直列3気筒888ccエンジンを搭載したスポーツモデル「MT-09」をベースに、ツーリングでの快適性を高めたスポーツツアラーとして開発された「TRACER9」。その「TRACER9」にヤマハ独自の自動変速機構「Y-AMT」、目的地まで快適な巡航をもたらす「ACC(アダプティブクルーズコントロール)」、後方から接近する車両をバックミラー内に表示する「BSD(ブラインドスポットディテクション)」など、最新の電子デバイスを多数搭載している「TRACER 9GT+Y-AMT」が国内モデルとして5月末に発売。最新機能をチェックしてみた。
目次
最新電子制御デバイスが、ライダーの操作負担を軽減する
燃焼トルクを効率よく引き出す「クロスプレーン・コンセプト」に基づいた、888cc直列3気筒エンジン「CP3」を搭載し、アジャイル(俊敏)な走りを実現したスポーツモデル「ヤマハMT-09」。そのスポーティな走りを損なうことなく、アップハンドルやスクリーンなどを装備し、ツーリングでの快適性を高めて開発されたスポーツツーリングモデル「ヤマハTRACER9」。そのTRACER9にコーナリングランプ、電子制御サスペンションなどを装備してツーリングでの利便性・快適性を向上したのが「ヤマハTRACER9 GT」だ。
5月に発売となった「TRACER9 GT+ Y-AMT」はTRACER9 GTをベースに、ヤマハの最新電子制御デバイスを多数搭載しているのが特徴。
「Y-AMT(Yamaha Automated Transmission)」はクラッチ操作とシフト操作をアクチュエーターが担うことで、変速操作を自動化。自動変速の「ATモード」と、手動で変速できる「MTモード」が設定されている。
「ACC(Adaptive Cruise Control)」は車体前方に設置した「ミリ波レーダー」が先行車の有無と車間を検知し、「ATモード」に設定すると定速走行中のギア選択、減速・加速も自動的に行なう。四輪車と異なり二輪車は自立しないので、発進と停止はライダーのスロットル/ブレーキ操作が必要となるが、走行中の追従機能は四輪車同様で二輪車世界初の制御となっている。
この「ACC」は6軸IMUとKYB製電子制御サスペンション「KADS」ともリンクして、快適な乗り心地も実現。「KADS」はライダーのブレーキ入力をアシストする「UBS(Unified Brake System)」とも連動し、不意の急制動時にノーズダイブしすぎないなど、ブレーキング時のサスペンション減衰力を最適化している。
さらに坂道での停止時や発進時にブレーキ操作をアシストする「VHC(Vehicle Hold Control)」も搭載。車体姿勢から坂道かどうかを判定する「ADVANCED」と、ライダーが意図的にブレーキレバーへ強く入力することで停車状態を維持する「MANUAL」の2パターンが設定されている。発進操作かブレーキレバーを素早く2回握ると解除される。
「BSD(Blind Spot Detection)」は「ミリ波レーダー」を車体後方にも設置することで、バックミラーでは視認しづらいブラインドスポットに位置する車両を検知。バックミラー内のインジケーターを点灯し、運転を支援する機能。
「FCW(Foward Collision Waring)」は先行車と衝突のリスクが高まった際に、メーターに警告を表示、それでもライダーの認知が遅れた場合はリヤブレーキを瞬間的に加圧して車体の挙動として知らせる。2段階で警告する運転支援システム。
この他、車体前部に内蔵されたカメラが周囲の交通状況を検知して、Lo/Hiビームの切り替え、コーナリング時の照射範囲を調整する「マトリクスLEDヘッドランプ」、走行状況やライダーの好みに応じて走行モードの切り替え、前後サスペンションなどの電子制御介入度の選択が可能な「YRC(Yamaha Ride Control)」、スマートフォン専用アプリ「Y-Connect(Yamaha Motorcycle Connect)」との連携、ナビゲーションアプリ「Garmin Motorize」をインストールしたスマートフォンを車両と有線接続することでディスプレイにナビゲーション表示が可能となる。
また、100mmの範囲で無段階調整可能な電動スクリーン、ハンドル切れ角を32°→35°へ拡大、新設計シート、リヤフレーム延長とタンデマーの居住性向上、ローメンテナンスチェーンの採用など、装備も充実。ツーリングでの快適性、利便性を大幅に向上している。
TRACER9 GT+ Y-AMTの足着き性をチェック
乗り心地のよさも快適な走りに大きく貢献している
