先日袖ヶ浦フォレストレースウェイにて開催された「CB FAN MEETING」で丸山 浩氏とのトークショーに登場した、本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部二輪事業統括部 大型FUNカテゴリーGMである坂本順一氏に「CB1000Fコンセプト」についてのインタビューを行なうことができた。この新しい「CB」はどんなものに仕上がっているのだろうか。

コロナで一度潰えたプロジェクトの復活

編集部 お時間いただきありがとうございます。早速ですが、2020年に出た「CB-Fコンセプト」について、ホンダさんははっきり「出ない」とおっしゃったと思います。前回はCB1000Rベースでしたが、今回の「CB1000Fコンセプト」は新型のCB1000ホーネットベースですよね?

坂本順一氏(以下坂本) はい、そうですね。

編集部 新しいホーネットが出て、もう一度CB-F系デザインのコンセプトモデルを作ることになったきっかけは何だったのでしょうか?

坂本 前の「CB-Fコンセプト」は、コロナの影響で事業計画が見直しになってしまったんです。本当であればラインナップに加えるつもりで開発していました。

編集部 なるほど。開発としては「CB-Fコンセプト」を基本的に売るつもりで進めていたんですね。

坂本 はい。「CB-Fコンセプト」のプロジェクト自体は一度終わってしまったんですが、「CB」は残していかないといけないという話はしていました。私は企画部門の責任者をやっているので、どこかのタイミングでもう一度やろうと虎視眈々とチャンスを狙ってしました。CB1000ホーネットの開発が始まる段階で、この「CB1000Fコンセプト」の開発もほぼ同時にスタートしました。このプロジェクトの開発メンバーには、これからのホンダを支えていくことになる経験豊富な若手を起用しました。

編集部 若手ということは30代くらいですか?

坂本 そうですね。40代以下をメインにしました。

編集部 なるほど。

「CB1000Fコンセプト」の開発を主導した、本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部二輪事業統括部 大型FUNカテゴリーGM 坂本順一氏。

大阪モーターサイクルショーでアンベールされた「CB1000Fコンセプト」は、ホンダファンだけではなくバイク業界全体から注目を集めた。

既に完成車のような仕上がりを見せる「CB1000Fコンセプト」だがウインカーやリアフェンダーなどがまだ装着されていない。

坂本 実は、開発に関して「F」ありきではありませんでした。条件としては「ジャパンネイキッド」、つまり丸目のスタンダードなネイキッドということだけでした。なので、開発メンバーからは5種類のアイデアが出てきました。F系デザイン以外には、スーパーフォア的なものやCB650Rの兄貴的なもの、もう少しスポーティなものや実用的なものなどがありましたが、チームが最終的に提案してきたのはFコンセプトでした。

スーパーフォアテイストのデザインも検討された。「CB1000Fコンセプト」のコンセプトを考えると、CB1300SFよりもCB400SFのほうがイメージに近い気がする

Eクラッチも話題のCB650Rの兄貴分的なデザインも候補に。フレームの形状などを考えると、この方向性のデザインもまとまりが良さそうではある。

編集部 5種類の中から結果としてF系のデザインが選ばれたということですね。

坂本 そうですね。ただ、そのコンセプトに確証を得るために、日本とヨーロッパでユーザーを集め、スケッチを見せてアンケートを取ったんです。

編集部 なるほど。ということは、「CB1000Fコンセプト」はグローバルモデルという位置付けなんですね。

坂本 はい。グローバルモデルとして出したいという思いで作っています。若い方からベテランまでユーザーを集めたのですが、アンケートの結果として日本でもヨーロッパでもFコンセプトが一番でした。Fコンセプトを選んだ人は昔のFを知っていて、例えばリア周りの形状だとタンデムシートを含めたダブルシートの長さであるとか、シートカウルの厚みと長さ。そういった部分に安心感を覚えているようなんです。「後ろに人を乗せても快適に走れそうだ」とか、「荷物を載せても大丈夫そうだ」という理由でFコンセプトを選んでいる人も多かったんです。改めて、お客様は第一印象でそういうことを感じているんだな、ということに気付かされました。

編集部 なるほど。マルチユースなネイキッドバイクとして受け入れられた感じなんですね。

ヘッドライトは上下分割タイプの丸型LEDを装着する。坂本氏が出した数少ない条件の中で、「丸目」のヘッドライトはマストであったという。

二人乗りや荷物の積載などが楽にできそうと、ユーザーアンケートでこのデザインが選ばれた理由の一つがこのシートだ。

テールカウルとテールライトは元々もっと細くスポーティなデザインのものだったが、坂本氏がデザインに修正を依頼してこのデザインに落ち着いたという。

デザインと機能性がせめぎ合った開発

編集部 ホーネットとの同時開発ということで、デザイン的に苦労された部分が多かったのではありませんか?フレームの形状も決まっているので、タンクあたりは特に苦労されたんではありませんか?

