
取材協力:バイク王つくば絶版車館
50ccのDOHCエンジンを搭載した「DREAM50」は、1960年台にWGPに挑戦したホンダのワークスレーサーRC110やその市販バージョンであるCR110をオマージュしたモデルであり、そのネーミングも含めてホンダの創業50年を記念するにふさわしいバイクであった。
WGPに挑んだDOHC50ccエンジン
ホンダは1954年に当時の二輪レース最高峰と言えたマン島TTレースへの参戦を宣言し、1959年に125ccクラスにRC142で初めてWGPへと参戦した。1961年からはWGPへのフル参戦を開始し、125ccクラスでトム・フィリスが駆るR143が初戦のスペインで初優勝を飾ると、11戦中8勝という戦績で世界チャンピオンを獲得した。250ccクラスでも西ドイツGPで高橋国光の駆るRC162が初優勝したのを皮切りに、ファクトリーライダーのトム・フィリスやジム・レッドマンなどが好成績を上げる中、プライベーターながら4勝を上げたマイク・ヘイルウッドが総合優勝を果たすという素晴らしい結果を残した。
翌1962年からWGPに新設された50ccクラスに、ホンダはカムギアトレーン駆動の4ストロークDOHC単気筒エンジンを搭載したRC110/111で参戦する。ただ、2ストローク勢を相手に苦戦を強いられ、翌年には2気筒エンジンを搭載したRC112へとスイッチされた。ホンダは1962年、ワークスレーサーRC110のテクノロジーを継承した「カブレーシング CR110」を発売する。このCR110には保安部品を装着した公道走行仕様と、レースに出場するクラブマン用のレース仕様が用意され、「Y部品」と呼ばれるレーシングキットも用意された。CR110のレーサー仕様はマン島TTレースで9位に入賞するなど、そのポテンシャルの高さ示した。
このRC110/111、そしてカブレーシング CR110の登場から30年以上が経過した1995年の第31回東京モーターショーに、ホンダは1台の50ccスポーツバイクを参考出品した。「DREAM50」と名付けられたこのバイクは、カブレーシング CR110を現代風にアレンジしたデザインの車体に、排気量49ccの空冷4ストロークDOHC4バルブエンジンが搭載されていた。
CR110をオマージュした奇跡の50cc
「DREAM」という名称は過去ホンダのバイクに用いられていたものであり、1970年代まで使用されていた。この「DREAM」というホンダのバイクの魂とも言える名前を授かった「DREAM50」は、ホンダの創業50周年を記念したモデルとして1997年に発売されることになった。発売当時の価格は32万9000円で、当時の50ccモデルとしては非常に高価に設定されていた。
DREAM50にはロングタイプでオフセットタンクキャップを組み合わせたフューエルタンクや、おわん型のシートカウル+鋲止めのシート表皮など車体各部にCR110をイメージしたデザインが採用されている。クリップオンタイプのハンドルやバフ仕上げのトップブリッジ、径の異なる丸型のスピードメーターとタコメーターなどコクピット周りも往年のレーサーをイメージさせる仕上げになっている。
搭載されるパワーユニットは専用に新開発されたものであり、DREAM50以外のモデルに積まれることも無かった。ボア×ストロークは40×39.6mmというほぼスクエアな設定で、インテーク径15mm、エキゾースト径12mmのバルブを各2つ持つ4バルブだ。カムシャフトの駆動にはチェーンが使われておりCR110のカムギアトレイン方式は踏襲されなかったが、最高出力5.6PS/10500rpmという高回転エンジンに仕立てられ、ミッションはクロスレシオの5速が組み込まれる。エキゾーストシステムは左右どちら側から見てもスリムでスタイリッシュなマシンイメージとするため、クロームメッキを施したツインエキゾーストおよびツインメガホンマフラーを採用している。
CR110のイメージを踏襲するダイヤモンドタイプのフレームは高剛性のスチール製で、34mm径のパイプを使用したメインチューブに角形のダウンチューブをクロスパイプでつなぐことでフロント周りの剛性を確保し、メインパイプからL字断面のピボットプレートまでを2本のパイプでつなぐ事によってしなやかさを確保している。これにタンク下からシート後端まで直線的に延びたリアフレームを組み合わせる、ステー類の溶接を極力パイプの内側になるようにすることで外観にも配慮されている。
このフレームに組み合わされるサスペンションは、フロントにインナーチューブ径27mmの正立フロントフォーク、リアにツインショック+スチール製スイングアームとなる。ホイールサイズは前後18インチで、軽量で剛性に優れたH型断面アルミリムを採用したスポークホイールとなる。ブレーキは前後ディスクタイプとされ、フロントは240mm径ディスク+2ポットキャリパー、リアは190mmディスク+1ポットキャリパーとなる。
公道仕様車は1999年の排出ガス規制によって生産中止となったが、HRCのコンプリートレーサー「DREAM50R」は2009年まで販売された。50ccモデルが次々と生産中止になっている現在のバイク業界を考えれば、DREAM50ほど作り込まれたバイクが今後出てくることは無いだろう。現在は中古車市場で見かけることも少なく、運良く見つけても価格は倍以上になっていることがほとんどだ。この先値下がりすることも考えにくいので、欲しいと思ったらすぐに手にいれるべきだろう。
DREAM50主要諸元(1997)
・全長×全幅×全高:1830×615×945mm
・ホイールベース:1195mm
・シート高:740mm
・車両重量:88kg
・エンジン:空冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒49cc
・最高出力:5.6PS/10500rpm
・最大トルク:0.42kgm/8500rpm
・変速機:5段リターン
・燃料タンク容量:6.2L
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=2.50-18、R=2.50-18
・価格:32万9000円(当時価格)
撮影協力:バイク王つくば絶版車館
あらゆるジャンルの絶版車が揃うショールーム。カラーリング違いなども数多くストックされ、好みの1台が見つかるはずだ。
住所:茨城県つくばみらい市小絹120
電話:0297-21-8190
営業時間:10:00~19:00
定休日:木曜日
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