写真:高島秀吉

ド派手な純正ボバー2台で都内を散策

10月の肌寒い闇のなかを、夜明けに向かって走り始める。革ジャンの隙間から入る乾いた風が心地よい。東京では112日ぶりに最高気温が25度を下回ったという報道から数日が経過していた。僕は季節の変わり目を感じやすい、この時間にバイクを走らせるのが好きだ。待ち合わせは5時30分だが、この風に包まれたくて少し早めに出発した。

眠っている東京はツーリングルートとして成立し、早起きさえすれば都内は簡単に独占できる。相棒はロイヤルエンフィールドのゴアンクラシック350。静かな街に心地よい空冷単気筒サウンドが鳴る。「タッタッタッタッ」と良いリズムでアイドリングを刻み、スロットルを開けると「ダダダダッ」と歯切れ良く空気を震わせる。空冷エンジンも夏の余韻が残る秋風を浴びて嬉しそうだ。

実は30年以上のバイク人生において、こんなにも派手なバイクに乗るのは初めて。それも暗闇に出発した一つの理由でもある。51歳の筆者(小川勤)に、『ド派手なボバー』は、なんだか照れくさい。

待ち合わせの下北沢に到着。昨晩の喧騒の残り香はあるものの、街は眠っている。眠りを遮るように、始発待ちと思われる酔った若者たちが時折叫ぶ。暗闇が濃紺に変わり、徐々に明るくなってくると同時にゴアンクラシック350の存在感が際立っていく。今回、僕が借り出したカラー(トリップティール)は、万華鏡を覗いた時のような煌びやかで自由な世界を表現したカラー。浮世離れした色だと思ったが、早朝の下北沢には思いの外、溶け込む。まあ、見慣れたのもあるかもしれない。

少しすると、もう一台のゴアンクラシック350の音が聞こえてきた。側から聞いていてもその音は心地よい。今日は都内を2台のゴアンクラシック350で散策するという目的で、僕はロイヤルエンフィールドジャパン公式アンバサダーのまぴこさんを誘った。いや、『ド派手なボバー』は僕のバイク人生において接点がなく、なんとなく僕とゴアンクラシック350の折り合いをつけるのが難しいと思って(それでも乗ってみたかった)彼女を頼ったというのが正しい。一人で乗るのも、やはり照れくさかったのだ。

まぴこさんが乗るカラーはレイブレッド。華を添えるとはこのことだと思った。よく似合う。「おはようございまーす!」。その声で気怠かった街が一瞬で目覚めたような気がした。

「早朝のシモキタどうですかね?」とカメラマンから今回のロケの提案があった。まぴこさんも賛成してくれ意気投合。あくまでも個人的なイメージだが、下北沢はファッションや音楽、劇団など、若者カルチャーを育み続けている街で、ダークな部分が少なく、開発が急ピッチで進みつつも昔の面影も残された街。なんとなくゴアンクラシック350のイメージにマッチした。

まぴこさんは、ロイヤルエンフィールドジャパンの公式アンバサダー。インスタグラムmapico_riderのフォロワーは8.9万人。YouTube mapico riderでは、ほのぼのとしたツーリング紀行を展開。バイク歴は約5年。初バイクは2008年式のロイヤルエンフィールドのブリット350。キック始動、右チェンジ逆シフトというコアなモデルを選び、そこからロイヤルエンフィールド一筋。

「バイクに出会って人生が変わりました。バイクに乗り、世界の広さ、道が繋がっていること、自分が景色を見て感動することも知りました。バイクで気持ちがポジティブになりましたね。女性の一人旅の楽しさ、バイク趣味のある人生の素晴らしさを知って欲しい。人生を変えてくれたロイヤルエンフィールドに感謝。恩返しもしたいです」と、まぴこさん。

筆者(小川勤)はこれまで数々のバイクに試乗してきたが、ゴアンクラシック350ほど派手なバイクはなかった。一人では表現方法が見つからず、まぴこさんを誘った。

世代も性別もキャリアも趣味趣向も異なる2人が一瞬で意気投合できるのがバイク趣味の良いところ。特にロイヤルエンフィールドのターゲットは幅広い。

撮影をしていると、まぴこさんに自然と犬が歩み寄る。早朝、猫や鳩はのんびりとしているが、散歩中の犬だけは足取りが軽く、1日の始まりにワクワクしているように見えた。

モノクロ写真の楽しみは、その時の色や空気感、会話を想像すること。ただし、被写体がゴアンクラシック350だと、その想像は簡単ではない。だけど楽しい。

歴史を紐解き、伝統を今に伝えるロイヤルエンフィールドのバイクづくり

ロイヤルエンフィールドの350シリーズとして5機種目となるゴアンクラシック350。ボバースタイルと他メーカーにない配色は、カスタムバイクのようだ。タイヤは市販唯一のホワイトリボン仕様で、1機種のためにタイヤまで新規製作するのがロイヤルエンフィールドのパワーだ。懸念(?)していたエイプハンガー(猿がぶら下がっているように見えることからこう呼ばれる)ハンドルは、実際に跨ったり走ったりすると違和感はなかった。

