
「レジャーバイク」というカテゴリーのバイクが、街中を走り回っていた時代がある。ホンダのモンキーとダックスはその中心的な存在であり、ダックスシリーズの派生モデルとして1973年に発表されたのが今回紹介する「ノーティダックス」だ。
70年代に人気を博し、進化したレジャーバイク
「レジャーバイク」というカテゴリーの定義は難しいが、コンパクトな小排気量バイクで、車に積んで出先で楽しむことを目的に作られたバイクといったところだろうか。車に積みやすいように軽量であり、ハンドルを畳んだりフロント周りを取り外したりすることができるようになっていたりするモデルもあった。
「レジャーバイク」というカテゴリーは、ホンダのモンキーシリーズから始まったと言えるだろう。モンキーの元祖となるのは、ホンダが1960年代に各地に作った「テック=テクニカルランド」と呼ばれるバイクと車をテーマにした遊園地用に作られた「Z100」である。カブ系のエンジンを搭載して1961年に発表された「Z100」はヨーロッパへ輸出され、1963年にはその後継モデルとなる「CZ100」が発表されている。1967年日本国内向けの公道用モデルとして、初代モンキー「Z50M」がデビューしている。
1969年に10インチホイールを採用したモンキーよりもひと回り大きな車体にカブ系のエンジンを搭載した、新たなレジャーバイク「ダックスホンダ」が発売された。このダックスホンダはスタンダードな「ST50」、アップフェンダーとアップマフラーを採用した「ST50エクスポート」、それとそれぞれに70ccエンジンを搭載した「ST70」と「ST70エクスポート」がラインナップされた。この「ダックスホンダ」は乗用車のトランクにも入るコンパクトサイズで、簡単に着脱できるフロント周りや折りたたみ式のハンドルとステップ、車体を横にしてもガソリンが洩れないガソリンタンクなど独自の機構が採用されていた。
このダックスホンダシリーズの上級モデルとして1972年に発表されたのが「マイティダックス」だ。この「マイティダックス」はスーパーカブ90用の89ccを搭載し、14インチサイズのホイールやアップタイプフェンダー、正立タイプのフロントフォークなどを備えてオフロード仕様に仕立てられていた。また、ミッションも手動クラッチタイプの4速とされ、よりスポーティな走行が可能であった。
オフロード+アメリカンの融合「ノーティダックス」
1970年代はオフロードバイクの人気が高く、そんなオフロードバイクブームを反映させたのが「マイティダックス」だったのだが、1973年にはそこにさらにアメリカンバイクの要素が加えられたモデルが発表された。それが今回紹介する「ノーティダックス」であり、「ダックス」の名を冠してはいるが、それまでのダックスシリーズとは全く異なるモデルとなっていた。
「ノーティダックス」のエンジンはいわゆる「横型」と呼ばれるスーパーカブ系のものではなく、「縦型」のCB50系の物を搭載している。低・中速でフラットなトルク特性を発揮する扱い易い4サイクルOHCエンジンは、最高出力4.5PS/9500rpm、最大トルク0.35kgm/8000rpmを発揮。このエンジンに4速ミッションを組み合わせ、当時のスペックリストには最高速度が65km/hと記載されている。
フレームもそれまでのプレス成形によるバックホーンタイプフレームではなく、軽量で高剛性のダイヤモンドタイプの物を採用。つまり、車体の基本となるエンジン・フレームともにそれまでのダックスシリーズとは全く異なっていた。ホイールサイズは10インチだが、不整地、舗装路を問わず安定した走行性能を発揮する5.4-10のファットタイヤを採用しているのも新機軸と言えた。このファットタイヤはライバルとなるスズキのレジャーバイクバンバンシリーズなどにも採用されており、当時のレジャーバイクのトレンドとなっていたものだ。
フロントフォークには正立テレスコピックタイプが採用され、リアサスペンションはツインショックを採用したスイングアームタイプ。ダックスのもつ気軽さを生かしつつ、さらに不整地での優れた走破性と安定した操縦性を実現した新しいレジャーバイクとして人気を博した。
1976年にマイナーチェンジが行なわれ、バルブタイミングの変更などにより、低・中速域でのトルクにさらなる余裕を持たせ、ドリブンスプロケットの歯数を44Tから42Tへと変更することで変速比もトルク特性にあわせて変更している。また、エアクリーナーと消音器の内部構造を一部変更することで騒音の低減を図り、イグニッションスイッチをフューエルタンク左下部からハンドル中央部に移すとともに、両面キーの採用によって操作性をアップしている。
時代のニーズ合わせて進化したダックスシリーズの末弟とも言えた「ノーティダックス」だが、最後モデルとなったのは1978年モデルで、本家のダックスシリーズよりも先にラインナップから姿を消すこととなった。
ノーティダックス主要諸元(1978)
・全長×全幅×全高:1700×770×985mm
・ホイールベース:1120mm
・車両重量:82kg
・エンジン:空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒49cc
・最高出力:4.3PS/9500rpm
・最大トルク:0.37kgm/7000rpm
・変速機:4段リターン
・燃料タンク容量:3.5L
・ブレーキ:F=ドラム、R=ドラム
・タイヤ:F=5.40-10-4PR、5.40-10-4PR
・価格:11万8000円(当時価格)
撮影協力:バイク王つくば絶版車館
あらゆるジャンルの絶版車が揃うショールーム。カラーリング違いなども数多くストックされ、好みの1台が見つかるはずだ。
住所:茨城県つくばみらい市小絹120
電話:0297-21-8190
営業時間:10:00~19:00
定休日:木曜日
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