るからに運動性能の高そうなルックスだ。


W:では次に“そもそも論”的なところを教えて下さい。このV型3気筒+電動過給機というエンジンは、どういった目的や狙いで企画されたのですか?
:「怒涛の加速を誰もが楽しめる“ノンレール・ローラーコースター”」が車両コンセプトです。今までにない加速を体感できるバイクを作りたい。しかも、そのジェットコースターのような高揚感を、一般のお客様でも安心感を持って楽しめるバイクにしたい。スーパースポーツのように、技量のあるライダーがサーキットでしか真価を体感できないようなハードルの高さは払拭したいんです。
では、どんな車両ならそれを達成できるのか。その答えが電動過給機です。低速から過給し、いきなり大トルクを発生させられることで「これで行こう!」と決まりました。
W:4輪では採用例のある電動過給機ですが、2輪での採用はV3Rが世界初です。それだけでも開発のハードルは非常に高そうですが、ホンダさんはそこにV型3気筒という、さらに難しくなりそうなエンジンレイアウトを選択しています。
楠:はい、非常に難しいです。
W:やはりそこには「誰もやっていないことをやりたい」という気持ちがあるのですか?
:ありますね。誰もやっていないことをやって、ホンダのスピリッツを表現したい。V3Rは開発のスタート時点からそうした思いがあります。

Vバンク75°の900ccと発表されているV型3気筒エンジンは、二輪世界初となる電動過給機(Eコンプレッサー)のブースト圧を緻密に電子制御することで、低回転から高レスポンスを発揮、1200ccに匹敵するパフォーマンスと環境性能を両立する、とアナウンスされる。

それ以上の詳細は不明ながら、外観からは縦割りらしきクランクケース(=クランクピンは1つ?)や排気側のみやや下げられたカムシャフト配置などが見て取れる。

No.1を奪還した今、ホンダの頂点に立つ1台を

W:なるほど。バイク好きとしてはとても心躍る話ですが、そういうワクワクする企画が、なんだか突然、降って湧いたように登場した印象を受けるんです。何かの記念イヤーとか、前振り的なものも特になく、2024年のEICMAでいきなりストリップの車体が発表された。これだけの大プロジェクトですから、何かきっかけがあったと思うのですが。

2024年のEICMAで発表された「電動過給機付きV型3気筒エンジン」。この時は車名も外装もなく、トラスフレームに前後足回りだけという状態での展示。排気量の発表はなく「水冷75°」「スリム&コンパクト」「インタークーラー不要の軽量設計」などがアナウンスされた。

2輪メディアは大いに騒いだが、具体的なジャンルが不明(トップブリッジにアップハンドル装着用らしき穴はあったが)なためか、一般ユーザーにはやや真意が伝わりにくかった?

 

V3Rの開発がスタートする少し前のホンダは「新しさやチャレンジングなものが感じられない」と言われていたんです。当時のホンダは生産台数が減り、大型モデルがあまり売れない状況に陥っていました。そこからホーネットやトランザルプなどを出して大型バイクの生産も安定し、ヨーロッパでもシェア1位を回復するところまで来た。ようやくホンダらしさを出せるチャンスが巡ってきた。それが今回のタイミングだと考えています。
W:大型モデルに多くの機種を投入し、欧州の販売台数もトップに立った。いよいよその頂点に君臨する、尖りに尖ったホンダ車を作ってやるぞ…と?
:そういうイメージですね。もちろん、今まで出した車両も思いを込めてやっているんですが、そちらはお客様のニーズに合わせて、その期待を超えることを目標にしてきた。だからこそ台数も出たと思うんです。でも、今回のV3Rはお客様の期待をさらに飛び越えてホンダらしさを表現しようと、そういう思いで取り組んでいます。

理想の車体パッケージから導き出したV3

W:となれば当然、様々な検討をされたと思います。エンジンのレイアウトにはV3以外にどんなものがありましたか?
:もちろんV4は検討しましたし、ホンダは単気筒からV5、フラット6まで様々なエンジンを持っています。が、V3Rはエンジンの気筒数ありきではなく、車体パッケージングの検討から開発がスタートしているんです。誰もが電動過給機による怒涛の加速を味わうにはコンパクトかつ軽量で、扱いやすい車体である必要がある。そのためにはどんなエンジンが相応しいのか…。そうした観点からスタートして、結果的に選ばれたのがV3というレイアウトなんです。
W:そのV3のメリットとは、具体的にどういったものでしょうか? レーサーのNS500やその市販レプリカ・NS400Rなど2サイクル車での採用例はあるにしても、4サイクルではホンダさんも初めて挑むエンジン型式です。

