PHOTO/Webike編集部

イタリアの名門バイクメーカー、ドゥカティが同社初となるモトクロスバイク「Desmo450 MX」を市販車として正式発表した

なぜ今、ドゥカティがモトクロス市場に参入するのか

世界のオフロードバイク市場は現在、大きな変革期を迎えている。オフロードバイクのレーサーは大きく3つの種類に分かれている。スプリントレース用のモトクロッサー、クロスカントリーバイク、そして公道走行の可能性を持たせたエンデューロバイクである。

DUCATI DESMO450MX

この3種類のレーサーを製造する場合、一般的にはモトクロッサーを最初に開発するのがバイクメーカーの定石である。なぜなら、モトクロッサーはスピード、ジャンプ、コーナリング性能を極限まで追求した純粋なレース用マシンであり、ここで培った技術やノウハウが後に他のカテゴリーのベースとなるからだ。例えば、クロスカントリーバイクは、基本的にモトクロッサーのリアタイヤを19インチから18インチに変更し、若干マイルドな仕様としたものだし、エンデューロバイクもモトクロッサーをベースにしつつ、公道走行に対応するため環境性能や安全性能を高め、より幅広いライダーに対応できるよう性能をさらに調整したものだと言える。つまり、モトクロッサーこそがオフロードバイク開発の出発点なのだ。

しかし近年では、モトクロッサーと比較してもエンデューロバイクの需要が急拡大している現状がある。これまでヨーロッパや日本で人気だった公道走行可能なこれらエンデューロバイクたちはハイパフォーマンスなオフロードバイクが、巨大なマーケットを誇る北米でも爆発的な人気を見せていることにも注目しておきたい。450ccや350ccといった大排気量エンデューロバイクを使い、シングルトレールをつなぎながら時には公道を走行するようなツーリング的楽しみ方が世界各国で流行しているせいだ。

そんな状況の中でドゥカティが真剣にオフロード市場への参入を考えるなら、まずはモトクロッサーで技術を確立し、その後にエンデューロバイクへと展開するのが王道だろう。実際、トライアンフも同様のアプローチを取っており、モトクロッサーを開発してからエンデューロバイクを作るという戦略で市場に対応している。この巨大な市場機会を見逃すわけにはいかないというのが、新規参入メーカーの共通認識のはず。

新規参入と書いたが、実はドゥカティには遠い過去にオフロードに関わってきた経緯がある。特にイタリアは、エンデューロの中心地として長い歴史を持つ国である。エンデューロの発祥はイギリスだが、その後イタリアが発展の中心となって多くのレゴラリータ(イタリア語でエンデューロバイク)コンストラクターが隆盛を誇った。ドゥカティは、そのうちの一社であって1970年代にレゴラリータ125というエンデューロバイクを発売している。今ではベータやTMといった名門メーカーがしのぎを削っているし、イタリアで盛んにおこなわれているヴィンテージエンデューロでもレゴラリータがたくさん走っている。ドゥカティの長い歴史の中には、オフロードの血筋がしっかりと刻まれているのだ。

現代のドゥカティの強みは、何といってもMotoGPやワールドスーパーバイクで培った豊富なレーシング経験である。同社のCEOクラウディオ・ドメニカリ氏が語るように、「レースの世界と市販車の世界の距離の近さ」こそがドゥカティの最大の特徴だ。

今回登場したDesmo450 MXは、まさにこの哲学を体現したマシンと言えるだろう。2021年にプロジェクトが開始され、KTMからモトクロスレジェンドライダーのアントニオ・カイローリを招聘、2024年には早くもアレッサンドロ・ルッピーノ選手がイタリア MX1選手権でタイトルを獲得している。今年からはAruba.it Ducati Factory MXチームとしてMXGP世界選手権にデビューし、いきなり2戦連続でホールショットを記録するという快挙も成し遂げている。もちろん、ファクトリーマシンではあるが、いま現在成績を残しているバイクの市販車バージョンが買える、というのはドゥカティファンにとってはたまらないことなのだ。

デスモドロミックエンジンはモトクロスでどう生きるか

Desmo450 MXの心臓部は、モトクロス史上初となるデスモドロミックバルブ機構を採用した449.6cc単気筒4ストロークエンジンだ。最高出力63.5馬力(9,400rpm時)、最大トルク53.5Nm(7,500rpm時)を発揮し、レブリミットは11,900rpmとなっている。デスモドロミック機構の採用により、バルブスプリングを使用せずにバルブを機械的に開閉することで、高回転域での優れた性能を実現している。ボアとストロークは96×62.1mmで、40mmの吸気バルブ(チタン製)と33mmの排気バルブ(中空スチール製)といったハイスペックを誇る。

