2024年のEICMAで発表された、ホンダのストリートファイターモデル「CB1000ホーネット」。そのコンポーネントを使った「CB1000F」が日本でも発表されたばかりだが、EICMA2025においてさらなるバリエーションとしてスポーツツアラーモデル「CB1000GT」が発表された。
目次
スポーツツアラーとしてパーフェクトな装備を持つ「CB1000GT」
ストリートファイター「CB1000ホーネット」をベースに開発されたこの「CB1000GT」は、ツーリングバイクの安定性とネイキッドスポーツバイクのハンドリング性能を兼ね備えたスポーツツアラーだ。
「CB1000GT」はホンダのツーリングモデルラインナップを拡充するモデルであり、長距離走行を快適にこなせるだけではなく、高速道路を降りてワインディングロードに入れば刺激的な走りも楽しめる。そして、5段階調整式スクリーン、リアパニアケース、クルーズコントロール、グリップヒーター、ナックルガード、センタースタンド、クイックシフターなど、現代のツーリングバイクに必要と思われる装備はほぼ標準装備され、装備が充実したハイテクモーターサイクルを求めるライダーのために開発されている。
片手で操作できる5段階調整式のスクリーンは合計81mmの範囲で調整可能とされ、標準装備される左37Lと右28Lという容量を持つの脱着式パニアケースは十分な積載容量を提供。標準装備のグリップヒーターは一年を通して快適なライディングをサポートしてくれる。
「CB1000GT」はホンダのイタリアと日本のデザインスタジオが共同開発したボディワークを纏う。CFD(計算流体力学)を用いて開発されたフロントフェアリングは、あらゆるピッチ/ロール/ヨーの走行状況において、ニュートラルなハンドリング特性を維持しながら最大限の風防効果を発揮。ライダーの保護性能やハンドリング性能を損なうことなく、洗練されたフォルムを実現している。カラーバリエーションは、「グランプリレッド」、「パールディープマッドグレー」、「グラファイトブラック」の3色だ。
ホーネットベースの車体に電子制御サスペンションを装備
車体を見ると、フレームはホーネットのスチール製ダイヤモンドフレームをベースにはしているものの、サブフレームは延長され、サポートクロスパイプと最適化されたクロスプレートを備えることでGTモデルとしての機能を十分に発揮できるようスペースを確保している。全体の剛性は慎重にバランスが取られ、重量増加は最小限に抑えられ、鋳造アルミニウム製プロリンクスイングアームの長さは619mmから635mmに延長される。このスイングアームの変更によって、フル積載時の高速安定性を向上させるとともに、リアショックマウントの設計により振動を低減している。
キャスター角は25°とホーネットと同じだが、トレール量はホーネットの98mmから106.3mmに、ホイールベースは1455mmから1465mmに変更されている。さらに最低地上高は133mmで、ホーネットより3mm高く設定されている。前後重量配分はホーネットのフロント51.2%/リア48.8%から、フロント51%/リア49%と変更。車両重量229kgという軽量な車体、そしてアップライトなライディングポジションと相まって軽快なステアリングフィールを実現。シートの厚みはホーネットと比較してライダー側で15mm、パッセンジャー側で39.5mm厚くすることで快適性を向上させつつ、シート高は825mmに抑えられている。
サスペンションにはショーワ製の電子制御サスペンション「Showa-EERA(エレクトロニカリー・イクイップド・ライド・アジャストメント)」と、日本精機製の6軸慣性計測ユニット(IMU)が標準装備されており、幅広い走行条件下で最適なコンプレッション/リバウンドダンピングレスポンスを提供。このシステムはECUからの車速情報、IMUからの車体姿勢情報、ストロークセンサーからのフォークの挙動情報という3つの情報に基づいて、ストローク速度に応じて最適なダンピング力を自動的に調整してくれる。
