世界で初めてギヤポンプなどのシステムを内蔵した車高調整FフォークをAstemoが開発。リヤ用と合わせ、従来型より停止時に素早く車高をダウンしてくれる。この「HEIGHTFLEX」システムと、第2世代の電子制御サス「SHOWA EERA Gen2」を試乗テストしてきた。スクーターや小排気量クラスに後付けできる、低コストな電子制御サスも目玉だ。

[解説1] ギヤポンプにより約1秒で車高をダウンし、約6秒でアップする新型HEIGHTFLEX

Astemoは、ケーヒン、ショーワ、ニッシン、日立オートモティブシステムズが統合し、2021年に生まれた日本のメガサプライヤー。同社が5月30日、メディア向け技術発表&試乗会の「Astemo Tech Show 2025」を栃木県のテストコースで開催し、数々の新技術を披露した。

その模様を紹介する第2回が当記事。進化した車高調整システム「HEIGHTFLEX」(ハイトフレックス)と電子制御サス「SHOWA EERA Gen2」について解説と試乗レポートをお届けしたい(第1回のステレオカメラはこちらを参照)。

Astemoの栃木県・塩谷テストコースで新型HEIGHTFLEXとSHOWA EERA Gen2を搭載したテスト車を試乗してきた。

 

Astemoはバイク向け車高調整のパイオニアで、15年ほど前から開発を続けている。2021年にはハーレーのパンアメリカに搭載された車高調整機構の「アダプティブライドハイト」はHEIGHTFLEXがベース。停車中にシート高をダウンし、走行中に自動で車高をアップさせ、足着き性と運動性能を両立する画期的なシステムだ。

ハーレーのパンアメリカ1250スペシャルに、EERAおよびHEIGHTFLEXをベースにした電子制御サス+車高調整システムが搭載。BMW R1300GSの車高調整はザックス製だ。

 

EICMA2023では進化版として、モーター駆動によるギヤポンプを使用することでスピーディに車高をアップできるリヤサス用「ギヤポンプ駆動 サスペンションスプリングアジャスター」を発表。EICMA2022で発表したABSモジュレーターの油圧ポンプを転用したシステムは、自重によるストロークを利用していたため、車高上昇に時間がかかった。一方の新システムでは、車高復帰までの時間を従来から約半分の約6秒にまで短縮している。

さらにEICMA2024では、ギヤポンプの車高調整システムを世界で初めてFフォークに内蔵。HEIGHTFLEXはリヤのみでも効果を十分に発揮するが、前後サスに高速で作動する車高調整機能を装備することでメリットを最大化できる。

停止時のダウン量は前後とも約50mm。リヤのみの場合より車高を下げることができる。アップ時の作動時間は約5~7秒、ダウン時は約1秒に過ぎない。

前後に車高調整を組み込むことで、光軸の問題が解消できるのもメリット。従来のようにリヤサスだけダウンさせると光軸が上を向いてしまうが、フロントも車高が下がることでこれを解消。また、設定次第でフロント下がり、リヤ下がりといった走行時の車体姿勢コントロールもできる。

小型ギヤポンプや油圧ジャッキ、ストロークセンサーをアウターチューブに内蔵。フォーク外部の油圧配管やセンサー類を廃止した。インナーφ43mm以上の倒立SFFフォークに搭載可能。

リヤ用の油圧ポンプユニット。筒がダンパー外側にマウントされ、電サスのEERAと組み合わせることも可能だ。

こちらがギヤポンプ。モーター駆動の油圧式で従来品より圧倒的に迅速な車高アップが可能になった。

[解説2] 制御システムを内蔵し、後付けも簡単になったEERA Gen2

路面状況を検知し、リアルタイムに減衰力を自動可変させる電子制御サス(セミアクティブサスとも)。「SHOWA EERA Gen2」は第2世代の電子制御サスで、ECUを小型化し、世界で初めてサスに内蔵したシステムだ。

減衰力を可変するアクチュエーターの制御ECUユニットをサスと一体化することで、別体のECUを搭載することなく電子制御化を実現。つまり車体側にサス制御用ECUを搭載せずに済み、配線の簡素化と軽量化が可能になる。小型ECU内にはIMU(慣性センサー)まで搭載しており、ストロークセンサーを省略することも可能だ。

この一体構造により、搭載スペースに限りがあるスクーターや小排気量車の電サス化も可能になるというから夢がある。さらには既存バイクへの後付けも構想しているという。

もちろん大型スポーツにも対応する。新構造のバルブは部品点数を減らせる上に、第一世代のSHOWA EERAよりも広い減衰力の可変幅を獲得。その広範囲な可変幅の中からプログラムを変更したり、新型ストロークセンサーを搭載したりすることで、より緻密な制御ができる。まさに幅広いカテゴリーと様々な価格帯のモデルの電サス化が可能になるのだ。

EERA Gen2のFフォークとリヤショック。フォークトップやリヤサス下部にある四角形のパーツがアクチュエーター一体型ECUで、電サスによくある配線は見られない。

EERA Gen2のリヤショック。緑色の部品がプリント基板ストロークセンサーで、ダンパー外側に巻ける筒状としているのが画期的だ。

G310RにEERA Gen2のリヤサスを組み込んだ状態。大型車向けだけではなく、小排気量車やリヤのみに搭載といった廉価仕様も可能になる。また、サスを交換するだけで電サス化が可能だ。

