市販車という枠を飛び越え、限られた顧客に向けたバイクを作り続ける「ブラフシューペリア」。100年以上前のブランド創業時からそのスタンスは変わらず、約80年の時を超えて再出発する際も、その“らしさ”を貫いている。バイクは全てオーダーメイド。同じバイクは2つと存在せず、アートのような仕上がりでオーナーの元に届く。日本に導入されたばかりの「ロレンス」と「S.S.100」に試乗してきた。

⚫︎写真:長谷川徹

時空を超えて再構築された「バイク界のロールス・ロイス」

時間を忘れ、いつまでも眺めていたくなる。そして走り出した瞬間、その価値を全身で理解する。理由もなく機能美に魅せられ、美しさに心から感動する。それがブラフシューペリアだ。ブラフシューペリアは1919年にジョージ・ブラフ氏がイギリスで創業したブランド。ジョージ氏の父もまたバイクメーカーを経営していたが、「より良い/至高」という意味のシューペリアの名を持つメーカーを誕生させたのだ。

1919年からその歴史に一度幕を閉じる1940年までの間に3000台のバイクを生産し、1台1台がオーダーメイドで作られていた。その卓越した品質と性能から「バイク界のロールス・ロイス」と称され、ロールス・ロイス社もこの呼称を公認していたという。

新生ブラフシューペリアはフランスのトゥールズという航空宇宙産業の街で現代に甦った。クラシックバイク愛好家だったマーク・アップハム氏が2008年に商標権を獲得。その後、現ファクトリーのオーナーであるボクサーデザインのティエリー・アンリエット氏にデザインを依頼。2013年のミラノショーで997cc Vツインエンジンを搭載するS.S.100のプロトタイプを発表し、翌年には3種のプレプロダクションモデルを展示。全車オーダーメイドという量産から最も遠い体制を貫きながら、年間100台ほどを生産しながら現代に生き続けている。

S.S.100/1392万6000円(世界限定300台)
100年以上前に、時速100マイルを達成したスーパースポーツが由来。ブラフシューペリア再出発の際に最初に作られたモデルである。

Lawrence/1392万6000円(世界限定188台)
英国の軍人にして文学者、冒険家としても知られる「アラビアのロレンス」ことT.E.ロレンス。ブラフシューペリアを愛した彼への深い敬意から生まれた。

すでにブランドの復興から10年以上が経過。その間に日本上陸の噂は何度もあったが、簡単に輸入することが叶わないのがブラフシューペリアである。2つとして同じものはない芸術品のような理想のバイクを手に入れるには、本国、そして選ばれたカスタマーとの緻密なコミュニケーションが必要となるからだ。

そこでティエリー氏が注目したのがモトコルセだった。代表の近藤伸氏は、そのオファーを受けて渡仏。本社の設備、バイクの美しいフィニッシュ、何よりもティエリー氏のブランドに対する敬意、探究心に感動した。さらに実際に試乗することで、ブラフシューペリアは単なる工業製品ではなく、一つの『文化』としてバイクを構築しているというリアルな空気感に触れた。同時に近藤氏はブラフシューペリアのあるバイクライフのワクワク感をユーザーと分かち合いたいと思った。ティエリー氏と仕事をしてみたいと思った。

ブラフシューペリアモーターサイクルスジャパン代表の近藤伸氏。ブラフシューペリアは、モトコルセが創業以来掲げてきた、「世界の一流品を自信を持って広める」という理念に完全に一致した。

フルオーダーメイドの車両価格は1392万6000円

目の前にあるS.S.100とロレンスは、2025年10月1日よりブラフシューペリアモーターサイクルスジャパンを主宰するモトコルセが導入した初入荷のマシン。車両価格はどちらも1392万6000円。これはオーダーメイド込みの価格だ。細部に宿る精度と思想に触れるほど、その価格が結果としてそこにあることに気付かされる。

S.S.100は往年のスタイルを現代に蘇らせ、ロレンスはモダン。シャシーやエンジンなどのプラットホームは共通だが、デザインと各部のフィニッシュでその世界観の示し方はまるで異なる。1台1台デザインを昇華させ、それぞれを至高の存在へと引き上げている。これほど作り手の意志が明確なメーカーは他にない。

往年の雰囲気を大切にしたスタイリングを持つS.S.100。低く構える姿勢はまさにスーパースポーツ。前後ホイールは18インチを採用する。

大らかなネイキッドスタイルが与えられたロレンス。シート高も低く馴染みやすい。フロント19インチ、リヤ17インチを採用する。

S.S.100から100年前のスーパースポーツの息吹を知る

S.S.100が初めて登場したのは1924年。100年以上も前にスーパースポーツの名を与え、納車前に時速100マイル(時速160km)を達成したバイクだけを世に送り出した。そして新たな技術と共に伝統を継承し、再び現代へと甦った。