見た目重視のファッションバイクかとも思ったが、そこはロイヤルエンフィールド。走りの性能を妥協せずに作り込んでいる。

ゴアンは『ゴア生まれ』という意味。ゴアはインドのリゾート地で、昔は様々な国から若者が集まるヒッピーカルチャーで有名だった場所だ。ロイヤルエンフィールドは、現在もこの地でモトバースという大イベントを毎年開催している。ゴアンクラシック350は、2024年のモトバースで発表され、いよいよ日本でも発売となったモデルだ。

早朝の街を2台のゴアンクラシック350で走り出す。眩しい色彩は、時代を超越してヒッピーカルチャーを伝えているようにも見えるし、正統なバイク作りやそれに退屈している人々へのスパイスにも見える。大袈裟かもしれないけれど、まだまだバイクの可能性を感じさせてくれるし、ロイヤルエンフィールドのセンスの良さを改めて認識させてくれる。そこにまぴこさんのポジティブなエネルギーが加わるとパワーは倍増するようだった。

「初めてみた時に『このカラーリングはやばい』と思いました。ハンドルは疲れないかな?何を着て乗ろう?でも早く乗ってみたいと思いました」とまぴこさん。

ディテールの大きな特徴となっているホワイトリボンタイヤ。2台で白の色合いが異なるのは愛嬌だし、それもなんだかゴアンクラシック350らしい、いい雰囲気に見える。

まぴこさんは、ゴアンクラシック350の撮影のためにブラウスとビスチェのセットアップを新調し、ネイルも合わせた。エレガンスかつアクティブな世界観を作り出す。

ボバーというと、コアなカスタムバイクやアウトローなイメージが浮かぶが、ゴアンクラシックは350には可愛らしい雰囲気もある。「派手なだけじゃない上品なカラーですね。ホイールとタンクは、ゴアンクラシック350にしかないバランスで最高です」とまぴこさん。

レイブレッド用のまぴこさんのスタイリングだが、トリップティールにもフィット。トレンチコートに見えるアウターは、実はレインウエア。

青みをおびた早朝から稼働していると、やがて太陽がビルの隙間から無理やり差し込み存在感を主張してくるような気がした。そろそろ下北沢から離れようかと、誰ともなく声が上がった。

早朝まで営業していたバーの前で。トリップティールのオレンジと同じ色の壁に奇跡的に遭遇。こういった出会いが楽しい。

カラーごとにロゴがエンブレムだったりステッカーだったりするロイヤルエンフィールド。

各カラーのイメージに合わせてディテールの細部にこだわる。まぴこさん自身も細部にまでこだわる。

何を着て、どこに行くか? その悩みが楽しいロイヤルエンフィールド

実は、まぴこさんがどんなスタイルで登場するのか楽しみだった。撮影前に「お洒落担当として期待してます」「やめてくださいよ。プ、プレッシャーが」と、そんなやりとりをした。派手にくるのか、クールにくるのか、マニッシュにくるのか…。登場した彼女とゴアンクラシック350は、まだ薄暗い中でも眩しかった。一方で僕は、能天気にレザー×ジーンズを選ぶしか選択肢が浮かばなかったのだが…。

「クラシックという名前を意識して、おとなしい感じでまとめようと思いました。派手にいこうかとも思いましたが、上品にまとめた方がバイクが引き立つと思ったんです。レイブレッドの赤×黒を日本人っぽく綺麗にまとめてみたいと思いました。今乗っているクラシック350もそうですが、ツーリングに行く前にファッションを考えるのは嬉しい悩みですね。そして、それを楽しめるのがロイヤルエンフィールドです」とまぴこさん。

走行中、ミラーに映るまぴこさんを見るとそのポジションは確かにボバーだ。僕も自分のスタイルは見えないが、手を上げて乗っているに違いない。ただ、実際は思ったほど手を上げている実感はないし、そのポジションはリラックスしている。

「もっと手がだるくなったりするかとも思いましたが、楽に乗れました。脇が涼しい感じがしますけどね(笑)。350シリーズの中で一番足つきもよく安心感があります」とまぴこさん。

派手でもあるが、可愛くもあるレイブレッド。赤が好きなまぴこさんにフィットする。

街中をゆっくりと流す。低速でバランスも取りやすく、安心感が高い。

変わらない下北沢と変わった下北沢を散策した。

何度も信号に捕まるが、発進停止も苦にならない。ポジションは大らかかつコンパクト。

2台の音がシンクロするとなんとも言えない異世界へと引き込まれる。

朝食はスピードスターカフェで。

市街地をツーリングルートにしてゴアンクラシック350の魅力を存分に楽しむ

やがて完全に稼働し始めた下北沢に、我々の居場所はない。2台であてもなく走り始める。時には前後を入れ替えながら走る。マフラーからの歯切れの良い音質が空気を震わせる。身体に響く鼓動と2台の音のシンクロ感が、時間の流れを穏やかにする。

