ジャパンモビリティショー2025で、ホンダが完全電動バイクのデザインスタディ「EVアウトライヤーコンセプト」を世界初公開。前後ホイールに搭載したモーターで2輪駆動を実現し、超絶トルクを発生。ホンダの現行モデルよりシート高が低く、独創的なデザインも魅力的だ。なんと2030年以降の発売を予定しているという、このモデルの詳細を開発者に聞いた!

枠を超えた存在として、2030年の市販化が目標!

10月29日に開幕したジャパンモビリティショー2025でホンダがワールドプレミアとして披露した「EV OUTLIER Concept(アウトライヤーコンセプト)」。未来的な流線形デザインに超ロング&ローの車体、そして前後にインホイールモーターを採用した2輪駆動(2WD)が特徴だ。

ホンダが内燃機関で培った強みを活かしつつ、電動だからこそ可能な新価値を表現。車名の「OUTLIER」は“逸脱した存在”の意で、その名のとおり固定観念に囚われずに「驚きと感動をどう届けるか」という問いに挑むモデルとしている。

これを具現化するキーワードとして、Low「景色を見上げる爽快な視界」、Gliding「滑空するような乗り味」、Ecstasy「異次元加速フィール」を掲げる。

EV OUTLIER Concept(アウトライヤーコンセプト)。滑らかな造形の半透明カバーに覆われた、低く長いボディが特徴。フロントを覆う流線形デザインといい、やはり“金田バイク”を思わせる!?

取材対応していただいた横山悠一さん(本田技術研究所 デザイナー 写真右)、堤 裕也さん(本田技術研究所 モデラー)。横山さんはアウトライヤーのデザイン開発責任者だ。

 

ホンダは、2024年のミラノショー(EICMA)でEVアーバンコンセプトとEVファンコンセプトという2つの電動モデルを発表したが、今回のEVアウトライヤーコンセプトは「さらに将来を見据えたモデルを展開するために発表しました」という。

このモデルはなんと「2030年以降の市販化を目指している」とのこと。では、このまま発売される?

「そのまま量産化するわけではありません。このモデルで培ったアイデアや技術を量産車に落とし込んでいきたいと考えています。デザインに関しても、まだ電動黎明期ですので、様々な可能性がある中の1つと捉えていただければ」

デザインは何をイメージしているのだろうか?

「既成概念や枠を超えた存在を目指しています。走りについても今までと違うものを目指しました。そのために、まずシートをとにかく低くしています」

一般的なEVはシート下にモーターを設置するが、アウトライヤーは前後ホイールにモーターを搭載。そのためレイアウトの自由度が高く、内燃機関のバイクよりシート高を圧倒的に低くでき、ダイナミックなプロポーションが可能になるという。

シート高の数値は「言えません」とのことだが、レブル250の690mmよりも低く、現行ホンダ車で最も低シート高という。

「まずはレイアウトありきで製作していきました。やっぱり自分たちでまたがってみて、“今までと違う”ことを体感できることを狙っています」。

正面から見ると非常にスリム。これもEVならではのメリットだ。

スタイリングコンセプトは“不常識美”だけに、とにかく斬新。通常エンジンが収まる部分はバッテリーと制御系を分けたデザインとしている(後述)。

Hondaロゴがある黒い部分がバッテリー。その下は制御系や様々な電装系だ。バッテリーと制御系を分けたデザインが特徴的。前輪後方にあるのはバッテリーを冷やすラジエターとのこと。

2024年のEICMAで発表されたEVアーバンコンセプト(写真左)が今回も展示された。こちらはスクーター風のデザインだ。

体がシートにのめり込む怒涛のトルク、走りも規格外だッ!

走りに関しても“今までと違う”ものを狙ったと話す。

「EVと2輪駆動ならではの加速で、とにかくトルクがすごいです。バックレストに背中を当てて、加速をしっかり受け止める必要があります。過去のNM4でも背中をバックレスト当てながら曲がるところが大きな特徴でもありますので、そういったところも取り込みながらやっております」。

2014年に登場したNM4も未来的なデザインで話題に。745cc並列ツインとDCTを搭載し、加速を楽しめるクルーザーだった。

 

前後インホイールモーターを取り入れたのは「動力源が単純に内燃機関から電動に置き換わっただけでは得られない、新しい乗車体験をお客様にしていただきたいのが理由です。あえて通常のセオリーと異なる前後二輪駆動を取り入れることで、内燃機関とも、市販されてる電動車とも違う乗車体験を狙っています」という。

それにしても、二輪駆動できちんとコーナリングできるのだろうか?