昨年発売されたばかりのハイパーモタード698モノ。同じくデスモが搭載された単気筒のエンジンである

特筆すべきは、4,200rpmという比較的低い回転域で最大トルクの70%を発揮する特性である。これにより、コーナー出口での加速性能と取り回しの良さを両立し、従来の450ccモトクロッサーよりも扱いやすさを向上させている。デスモドロミックは、元来高回転域でバルブを正確に動かし、エンジンを回すための機構だが、バルブスプリングが強くないことから全域でスムーズな回転を可能にするのも大きなメリットだ。あくまでこれは推測の域を出ないのだが、この特性を活かすことでエンスト耐性が高く、低速のギクシャク感をなくした仕上がりのエンジンになっているのではないだろうか。

冷却システムには菱形の形状をしたラジエーターを採用。

コンベンショナルな形状と比較して6.5%広い放熱面積を確保しながらも、コンパクトな設計によりライダーの前方への動きの自由度を高めているなど、最後発メーカーとして他社モトクロッサーでは見られなかった機構をふんだんに取り入れている形だ。

ドゥカティと比較されやすい同じくイタリアのレーシングブランド、アプリリアでは2007年にやはりモトクロス、エンデューロ、スーパーモタードの3種類のバイクを開発し、レースに参戦している。日本のビッグ4(ホンダ・ヤマハ・スズキ・カワサキ)とまるで思想が異なる、Vツインエンジンのマシンだった。また、2008年にはBMWのエンデューロマシンG450Xが発売された。こちらも機械工学的には理想とされるコアキシャルピボットを携えた革新的マシンだったのだが、アプリリア、BMWのどちらも商業的には失敗に終わってしまった。これらに比べると、ドゥカティのデスモ450MXはこれまでのモトクロッサーを基本的には踏襲していることもあり、大きく市場の要望を外すことは無さそうに見える。

GET社のローンチコントロール用デバイス

他社を圧倒するMotoGPやスーパーバイクでの経験をどこまで活かせるのかという点については、まずトラクションコントロールシステムが注目される。実際のリアホイールのスリップと車両ダイナミクスの慣性測定に基づいてパワーカットを調整する効果的なシステム(特許出願中)で、ジャンプなどの状況では自動的に作動を停止する上、ライダーがクラッチレバーを軽く押すことで一時的に解除することも可能である。なお、介入レベルは4段階から選択できるとのこと。現在、モトクロスの現場では機械式のストッパー(スタートデバイス)をスタート用デバイスとして使っているが、MotoGPではおなじみになった前後サスを電子制御でショートストロークにするローンチデバイスなど、ドゥカティならではの電子制御技術でこういった旧式のテクノロジーを革新していくことにも期待したい。

車体構成で注目すべきは、ヨーロッパメーカーのオフロードバイクでは珍しいアルミフレームの採用である。KTMやハスクバーナ、ガスガス、ベータといったヨーロッパ勢の多くがクロモリフレームを採用する中、ドゥカティは日本メーカーに近いアプローチを選択した。

アルミニウム製ペリメーターフレームは重量わずか8.96kg、わずか11のコンポーネントから構成され、溶接部分を最小限に抑えることで構造的安定性を高めている。特に特徴的なのは、一般的なモトクロッサーがヘッドパイプにメインフレームを溶接する構造であるのに対し、メインフレームとヘッドパイプを鋳造で一体成型するという珍しい製造方法を採用している点である。

サスペンションには信頼性の高い日本のショーワ製を採用。フロントには49mmフォーク(ストローク310mm、カシマコート)、リアにはフルアジャスタブルショックアブソーバー(ホイールトラベル301mm)を装備している。結果として、車体重量は104.8kg(燃料除く)という軽量ボディを実現している。

今後の展開と日本市場への期待

つい先日、市販車の生産が始まったというプレスリリースが発出された同車。販売は2025年6月から欧州の選定されたディーラーで開始され、7月には北米、その後他の地域へと展開される予定である。日本ではドゥカティ群馬、札幌、仙台、砂田オート、大阪イースト、兵庫の7ディーラーで取り扱うとのこと。アマチュアクラスには取り扱いの難しい450ccモトクロッサーからマーケットインするとのことで初動はあまり期待できないが、すでに開発に手が付けられている250ccモトクロッサーや、おそらくその後にリリースされるだろうエンデューロバイクが入ってくれば、風向きは一気に変わるはず。

イタリアのオフロードバイクの象徴として、Desmo450 MXがどのような軌跡を描くのか。MotoGPで培った技術がダートでどう花開くのか。今後の動向から目が離せない。

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