大阪モーターサイクルショーで発表された「CB1000F コンセプト」は、ホンダファンだけではなく多くのバクファンの注目を集める存在となった。名車「CB-F」のデザインを現代に甦らせたそのデザインは、どのようにして生み出されたのだろうか? デザイナーのインタビューを通して、その本質を解き明かしていく。

「CB1000F コンセプト」のデザインに迫る

「CB」とい名前、それは常にホンダのバイクを代表するものであり続ける。そして、過去「CB」の名を冠したモデルたちは「名車」と呼ばれ、今も多くのファンを持つホンダのレガシィである。そして、そのレガシィを現代の技術で再構築すること、それは過去のホンダにおいては近畿に近い扱いを受けていたが、ビッグワンプロジェクトの成功はそれを打ち破ることに成功した。2025年「CB1300SF」シリーズの生産中止によってビッグワンプロジェクトは一旦終焉することとなったが、そのタイミングで新たに「CB」の名を冠した「CB1000F コンセプト」が発表された。

この新しい「CB1000F コンセプト」は、「エフ」の愛称で人気を博した「CB750F」や「CB900F」をモチーフとしつつ、現代のバイクの最先端技術を投入することで現代の交通事情の中で楽しむことができるモデルとして作られている。ただ単に性能だけであれば、先に発売されたコンポーネンツを共有する「CB1000 ホーネット」があればいい訳で、この「CB1000F コンセプト」の存在意義の中心に来るのは「デザイン」ということになる。

ここでは、Hondaのウェブサイトに掲載された、今回の「CB1000F コンセプト」のデザインを担当した、モーターサイクル・パワープロダクツ プロダクトデザイナーである鈴木勇波氏のお話を紹介する。

大阪モーターサイクルショーでアンベールされた「CB1000F コンセプト」は、賛否両論ありながらも2025年早々バイク業界を大きく騒がせた。

デザイナー人生においてもターニングポイントとなる予感

「CB1000F コンセプト」のデザインを担当した鈴木勇波氏は、2015年にHondaに入社し、欧州やアジア向けのバイクデザインのサポート業務を経て、その後は先行デザインや大型バイクのデザインに携わってきた。デザインを手がけた主な大型バイクはCRF1100LアフリカツインやX-ADV 750など、どれもヒットしたモデルである。

鈴木氏は入社する前から「CB」の名前は知っており、Hondaのスポーツバイクを代表するブランドと認識していた。そして、そのデザインを手がけることになった時「人生においてもターニングポイントになるモデルだろう」そんな予感があったという。

デザイナーの鈴木勇波氏は、アフリカツインやX-ADVなどのスポーティなモデルのデザインを手掛けてきた。

発表時に行なわれた開発者トークショーで示されたコンセプト。「大型MCらしさと扱いやすさの両立」を中心に各部がデザインされている。

デザインを進めるにあたっては、歴史のあるCBが「どのように進化してきたのか」を考え、これまでのCBを並べて見ながらデザインチームで議論を重ねた。デザイナーチーム30代までの若い人材が中心となっており、「CBとはどのようなモデルなのか」を解釈することからデザインはスタート。その結果デザインチームが結論づけた「CB」像は、時代に合わせた最先端のテクノロジーを盛り込みながら、スポーツから日常まであらゆるシーンでライディングの楽しみを提供するバイクというものであった。

2020年に発表された「CB-F コンセプト」はコロナ禍であったためにオンラインでの公開となり、プロジェクトそのものが生産関係の都合で一旦中止となってしまった。しかし、この「CB-F コンセプト」には大きな反響があり、ロードスポーツのこれからの基準となるモデルを考えたとき、改めて「CB1000Fコンセプト」の企画が動き出した。

Best Balance Roadsterを目指して

「CB1000F コンセプト」のデザインコンセプトは「新しい時代のCB」であり、大型FUNカテゴリーのGMである坂本順一氏からは「丸目のジャパニーズネイキッド」だけが指定された。この坂本氏からのオーダーに対して、デザインチームは5種類のデザインを提案。F系デザイン以外には、スーパーフォア的なものやCB650Rの兄貴的なもの、もう少しスポーティなものや実用的なものなどがあったが、チームが最終的に選んだのはFコンセプトだった。

開発コンセプトとしてはトップモデルとしてのCBらしさと乗りやすさ、そして使いやすさのバランスが取れた「Best Balance Roadster (ベストバランスロードスター)」が掲げられ、そこからデザインキーワードとして「Re-Construction(リコンストラクション)=再構築」が決定、「CB」たる存在感を現代に求められるプロポーションへと再構築していった。

「エフ」のイメージを引き継ぎつつ、「新しい時代のCB」をコンセプトに「CB1000F コンセプト」はデザインされたという。

リコンストラクションする上でのポイントとして、必ずなくてはならないと思ったのは“風格”だと鈴木氏は言う。今までのCBシリーズを見返したときに、どの時代においてもそのトップモデルには堂々たる風格があるのだと気がついたのだ。ただ、今回の「CB1000F コンセプト」の場合、「風格があっても、手の届かない存在にはしたくない」そんな思いがあり、風格をもちながらも、あらゆるキャリアのライダーが、自分にも楽しめそうだなと思ってもらえるバランスを意識したデザインを目指した。

