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インディアンの最新カスタムバイクを手掛けた女性ビルダーが来日
インディアンモーターサイクル(以下インディアン)は、2024年に発表した新型「SCOUT(スカウト)」シリーズの発表に合わせ、カスタムプロジェクト/FORGED(フォージド)を展開。ミッドサイズクルーザーとしての高いパフォーマンスをアピールするのと同じくらい大きなボリュームで、カスタムにおける自由度の高さを謳った。
そして2024年12月に開催された日本最大のカスタムカー&バイクのイベント「第32回ヨコハマ・ホットロッド・カスタムショー」では、FORGEDプロジェクトで発表した3台のカスタムSCOUTを欧州および北米から空輸し、展示。ここではショーに合わせて来日した、FORGEDプロジェクトを推し進めたインディアンモーターサイクルのデザイナーであるオラ・ステネガルド氏と、氏から依頼を受け新型SCOUTをカスタムしたカスタムファクトリー/20th Century Racingのブリトニー・オルセン氏に、新型スカウトおよびFORGEDプロジェクトについて聞いたインタビューをお届けする。
インディアンのFORGEDプロジェクトとは…
そもそもインディアンが展開するFORGED(フォージド)プロジェクトは、2021年にリリースされた新型「CHIEF(チーフ)」シリーズの発表に合わせて展開されたカスタムプロジェクトだった。「CHIEF」は、インディアンが1922年に初めてラインナップに加えた大排気量のフラッグシップモデルであり、以来ビンテージ・インディアンを代表するモデルとして知られている。
そして2011年にスノーモビルやATVなどパワースポーツ・カテゴリーを牽引する米国のポラリス・インダストリーの傘下で再スタートを切ったインディアンが2013年に二輪車市場に復活したときも、真っ先に新生「CHIEF」を開発し投入しするほどアイコニックな存在であったのだ。
新型「CHIEF」は、サンダーストローク116と呼ばれる、挟角49度V型2気筒/排気量1890cc空冷OHV3カム・エンジンこそ継承したが、スチールパイプを使ったオーセンティックなフレームを新たに開発するなど、新生「CHIEF」からエンジン以外のすべてを一新。
クラシカルなディテールとスタイルを持ちながら、パフォーマンスパーツを奢り、ポテンシャル高めたクルーザーでスポーツするという、クルーザーカテゴリーでレッドオーシャンとなったパフォーマンスクルーザーに挑んだ車両だ。
FORGEDプロジェクトは、カスタムという手法を使い、その新型「CHIEF」の世界観を拡張するプロモーションツールだったのである。
1920年に始まったSCOUTの歴史
2024年に市場投入された新型「SCOUT」も、インディアンにとってはアイコニックなモデルだ。ラインナップにその名前が刻まれたのは1920年。「CHIEF」よりも先のデビューだが、インディアンは当時すでに1000ccのVツインエンジンを搭載したモデル「POWERPLUS(パワープラス)」を有しており(CHIEFはPOWERPLUSの後継モデル)、対してSCOUTは606ccから始まり745ccまで排気量を拡大していった、いわゆる軽量コンパクトで先進的なスポーツモデルだったのだ。
そのDNAを受け継ぎ、2014年に復活した新生「SCOUT」は、挟角60度V型2気筒/排気量1133cc水冷DOHCエンジンをアルミキャスティングのフレームに搭載。インディアンが言うところの“ミッドサイズ”クルーザーだったが、このエンジン&フレームのインフォメーションだけを聞くとスポーツバイクのような先進的なディテールが採用されていた。それこそが「SCOUT」らしさであったのである。
2024年にラインナップに加わった新型「SCOUT」シリーズ。写真はSPORT SCOUT。
2024年に発表した新型「SCOUT」は、その新生「SCOUT」からフルモデルチェンジを受けたニューモデル。新たに「SPEED PLUS1250(スピードプラス1250)」と名付けられたエンジンは、新生SCOUT用水冷DOHCエンジンをベースとしながら、排気量拡大にとどまらず、エンジン外観を含めた80%以上ものパーツを一新している。またフレームはアルミキャスティングからメイン部をスチールパイプ製、サイドカバーを兼ねたスイングアームピボット周りはアルミ製というハイブリッド型に変更している。