SCU(サスペンションコントロールユニット)は、これらの計算結果に基づいてわずか15ミリ秒(0.015秒)以内にダンピング力を調整。このシステムは車速に応じてダンピング調整をプログラムすることが可能で、例えば高速走行時にはより硬めのダンピングに設定することができる。ライダーはボタン一つで、街乗りでの快適性、スポーティな走行性能、高速ツーリング時の安定性、雨天時の正確なレスポンスなど、様々な走行状況に最適なサスペンション設定を選択できる。「STANDARD」は、標準のショーワ製サスペンション設定に相当する、幅広い状況に対応するオールラウンドモードとなる。「SPORT」は、よりアグレッシブなライディングのために高いサスペンション安定性を提供。「RAIN」は、濡れた路面でのサスペンションの反応を滑らかかつ穏やかにするために、ダンピングの反応を柔らかく設定する。「TOUR」は、高速走行時や二人乗り、荷物を満載したツーリング時に、最高のブレーキング性能とコーナリング安定性、そして最も硬めのダンピングを提供する。さらに、「USER」モードでは、ダンピングとプリロードの設定を自由に選択できるようになっている。また、「Showa-EERA」は急ブレーキ時の過剰なノーズダイブも抑制し、リアのサスペンションストロークはホーネットの140mmから144mmへと延長。リアサスペンションのスプリングプリロード走行中でもを24段階で細かく調整でき、フロントの41mm径の倒立フォークは手動でスプリングプリロード調整可能となっている。
フロントブレーキには、ニッシン製ラジアルマウント式4ピストンキャリパー+310mm径フローティングディスクをダブルで装着し、IMUによって制御されるコーナリングABSがライダーにさらなる安心感をもたらす。リアブレーキには、ニッシン製シングルピストンキャリパーと焼結パッドを備えた240mm径ディスクを採用し、タンデム走行時や荷物を積載した状態でも優れた制動性能を発揮する。
パワフルさと扱いやすさを兼ね備えたパワーユニット
「CB1000GT」に搭載されるパワーユニットは、「CB1000ホーネット」と同じく2017年型の「CBR1000RR Fireblade」ベースとしたもの。最高出力110.1kW(149.7PS)/11000rpm、最大トルク102N・m/8750rpmとされ、「CB1000ホーネット」が最高出力112kW(152PS)/11000rpm、最大トルク104N・m(10.6kgm)/9000rpmなので、若干ではあるが中低速向けにチューニングされている。
GTへの搭載に合わせて専用のPGM-FIとTBW(スロットル・バイ・ワイヤ)セッティングが施され、長距離走行性能を重視したGTのコンセプトに基づいて、スロットル開度初期におけるパワーデリバリーをスムーズにし、長距離走行時のライダーとパッセンジャーの疲労軽減を図っている。
2速から5速までのギア比はエンジンの駆動特性に合わせて加速性能を最適化し、6速は高速道路での快適なクルージングを実現する。標準装備となるアシスト&スリッパークラッチは、レバー操作荷重を軽減し、ハードなブレーキングや急激なシフトダウン時のリアホイールのホッピングを抑制してくれる。また、クイックシフターも標準装備されており、オートブリップ機能付きでクラッチ操作なしでスムーズなシフトアップ/ダウンが可能だ。
電子制御は最新のものが投入され、IMU(6軸慣性計測ユニット)による全ライディングシステムの制御、4つのプリセットライディングモードに加えてユーザーカスタマイズオプションを搭載するTBW(スロットル・バイ・ワイヤ)制御、エンジンパワー(EP)とエンジンブレーキ(EB)の3段階調整、HSTC(ホンダセレクタブルトルクコントロール)の3段階調整など高いレベルで制御・調整される。
TBWは、エンジンパワー、エンジンブレーキ、HSTCの設定をプリセットした4つのライディングモードに加え、ライダーが好みに合わせて各設定を自由に組み合わせられるユーザーが設定できるオプションにより、ライダーに最大限のエンジンコントロールを提供。モード選択は左ハンドルバーのトグルスイッチとTFTスクリーンで行ない、サスペンションも選択したモードに応じて適切な減衰力を発揮するように調整される。「STANDARD」モードは、EP、HSTC、EBの各設定を中間値に設定。キャブレター搭載車のようなフィーリングと乗り味を再現するように設計されており、扱いやすい特性となる。「SPORT」モードは、EPを最大、EBとHSTCを最小に設定することで、スロットルレスポンスを向上させ、大型バイクならではの最高のパフォーマンスを発揮する。「RAIN」モードは、EPを最小に設定することでスロットルレスポンスを穏やかにし、EBは中間、HSTCは最大に設定。低速域でのパワーとトルクの伝達は、主に1速から3速に集中している。「TOUR」モードは、出力特性は「STANDARD」モードと同じとなるが、ダンピングフォースが速度に応じて変化。これは「TOUR」モードのみの特徴となっている。「USER」モードではライダーが各パラメーターの設定を自由に選択し、保存して後で使用することができるようになっている。