ベースモデルのTRACER9 GTから装備が増えていることもあり、TRACER9 GT+ Y-AMTの車重は232kgと5kg増になっている。「Y-AMT」を搭載しているMT-09 Y-AMTからは+36kgで、増加した車重は取りまわし時の重さで体感する。しかし、跨ってみると、ハンドル幅はワイドすぎず、アップライトでリラックスしたライディングポジションをとることができる。シートもスリム化され、シート高も845mmに抑えられているので足もスッと着きやすく、リッタークラスのアドベンチャーモデルのような重量感はない。
自動変速を行なう「Y-AMT」は、指先ひとつでシフト操作ができる「MTモード」と、最適なタイミングで自動でシフト操作を行なう「ATモード」の2つから選択できる。まずは「ATモード」を選択し、エンジン特性はスタンダードの「D」にセットしてみた。スロットルを開けると、1500rpmでクラッチが自動でミートし、車体はスルスルと動き出した。
「ATモード」はスタンダードな「D」とスポーティな「D+」のエンジン特性を選択でき、「D」はトルクの出かたがマイルドで加速もなめらか。早めにシフトアップするので乗り心地もスムーズで、充分な速さも実現していて乗りやすい。「D+」は各ギヤを高回転まで引っ張ってからシフトアップし、シャープな加速を重視している。どの回転域でもレスポンスがよく、スポーティな走りとなっている。
「MTモード」は「STREET」「SPORT」「RAIN」と、パワーやトラクションコントロールの介入度を設定できる「CUSTOM1/2」の計5パターンを設定できる。「STREET」はスロットルのレスポンスが自然で、必要充分なトルクがスムーズな加速力を発揮し、さまざまな状況で扱いやすさが感じられる。「SPORT」はレスポンスがシャープで、ハイスロットルのように少ないスロットル開度でもトルクがモリモリと出てくる。広い回転域でクイックなマシン挙動を実現し、正にスポーティな乗り味となっている。「RAIN」はレスポンスがマイルドで、トルクもフワッと立ち上がってくる。マシン挙動もマイルドになり、安定感のある走りとなっている。雨天時や滑りやすいダート路面で安心感がある。
また、「CUSTOM1/2」と「D/D+」は「YRC(Yamaha Ride Control)」で各種介入度をカスタマイズして設定できる。設定できる項目は、スロットルレスポンスを4段階(D/D+は3段階)に変化できる「PWR(パワーデリバリーモード)」、3段階+OFFに設定できる「TCS(トラクションコントロールシステム)」、リヤタイヤの横滑りを検知して出力を3段階補正+OFFに設定できる「SCS(スライドコントロールシステム)」、発進時や加速時のフロントタイヤの浮き上がりを検知して3段階+OFFに設定できる「LIF(リフトコントロールシステム)」、エンジンブレーキの強弱を2段階に設定できる「EBM(エンジンブレーキマネージメント)」、過剰なエンジンブレーキによるリヤホイールのロックをON/OFFで制御する「BSR(バックスリップレギュレーター)」となっている。
さらに、電子制御サスペンションは減衰力を強めに設定したスポーツ用の「A-1」、減衰力を弱めに設定したコンフォート用の「A-2」を、「SUS」から選択できる。また、「Y-Connect」と連携することで好みのサスセッティングを「C-1」「C-2」の2パターン設定可能だ。
「ATモード」「MTモード」ともに各モードでスロットルレスポンスやトルクの立ち上がりかたが異なっているが、スロットルバルブ開度をECUが瞬時に演算し、どの回転域でも安定したトルクが発揮される。これが、取りまわしであった車体の重さを感じさせず、安定感がありながら操作しやすい乗り味の要因になっているのだろう。「CP3」エンジン本来のトルク特性を、「YCC-T(電子制御スロットル)」と「YRC」が各モード毎に最適化して引き出していて、モードを変更しても扱いやすさを感じられるのがTRACER9 GT+ Y-AMTの特徴と言える。
安定感がありながら操作しやすい乗り味は、電子制御サスペンション「KADS」によるところも大きい。6軸IMUが検知した車体姿勢とその時の加速度、サスのストロークスピード、ブレーキの液圧に応じて、減衰力を自動的に調整する。状態のいい舗装路ではしっとりした乗り心地を、荒れた舗装路ではマシン挙動が大きく乱れず、車体が受けた衝撃をしっかりと吸収し、カドの取れたまろやかな乗り心地を提供してくれるからだ。乗り出してすぐに感じた前後サスのこうした印象は、さまざまな路面を走破しても変わらなかった。街乗りはもちろん、ツーリングでの快適さや疲労軽減に大いに貢献している。
スクリーンはもっとも下げた位置でも充分な防風性能を発揮し、走行風が上半身に当たるのを低減していた。個人的には、もっとも上げた位置でも防風性能に大きな変化を感じず、視界に入るスクリーンがやや気になったのが正直な感想だ。けれど、上半身を屈めるとスクリーンを盾(シールド)のように使え、雨中走行でライダーをサポートしてくれそうに感じた。