1983年にF.スペンサーが初のGP500タイトルを獲得したホンダのワークスレーサーがNS500。バンク角112°のV3エンジンは、前1気筒/後2気筒とV3Rとは逆の配置。

NS500レプリカとして1985年に発売されたNS400R。V3エンジンはバンク角90°で、前2気筒/後1気筒とV3Rと同じ配置。


楠:エンジンとしてはV2とV4のいいとこ取りです。高揚感のある高回転型の特性にするため、多気筒化は図りたい。しかしエンジン単体の軽さや車体の細さ、コンパクト化には気筒数が少ない方が有利です。また、大トルク車はフロントが浮きやすいので前輪の分担荷重を高めたいのですが、これはV2やV4より、V3の方が有利。V4は高出力化すると、リヤバンクの排熱処理やライダーの熱居住性を向上させるために車体が大きく重くなる。結果的にリヤ荷重が増えてしまうんです。
W:なるほど。つまりV3Rの電動過給機とV3はセット、一心同体ということですね。
楠:そういうことです。

2気筒より気筒数が多く高回転指向、かつV4より前輪荷重を稼げる…と「いいとこ取り」なのがV型3気筒。電動過給機はほぼフロントバンクの真上に置かれる(写真は2024年のエンジン発表時のもの)。

過給機専用バッテリーを持つセミハイブリッド!

W:電動過給機ありきのV3Rですが、正式なアナウンスはないものの、ひとつハッキリしているのはハイブリッド的なシステムを搭載していることです。電動過給機をブーストが掛かるほど回転させるのは、12ボルトの電装系ではまず無理。専用の高電圧回路が必要ですし、モーターに電力を供給する駆動用バッテリーも搭載されていると思います。
:そうですね。
W:それは、シート下の膨らみのあたりに?
:入っています。
W:そうは思えないほどコンパクトですね。普通の電装系が収まっている程度の出っ張りしかない。
:それぐらいで収めようと考えていますし、既にあれで今、実際に走っていますから。
W:軽量コンパクトを非常に重視されているのがわかります。でもハイブリッドシステムって、どうしても重量が嵩むと思うんです。軽くしたいのに重いメカを積まなきゃいけない。ちょっとした矛盾もあるのではないでしょうか?
:そこなんです。そこがエンジニアの力の見せ所で、過給機を載せないといけない、バッテリーシステムも組み込まないといけない。重くなるんですよ。その分、どこで軽くするかに知恵を振り絞っているんです。V3もそんな流れの中で採用したという経緯もあります。
Wなるほど。何度も繰り返されていますが、V3を前提に考えてはいない。
:そうです。新しいエンジンがあると、それでどんな機種が作れるかと考える方もいますが、今回のV3Rはお客様にどのような新しい体験を提供できるかという観点で、車体パッケージをゼロから考えています。なのでV3や電動過給機という手段は、いってみれば後付けなんです。

ほぼフロントバンクの直上に置かれる電動過給機。右側に突き出た2つのパイプは、過給機を冷却する水冷(または油冷)回路用と思われる。

本文にあるように、電動過給機には専用の駆動用バッテリーや高電圧回路がマスト。これらはシート下のわずかな膨らみに収められているという。そのコンパクトさに驚く!

ちょっぴり残念なのは、ハンドルを目一杯切らないとせっかくの電動過給機が見えないこと。常に過給機が見えるスケルトンダクトがオプションに欲しい!?

まずはストファイ、その先には…自然吸気仕様もテスト中?!

W:リヤサスペンションにはユニットプロリンクを採用しています。この理由は何ですか?
楠:他にはないという理由や、片持ちスイングアームを見せやすくする目的もありますが、リヤサスをフレームにマウントすると、バッテリーシステムの行き場所がなくなるんです。フレームもエンジンにマウントされる構造なので、さらにフレームに入力が加わるとエンジンに負荷が掛かりすぎるため、構造的に成立するユニットプロリンクを採用しています。
W:なるほど。見た目的にもリヤシリンダーの後ろあたりがすごくスッキリしていて、軽さ感のアピールにも効いていると思います。
:リヤのエキパイがよく見えるように、ということも考えています。

スイングアームは片持ちで、エンジンで支持されている模様。ショーワのBFRCライトと思しきリヤショックは上側がフレームに接続されないユニットプロリンクタイプ。ちょうど真上にモーター駆動用バッテリーの膨らみがある。

