2025年4月19日~20日に開催された第60回ル・マン24時間耐久ロードレース(バイク部門)において、カワサキはNinja ZX-10RRで長時間トップを走行し、最終的に表彰台を獲得。さらに、その舞台裏では“未来の駆動技術”ともいえる水素エンジンプロジェクト「HySE(ハイス)」で開発中のエンジンを搭載する水素バイクのデモンストレーション走行も実施された。本機の走行シーンが一般公開されるのは、昨年の「鈴鹿8耐」以来2度目のこととなる。

水素燃料で駆動する「H2H2」、ピットアウトからデモラップへ──ル・マンの大観衆が注目

HySEは、「Hydrogen Small mobility & Engine technology Association」におけるカワサキの研究開発プロジェクトで、同社のスーパーチャージャー搭載Ninja H2 SXをベースに製作された試作車両が2023年冬に車体が発表され話題を呼んだ。昨年の7月には「鈴鹿8耐」にてサーキット走行シーンを披露、HySEは車体後方左右に専用の水素タンクを装備し、水素のみで駆動。排出物はごく微量の水蒸気に限られ、実走行可能な“ゼロエミッション”モーターサイクルで、カワサキは2030年頃の発売を目指して開発を進めているという。その車名はベースのH2と水素をもじって「H2H2」とも呼ばれている。

HySEを搭載する「H2H2」はNinja H2 SXをベースに作成された水素バイクだ。

ルマン24時間耐久レースにて、その走行シーンが2度目の一般公開された。

現在は1時間程度の走行が可能で、2030年頃を目指して開発が進行中だ。

先日フランス・ルマンで開催された「EWCルマン24時間耐久」レースでは、主催者ASO(ツール・ド・フランスなども統括)からの正式招待により、カワサキはこのHySE「H2H2」をル・マンの会場に持ち込んだ。テストライダーのマティアス・ヘプナーがレース開始15分前にピットレーンから走行を開始。約4.13kmのコースを1周するデモンストレーション走行を行い、世界中のTV中継を通じて注目を集めたのだ。

ヘプナー氏は「水素バイクに乗るたびに未来に触れている実感がある。多くの観客に実際に動く“水素のバイク”を見てもらえたことは非常に意義深い」とコメントしている。

ASOは水素&EV耐久レースを視野に。万博でも掲げる水素エンジンによる未来のモビリティ登場は遠くない

今回のHySE展示およびH2H2走行は、ASOが長期的に掲げる「H24」戦略──水素・電動車両による24時間耐久レース開催構想──の一環でもあり、バイク分野での可能性提示として高い評価を受けている。カワサキは現在、ガソリンエンジンモデルだけでなく、電動バイク、ハイブリッドバイク、水素研究機も展開しており、国内バイクメーカーの中では唯一、実走行可能な水素エンジンを開発中だ。ル・マン会場には一般来場者向けに展示ブースを設け、HySEの解説や現行モデルの展示も実施。さらに会場内では、子ども向けの水素列車や水素発電機の展示も行われ、イベント全体としても“グリーン”な方向性が強調された。

国内でも、先日よりプレオープンしている大阪・関西万博にて、カワサキは水素エンジンを搭載する動力ユニット「O'CUVOID(オキュボイド)」を軸とした、陸海空をゼロエミッションで移動できるモビリティを展示中だ。さらにやはり水素エンジンを用いた、4足歩行する動物型の「CORLEO(コルレオ)」も話題を呼んでいる。これらのコンセプトは「2050年の交通システム」と銘打たれており、実現には30年近い時間がかかるみこみながら、今回の「HySE」搭載H2H2デモランによって、水素エンジンが活躍する近未来はリアルに感じられることとなった。実用に向けた続報にも期待していきたい。

H2H2は、現在はまだ大型のタンクを備えており、昨年鈴鹿に登場した際と姿は変わっていない。

大阪・関西万博で川崎重工が展示している水素エンジンパワーユニット「オキュボイド」。

さらに水素エンジンで動く4足歩行モビリティ「コルレオ」も登場。水素の最大活用を狙って開発は進んでいる。

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