このスチールパイプ製のメインフレームは、そのフレームラインをCHIEFシリーズと共有するとともに、加工しやすいスチールパイプを使うことでカスタムフレンドリーにするという開発当初からの目標も達成している。
昨年/2024年12月に開催されたヨコハマ・ホットロッド・カスタムショーのために来日したインディアンのオラ・ステネガルド氏は、新型「SCOUT」シリーズの発表に合わせて展開したFORGEDプロジェクトについて以下のように語っている。
オラ・ステネガルド氏は、インディアンの車体設計とデザインを統括するインダストリアル・デザイン・ディレクターだ。
「FORGEDプロジェクトは、インディアンのバイクたちが、パフォーマンスにおいてもスタイリングにおいても、どんな可能性を秘めているかを表現することができます。それはインディアンというブランドにとって非常に重要です。
我々エンジニアの仕事は、ライダーにバイクを届けること。そこから先、バイクはライダーのモノですから、ライダーの好みが反映されていくものです。私たちはそれを歓迎していますし、そうあるべきだと考えています。
FORGEDプロジェクトは、カスタムバイクビルダーの手を借りて、それを端的に可視化したものです。またその製作過程で、私たちの想像を跳び越える、ビルダーたちの素晴らしいアイデアや、高い製造技術も見ることができます。
私自身はバイクメーカーのデザイナーですが、同時に熱狂的なバイク乗りであり、若いときからカスタムバイクを造ってきました。どの立場から見ても、彼らが造ったカスタムバイクは非常に興味深く、いつも刺激を受けています。新型SCOUTのメインフレームをスチールパイプ製に変更したのも、そんなカスタムの可能性を広げるためですから」
ステネガルド氏は、インディアンの車両開発において、車体設計とデザインを統括するインダストリアル・デザイン・ディレクターである。2018年に現職となって以来、インディアンのすべてのプロダクトに係わってきた。そして新型「CHIEF」と新型「SCOUT」の開発はゼロ段階から指揮。両モデルを使ったFORGEDプロジェクトも氏のアイデアであり、ビルダー選びにも深く関わっている。
そのステネガルド氏から依頼を受け、新型「SCOUT」のFORGEDプロジェクトに参加し、ビンテージ・インディアンのパーツを多数盛り込んだカスタムバイクを製作したのがブリトニー・オルセン氏だ。
ブリトニー・オルセン氏は、新型「SCOUT」のFORGEDプロジェクトに参加したカスタムバイクビルダーであり、レーシングライダー。
彼女は2012年にビンテージバイクのレストアやチューニング、それらのバイクを使ったレース活動を行う「20th Century Racing」を設立。フラットトラックやドラッグレース、ビーチレースなど彼女自身がライダーとして多くのレースに参戦している。
そんなオルセン氏をプロジェクトに招聘した理由についてステネガルド氏は、彼女はビンテージ・インディアンについての百科事典のような人物で、新型「SCOUT」を使ったFORGEDプロジェクトに不可欠だったと言う。
「新型SCOUTのカスタムバイクを想像したとき、まず3つのスタイルが思い浮かびました。それはチョッパーと、パフォーマンスクルーザーと、ビンテージでした。
チョッパーはスウェーデンのUnique Custom Cycle(ユニーク・カスタム・サイクル)、パフォーマンスクルーザーはアメリカのRoland Sands Design(ローランドサンズ・デザイン)、ビンテージはブリトニーだと。この3組でプロジェクトを組めたら、完璧だと思ったんです」と、ステネガルド氏は語る。
オラ・ステネガルド氏とブリトニー・オルセン氏は、2024年12月に開催された日本最大のカスタムカー&バイクのイベント「第32回ヨコハマ・ホットロッド・カスタムショー」に合わせて来日。
最新バイクでありながら1930〜40年代の雰囲気をまとうカスタムプランを具現化
ステネガルド氏からプロジェクト参加のオファーを受けたオルセン氏は「とても光栄なことだった」と、当時を振り返った。プロジェクト初の女性ビルダーであることも、彼女のモチベーションを大いに高めた。しかし、不安もあったという。