[試乗インプレ1] 第2世代のEERAはより知的に制御するお任せモードが好印象

試乗車は、ドゥカティのムルティストラーダV4S。テスト用にAstemoの車高調整と電子制御サスを搭載している。

Fフォーク左側にギヤポンプを内蔵した車高調整システムのHEIGHTFLEX、右側に電サスのEERA Gen2を搭載。リヤサスにも車高調整用のモーターポンプユニットとEERA Gen2が搭載されている。なおFフォークのベースはSFF-BP。フォーク左右に機能を振り分けられたのは、ダンパーとスプリングを左右に分離したSFF-BPベースならではのメリットだ。

テスト車両のムルティストラーダV4S。1158ccV型4気筒を搭載するビッグアドベンチャーで車体のボリューム感は抜群。

右側のフォークトップにEERA Gen2のアクチュエーター一体型ECUユニットが見える。左側はギヤポンプ式のHEIGHTFLEXだ。

リヤにもギヤポンプ式車高調整ユニットと電子制御サスを採用。前後とも独立したアクチュエーター一体型ECUを備える。

ワインディングを再現したテストコース。アップダウンが連続し、コーナー中など各部ににギャップを設定している。

 

試乗はウエット路面のテストコースで行い、コンフォート、ダイナミック、アクティブの各モードで3周ずつ走行。モード切替の際に停車し、最新HEIGHTFLEXの足着き性を試させてもらった。

電子制御サスのEERA Gen2は、どのモードでも減衰力を自動調整するが、コンフォートモードではソフトでよく動き、快適さを優先。ダイナミックモードは減衰力が高めでスポーティに走る楽しさを優先している。

路面がウエットだったことと、いずれも減衰力が適切に調整されるせいか、私のスキルでは大きな違いは感じられなかったというのが正直なところ。しかしギャップを通過した際にツーリングモードでは衝撃がより柔らかく、ダイナミックモードでは最初の挙動こそ乱れるものの、収まるのが早く感じた。

好感触だったのはアクティブモード。車速に応じた減衰力と車体姿勢を自動で制御し、常に最適な減衰をキープする設定で、ギャップ通過時のショックが柔らかく収束も早い。まさに知能的で、コンフォートとダイナミックモードのいいとこどりと言える。大小のコーナーでもスムーズに踏ん張り、実に心地よかった。

特にダイナミックモードは、コーナーのアールや旋回速度に関わらず、快適だった。

[試乗インプレ2] 素早い上に、自然&違和感のない車高調整システム

一方、車高調整の新HEIGHTFLEXは効果が実にわかりやすい。車高調整のないノーマル車の状態では両足先が着くものの、かかとが浮いて、いかにもシートが高いビッグアドベンチャーといった感じ。しかし、HEIGHTFLEXを作動させた状態では両足がベタ着きで非常に安心。車体がコンパクトになった印象だ。

ムルティストラーダV4Sのノーマル車高を再現した状態(ライダーは身長177cm&体重60kg)。シート高は840mmで、股下のボリュームもあるため、両かかとが浮く。

HEIGHTFLEXを作動して車高を下げた状態では、前後サスがそれぞれ約50mmダウン。両足がベッタリ接地し、ヒザの曲がりにも余裕がある。安心感は桁違いだ。

 

停止状態から走り出すと、車高が自動的に約50mmアップする。作動時間は約6秒とのことだが、気づかないうちに上昇しており、何の違和感もなかった。ゼロ発進からすぐに交差点を曲がるといったシチュエーションでも問題ないだろう。

そして停止する際も滑らかに車高がダウンする。作動時間は約1秒で、またしても全く違和感がなく、サスが動ている感覚もない。「元々この車高だったのでは?」と思ってしまうほどだ。

なお、停止状態でフロント下がり、リヤ下がりの車体姿勢にも変更してもらった。スポーツしたい時は前輪に荷重がかけやすく、前傾姿勢になるフロント下がり、ゆったりツーリングしたい時は上体が起きて安楽なリヤ下がり……といった「可変バイク」が実現するのでは、とも思った。

フロントの車高をミニマムまで下げ、リヤを最大限にアップした状態。前下がりになり、スポーティな車体姿勢となっている。

フロントの車高を最大までアップし、リヤをダウンした状態。HEIGHTFLEXならセッティングの幅をイージーに広げられそう。

 

HEIGHTFLEXを搭載すれば、足着き性に不安があるライダーでもシートが高いアドベンチャーモデルへのハードルが下がる。さらにクラッチ操作が要らないホンダEクラッチやヤマハY-AMTなどと組み合わせれば、ビギナーでも安心して走れるハズだ。また、電サスは現在、大型の上級モデルにしか搭載されていないが、廉価版のEERA Gen2なら小排気量車への搭載もありえる。

市販車への搭載については未定だが、既に海外メーカーのアドベンチャーモデルでHEIGHTFLEXとEERAは採用済み。その最新版であるギヤポンプ式HEIGHTFLEXとEERA Gen2にアップデートされる可能性はあるだろう。今後の採用状況を楽しみに見守りたい。

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