
「Fun Master of Super Sport」をコンセプトに2022年に発売されたヤマハ「YZF-R7」。ストリートファイター「MT-07」をベースとしつつ、フレームの剛性バランスを調整してスポーティなハンドリング実現し、リヤサスペンションは専用設計となっている。YZF-Rシリーズのスタイリングを継承し、幅広いレベルのライダーが楽しめるように開発されている。
文:小川浩康 写真:コイズミユウコ目次
2025年モデルはニューカラーを採用
YZF-R7の水冷DOHC4バルブ直列2気筒688ccエンジンは、「慣性トルクが少なく、燃焼室のみで生み出される燃焼トルクだけを効率よく引き出す、クロスプレーン・コンセプト」という設計思想に基づいて開発されている。クロスプレーン・コンセプト2気筒の頭文字をとって「CP2」とも呼ばれるYZF-R7のエンジンは、パワー感とトルク感をより引き出すためにハイスロットル化され、2次レシオをMT-07よりも高速寄りとし、軽いクラッチ操作と過分なエンジンブレーキを軽減するアシスト&スリッパークラッチも装備。よりスポーティな特性となっている。
そのスポーティな乗り味に合わせて、メインフレームにはアルミ製のセンターブレースを装備し、スイングアームピボットまわりのねじり剛性を向上。フロントサスはφ41mm倒立フォークを装備し、リヤサスの減衰特性とばね定数はYZF-R7用に専用開発されている。前後ブレーキマスターシリンダーはブレンボ製で、フロントは純ラジアルマスターシリンダーを採用。
2025年モデルではこうした機能に変更はなく、YZF-Rシリーズを象徴する「ディープパープリッシュブルーメタリックC」と、ダークトーンの「マットダークグレーメタリック6」の2色のニューカラーを新たに採用。価格は105万4900円で据え置きとなっている。
画像のカラーは、スポーティなダークトーンでまとめながら、カジュアルさも兼ね備えたというマットダークグレーメタリック6。ホイールもブラックアウトされている。
専用設計のネガポジ反転液晶メーター。速度、ガソリン残量などが大きく表示され、走行中に視認しやすい。
ニーポケットを深くとり、車体をホールドしやすい形状のタンクカバー。燃料タンク容量は13Lを確保。
YZF-R7の足着き性をチェック
CP2のリニアな応答性に操る楽しさを感じる
全域で扱いやすいCP2のエンジン特性は、YZF-R7のスポーティな走りの要因に感じられる。
YZF-R7はアイドリング(メーター目視で1350rpm)から太いトルクが立ち上がる。アシスト&スリッパークラッチのおかげでクラッチレバー操作も軽く行なえ、3000rpmで交通の流れに乗れる加速力を発揮するので、低回転域だけでストレスのない市街地走行ができる。また、スロットル操作に対するCP2の反応がリニアで、スロットル開度に対するトルクの立ち上がりを予想しやすく、それも乗りやすさとして感じられる。
3000rpm以上回すとトルクとパワーはさらに増し、2気筒らしいパルスを感じながら爽快な加速力を発揮する。それに合わせて速度も増していき、6速4000rpmで時速100kmに到達する。セパレートハンドルで前傾となるライディングフォームは自然とフロントに荷重がかかり、ハンドリングはしっとりと落ち着いて前輪の接地感が分かりやすい。また、シフトチェンジによるトルク変動も少なく、後輪は路面をしっかりとグリップし続け、フルカウルの整流効果も良好で、高速巡航時の車体は安定している。
そのカウルは「YZF-R1」が持つRシリーズのイメージを継承しつつ、CP2のスリムさを生かして前面投影面積を小さくすることで空気抵抗を低減。アンダーカバーはアルミ製として極力エンジンに近づけてバンク角を確保するなど、マシンを操る楽しさに貢献するデザインとなっているのが特徴だ。
前後ブレーキは制動力に余裕があり、とくにフロントは初期からカチッとしたタッチでコントロールしやすい。YZF-R7のCP2は発進時からトルクが粘り、高速域までスムーズに加速するが、前後ブレーキがその加速をしっかり受け止めてくれる。スロットル、クラッチ、ブレーキといった操作が軽快でコントロールしやすく、スポーティな走りを楽しみやすい乗り味になっている。
270度位相クランクを採用しているCP2は、スロットル操作に忠実に反応する。蹴り出すような加速を体感しやすい特性になっている。
スキルに合ったマシンコントロールが楽しめる
スリムな車体幅を実現する「Skinny Propotion」は足着き性にも貢献し、街乗りでの扱いやすさになっている。
フロントサスのキャスター角をMT-07から変更して前輪分担荷重を増やし、コーナリング時の安定感と直進安定性が高められている。ハンドル幅はやや狭く、上半身のライディングフォームはコンパクトに収められるが、シートの前後長に余裕があってライディングポジション自体の自由度は高い。
そのシート前方はスリム化され、燃料タンクのニーポケット部を深くとった「Skinny Position」を採用していて、シート前方に着座すればタイトなライディングポジションが決まる。個人的にセパレートハンドルの経験は多くはないが、YZF-R7の前傾姿勢にキツさは感じず、むしろ前輪のグリップ感が分かりやすく、ちょっとした体重移動でコーナリングが決まったりと、速度域が上がっていっても車体との一体感が得られやすいことに大きなメリットを感じた。
一方、前輪は極低速域でも高いグリップ力を発揮し、ハンドル切れ角の少なさもあって、Uターンの切り返しといった取りまわし時にハンドリングの重さを感じる。ただ、左折時など少しでも前進すれば車体の安定性も増してきて、取りまわしも軽快になってくる。そして、そうした極低速域でもトルクが粘ってくれるのでエンストしにくく、市街地でも予想以上の扱いやすさが感じられるのだ。
前後サスは低速域からスムーズにストロークし、コーナー進入時などのブレーキングではフロントサスがスッと入り、しっかりとフロントに荷重がかかる。そこからフロントサスは入りすぎず踏ん張ってくれるので、狙ったラインでコーナリングしやすい。また、衝撃吸収性も良好で、状態のいい舗装路ではフラットな乗り心地をキープしてくれる。軽快なスポーツライディングと快適なクルージングを両立したサスセッティングも、乗りやすさを感じさせてくれる一因だ。
YZF-R7はエンジン特性の変更やトラクションコントロールといった電子制御デバイスの装備はないが、ライダーの操作に対してエンジンと車体がリニアに反応し、幅広い状況で乗りやすさが感じられる。CP2本来のポテンシャルをライダーが引き出して、マシンコントロールする楽しさを存分に味わいたいなら、YZF-R7をおすすめしたい。
【2025年型ヤマハYZF-R7主要諸元】
・全長×全幅×全高:2070×705×1160mm
・ホイールベース:1395mm
・車重:188kg
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒688cc
・最高出力:54kW(73PS)/8750rpm
・最大トルク:67N・m(6.8kgf・m)/6500rpm
・燃料タンク容量:13L
・変速機:6速リターン
・ブレーキ:F=ダブルディスク、R=シングルディスク
・タイヤ:F=120/70-17、R=180/55-17
・価格:105万4900円
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