「それまで私たちは、ビンテージバイクだけに向き合ってきました。だから工場には、ビンテージバイク用の工具や工作機械しかなかったんです。それから周りの仲間たちに何度も相談し、本当に自分が新型SCOUTをカスタムできるのか考えました。そして新型SCOUTというバイクを理解するために、あらゆるところを走り、搭載されている最新技術を体感しました。
私が普段乗っている1938年式のSPORT SCOUTと比べると、新型SCOUTはすべてがスムーズで、キャデラックに乗っているようでした。そこでナビゲーション・システムが搭載されているTFTディスプレイやキーレースシステムなど、新型SCOUTが採用している最新技術をすべて活かしながら、1930〜40年代の雰囲気を持たせるというカスタムプランを固めていったのです」
またオルセン氏は、1940〜50年代にインディアンが女性ライダーに人気があったことにも注目。いまでいうところのスポーツバイクのような軽快さと先進性を当時の女性ライダーが好んだように、ペイントやアクセサリーを駆使して、ビンテージに振りすぎないカスタムスタイルを造り上げていったという。
完成したSCOUTカスタムを見たステネガルド氏は、オルセン氏をプロジェクトに招き入れたことが正しい判断であったと再認識した、と語っている。
「ブリトニーは、新型SCOUTが採用している大きな燃料タンクをとても気にしていました。彼女が乗っている、フラットトラックやビーチレース用にチューニングされたビンテージ・インディアンには小さな燃料タンクが付いているし、カスタムにおいて小さな燃料タンクは定番ですから。
でもインディアンはかつて走行距離が長いTTレースや耐久レースでは大きな燃料タンクを使っていました。だからブリトニーが造り上げたスタイルは、いにしえのインディアンに存在していたんです。そういった意味でも、彼女の造ったバイクはインディアンらしさに溢れていました。
またそのバイクに彼女が跨がると、1952年に発刊されたアメリカの雑誌『LIFE』に掲載されて伝説となった女性ライダー/シシリア・アダムスと彼女のSPORT SCOUTを彷彿とさせました。そんな女性ライダーとインディアンとの繋がりを思い出させてくれたことでも、ブリトニーとSCOUTカスタムのコンビネーションは、素晴らしいものになりました」
LIFE誌に掲載され、女性ライダーの象徴となったCecilia Adams(シシリア・アダムス)。
そのシシリア・アダムスは、オルセン氏にとってアイドルのような存在だという。そして縁あって、シシリアが実際にレースで使用していたSPORT SCOUTが、いまオルセン氏のガレージに収まっているという。シシリアの名前が出ると、オルセン氏の口調が熱を帯びてくる。
「シリリアが若い頃、彼女はSPORT SCOUTでレースに出ていました。しかも彼女のバイクはカスタムされていました。まだ女性がバイクレースに出ることも女性がバイクをカスタムすることも、とても珍しい時代でした。
私は、シシリアもそのバイクのこともよく知っていました。だって私は彼女に強く影響を受け、現代のシシリア・アダムスになりたいとすら思っていますから。そして私がシシリアに影響を受けたように、私と私が造った新型SCOUTのFORGEDカスタムが、それを見た女性ライダーにインスピレーションを与えたい。このタイミングでシシリアのバイクとFORGEDプロジェクトのオファーが私の元にやってくると言うことは、それをやるべき何だと考えました。だから日本の女性ライダーにもインディアンに乗る楽しさが伝えられると嬉しいですね」
愛機1938年型SPORT SCOUTが映ったポスターにサインをするブリトニー・オルセン氏。
FORGEDプロジェクトで発表した3台のカスタムSCOUTを見てみよう
ブリトニー・オルセン氏が製作した新型「SCOUT」カスタム。最新の機能は活かしつつ、ビンテージバイクのような雰囲気に仕上げられている。
スタンダードの燃料タンクに、クラシカルなテイストのオリジナルペイントをデザイン。
カスタムメイドされたステンレス製の排気システム。リアホイールは、FTR用ハブに18インチスポークホイールを組み合わせている。
Roland Sands Designが製作したパフォーマンスチョッパー。
Unique Custom Cycleが製作したロングフォークチョッパー。
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