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脅威の電脳ネイキッド、その実力の片鱗を見る
最終コーナーの立ち上がりで200km/hを超え、そこからぐんぐん加速。1コーナーが迫る頃、メーターは275km/hを超えようとしていた。まだまだ1本目の走行枠のため、余裕を持ってブレーキング…。これはポルトガルのポルティマオ・サーキット(アウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルヴェ)で行われたトライアンフ スピードトリプル1200RSのグローバル・プレス・ライドでのワンシーン。
1本目の走行を終え、まず「ネイキッドでこんなスピードを出したことがあったかな?」と思った。違和感も恐怖感もないためスロットルを開け続けたが、2025年モデルのスピードトリプル1200RSとのファーストコンタクトのインパクトはとても大きかった。
初代スピードトリプルであるスピードトリプル900は、ストリートファイターの先駆けとして1995年に登場。モデルチェンジのたびに洗練されてきたというよりは、奇抜さを増し、その個性を解放。2眼ライトになってからは揺るぎない存在感をアピール。3気筒エンジンは現在1160ccまで拡大され、最高出力は183psを発揮する。ひと昔前は並列3気筒の魅力は絶対的なパワーよりもトルクと言われていたが、もはや最新はパワーも凄まじい領域に突入している。
2025年モデルのスピードトリプル1200RSは、既存のモデルからそれほど大きく印象が変わったわけではない。それもそのはずでディメンションに変更はなく、外観上の違いはデザインとハンドル。ハンドルは左右10mm広げられ7mm手前になった。しかし、中身は激変。なぜトライアンフがこのサーキットでグローバル・プレス・ライドを行ったのかもよくわかる。

エンジンと電子制御を刷新し、生まれ変わった2025年モデルのスピードトリプル1200RS。222万5000円(ジェットブラック)、227万円(グラナイト/ディアブロレッド、グラナイト/トライアンフパフォーマンスイエロー)
トライアンフの大排気量並列3気筒が生み出す圧倒的トルク感
10年ぶりに訪れたポルティマオのコースはアップ&ダウンに富み、常に空に向かって加減速しているような設計。前後輪ともに荷重の抜けるシーンが多く、ライダーは積極的な荷重移動が求められ、バイクの電子制御に頼る部分がとても多い。こうしたコースを走ると、改めてMotoGPやWSBKライダーの凄さを実感する。
しかし、ネイキッドでこれほど電子制御に頼ってサーキットを走る時代が来るとは思ってもいなかった。今回はサーキットと一般道のテストが設けられていて、サーキットは最初の一本がドライで、その他は一般道を含めて全てウエットだった。

1160ccのDOHC4バルブ並列3気筒エンジン。最高出力は183ps/10750rpm、最大トルクは128Nm/8750rpm。クランク周りを見直すことで前モデルより3ps、3Nm向上させることに成功した。
それにしてもトライアンフの3気筒エンジンは、とても不思議な感性を持っている。絶対的なトルクは大きくても体感的なトルクが小さかったりするエンジンもある中、トライアンフの3気筒は絶対的なトルクも大きくて、体感的トルクはさらに大きい。
これはライバルと最大トルクを比較してみるとよくわかる。例えばHonda CB1300は112Nm/6250rpm、Ducati ストリートファイターV4は120Nm/11250rpm、Kawasaki ZH2は137Nm/8500rpmとなっており、スピードトリプル1200RSは128Nm/8750rpm。スーパーチャージャー付きのZH2には及ばないものの、この数値は特筆。前途したように体感トルクはさらに大きいのである。
1990年に4気筒とのモジュラーエンジンとして登場したトライアンフの3気筒は、35年の歳月をかけて進化。レースファンにはMoto2のエンジンサプライヤーとしてお馴染みだし、現代においては「トライアンフのスポーツバイク=並列3気筒エンジン」という認識で周知されている。そんなロードスターモデルのフラッグシップがスピードトリプル1200RS。スピードトリプル誕生から30年目のマシンだ。
助けてもらう電子制御でなく、積極的に使う電子制御
サーキットでは、エンジンのトルクを有効に使える並列3気筒の特性と最新の電子制御が完璧にマッチしていた。スロットル操作にリニアに反応するエンジンは、トラクションを効率的に生み出すことができ、常に安定してパワー&トルクを使うことができる。
一新された電子制御は、まさに秀逸。オーリンズ製の電子制御サスペンションは理想的な動きを披露。よく動いていることを実感でき、それでいてハイグリップタイヤをきちんと路面に吸い付かせる絶妙なバランスを見せてくれる。アップ&ダウンの多いコースでもバイクが極端な前下がりや後下がりの姿勢にならず、ABSやトラクションコントロールと綿密な連携を取りながら、常に曲がりやすい姿勢を導き出してくれるのだ。
10mmワイドになり、7mm手前になったハンドルは、バイクをコンパクトに感じさせ、身長165cmと小柄な僕には、とてもありがたい進化だった。
しかし、1本目の走行を終えると路面はウエットに。レインタイヤを履いて「レイン」モードで走行すると、そこではさらに明確に制御の介入を体感。大きな違和感はなく、コースやバイクに慣れたせいか最高速も275km/hほどを確認。スピードトリプル1200RSは、雨の中でもとんでもないポテンシャルを披露してくれた。

