
ロイヤルエンフィールドの本場インドではコンチネンタルGT650カップが行われ、アメリカでは女性ライダーがコンチネンタルGT650を駆るワンメイクレースが開催されている。そんなロイヤルエンフィールドのスポーツ性を日本でも広めるために、2023年から九州のイベントレースである「鉄馬」に参戦を開始。今年も「鉄馬 with ベータチタニウム 合戦の日」に挑むため、秘策を持って九州へ飛んだのだが…。
空冷ツインエンジン&ハリスフレームが生み出す、珠玉のハンドリング
ロイヤルエンフィールドとスポーツライディング、そしてレースをイメージする人は少ないだろう。ロイヤルエンフィールドは、どちらかというと英国クラシックスタイルのイメージが強いメーカーだと思う。
しかし、ロイヤルエンフィールドのブランディングには「ライドピュア」「ピュアモーターサイクリング」といったスローガンがあり、これは一般道だけでなくサーキットにも当てはまること。冒頭に書いたように、海外ではさまざまなレースも開催している。
ブランドが示す「ライドピュア」「ピュアモーターサイクリング」を体現するために筆者(小川勤)は、3年前から九州の「鉄馬」に「ROYALENFIELD with Moto Junkie」のコンチネンタルGT650レーサーで『ACT18(エア・クルード・ツイン=空冷2気筒の18インチ)』クラスに参戦を続けている。HSR九州で開催される「鉄馬」は往年のバイクが走るイベントレースで、近年は旧車だけでなく様々な鉄フレームのバイクが参戦することができる。
コンチネンタルGT650レーサーは、熊本のカスタムショップ「Moto Junkie(モトジャンンキー)」に依頼している。「Moto Junkie」のオーナー・中尾真樹さんは鉄馬の運営にも携わっていて、レース参戦だけでなく、ロイヤルエンフィールドオーナーズイベントの併催にも尽力してくださっている。そのおかげで、ロイヤルエンフィールドオーナーズイベントの参加者は年々増えている。
そして僕は、「鉄馬」を走る度にコンチネンタルGT650レーサーが好きになり、その可能性の大きさを実感。カフェレーサースタイルはもちろん、648ccの空冷パラレルツインエンジンは傑作と言ってよく、今の時代にこの感性に触れられることは幸せでしかないと思っている。
走り出すと何か懐かしいものが込み上げてきて、スペックに捉われない楽しさや速さがあり、走る度にその良さを噛み締めるのだ。走り出した瞬間に伝わってくるこのクラシックフィーリングは紛れもなく本物で、こうしたバイクが現代に存在することに安堵する。実際、僕はコンチネンタルGT650レーサーにすっかり魅了されており、さらにサーキットという限られた場所でそのポテンシャルを解放できる悦びは何にも変え難いものがあるのだ。正直、「鉄馬」に参戦する前はコンチネンタルGT650がレースでどのくらい走るか想像もつかなかったが、それは杞憂だった。
空冷ツインエンジン&ハリスフレームが生み出すスポーツ性は抜群に面白く、軽量化&カスタム&セットアップでマシンを少しずつ進化させるのも楽しい。もちろんカッコいいバイクでカッコよく走る。これも大切なことだ。

スタンダードから25kgほどの軽量化を果たしたコンチネンタルGT650レーサー。「ロイヤルエンフィールドは白いキャンバスだから思い思いのカスタムを楽しんで欲しい」と本国のスタッフがよく言うが、カスタムの効果がわかりやすいのも魅力。

2024年の鉄馬から「ROYALENFIELD with Moto Junkie」はロイヤルエンフィールド2台体制で参戦。写真左のハンター350レーサーを駆るのは中山恵莉菜さん。彼女の参戦記は別記事にて。