88度挟角の997cc DOHC4バルブのVツインエンジンは、シリンダーヘッド以外は全てアルミ削り出し。エンジン上部にチタンプレートのメインフレームがあり、そこにフィオール式のフロントまわりを懸架。スイングアームはエンジンから生え、リヤサスペンションはスイングアーム内で完結する。見た目はクラシカルだが、そのテクノロジーは最新鋭だ。

前輪がステアする動きに追従するようにライダーの重心を移動。すると軽快に曲がり始める。

オールブラック仕上げのエンジン。爆発間隔は272度→448度(クランク2回転)の不等間隔。挟角を90度でなく88度にしたのはエンジンの前後長を短くするため。

S.S.らしいロングタンク&低いハンドルが与えられ、前後ホイールは18インチを装着。跨ると車格は大柄で身長165cmの筆者にはポジションも足つきも楽ではない。ちょっと手強そうだな、そんな印象を受ける。セルを押すとエンジンは一瞬で目覚め、心地よいアイドリングを刻む。ブリッピングすると硬質なトルク感を伴い弾けるように回転を上げる。レスポンスは近代的で、テイストだけで語るエンジンでないことがわかる。

全く力を必要としないクラッチを握り、ギヤを1速へ。その節度は高い。スロットルを開け、心地よいパルス感をリズムに矢継ぎ早にシフトアップ。市街地ではその本質の一部しか見ることができない。しかし、速度を上げるとライダーの操作と前輪がステアする感覚が釣り合い、スーパースポーツらしいフィーリングが訪れるのである。

フロントまわりはフィオール式。S.S.100のフォークはアルミ鋳造製となる。

エンジンを懸架するのはチタン削り出しのコンパクトなフレーム。

小径ディスクを4枚組み合わせるフロントブレーキ。アルミ削り出しホイールのデザインもクラシカル。

燃料タンクはアルミ鋳造製。往年のS.S.100は金属バンドでタンクをマウント。その雰囲気を現代に再現する。

高級ナッパレザーを使ったシート。シートのステッチの入り方やレザーのカラーやアルカンターラもオーダー可能だ。

ユニークなのは小径ディスクを4枚装備するフロントブレーキ。このスタイルに大径ディスクは似合わないという観点からドラムブレーキを連想するスタイルのシステムを採用。そのタッチは柔らかく、扱いやすい。

そしてS.S.100から降り、眺める。何度見ても効率を度外視した芸術性の高さに圧倒される。各ディテールを好みのフィニッシュで仕上げれば、その悦びはさらなる高みに到達するに違いない。

どんな景色の中でもスタイリングが際立つのは、研ぎ澄まされたデザインとクラフトマンシップが創り出すこだわりの仕上がりだ。

見た目よりも低くて遠いハンドル。きちんと下半身ホールドして、上半身はリラックスして乗りこなしたい、まさにスーパースポーツなのだ。

スイングアームはエンジンにマウント。リヤサスはスイングアーム内で完結する。

モトコルセが手を入れた唯一とも言えるディテール。ブレーキのエア抜きバンジョーが位置的に美しくないという理由から、オリジナルのチタン製バンジョーボルトに変更した。

いよいよブラフシューペリアのS.S.100が日本を走り出す。

身長165cmの筆者(小川勤)のポジション。全長2180mm、ホイールベースは1540mmあり、車格はそれなりに大柄だ。

身長165cmの筆者(小川勤)の足つき。シート高820mmのため、両足をきちんと着くのは困難。片足をしっかりついて支えたい。

日本上陸第一号車のS.S.100。これをきっかけにブラフシューペリアとS.S100に秘められた物語を調べていくのも面白い。

100年前の物語を現代に走らせるロレンス

もう一台は、ロレンス。その車名はトーマス・エドワード・ロレンス氏(以下、T.E.ロレンス)が由来となる。T.E.ロレンス氏は現在、注視されている中東情勢の源流であるパレスチナ紛争に関わった英国の将校。文学者、冒険家としても知られ、生涯で7台もブラフシューペリアを乗り継いだ愛好家だった。創業者のジョージ氏とも親交が深く、しかし、8台目をオーダー中に自身のブラフシューペリアを運転中に事故で亡くなった。またブランドが終焉した後に、1962年に公開された映画『アラビアのロレンス』で再びブラフシューペリアに光を当てたことでも知られている。

S.S.100と異なり、ロレンスのポジションはとても穏やか。幅が広く先端がわずかに垂れたアップハンドルに手を伸ばすと、自然とリラックスできるし、足つきも良好だ。走り出すと驚きの出会いが生み出す緊張や、高価な車両価格からのプレッシャーを、馴染みやすいハンドリングが簡単に解いてくれる。

