英車と言えば「トライアンフ」「ノートン」「BSA」を思い浮かべる方が多いはず。しかし、英国バイク史を語るうえで忘れてはいけない存在が 「AJS」 と 「マチレス(Matchless)」 です。
今回は、この“兄弟ブランド”の歴史に触れつつ、AJSの旧車「モデル16MS」をご紹介します。

AJS モデル16MS(1959年式)

AJSとは?

AJSは1909年、イングランド・ウルヴァーハンプトンでスティーブンス兄弟によって創業されました。正式名称は「A. J. Stevens & Co. Ltd」。その頭文字がAJSの由来です。

精密工学を得意としたAJSは、1914年に自社設計エンジンを搭載したモデルでマン島TTレースに参戦。1914年・1920年のTTで優勝を果たし、レーシングブランドとしての地位を確立します。この“勝つために作る”精神こそ、AJSを象徴するDNAでした。

1909年にイングランド・ウルヴァーハンプトンで誕生したAJS(画像は公式WEBサイトより)

マチレスとは?

一方のマチレスは、AJSより10年早い1899年にロンドンでコリアー兄弟が創業。ブランド名「Matchless」は「無敵の・比類なき」という意味で、その名の通り高品質な車両を作り続けました。

1907年のマン島TTで初優勝。
戦前から戦後にかけては、ロードモデルや軍用車で英国陸軍にも供給されるなど、信頼性の高さが評価されました。
特に戦後登場した 「G3シリーズ」 は、軽量なサスペンション構造と堅牢さで多くのファンを獲得します。

1899年にロンドンで誕生したマチレス(画像は公式WEBサイトより)

兄弟ブランドとなったAJSとマチレス

1931年、経営難に陥ったAJSをマチレスの親会社が買収。
これを機に、両ブランドは AMC(Associated Motor Cycles) という企業グループの傘下で統合されます。

以後、AJSとマチレスはフレームやエンジンを共用しながらも、それぞれのブランドカラーを活かしたモデルを展開。
しかし1960年代、英国バイク産業全体の衰退とともにAMCも経営難に陥り、やがて両ブランドは姿を消します。

とはいえその後、AJSは小排気量モデルを中心にブランドが継続し、マチレスもネオクラシックブランドとして復活。
英国の情熱は今も生き続けています。

AJSの現行モデルは小排気量バイクが中心!日本でも人気になりつつある(画像はCadwell 125)

見た目はマチレスなAJS!モデル16MS

今回ご紹介するのは、まさにAJSとマチレスの関係性を象徴する一台。
外観はマチレスG3、しかし実はAJS「モデル16MS」なのです。
本車両のオーナーは今井さん。
15年ほど前に旧車ハーレー(アイアン)を手に入れ、そこからは旧車沼、いや旧車無限地獄にどっぷりハマったアラフォーのオシャレ男子だ。

本記事では、AJS購入のきっかけ、カスタムのポイント等についてインタビュー形式でご紹介しております。
是非、最後までお読みください!

Instagram「今井さん」
https://www.instagram.com/changimai

旧車無限地獄にどっぷりハマったオーナーの今井さん(向かって左側)と愛車のAJS

旧車地獄のきっかけとなったアイアン(ハーレー)
Photo by @usk.inokuma

購入のきっかけは?

『以前トライアンフの500ccを所有していたのですが、その軽快に回るエンジンフィーリングがとても気に入っていました。ただし…ぶん回して乗るのが楽しすぎて自制が効かず、このままでは免許と命が危険と感じていました笑
そんなタイミングでスピードバギー(神奈川県西部のバイクショップ)の岩田さんが知り合いの英車屋さん(静岡県掛川市のローリングス)からこの車両を引き上げられたことを知り…元々マチレス、AJS系のシングルモデルに興味があったこともあり、乗り換えを決めました。』

免許と命を守るための英断だったのですね笑

AJSへの乗り換え前に所有…ぶん回していたトライアンフ
Photo by @yuji_1wasaki

カスタムのポイントは?

『部品取りで手に入れたマチレスG80(1952年式、500cc)の腰上を使って350cc→500cc化。外装も移植して、50年代前半のマチレスの雰囲気にしています。
マチレスとAJSは親会社が同じで、ほぼ同一の車両にカラーリングとエンブレムを変えて別ブランドとして販売していたので大半の部品が共通。個人的にマチレスのロゴデザインの方が好みなので、マチレスの仕様に寄せました。』

なんと!騙されました!
過去、インスタグラムで投稿した際は…「マチレスG3」として紹介していたのですが…本当は「AJS」だったのですね笑

『あ、はい笑
このバイク、350ccでもそれなりに良く走るエンジンでしたが、500ccにしたことでパワーに余裕が出てより快適に乗れるようになりました。
シリンダー移植時にエンジンはフルオーバーホールしています。敢えてマイルドな設定で組んでもらったので、長距離を走っても疲れにくく、田舎道をのんびり走るのが最高に気持ち良いです。』

見た目は完全にマチレスなAJS!騙された…笑

部品取りで手に入れたマチレスG80(1952年式、500cc)の腰上を使って350cc→500cc化

スリムな見た目で軽快な走りをみせる

派手さは無いが旧車らしい佇まいがグッとくる

維持にあたって工夫している点は?

『まず、自分のペースで走ることを意識しています。他の英車ツインモデルやハーレー等と走る時は無理に付いて行かず、スピードが必要なツーリングではアイアンに出番を譲ります。』

いやほんと…無理な走りをして良いことなんてないですよね!

『オーバーホールと膿出しが終わった現在では大きなトラブルはなく快調に走っているので苦労は少ないです。強いて言えば日本国内で部品調達が出来ないので英国からの取り寄せに時間と費用がかかるところでしょうか。それでも大抵の部品が入手可能なのはありがたいです。』

1950年代のバイクなのに…部品調達に困らないのは驚き!英車文化の底力を感じます。

1960年代以前の旧車に多い、メーター一体型ヘッドライトがそそる

極めてシンプルながら風情を感じるハンドル周り

排気量は500ccあるとは言え、無理してスピードを出さずに走るのが維持のコツ

部品調達に困らないそう!英車文化の底力ですね

クールで物静かなオシャレ男子の本性は…

同じ神奈川県内に住んでいることもあるのか…各種イベントでお会いする事が多い今井さん。
一見、クールで物静かなオシャレビンテージ好き男子だが、バイクの話題になると話がとまらない!笑
そして、「え?バイク屋さんですか?」と思うほど博識で、旧車素人の私にとっては勉強になり面白い!
今井さん!また一緒に走りましょ~

Instagram「みんなの単気筒」
https://www.instagram.com/minnano_tankito

ヒラヒラと軽快に走るAJS!また一緒に走りましょう!

画像ギャラリー (16枚)

この記事にいいねする


コメントを残す