カウリングは本国から取り寄せたコンチネンタルGT650カップ仕様車のもの(正規ディーラーで取り寄せ可)。シートはイギリスの通販サイトで見つけたもの。シート形状に合わせてフレームはループ加工。今回、キャストホイール仕様のコンチネンタルGT650のエンジンに積み替えたため、エンジンが黒くなった。
欲を出したのが裏目に? 2025年「鉄馬」はリズムに乗り切れず…
過去2年、コンチネンタルGT650レーサーはノントラブル。これまでエンジンは一度も開けていない。そこで鉄馬参戦3年目の2025年、僕はハイコンプピストンとハイカムシャフトを導入し、ポテンシャルアップを図った。排気量は648ccのまま、その可能性を追求したのだ。
「Moto Junkie」の中尾さんにエンジンを組んでもらい、燃調をセットアップ。その結果、シャシーダイナモ上で約10psのパワーアップを実現した。この数値を聞いて、心が躍るとはまさにこのこと。コンチネンタルGT650レーサーに想いを馳せ、僕は居ても立っても居られない数日を過ごし、いざ九州へと向かった。
しかし結論から言うと、残念ながら今回の挑戦は上手くいかなかった。練習走行時、エンジンから音が出始め、その音は走行毎に大きくなった。症状としてはピストンとシリンダーが軽い抱きつきを起こしている感じだ。昔、SRやビューエルで同じ症状を僕は体感したことがあった……。
マシンを製作してくれている「Moto Junkie」の中尾さんと相談し、このエンジンは諦め、ノーマルに載せ変える決断をした。後日、エンジンをチェックすると左シリンダーが傷だらけだったとのこと。そしてノーマルエンジンとなったコンチネンタルGT650レーサーで練習ができないまま予選に挑むが、今度は電気系の不具合が発生…。後から分かったが、電気トラブルは後付けのオートシフターが悪さをしていたようだ。ちなみに今回不具合が発生したのは全て社外パーツで、ロイヤルエンフィールドのパーツが原因となったトラブルは一度も起きていない。
予選は昨年のベストタイムの約2秒落ちとなる1分16秒582。ACT18クラス予選6位から決勝へと挑むこととなった。
ちなみに、今年初参戦となった「GT-AXEL with OVER」の上田隆仁さんが850ccにチューンされたコンチネンタルGT650で1分13秒417を記録。ポールポジションを獲得した。

チューンドエンジンにトラブルが出た後にモトジャンキーに戻り、エンジンを積み替え。モトジャンキーの面々に迅速に動いていただき鉄馬に参戦することができた。アルミ製インナータンクは中尾さんの手作り。コンチネンタルGT650レーサーには様々な中尾さんの手作りパーツが導入されている。
決勝は一人旅。ライバルは遥か彼方へ
今年のACT18クラスは11台のエントリー。初めて参戦した2023年は6台のエントリーだったことを考えると、ACT18クラスも徐々に盛り上がってきていることを実感する。ライバルはBMWやモト・グッツィ、ハーレー、ドゥカティなど様々だ。馴染みのあるライダーと挨拶を交わし、過去に繰り広げたようなおもしろいレース展開を願った。
しかし、決勝はスタート直後からライバルたちに離されることとなった。1年に1度しか走行しないHSRと今年のコンチネンタルGT650レーサーに、自分自身をフィットさせることができなかったのだ。
レースとしては残念な部分が大きかったが、ただ、コンチネンタルGT650レーサーはやっぱりとても楽しかった。
空冷648ccのパラレルツインエンジンは、270度クランクが生み出す不等間隔爆で、スロットルを開けた際のトラクションのよさが魅力。ピレリ製スポーツコンプRSの高いグリップとの相性も良く、バイクを操っている楽しさと速さがちょうど良くバランスするのだ。
この感性を長く楽しみたいなぁと思う。セットアップを進めたり、自分自身の走りを工夫したりすることでマシンとの一体感はまだまだ高められるはずだし、そんな工夫を楽しめるのがコンチネンタルGT650の魅力なのだと思う。
3年目の挑戦は、少しだけトラブルがあったものの、レースを続けていればこういったこともある。トラブルに適時対応していただいた、モトジャンキーの皆さんと輸入元であるPCIの面々には感謝しかない。レースは一人ではできない。今年も多くの仲間やスポンサーの皆さんに支えていただき、決勝は4位で完走。とても楽しい週末を過ごすことができた。この出会いはいつまでも大切にしたい、と思う。
ACT18クラスは「GT-AXEL with OVER」からコンチネンタルGT650で参戦する上田隆仁さんが1分12秒098のレコードタイムを記録し、優勝を果たした。
僕の結果はイマイチだったし、ミーティングに集まってくれた多くの方の期待には答えることができなかったが、「鉄馬」の雰囲気はとても良い。エントラント同士のコミュニケーションが豊富で、毎年友達が増えていくような感じなのだ。
さらに嬉しかったのは、多くのロイヤルエンフィールドファンと話ができ、交流ができたこと。そして、少しずつこの活動の認知度が広がっていることを実感できたことだ。「ライドピュア」「ピュアモーターサイクリング」。この精神を引き続き日本でも普及させていきたい。

タイヤウォーマーはモトコルセが取り扱うCapit製。40℃から100℃まで任意で温度設定が可能となっている。コンチネンタルGT650の場合、温めすぎるとタイヤがタレてしまうので40〜50℃くらいに設定して使用した。
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