ロレンスは、小柄な筆者(小川勤)でもとても自然なポジション&ハンドリングを約束。

このアルミ削り出しの質感は、量産車ではなしえない物。車体デザインにおいてエンジンの造形がいかに大切かもわかる。88度挟角の997ccDOHC 4バルブVツインは、102bhp/9000rpm、87Nm/7300rpmを発揮。

ヘッドは鋳物だが、クランクケースと一体のシリンダーとヘッドカバーはアルミ削り出し。

オイルパンもアルミ削り出し。まさにMotoGPマシンのようなディテール。フランスの自社工場には様々なマシニングがあるという。

チタンフレームの左右にはエンジンとマシンを組み立てたスタッフのサインが入る。

チタンフレームにはモトコルセが正規で輸入したことを示すプレートを装着する。

フィオール式のフロントまわりは、操舵系とサスペンションを切り離した機構で、走行中、特にブレーキングでもキャスター&トレールの数値が変化しにくいメリットがある。これが乗り心地のよさを生み、例えばタンデム時はパッセンジャーにも絶大の安心感をもたらしてくれる。

リヤサスペンションはスイングアーム内で完結する仕組み。車体設計の自由度を上げ、スイングアームはエンジンに直接マウントすることで長さを稼いでいる。

独自機構が生み出す車体は、市街地で優しい乗り味を見せる一方で、速度域を上げても高い直進安定性を披露。ライダーを優雅な気持ちにさせる。速度を上げるとエンジンの印象も変わる。低中速域では硬質なパルス感を伴いながらの加速を官能的に味わえたが、回すと速さも披露。鼓動、振動、音、味わいその全てを調律しながらスピードの質を変貌させていくのだ。

ブランド再出発から10年以上。その時間を経て、ブラフシューペリアは“完成した思想”として日本に上陸した。

語りたいことはたくさんある。だからこそ、多くの方に実車を見て欲しい。言葉や写真で理解したつもりでも、実車の前に立った瞬間、その印象は簡単に覆されるからだ。

フロントまわりはフィオール式。チタンとアルミが共演する。

フロントアームの裏側に注目。細部のディテールも楽しみたい。

スイングアームは巨大なアルミブロックから削りだされる。

金属パーツの切削にとどまらず、溶接、研磨、塗装、革細工など、すべてが職人の手を経て完成する。それが現代におけるブラフシューペリアの美学だ。側にいるだけで、その機能美に魅了され、没頭する。

先端の垂れたワイドなハンドル。コクピットのフィニッシュもとても美しい。

290km/hまで刻まれるスピードメーター。デジタル部分にタコメーターや水温を表示。

カウリングの有無はオーダー時に選択可能。ポジションランプを兼ねたウインカーも洒落ている。

見るほどに切削へのこだわりを感じることのできるディテール。

S.S.100と異なり、バイクが先行しすぎることがないのがロレンスだ。扱いやすさと刺激が共存する。

身長165cmの筆者(小川勤)のポジション。全長は2240mm、ホイールベースは1540mm。車格は大柄だが、フィット感はとても高い。

身長165cmの筆者(小川勤)の足つき。シート高は810mmだが、両足をつま先できちんと着くことができる。

日本におけるブラフシューペリアの物語は始まったばかり。今後、どのようなバイクが上陸するのか楽しみに待ちたい。

ブラフシューペリア S.S.100・主要諸元

・全長×全幅×全高:2180×760×未公表
・軸間距離:1540mm
・シート高:820mm
・重量:186kg(乾燥)
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブV型2気筒 997cc
・最高出力:102bhp(75kW)/9600rpm
・最大トルク:87Nm/7300rpm
・燃料タンク容量:未公表
・変速機形式:6速
・ブレーキ形式(F/R):φ320mmディスク×4(4ピストンキャリパー×2)/φ230mmディスク×1(2ピストンキャリパー×1)
・タイヤサイズ(F/R):120/70-18/160/60-18
・販売価格:13,926,000円

ブラフシューペリア ロレンス 主要諸元

・全長×全幅:2,240×920mm(全高未発表)
・軸間距離:1,540mm
・シート高:810mm
・重量:200kg(乾燥)
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブV型2気筒 997cc
・最高出力:75kW(102hp)/9,600rpm
・最大トルク:87Nm/7,300rpm
・燃料タンク容量:未発表
・変速機形式:6段リターン
・ブレーキ形式(F/R):320mmダブルディスク / 230mmシングルディスク
・タイヤサイズ(F/R):120/70-19 / 200/55-17
・販売価格:13,926,000円

<Brough Superior Motorcycles>
https://brough-superior-motorcycles.jp/

画像ギャラリー (38枚)

この記事にいいねする


コメント一覧
  1. 匿名 より:

    1000万オーバーでエンジンも新規に起こすなら、ヤップのそれみたく狭角のVツインにすればよかったのに。

コメントをもっと見る
コメントを残す