坂本 そうですね。Fの特徴である天地の抑えられた長いタンクデザインを表現するのは苦労しました。フレーム以外に、実はエアクリーナーのボリュームがかなりタンクの部分に影響してくるんです。フレームを逃がしつつエアクリーナーのボリュームを確保するというのは、チームも相当苦労しました。初期段階ではタンクがもっと上に上がっていたり、横幅がもう少し広かったりしました。形状はもちろん、ライディングポジションも重要なので、本当にそのあたりをうまくバランスさせて仕上げてくれたなと思います。燃料タンクの容量はまだ公表していないのですが、リッタークラスのネイキッドとしては標準的な容量が確保できています。

編集部 燃料タンクの容量は重要なファクターですよね。

坂本 ええ。ガソリンスタンドの数自体が減ってきていることもありますからね。

燃料タンクのデザインにおいて頭を悩ませたのは、大きく張り出したフレームと、エアクリーナーボックスだったという。

編集部 メーターのデザインについては、発表直後からかなり話題になっていると思うのですが。

坂本 そうですね。当然TFTの液晶にするか、アナログの砲弾タイプなどにするかは検討しました。これはチーム内でもかなり議論があったと聞いています。僕自身はあまりこだわってはいなくて、チームが最終的にTFT液晶を選んだ最大の理由はスマートフォンとの連携でした。プロポーションだけで言えば砲弾型のアナログというのがセオリーだとは思いますが、今の使い勝手で行くとスマートフォンはマストだと思うんです。スマートフォンをマウントして使っている方も多いとは思うのですが、やはり壊れてしまったりという事例があることを聞いています。それを避けるためにも、だったらメーター自体をスマホと連携させてシンプルにいったほうがいいのではないかというのがチームの最終判断でした。僕自身も今はスマートフォンをマウントして使ってますが、2回ぐらい壊れてしまったんです。そんな経験もあって、チームの意見を自然に受け入れて、プロポーションよりも使い勝手を優先しました。

編集部 ブルートゥースでスマートフォンと連携させて使う感じになる訳ですね。

坂本 そうですね。Honda Roadsyncと連携します。Honda Roadsync自体がアップデートされていくので、将来的にはさらに使いやすくなると思います。賛否あるのは承知していますが、そこは意思を持って液晶を選びました。

メーターは5インチのTFT液晶タイプ。砲弾型なども当然検討されたが、使い勝手の部分を重視して液晶タイプが採用されたという。

シンプルにまとめられたスイッチ類。モードセレクト用のスイッチが独立しており、メーター操作用と思われる十字スイッチが設けられている。

右側にはスターター+キルスイッチと、ハザードランプのスイッチが装着される。ブレーキのリザーバータンクはクリアタイプとなっている。

エンジン、車体はホーネットベースだが、専用セッティングで街中を重視

編集部 エンジンですが、これは基本的にはホーネットに準じると考えていいのでしょうか?

坂本 基本的にはホーネットに準じてはいるんですが、そのまま使ってしまうとコンセプトである「スタンダードネイキッド」とはアンマッチだということで、吸排気は当然のことながら、カム周りなどにもかなり手を入れています。

編集部 中低速向けにセッティングされているということですか?

坂本 そうですね。かなりピークは抑えて、中低速に持っていっています。それなので、街中で
本当に気持ちいいセッティングになっていると思います。元々CBR1000RRのエンジンですから、「回せ、回せ!」となっているのではないかと思われるかもしれませんが、そこはかなり意思を入れて街中で気持ちいい仕様にしています。

編集部 それは期待が膨らみますね。

坂本 ええ。期待していてください。

エンジンはホーネット同様に2014年型CBR1000RR用がベース。ホーネットはスタンダードでも152PSを発揮するが、「CB1000Fコンセプト」ではピークを削って中低速を強化したセッティングになっているという。

フレームは基本的にホーネットと共通のスチール製。アンダーフレームを持たないため、エンジンの存在感を大きく感じさせる。

エキゾーストシステムは排気バルブなどは持たない専用設計品。メガホン風デザインのサイレンサーからは、低音の効いた心地よい4気筒らしいサウンドがしそうだ。

編集部 足周りはホーネットと変更されているんでしょうか?

