
往年のパリダカワークスマシンから「テネレ」のネーミングを受け継ぎ、2020年に国内モデルとして新発売されたアドベンチャーモデル「ヤマハテネレ700」。2025年モデルは、電子制御スロットル、走行モード切り替えシステム、トラクションコントロールなど、電子制御デバイスを多数装備している。
目次
オフロード走破性を損なわず、快適性を高める機能を装備

スタイリングで大きな変更はないが、LEDヘッドライトやハンドガードは新形状。前後サスの最適化、フットレストの大型化など細部まで改良の手が入っている。画像のマットグレーのほか、ブルーとライトブルーの全3色。
1991年から1998年のパリダカールラリーで、6度の優勝を果たしたワークスマシン「YZE750Tスーパーテネレ」。その「テネレ」のネーミングを受け継いだアドベンチャーモデルとして、2020年に国内発売された「テネレ700」。燃焼トルクを効率よく引き出すクロスプレーンコンセプトで設計された並列2気筒688ccエンジンを、軽量スリムな車体に搭載することで高いオフロード性能を発揮。フラットダートを通過できるアドベンチャーモデルというより、かつて「ビッグオフ」と呼ばれた、積極的にオフロードライディングを楽しめるモデルとして日本やヨーロッパで人気を博している。
2022年にエンジンを新排出ガス規制に適合しつつ、最高出力92→93PS、最大トルク6.8→6.9kgf・mへとアップ。2023年は5インチカラーTFTメーター、前後ウインカーのLED化、前後オフ可能なABSなど装備を充実。
そして2025年モデルでは、電子制御スロットル「YCC-T(Yamaha Chip Controlled Throttle)」を採用。きめ細かなスロットル操作を実現することで、2つの走行モードへの切り替えシステムと、トラクションコントロールも初搭載。前後サスペンションも見直し、オフロード走破性をさらに向上している。
さらに、メーターは6.3インチフルカラーTFTへ変更し、スマホ専用アプリ「Y-Connect(Yamaha Motorcycle Connect)」との連携に対応。USB-C充電ポートを標準装備し、4灯ヘッドライトを丸型から四角へ変更して充分な光量を確保するなど、利便性も高められている。
テネレ700の足着き性をチェック
装備の充実で、市街地での扱いやすさも向上している
初期型テネレ700が搭載していた「CP2(クロスプレーンコンセプト2気筒)エンジン」は、ロードモデル「MT-07」をベースとしていた。それには、「このエンジン特性は、絶対にオフロードモデルに合う」と、エンジン開発者が断言した経緯があるという。筆者も初期型テネレ700に試乗したことがあるが、低中回転から粘るトルクがスムーズな加速力を発揮し、市街地走行やワインディングで軽快だったのを覚えている。さらに、オフロードでのダイレクトなマシンコントロールを実現するために、スロットル操作に対するエンジンレスポンスはシャープにセッティングされていて、205kg(初期型)と軽量に収められた車重もあって、林道ではトレールモデルのような扱いやすさも体感できた。
その一方で、発進と停止の多い市街地の渋滞路では、シャープなレスポンスと加速力、ブレーキングによる頻繁な荷重移動で、マシン挙動がギクシャクしやすく感じた。スロットルとクラッチレバーの操作をていねいに行なえばマシン挙動は穏やかになるが、スロットルレスポンスがもう少しマイルドになれば、市街地での乗りやすさは向上するだろうとも感じた。
だが、2025年モデルのテネレ700はインテーク形状を変更して低回転域のトルクをアップし、低速域でのオフロード走破性をさらに高めた。オフロードモデルとしては正常進化だが、渋滞路で扱いづらくなるのでは? とも思った。しかし、新たに装備した電子制御スロットル「YCC-T」が緻密な燃料噴射コントロールに貢献し、全回転域でスムーズな吹け上がりを実現。これにより、オフロード走行用にレスポンスを鋭くした「SPORT」モードと、市街地で扱いやすさを感じるように敢えてレスポンスを緩やかにした「EXPLORE」モードの2つの異なるエンジン特性を両立。オフロード走破性の高さを損なうことなく、市街地での乗りやすさを向上させているのだ。
テネレ700のアイドリングはメーター目視で1500rpm。トルクが立ち上がってくるのは「SPORT」モードと「EXPLORE」モードともに2500rpmくらいで変わらず、どちらのモードも4000rpmで充分な加速力を発揮する。ただし、アイドリングから4000rpmまでの回転上昇とスロットルレスポンスは異なり、「SPORT」モードはレスポンスがシャープで回転上昇も早く、太いトルクで車体をグイッと蹴り出すような力強い加速力を発揮する。スロットル操作でマシンの挙動を積極的にコントロールでき、「速さ」を体感しやすい乗り味になっている。