低く見えるゴアンクラシック350だが、乗り心地は悪くない。リヤサスペンションの全長はクラシック350と同じだが、シートはクラシック350の方が肉厚で上質だ。

お台場、東雲、虎ノ門、青山、表参道、原宿、渋谷と流す。朝の独占感と爽快感が嘘のような喧騒の世界がそこにはある。都内の様々な場所に馴染ませてみる。1日の終わりが近づくと、多くのライダーに『ド派手なボバー』を見てほしいな、と思った。原宿では写真を撮られたり、話しかけられたり、手を振られたり振ったり、ゴアンクラシック350は大人気だった。

おそらく僕一人で乗っていたらこのルートは選ばなかっただろう。『バイクで自分を表現すること』をまぴこさんから学ぶ。まぴこさんは、隙がないと思うほど1日中表現し続けていた。僕自身はゴアンクラシック350にフィットしていたのだろうか?。わからないが、ただ、違う自分に出会えたような照れ臭さが新しく、バイクとの付き合いはもっと自由でいいと思った。浮いているように見えているかもしれないが、それも表現の一つなのだと納得した。

ゴアンクラシック350は、クラシックの名前を使うことで伝統を大切にし、ゴアンの名前を使うことでヒッピーカルチャーを継承し、それを現代に表現する手法として、ロイヤルエンフィールドはボバーというカスタムスタイルをチョイスした。その姿に『ド派手なボバー』という先入観を持つ方は多い。しかし、乗る前や乗り始めたばかりの照れくささよりも好奇心が勝ることは明確だった。

「だからチャレンジして欲しいと思うんですよね」とまぴこさんに伝えると「チャレンジって敷居が高い感じがしますねぇ。私は迷っている方の背中を押したいです。写真でしかゴアンを見ていない方には、ぜひ実車も見ていただきたいです。今回の2台以外もとても上品なカラーですから。あとは女性にも乗って欲しい。ゴアンクラシック350はカッコいいだけでなく、可愛いバイクですからね!」と言うまぴこさんは、僕よりもよっぽど無垢にバイクとロイヤルエンフィールドに向き合っていた。

こうしてみるとハンドルは高いが、実際に走ると思いの外コンパクトに感じる。

全色ホイールカラーが異なるゴアンクラシック350。スポークホイールだがチューブレスだ。

ヘッドライト上部のポジションランプであるタイガーアイがロイヤルエンフィールドのクラシックシリーズの顔だ。

クラッチレバーの下にはUSB-Cの充電ソケットも用意。左右レバーは調整機構付き。

視認性の高いメータ。デジタル部分にはギヤインジケーターも装備。メーター右下の丸い画面は簡易ナビのトリッパー。

タンクは上から見るとハート型の塗り分けに。女性ライダーの間で話題なのだとか。

ベテランも納得させる力強さと心地よさを持つ空冷単気筒エンジン。

リヤフェンダーをスイングアームに直接マウントすることで低いスタイルを実現。サスペンションの全長はクラシック350と変わらない。

「ヘッドライトバイザーって呼び方は可愛くないですね。これはピヨピヨです」とまぴこさん。

ミニエイプバーと呼ばれるハンドル。カスタム感満載だ!

身長165cm、体重68kgの筆者のポジション。窮屈な感じはしないが、小柄な筆者が大きく見えるイメージ。

足つきはそれほど良くないものの、バランスは取りやすく不安はない。

身長156cm体重43kgのまぴこさんのポジション。「明らかにクラシック350よりハンドルは高め。涼しいです」。

身長156cm体重43kgのまぴこさんの足つき。「クラシック350より足つきは良いですね」。

多くの人々にゴアンクラシック350を注目してもらいたいと思い、散策のエンディングにあえて大渋滞に飛び込む。とにかく賑わっている原宿はいつ来ても異世界だ。その渋滞や群衆の中でもゴアンクラシック350は、しっかりとオリジナリティを主張する。

ゴアンクラシック350のカラーバリエーションを見てみよう

GOAN CLASSIC 350 Base(Shack Black)/74万9100円

GOAN CLASSIC 350 Base(Purple Haze)/74万9100円

GOAN CLASSIC 350 Top(Rave Red)/75万5700円

GOAN CLASSIC 350 Top(Trip Teal)/75万5700円

ヒッピーカルチャーをまとったお洒落バイクで東京を駆け巡る【mapico_rider×ロイヤルエンフィールド ゴアンクラシック350 試乗インプレ】ギャラリーへ (40枚)

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