
アジャイル(俊敏)な走りに定評があるヤマハMT-09。そのMT-09に「Y-AMT(Yamaha Automated Transmission)」という機構を搭載し、2024年9月に初登場したMT-09 Y-AMT。その乗り味をチェックしてみた。
文:小川浩康 写真:コイズミユウコ目次
鍛えられたスポーツ性能に利便性を高めるY-AMTをプラス
燃焼室で生み出される燃焼トルクを効率よく引き出す「クロスプレーン・コンセプト」に基づいた直列3気筒846ccエンジンを搭載し、2014年に初登場となったMT-09。大型バイクながら、日常の速度域で「意のままに操れる悦び」を提唱し、市街地で扱いやすさの感じられる特性となっていた。
2016年にトラクションコントロールシステムを搭載。2017年にアシスト&スリッパークラッチ、LEDヘッドランプなどを装備してマイナーチェンジ。2021年には「トルク&アジャイル」のキャラクターを進化させた、888ccの新設計エンジンを搭載。フレームもアルミダイキャスト製で新設計され、軽量かつ強靭な「SPINFORGED WHEEL(スピンフォージドホイール)」などを装備してフルモデルチェンジ。2024年3月、ライディングポジションをわずかに「前傾&バックステップ調」に変更。これに合わせてエンジン懸架ブラケットを変更して車体剛性を向上。前後サスも見直され、スポーツ走行時の安心感が高められた。
10年に渡りMT-09のスポーツ性能は鍛えられてきたが、「高いレベルのスポーツライディングを、より多くのライダーに提供したい」という意図で開発されたのが、2024年9月に登場したMT-09 Y-AMTだ。Y-AMTはクラッチレバーとシフトペダルを装備せず、手元のスイッチ操作で変速するMTモードか、「オートマ」のクルマのように自動変速するATモードでのライディングを可能とした機構。開発スタッフによれば、「通常のバイクでやるべきことを10としたら、Y-AMTで7にできる。残りの3をライン取り、ブレーキング、スロットルワーク、疲労軽減などに振り分けられる」とのことで、変速操作を省くことでライディングに集中しやすくなっているのが大きな特徴だ。
スマートフォンとの連携機能もあり、YRC(Yamaha Ride Control)で設定したエンジン特性の最大40パターンをスマホに保存できたり、ナビアプリ(Garmin StreetCross)をインストールすれば、Bluetooth接続でメーター上でナビゲーション機能を利用できる。3速以上、40km/h~設定できるクルーズコントロールも搭載するなど、ツーリングで便利な機能も搭載している。
5インチフルカラーTFTメーター。速度とエンジン回転数を中央に配置し、燃料計、水温計、シフトインジケーターなどを見やすく表示する。
MT-09 Y-AMTの足着き性をチェック
緻密な制御でスムーズな変速を実現したY-AMT
ライディング操作に余裕が生じ、市街地での取りまわしやすさが大幅に向上する。とは言え、乗車感はスクーターではなく、オートバイらしさを強く感じる。
クラッチレバーとシフトペダルを装備せずにシフトチェンジを可能としているY-AMT。クラッチ操作を行なうアクチュエーターとシフト操作を行なうアクチュエーターを搭載している。シフトアップ&ダウンを左手のシーソー式シフトレバーで行なう「MTモード」と、変速を自動で行なう「ATモード」の2つのモードを選択できるのが大きな特徴だ。
このアクチュエーターはモーターで作動する仕組みだが、シフトアップ時のエンジン点火/噴射、シフトダウン時の電制スロットルを制御するECU(エンジンコントロールユニット)と、最適なシフト操作/クラッチ操作をアクチュエーターに指示するMCU(モーターコントロールユニット)を通信で連携させて、緻密な制御を行なっている。さらに、高回転時にはクラッチを完全に切らない、シフトロッド内にスプリングを挿入して変速時間を短縮するなど、素早いシフトチェンジと変速ショックの低減も実現。ユニット重量は約2.8kgで、コンパクト化して重量増を極力抑えているのも特徴だ。
さらに6軸IMU(Inertial Measurement Unit)が車体姿勢を推定し、バンク角を反映したTCS(トラクションコントロールシステム)、旋回性をサポートするSCS(スライドコントロールシステム)、前輪の浮き上がり傾向時にライダーを支援するLIF(リフトコントロールシステム)、バンク中の横滑りを検知してブレーキ圧力を制御するBC(ブレーキコントロール)が相互に連携して、ライダーがライディング操作に集中できるようにサポートする。
各システムは介入レベル調整ができ、MTモードの「CUSTOM1・2」には好みのセッティングを設定できる。この他、MTモードには、エンジンレスポンスが高まり、ワインディングでのスポーツ走行に適した「SPORT」、幅広い路面をカバーし、市街地走行に適した「STREET」、出力特性がマイルドになり、雨天や悪化した路面に適した「RAIN」の3モードが設定されている。
ATモードには、街中や高速道路で穏やかな「D」、ワインディングでレスポンスのいい加減速を楽しめる「D+」の2種類のシフトプラグラムを設定。こちらも介入レベルの調整ができる。また、ATモードとMTモードのCUSTOM1・2は、スマホアプリ「Y-Connect」をインストールしたスマホ画面からも設定可能となる。