エンジンパワーとエンジンブレーキはそれぞれレベル1~3まであり、3が最大レベルとなる。また、HSTCも3段階のレベルがあり、各レベルの介入量はIMUからのリアルタイム入力(ヨー/ロール角と角速度)に基づいて最適化されている。HSTCもエンジンパワーとエンジンブレーキと同様に、レベル3が最も高い介入レベルとなる。HSTC作動中はメーターパネルにインジケーターが表示されるようになっており、完全にオフにすることも可能だ。
5インチTFTスクリーンとフルLEDライトを装備
「CB1000GT」のコクピットの中心に装着される5インチフルカラーTFTスクリーンは、光学ボンディング技術を採用することで明るい日差しの中での視認性を向上。カバーガラスとTFTスクリーンの間の隙間を樹脂で密閉することで、反射を低減し、バックライトの透過率を高めている。「バー」、「サークル」、「シンプル」といった表示パターンを選択でき、「Honda RoadSync」によるiOS/Androidスマートフォン接続にも対応。この機能は、左側のハンドルバーにあるシンプルで使いやすいバックライト付き4方向トグルスイッチと組み合わせることで、画面上でターンバイターン方式のナビゲーションを操作したり、Bluetooth対応ヘルメットヘッドセットを介してライダーが通話したり音楽を聴いたりすることも可能だ。また、スマートフォンなどの充電用にスクリーンの右下にはUSB Type-Cソケットが装備され、キーレスシステムも採用されている。
ライト類はフルLEDとされ、ウインカーは車線変更やコーナリング後に自動的に消灯する。また、ESS(緊急停止信号)機能も搭載されており、急ブレーキ時にはハザードランプが点滅して、他の道路利用者に急停車していることを警告するようになっている。
ヨーロッパ向けには「コンフォート」、「スポーツ」、「アーバン」という3種類のアクセサリーパックが用意される。「コンフォート」パックはGTのツーリング性能をさらに高めるために開発され、ハイスクリーン、コンフォートメインシートとピリオンシート、アッパー&ロアディフレクター、そしてフォグライトが含まれる。「スポーツ」パックはスポーティなルックスを与えるもので、アンダーカウル、タンクサイドデカール、エンジンガード、ホイールストライプが含まれる。「アーバン」パックは日常使いや荷物積載性を最大限に高めるアーバンパックには、50Lトップボックス、リアキャリア、そしてアラームシステムが含まれる。これらのパックに含まれるアクセサリー類は個別に購入することも可能となっており、アクラポヴィッチ製スリップオンマフラーや、Gilles Tooling社との提携によるビレットパーツコレクションなども用意されている。
充実した装備とホーネット譲りのパフォーマンス、そしてロングランをこなすこの「CB1000GT」は、先行するライバルたちを脅かす存在となることは間違いない。日本への導入については現在のところ未定だが、この美しく速いスポーツツアラーを望む声は少なく無いはず。早期の導入を期待したいところだ。
CB1000GT主要諸元(2026)
・全長×全幅×全高:2135×930×1290mm
・ホイールベース:1465mm
・シート高:825mm
・車両重量:229kg
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒1000cc
・最高出力:110.1kW(149.7PS)/11000rpm
・最大トルク:102N・m/8750rpm
・変速機:6段リターン
・燃料タンク容量:21L
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70-17、R=180/55-17
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