坂本 足周りも基本的にはホーネットに準じてはいるのですが、専用のセッティングになっています。

編集部 バネレートなどは変えられているということですね?

坂本 はい。どちらかと言えばソフトな方向のセッティングになっています。

編集部 車体重量はどのくらいになるのでしょうか?

坂本 ホーネットが212kgだと思うのですが、若干それよりも重くなっています。ただ、本当に数キロレベルです。私はチームに「215kgは絶対に切ってね」と伝えていて、それは確実に守れるという返事をもらっています。なので、リッタークラスとしてはかなり軽い類になると思います。教習所で使っているCB400SFベースの車両が200kgを超えているので、普通免許からステップアップするお客様に十分受け入れていただける重量になっていると思います。

フロントはホーネット同様の倒立フォークを採用しているが、ソフトな方向にセッティングされているという。ブレーキは実績のあるニッシン製のラジアルマウントタイプが採用される。

スイングアームの形状はホーネットと同形状と思われるが、サスペンションはフロント同様にソフトな方向にセッティングされる。

リアブレーキもニッシン製のキャリパーを採用。このあたりも基本的にホーネットと同じ仕様となる。

新しい時代の「CB」としてさまざまな展開を期待

編集部 ライバルは当然カワサキのZ900RSになると思うのですが、エンジンスペック的にはベースから考えても圧倒していると思うのですが?

坂本 そうですね。ただ、Z900RSはとても強い商品力を持っているので、ライバルというよりも一緒にスタンダードネイキッドを盛り上げていきたいなと思っています。コロナで入ってきた新規ユーザーのステップアップ先として業界全体で盛り上げていかないと、日本の市場がどんどん縮小してしまうと思うんです。

編集部 なるほど。タイミングとしてCB1300SFが生産終了となった直後に発表されたのですが、このモデルはCB1300SFの代わりという訳ではありませんよね?

坂本 代わりという訳ではありませんね。「乗れるものなら乗ってみろ」というイメージのビッグワンプロジェクトとはまったく違うプロジェクトです。時代に合わせてこれからのCBを提案させていただいたという形です。

編集部 フレームが鉄ということもあって、ネイキッドレースに参加しようというユーザーも出てくると思うのですが、そのあたりは意識されましたか?

坂本 意識してますね。私自身学生時代にNKのレースに参戦してやっていたこともあって、今回はモリワキさんにコンセプトバイクを作ってもらっています。モリワキさんもかなり本気で開発を進めてくださっていますので、一緒にやっていきたいと思っています。その活動を見て、他の有力サプライヤーさんも仲間になってくれるといいなと思っていて、気軽に参加できるレースが増えるといいなと思っています。

編集部 なるほど。それもまた楽しみですね。最後にユーザーに向けて一言お願いします。

坂本 「CB」というバイクの位置付けというのはモーターサイクルの基準だと思っていまして、とても重要なポジションだと思っています。重量や運動性能、先進装備などを備えつつ、手の届く価格に抑えるという、これからのモーターサイクルの基準となっていくことを意識しています。そして、ユーザーの方に長く乗っていただき、モリワキさんやビームスさんにお願いしたカスタム車両のように、手に入れた後で色々な楽しみ方をしていただけばいいなと思っています。これからのCBとして、発売された暁には色々なアップデートを順次していくつもりです。ベテランのユーザーには軽くなったCBというのを体感していただきたいですし、若いユーザーにはGBやレブルからのステップアップ先として検討していただければと思っています。これからの時代のCBということで、ぜひご支援いただいてなんとか発売まで持っていきたいと思っています。

編集部 発売、期待しております。本日はありがとうございました。

ホンダを代表する次世代の「CB」として開発された「CB1000Fコンセプト」。その完成度の高さを今回のインタビューから感じ取ることができた。発売が待ち遠しい。

[開発者インタビュー]「CB1000Fコンセプト」は、街中での気持ちよさを考えたスタンダードネイキッドとして開発 (19枚)

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コメント一覧
  1. 匿名 より:

    すごくいいけどアナログメーターもほしいかな・・

  2. tony50rider より:

    リヤサス二本の方が好き

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