クラッチレバーは装備していない。「+」がシフトアップを行なうレバー。メインスイッチをオフにし、1秒経過で1速状態となり、パーキングブレーキなしでも傾斜地での駐輪が可能となる。
違和感のない乗り味。Y-AMTで高性能が身近に感じる
ライダーがシフトチェンジを行なうMTモードと、自動変速するATモードから選択する。
MTモードには3つのパターンと、介入度を調整できるカスタムが2つと、計5パターンから設定できる。
介入度の調整は、左側スイッチボックスのジョイスティックで行なえる。グローブのままでも操作しやすい。
MTモードはDとD+の2パターン。右側スイッチボックスのAT/MT切り替えレバーで選択できる。
エンジンを始動しようと、いつものクセでクラッチレバーを握ろうとしたが、クラッチレバーが装備されておらず不思議な感じがした。スタートボタンを押すとエンジンはすぐに始動。人差し指で「+レバー」を手前に引くと、ガチャンという音ともに軽い衝撃を生じつつ1速に入った。アイドリングはメーター目視で1100~1200rpm。そこからスロットルを少し開けていくと、ギクシャクした挙動は一切なく、MT-09 Y-AMTはスムーズに発進した。さらにスロットルを開けると、トルクの盛り上がりとともに加速力が発揮され、再び「+レバー」を操作すると、カチャンという音とともに2速にシフトアップした。
初めて乗ってもシフトレバーは操作しやすく感じられ、発進時のクラッチ操作は適切に行なわれ、シフトチェンジも滑らかだった。Y-AMTのクラッチ&シフト操作が熟練したライダーのようにスムーズだったので、クラッチレバーがないことにもすぐに慣れてしまった。
MTモードには「SPORT」「STREET」「RAIN」の3パターンがあらかじめセットされている。SPORTはアイドリングから太いトルクが立ち上がり、2000rpmくらいからパワフルに加速する。スロットルレスポンスは全域でクイックで、マシン挙動も速い。まさにスポーティな乗り味となる。
STREETはスロットルレスポンスが少しマイルドになり、その分マシン挙動のギクシャク感も減る。トルクの立ち上がりも3000rpmくらいからとなり、シフトチェンジも滑らか。乗り味は軽快で、街中で扱いやすい。
RAINはスロットルレスポンスがマイルドで、トルクの立ち上がりは3000rpmでSTREETと変わらないが、回転上昇はゆっくりになる。後輪がスリップせず、トラクションする感じが伝わってくるので乗りやすい。
ATモードは「D」と「D+」の2パターンがセットされている。
Dは各ギヤとも3000rpmくらいで早めにシフトアップし、トルク変動が少ない。スムーズな乗り味で、速さも充分。
D+は各ギヤで高回転まで引っ張り、しっかり加速してからシフトアップする。スロットルを閉じるとシフトダウンし、次にスロットルを開けた時に確実に加速力を発揮できる状態をキープする。
どのモードもシフトチェンジの際のクラッチ操作は適切かつスムーズで、停止時には1速になる。ライダーがクラッチ操作をしなくてもエンストしないので、渋滞などの低速走行で疲れにくい。またVベルト駆動のスクーターのような加速のタイムラグは皆無なので、ATモードでもオートバイらしい乗車感になっている。
フロント荷重しやすいライディングポジションもあって前輪のグリップ状態を感じやすい。6軸IMUとトラクションコントロール、リフトコントロールなどが連携して前後輪を路面にしっかり接地させようとするので、ヒラヒラではなく、前後輪のグリップを感じながらしっとりした落ち着きのあるハンドリングになっている。前後サスは衝撃吸収時のストローク収束が早めで、しっかり感があるフラットな乗り心地を提供してくれる。
Y-AMTのMTモードはライダーのクラッチ操作を省くことでライディングに集中しやすく、MT-09の高性能を手軽に楽しめるようになる。また、ATモードではシフトチェンジ操作も省けるので、利便性もより高まる。それでいてライディングポジションや加減速のシフトチェンジはオートバイそのものなので、大型バイクビギナーやリターンライダーの負担を軽減し、不安なくライディングができるようにサポートしてくれる。
Y-AMTはヤマハの新たなスポーツバイクの提案だが、大型バイクの間口を広げる可能性とも感じられた。個人的にはMTモードのDパターンが大型バイクの余裕を感じつつ、スムーズかつゆったりしたライディングを楽しめ、いちばん多用した設定となった。
YSPのWEBサイトでは、MT-09 Y-AMTの試乗車キャラバンを展開している。実際にY-AMTを体感できるチャンスなので、気になっているかたは問い合わせみてほしい。
2024年型ヤマハMT-09 Y-AMT主要諸元
・全長×全幅×全高:2090×820×1145mm
・ホイールベース:1430mm
・車重:196kg
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列3気筒888cc
・最高出力:88kW(120PS)/10000rpm
・最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
・燃料タンク容量:14L
・変速機:6速リターン
・ブレーキ:F=ダブルディスク、R=シングルディスク
・タイヤ:F=120/70-17、R=180/55-17
・価格:136万4000円
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