僕のイメージでは、トライアンフの3気筒は、4気筒よりも幅の狭いエンジンが生み出す軽快さを持ちつつ、立ち上がりでは2気筒のようなトラクションを使え、直線では4気筒のように伸びるエンジンだ。そしてその個性を様々なシーンで使えるのが大きな魅力。
溢れ出すトルクは一般道でも健在!
翌日の一般道の試乗も生憎の雨だ。気分は上がらなかったものの、走り出すとスピードトリプル1200RSは一般道でも新しさに溢れていた。モードは「レイン」。こんな日はサスペンションをよく動かして軽く曲がれるバイクにするのがいい。電子制御で簡単に昨日とまるで異なるバイクに仕立てられることが、バイクライフの可能性を広げてくれる。
欧州の路面は刻一刻と変わる。アスファルトの色や種類も統一されておらず、濡れているのか乾いているのかの判断も難しい。アスファルトの隙間からは草が生え、突然バンプが出現。小さな街に入ると石畳があり、ようは滑るシーンがたくさんある。
標準タイヤのピレリ製ディアブロスーパーコルサSP V3は、スポーツ寄りのタイヤ。雨は苦手だ。しかしそこを電子制御がサポート。エンジンの出力特性を穏やかにし、サスペンションをソフトにし、トラクションコントロールやABSを早めに介入させることできちんとツーリングバイクとして成立させている。
一般道でもトルクが溢れ出すエンジンは、発進するとすぐにクイックシフトを使ってギヤを5速、6速に送り込むことができ、低中回転域のトルクが立ち上がる部分を有効的に使うことが可能。これは、力強さと気持ちよさが共存する大排気量3気筒ならではのトピックで、こういった日常の速度域でもグリップを引き出せている実感を掴みやすい。
過酷なシーンでも、グレードの高いオーリンズやブレンボの装備はとても優秀。サスペンションは乗り心地や快適性を提供してくれ、ブレンボの優しいタッチがサスペンションをしなやかに動かす。これが良いバイクに乗っていることを実感させてくれ、操作そのものがとても気持ちいいのだ。
スピードトリプル1200RSは、一般道では余裕の塊だ。そしてビッグバイク特有の存在感と面白さがある。とてつもなく大きい数値的トルクと体感的トルクは、1160ccの大排気量3気筒ならでは。トルクに支配された、スロットル操作でバイクを自在に操る世界を見てみてはいかがだろう。
スピードトリプル1200RSの3色のカラバリを見てみよう!
電脳ネイキッド、覚醒!ストリートファイターの真価を探る【トライアンフ スピードトリプル1200RS 海外試乗インプレ】ギャラリーへ (25枚)この記事にいいねする