
取材協力:バイク王つくば絶版車館
「レーサーレプリカ」という言葉がまだバイクシーンの主役だった時代、各メーカーは毎年のようにモデルチェンジを繰り返してその性能を競った。そして、レーサーレプリカの絶対王者とも言えたのが、ホンダの「NSR250R」だろう。
目次
熾烈を極めた2ストロークレーサーレプリカ開発競争
初代NSR250RであるMC16型が登場した1987年は、バイクブームの真っ盛りであった。ホンダは1984年にNS250Rを発売していたが、その翌年の1985年によりレーサーTZに近いパッケージで発売されたヤマハのTZR250が発売された。TZRに対抗すべく開発されたNSR250Rは、市販レーサーRS250をそのまま公道に持ち出したような過激なスタイルとスペックで一躍人気モデルとなった。
当時はレースも盛んで、最も盛り上がっていたのは4ストロークの400cc以下、または2ストロークの250cc以下で競う「TT-F3」というクラスである。2024年までST600クラスで行なわれている鈴鹿4時間耐久レースも2000年まではこのTT-F3レギュレーションで行なわれており、免許制度の関係もありこのクラスの開発に各メーカーが注力していた。
特に車検の無い2ストローク250ccクラスは人気が高く、ホンダはNS250RからNSR250R、ヤマハはTZR250、スズキはRG250γ、カワサキはKR250からKR-1と過激とも言えるスペックを持ったマシンが次々に発売され、レーサーレプリカブームを牽引した。このライバルたちの中でホンダだけ最初からV型エンジンを採用しており、後にヤマハとスズキがV型エンジンへとスイッチ、カワサキはこの2ストロークレプリカ戦線から離脱している。
NSR250Rは1988年にMC18型へ、1990年にはMC21型へ、1993年にMC28型へとフルモデルチェンジが行なわれた。型式としては4つだが、カラーリングやカウルのデザインなど毎年モデルチェンジが行なわれている。今回撮影させていただいたのはNSR250Rとしては最終型となるMC28型で、乾式クラッチやマグネシウム製ホイール、減衰力調整機構付きの前後サスペンションなどを備えたNSR250R SPだ。
プロアームとPGMメモリーカードを採用したMC28
MC28型のNSR250R最大の特徴は、電子機能を持たせたPGMメモリーカード・システムを採用したことと、リアのスイングアームがプロアームになったことだ。
パワーユニットは初代MC16から改良を重ねつつ使い続けられている2ストロークV型2気筒249ccのMC16Eだが、自主規制の強化によって最高出力がそれまでの45PSから40PSへとダウン、最大トルクも3.7kgmから3.3kgmにダウンしている。この出力はエキゾーストシステムとエンジンマネージメントシステムによって行なわれており、レースに出場する場合はレース用のキットパーツの装着とHRCから供給された競技用PGMメモリーカードを使用することで70PSを超える最高出力を発揮したと言われている。今回撮影させていただいたのはSPなので、クラッチは乾式となっている。
足回りの大きな特徴であるプロアームは、元々ホンダの耐久レーサーがタイヤ交換の時間を短縮するために開発したものであり、GP用のレーサーであるNSR250には採用されていない。しかし、市販レーサーのRS250Rは1993年モデルからプロアームが採用されており、NSRのプロアーム採用はホンダのレーサーイメージを大きく出すために採用されたと言えるだろう。それともうひとつ、ガルアームはヤマハがパテントを持っており、その使用期限が1993年いっぱいだったためそれに代わるスイングアームとして白羽の矢がたったのである。プロアームはルックスのインパクトとしてはそれまで採用されていたガルアームよりも大きく、他のメーカーの2ストロークレーサーレプリカとの差別化を行なうことで商品性のアップにもつながったと言えるだろう。フロントフォークはコンベンショナルな正立タイプのフロントフォークだが、SP仕様は前後のサスペンションが減衰力調整機構付きとなり、ホイールはマグネシウム製が奢られている。
2ストロークエンジン車の最高峰
高い完成度を誇ったMC28型NSR250Rはレースでも活躍したが、1989年に発売されたゼファー400によって時代はネイキッドブームへと移行。大幅なモデルチェンジをすることなく1996年に最後のモデルチェンジを行ない、1998年の排出ガス規制に対応することなくNSR250Rはその歴史に幕を下ろした。
1995年型のNSR250Rは発売当時税別80万円であったが、現在中古車の価格を調べると安いものでも150万円、高いものだと500万円というプライスタグが付けられている。手に入れるにはもう高くなりすぎてしまったとは思うが、今はもう生産されていない2ストロークエンジン搭載車の最高峰とも言えるNSR250Rシリーズは、今後さらに値上がりしていくことになりそうだ。
NSR250R SP主要諸元(1995)
・全長×全幅×全高:1970×650×1045mm
・ホイールベース:1340mm
・シート高:770mm
・車両重量:156kg
・エンジン:水冷2ストロークV型2気筒249cc
・最高出力:40PS/9000rpm
・最大トルク:3.3kgm/8500rpm
・変速機:6段リターン
・燃料タンク容量:16L
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=110/70-17、R=150/60-17
・価格:80万円(税別当時価格)
撮影協力:バイク王つくば絶版車館
住所:茨城県つくばみらい市小絹120
電話:0297-21-8190
営業時間:10:00~19:00
定休日:木曜日
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まあズルして手に入れた王者の称号だけどなww