今回はタンデム走行も試してみたが、乗り心地や操舵感は一人乗りとほぼ同じ感覚だった。自由度の高いライディングポジションと居住性のいいタンデムシートといった要素も大きいが、エンジンとサスペンションの特性を含めて、TRACER9 GT+ Y-AMTのツーリング性能はかなり高いと感じられた。
緻密な制御でライダーをサポートするACCで、ツーリングがさらに楽しくなる
TRACER 9GT+Y-AMTのもうひとつの大きな特徴は「ACC(アダプティブクルーズコントロール)」だ。車体前方の「ミリ波レーダー」が先行車の有無と車間を検知し、定速巡航・減速・加速の制御を自動で行なって先行車と一定の車間を保ち、設定速度を変えることなく追従走行を実現。クルーズコントロールの速度調整と設定・再設定は左側スイッチボックス、4段階に設定・変更できる車間距離は右側スイッチボックスで操作でき、操作方法も直感で分かりやすく、操作性もいい。また「ATモード」に設定すると、定速走行中のギア選択も自動で行なう。ただし、二輪車は足を着いた状態から発進し、停止した際は足を着くので、バランスを崩さない観点から発進操作と停止のブレーキングはライダーが行なうのが、四輪車の「ACC」とは異なる。
また、「ACC」での走行中は、電子制御サスペンション、ブレーキとも連携「UBS(ユニファイドブレーキアシストシステム)」し、前走車との車間距離が一定のレベルを超えて接近、もしくは接近しそうになった場合、ライダーのブレーキ入力量をアシストしつつ前後配分を調整。電子制御サスペンションもノーズダイブしすぎないように減衰力を調整する。
今回は「ATモードのD」に設定して「ACC」で走行してみたが、車間距離の維持、速度調整、ギア選択がスムーズで、ストレスを感じなかった。走行中に脇道からスクーターが流入してきたのだが、「ミリ波レーダー」は瞬時にスクーターを検知し、減速して車間距離が保たれた。この時にマシン挙動も乱れず、「ACC」の緻密な制御に大いに感心させられた。以前、追従機能のないクルーズコントロールのバイクに乗った時も、スロットル操作をしないことで右手首の疲労度がかなり軽減されたが、前走車に追いついてしまったり、進路変更してきた車両がいたりと、機能解除・再設定をする場面が案外多かった記憶がある。しかし、TRACER9 GT+ Y-AMTの「ACC」は、そうした状況を判断して走行をサポートしてくれる。ライダーがブレーキを操作すると「ACC」は解除されるので、ゴー&ストップが頻発する渋滞路での使用は向かないが、交通の流れのいい道路や高速道路では「Y-AMT」のサポートやスクリーンの防風効果もあり、ライダーの操作負荷がかなり軽減される。
「Y-AMT」は四輪車のオートマ感覚のようにライディングできるが、6速ミッションを搭載していることもあり、変速のクイックさ、スロットルレスポンスのシャープさは、CVTのスクーターとは一線を画している。また、ライディングポジションもスポーツバイクのそれで、操作感やマシン挙動の軽快さも同様だ。なので、TRACER9 GT+ Y-AMTの乗り味も充分スポーティに感じられ、それでいてミニマムな操作で疲れにくいから、長時間や長距離のライディングも楽しみやすくなっている。「MTモード」に設定すれば自分のタイミングでシフトチェンジを行なえ、よりスポーティな走りも楽しめる。
渋滞路ではクラッチ操作せずにトコトコとした走りができ、ワインディングではハンドリングとスロットル操作に集中してスポーティな走りを楽しめ、高速道路では「ACC」で快適なクルージングも楽しめる。タンデムや積載性も考慮されているので、キャンプツーリングやロングツーリングとの親和性もある。乗ってみるまでは、「Y-AMT」を含めて電子制御デバイスに懐疑的だったのだが、その利便性を体験してみると、行動範囲を無理なく広げることができ、ツーリングプランもさらに多彩にできると実感した。食わず嫌いだった自省も込めて、TRACER9 GT+ Y-AMTは一度は乗っておきたいスポーツツーリングバイクだ。
2025年型ヤマハTRACER9 GT+ Y-AMT主要諸元
・全長×全高×全幅:2175×900×1440mm
・ホイールベース:1500mm
・車重:232kg
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列3気筒888cc
・最高出力:120PS/10000rpm
・最大トルク:9.5kgf・m/7000rpm
・燃料タンク容量:19L
・ブレーキ:F=ダブルディスク、R=シングルディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17、R=180/55ZR17
・価格:198万円
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