フレームは前後のシリンダーヘッドに接続され、スイングアームピボットを持たない構造。これも軽量化の一環と思われる。


W:V3Rはジャンルで言うとストリートファイターですが、なぜこのジャンルを選んだのでしょうか?
:跨った時に自分でコントロールできる、支配できそうというところですね。誰もが気負わずに乗れる扱いやすさでは、やはりネイキッドスタイルが有利だと思うので。スーパースポーツ方向だと違うものになってしまうし、誰もが体感できないと意味がない。ということで、まずはネイキッドスタイルから始めてみようということです。

アップハンドルのストリートファイタースタイルもV3Rの特徴。右側を電動過給機の吸入口としたダクトは左右非対称。


W:まずは…ということは、他にも何か可能性がある?
:期待していただいていいかなと思います。
W:ストリートファイターでV3+電動過給機を楽しませてもらった、その先にも期待させていただける、ってことですね?
:色々とある予定で企画しようと思っています。
W:色々ですか! 先ほどから散々、V3と電動過給機はセットと伺っているのに恐縮ですが、せっかくの新エンジンですから“自然吸気のV3”なんていうのも面白そうだと思うんです。
:そういうものも考えていきたいと思っています。実際に過給機を外した車両に乗ったこともありますが、それはそれで楽しい車両になります。

未曾有の加速をもたらす過給エンジンもいいが、V3の鼓動感を楽しむ「NA仕様」も、それはそれで楽しそう!(写真はホンダの公式PVより)。


W:おお、そんなテスト車が実在するんですね!  過給機バージョンはもちろん非常に楽しみなのですが、価格的にはハイエンドになるのかなと。
:おそらくそうなると思います。
W:だから、ホンダさんが心血を注いだ軽量スリムなV3パッケージを、もっと広い層が楽しめるバージョンも面白いんじゃないかと思うんです。
:検討してみようかなと思います。
W:楽しみの幅を広げるためにも、是非お願いします。
楠:少し話が逸れますが、新しいコンセプトや技術開発を行うには、数多くの課題解決が必要で、新たなリーダーを生んだり、技術者を育てるといった意味でも重要なんです。ですので、こうした挑戦や取り組みは今後も引き続き仕掛けていきたいと考えています。
W:おおお、さらに期待してしまうお言葉ですね!
楠:はい。引き続きホンダの大型モデルにご期待ください。

2024年のエンジン発表時は、フォークピッチとフレーム幅がほぼ同等という無類のスリムさもPRされていた。この細身を生かしたバリエーションモデルなども期待したい!


W:承知しました。話がとっちらかってばかりで恐縮ですが、ストリートファイターということは、V3Rはやはり欧州市場を狙っている?
:欧州メインで考えていますが、アメリカや日本、その他の先進国にも出していくつもりです。
W:では今年のEICMAあたりで、より進化したV3Rを見られることを期待しています。
:進化したところをお見せできるように頑張ります。
W:楽しみにしています。ありがとうございました!

どんな走りを見せるのか…期待が高まる!

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コメント一覧
  1. 匿名 より:

    メカ的にはすごくチャレンジングだと思うが、いかんせんデザインがダサすぎる。

    なんでとうに旬を過ぎたストファイ系のデザイントレンドの中に自ら埋没していくのよ? これから世に送り出そうってモデルなのに。

    『これがホンダの提案する、次世代のネイキッド・スタンダードだ』ぐらいの意気込みの、斬新でありながら多くの人の心を掴める秀逸な造形で出せなかったのかね?

    まあ昔はともかく、今のホンダは二輪も四輪もデザイン力のなさでおなじみだからな…。

  2. 匿名 より:

    >>いかんせんデザインがダサすぎる
    >>なんでとうに旬を過ぎたストファイ系のデザイントレンド

    ドカやKTM、トライアンフにも指摘されてはいかがですか?
    欧州車はずっとストファイ推しですよ。

  3. 匿名 より:

    このコンセプトバイクのデザインがダサすぎるという点については100%同意します。
    が、今のホンダのデザイン力のなさ?それは単にあなたの好みから外れてるだけでは?
    かっこいいホンダの現行の車、バイクはまだまだたくさんありますよ?

  4. 匿名 より:

    直四で欲しかったなぁ。
    でもまぁAfrica Twinは旧型CB-1300SFよりトルク感落ちるからそこ補う点ではこっちが良かったのかな?

  5. 匿名 より:

    もうその流れの末期に入っているってことがわかりませんか?

  6. 匿名 より:

    たとえば?

    まさかSuper OneとかCBとか言わないですよね?

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