その意識が具現化した具体的なポイントとしては、エンジン周りやタンクに力強い要素をもってきて、水平基調をベースにヘッドライトの位置を決めるなどして風格ある佇まいを表現。そして、その反対にシートから後方に向けて、軽やかにスッと抜けるようなデザインにすることでコントラストを演出。軽やかさをプラスすることで、風格がありつつも扱いやすさを感じるものにまとめられた。

エンジン周りやタンクに力強い要素をもってくることで、風格を感じさせるデザインにまとめられている。

鈴木氏は「風格に軽やかさを加えることを目指したとはいえ、過去のCBとは少し異なったアプローチのデザインなので、最初はスケッチを描いている私自身にも違和感はありました。そしてスケッチから3次元のモデルに起こしていく際になるとまた違った印象になるので、風格と軽やかさのベストなコントラストを実現するために、スケッチやモデルでのトライを繰り返しました」とその苦労を語る。

デザイン的な新しいチャレンジとしては、サーフェス(面)の硬さと柔らかさのバランスがあり、描いたスケッチから立体にする際にモデラーと話しながら試行錯誤。ロードスポーツバイクとしてのオーソドックスな部品構成は守りたいという思いがあり、スチール製のフューエルタンクを採用。スチールらしい面の表情、角のRの取り方でも硬さと柔らかさのバランスを意識している。

テールライトの大きさもこだわった部分で、最初は少し小さめのものが考えられていた。しかし、フロントに力強さを凝縮しているとはいえ、全方位で見た時の風格を考慮すると、後ろから見た時の存在感も欠かせないと思い現在のデザインに落着。フロントはオーソドックスな丸形ヘッドライトだが、取り付ける高さはかなり吟味されており、ヘッドライトの位置でスポーティーさを表現しつつ、胸を張ったような堂々とした風格を表現するために、最適な位置を何度も検討して現在の位置に決まった。

「CB」らしさを感じさせるフューエルタンクは、フレームやエアクリーナーといった既存のパーツとのせめぎ合いの中でデザインされている。

「CB1000F コンセプト」のデザインにおけるオーダーのひとつは、「丸目」のジャパニーズネイキッドであることであった。

テールライトは初期はもっとコンパクトなデザインだったというが、リアビューの存在感を意識したことで現在のデザインにまとめられた。

時代を超えて愛される普遍的なデザイン

「CB1000F コンセプト」はその名称に「F」が入る以上、過去の「CB-F」シリーズがモチーフになっている。鈴木氏がその中でも強く意識したのが、現代でも新鮮だと感じるFの特徴でもあるシンプルな造形やクリーンなサーフェスだ。時代を超えても受け入れられる、廃れない普遍的なデザインであることが大事だと考え、このCB1000Fコンセプトも、時代を経てもいつまでも新鮮さを感じてもらえるバイクにすることが意識されている。

鈴木氏はこの「CB1000Fコンセプト」のプロジェクトを通して、改めてCBのこれまでの歩みとそこにある先人達の想いに触れる機会を得ることができ、多くの学びがあったという。環境規制など、バイクを取り巻く環境はどんどん変化して中でもCBは、提供するべき価値が変わらないモデルであってほしいと最後に語った。

「CB」の名を冠するに値する風格のあるデザイン、そして最新のテクノロジーが詰め込まれた「CB1000F コンセプト」はもうすぐ公道にその姿を表すだろう。

デザイナーの言葉に感じた強い思い

「新しい時代のCB」をコンセプトにデザインされた「CB1000F コンセプト」には、「CB」の名前に相応しい「風格」、「スポーティさ」、「美しさ」などがバランスよく盛り込まれる。そして、そこにさらに「新しさ」をプラスし、どこか懐かしさを感じさせつつも現代的なバイクのデザインとして完成させている。過去に成功したモデルのデザインをリコンストラクションすることには、ある種の責任が伴ってしまう。そのプレッシャーの下でデザインされた「CB1000F コンセプト」は、多くのライダーたちの注目を集めることに成功した。

「CB1000F コンセプト」は現時点ではあくまでも「コンセプトモデル」であり、発売時期どころか発売そのものもまだ未定となっている。しかし、近年これだけ期待を集めたコンセプトモデルも稀有なだけに、近く公道を走り始めることになるだろう。

CB1000Fは「これこそHondaのCBだね」と思えるデザインを目指した! デザイナーインタビューで語られたその想い (9枚)

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コメント一覧
  1. 匿名 より:

    ケツ上がり過ぎ。タイヤとの空間が不自然。軽やかさいらんて。フルカウルスポーツやモタード的なバイクはありやけど。

  2. 匿名 より:

    アンタ一人のためにデザインしてるわけじゃないから。

  3. 匿名 より:

    私も同感。ケツ上がりすぎ。最近のバイクはケツ上がりすぎ傾向にあるが、レトロ、クラシカル、リバイバル的なバイクはもっと水平基調で行くべきだと思う。リアサスも2本のバイクは皆無に近い。一本にしたせいでタイヤとシート下の間がスカスカで私もこの空間がすきではないですね。そういう意味では、Z900RSはまだバランスが取れているように思う。価格の割には特段たいした機能がついてないのに売れているのはそのあたりかな。

  4. MKiara より:

    Z900RSのほうが、むしろよりスカスカだと思うが。なおかつリヤカウルの長さが、短く寸詰まりに見える。ドレミとかのアフターパーツ入れないとその印象は解消しない。
    その点、このCBのコンセプトのほうが、ベースのホーネットからだいぶ頑張ったと感じる。

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