一方の「EXPLORE」モードはレスポンスがマイルド。回転上昇もゆったりで、トルクも徐々に立ち上がってくるのでギクシャク感が少ない。それでも排気量が大きいので遅くはなく、スムーズなクルージングが楽しめる。ゆったりした乗り味で疲れにくく、ツーリングで快適性や市街地での扱いやすさは初期型から大きく進化したように感じた。
さまざまな道を走破したくなる高いツーリング性能
テネレ700のサスはフロント210mm、リヤ200mmのストローク量を確保し、最低地上高は240mmと、軽量なトレールモデル並みの数値を実現している。これが875mmという高いシート高の要因にもなっているが、石や木の根といった障害物との干渉を減らし、荒れた路面からの衝撃をしっかり吸収する、オフロード走破性能の高さにもなっている。
実際にダート路面を走行してみたが、前後サスは初期からスムーズにストロークし、路面からの衝撃が身体に伝わらず安定した乗り心地になっていた。とくにフロントサスの動きは滑らかで前輪の接地感が分かりやすく、安定したハンドル操作がしやすく、安心感のある乗り心地に貢献している。これはTFTメーターの大型化や電子デバイスの採用による重量配分の変化に合わせて、フロントサスのバルブセッティングを変更している効果だという。合わせてリヤサスもストローク量が増やされ、底突きしにくいセッティングとなっている。
走行モードはダート路面でも違いをハッキリと体感できる。「SPORT」モードのレスポンスはシャープで力強いトルクもすぐに立ち上がってくるので、スロットル操作だけで後輪をスライドさせやすい。さらにトラクションコントロールと前後ブレーキのABSをオフにできるので、マシンコントロールにはライダーの意思が忠実に反映される。この俊敏なエンジンと衝撃吸収性にすぐれた前後サスのおかげで、テネレ700は林道でもトレールモデルのような軽快な走りを楽しめるようになっている。ただし、コーナー進入時のブレーキング、行き止まりでのUターンなど、低速走行で不意にマシン挙動が乱れた際のバランス修正では車重や足着き性の悪さが気になった。
オフロードで軽快な走りを楽しむには、ライダーにもオフロードライディングのスキルや経験が求められる面があるが、林道やキャンプ場のダート路面をトコトコと走破するような場合には、テネレ700の「EXPLORE」モードがライダーをサポートしてくれる。穏やかなトルクの立ち上がりとマイルドなスロットルレスポンスが後輪のトラクションもマイルドにするので、後輪が無駄に路面を引っかかず不意にスライドしにくい。そして、トラクションコントロールをオンにすれば、スロットル操作がラフになっても後輪のスライドが低減され、マシン挙動が乱れにくくなる。後輪が路面をグリップする力は「SPORT」モードよりも薄くなるが、前輪の接地感はしっかりと感じられ、ハンドルが振られやすいといった弊害もない。バランスを崩しにくい走行ラインを取り、過度にスロットルを開けず、車体を直立させるようにバランス修正を行なえば、オフロード経験が多くないライダーでもフラットな林道はトコトコと走破できる乗りやすさを実現している。
「SPORT」と「EXPLORE」の2つの走行モードを設定し、市街地とオフロードの両方で幅広いライダー層が扱いやすさを感じられるようになった。さらに、「CP2エンジン」は最高出力73PSと余裕の高速巡航が行なえるパワーも発揮し、ライディングポジションの自由度が高く、長距離走行も快適に行なえる。2025年型テネレ700はオンロードとオフロードでの扱いやすさが大幅に向上し、ツーリングマシンとしての完成度も高まっているのが特徴だ。
足着き性が気になるライダーには、シート高を約15mm下げる「ローシート」と、リヤサスのリンク長を変更してシート高を約15mm下げる「ローダウンリンク」を装着した「テネレ700 Low」も用意されている。
2025年型ヤマハテネレ700主要諸元
・全長×全高×全幅:2370×935×1455mm
・ホイールベース:1595mm
・車重:208kg
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒
・最高出力:73PS/9000rpm
・最大トルク:6.9kgf・m/6500rpm
・燃料タンク容量:16L
・変速機:6速リターン
・ブレーキ:F=90/90-21、R=150/70R18
・タイヤ:F=ダブルディスク、R=シングルディスク
・価格:145万2000円
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