「制御が入るので自然に走れます。これができるのはやっぱりホンダが今まで内燃機関で培ってきた強みです。誰が乗っても普通に走れるのは、ホンダの特徴だと思いますので、そういった得意技を活かしながら、今後の将来に向けてやっていきたいです」。

クラスとしては「大型ぐらいをイメージ」。なお電子制御サスを採用するが「電動モデルとの親和性は非常に高い」という。

バケットシートが強烈な加速を受け止める。腕を伸ばし、背中を預けるリラックスしたライポジになるだろう。

サスやディメンションにもホンダの財産が活きている

フロントサスはゴールドウイングでおなじみのダブルウィッシュボーン。リヤサスはリンク式の水平配置だ。さらにディメンションにもホンダが培ってきたものが活きているという。

「やっぱり今まで多くのバイクを作ってきているので、ディメンションに対する知見も活きています。“これ以上ホイールベースが伸びてしまうと二輪車として成り立たないレベルになっちゃうよね”といった知見はかなり入ったものになっています」

ゴールドウイングと同じぐらい?

「かなり長いことは間違いないです(笑)。ホンダの特徴は、どんなバイクでも普通に乗れるということ。こういった長くて低いモデルでもしっかり走らせられたり、二輪駆動でもしっかり走らせられるのが、ホンダの得意技の一つだと思います」。

フロントサスはゴールドウイングでも採用するダブルウィッシュボーン。4輪で普及している方式で、タイヤと車体をギリギリまで詰められ、フリクションも少ない。

フロントは斬新なリムオンディスク+ラジアルマウントキャリパーの組み合わせ。

ド迫力のリヤタイヤは「ドゥカティのディアベルと同じぐらい」(つまり240mm)。近未来を想定し、エアレスタイヤと中央のコンパウンドが異なるデザインとしている。

リヤショックは水平に寝かせたリンク式で、前後とも電子制御サスだ。

モチーフはグライダー、既に実走も可能か?

スタイリングコンセプトは“不常識美”。従来の価値観に囚われない、 挑戦的で革新的な美しさを表現した、とリリースにある。

「このモデルの特徴としてGlidingという言葉をキーワードとして入れています。“グライダーのように地表を滑らかに走る”ということなので、モチーフとしてグライダーをイメージしました。極力、空気抵抗少ないような滑らかなボディにするため、フロントタイヤからハンドルまで隠すデザインにしています」。

グライダーのように滑らかな表現に加え、通常のエンジンが収まる中央部にはメカニカルな表現を採用。「その対比によって新しい表現」を模索したそうだ。

ヘッドライトはウイングレットの部分に搭載。ステップとバックレストのパッドは調整式で、体に合わせてライディングポジションを変更できる。

シースルーの外装を多用している意図については「サステナブル素材で塗装レスとすることで環境負荷を考えています。既に市販モデルに採用しているDURABIO(デュラビオ)と同じ素材です。また、透けさせることで、メカニカルなフィーリングを出しながら滑らかなイメージを出しています」と話す。

「開発コンセプトも今までと違いますし、デザインとしても今までのクルーザーやスクーターといった枠に囚われないモデルにしたいという流れでやっています」と話すとおり、ホンダは電動モデルに新風を巻き起こそうとしている。実走可能かどうかはノーコメントだったが、しばしば乗り味について言及され、会場のPVに走行シーンもあったので、かなり現実的なモデルなのかもしれない。「2030年以降」の導入とのことだが、もっと早く2輪駆動の電動バイクを味わえる日が来る!?

フロントタイヤ周辺をカバーすることで往年のグランプリレーサーのようにクラシックな雰囲気も醸し出している。

ウイングレットの灯火器がヘッドライトとウインカーを兼ねることを想定。

フォワードコントロールを採用するが、「クルーザー」の枠組みではないとのこと。ステップ位置は調整できる。

フラットなハンドルに、超横長のメーターを組み合わせる。バッテリー容量やリーンアングルも表示可能。

通常の燃料タンク位置にも液晶パネルをセット。前後モーターのトルクやABSなど、ライディングモードの状態を示す。

 

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