2000年代初頭のストリートトラッカーブームは、それまでバイクに興味を持っていなかった層を巻き込んだ一大ムーブメントとなった。そのブームの中心にいたのはヤマハのTWであるが、元々はホンダのFTR250がブームの火付け役である。そして、そんなFTRをホンダが復活させ、TWの牙城に挑んだのである。
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FTR250から火がついたストリートトラッカーブーム
アメリカにおいてフラットトラックレースは非常に人気があり、ケニー・ロバーツやフレディ・スペンサーなど、1980年台に活躍したアメリカ人GPライダーの多くはフラットトラックレースを経験していた。ホンダは1980年台にフラットトラックレースにワークスレーサーを投入し、王者ハーレー・ダビッドソンのXR750に挑んだ。そんなアメリカを主な市場とし、ホンダはXL500をベースにしたフラットトラッカーレプリカ「FT500」を1982年に発売した。このFT500は国内にも投入され、中型免許に合わせて日本専用に「FT400」も発売された。
1984年と1985年にワークスレーサーRS750Dがチャンピオンを獲得し、当時のホンダは勢いそのままに1986年にRS750Dと同じトリコロールカラーを纏った「FTR250」を発売した。しかし、日本においてフラットトラックレースはほぼ行なわれていなかったこともあり、FT/FTRシリーズは不人気車というレッテルを貼られて生産中止となった。
一度消えたFTRの名前が再びホンダの歴史の中に姿を表すのは、2000年のことである。1990年代中頃に、一部の若者がストリートバイクとしてFTR250に注目してストリートトラッカーというジャンルが街場から自然発生する。しかし、発売から10年以上が経っていたFTR250はタマが少なく、彼らがその代わりに目をつけたのが現行モデルであったヤマハのTW200であった。そして、ヤマハのTWが街中に増え始め、ドラマで使われたことによって爆発的なヒットを記録することになる。ホンダはこの状況にFTRの復活させることで対応し、2000年に223ccのエンジンを搭載した「FTR」がデビューした。ヤマハもTWをユーザーのニーズ合わせて丸ライト化するなどして応戦、スズキからグラストラッカーが登場するなど本格的なストリートトラッカーブームが始まった。
パワーよりもテイストを求めたエンジン
ストリートトラッカーブームは自分流にカスタムするのが当たり前で、外せるものをとにかく外して「スカスカ」にする「スカチューン」が主流であった。復活したFTRにはFTR250と同様にゼッケンプレートを兼ねた大型のサイドカウルが取り付けられており、ほとんどのユーザーは購入と同時にこれを取り外してしまっていた。そのため、2003年のモデルチェンジでモノトーンタイプのサイドカバーを小型のものに変更、よりストリートテイストの強いデザインに変更された。
FTRのに搭載される空冷SOHC2バルブ単気筒の223ccエンジンは、SL230に搭載されていたもので、そのルーツは1973年に発売されたバイアルスTL125に搭載されていたものである。バイアルスTL125にはボア×ストローク56.5×49.5mmの124cc仕様で搭載されていたこのエンジンだが、ボア×ストローク65.5×66.2mmの223ccと約100ccも排気量はアップされてFTRに搭載された。初期モデルは最高出力14kW(19PS)/7000rpm、最大トルク21N・m(2.1kgm)/6000rpm仕様であったが、2007年に平成18年国内二輪車排出ガス規制に適合させるためにキャタライザーを内蔵したマフラーなどの変更を受け、最高出力12kW(16PS)/7000rpm、最大トルク18N・m(1.8kgm)/5500rpm仕様となった。250ccクラスとしてはアンダーパワーだが、TWやFTRを購入するユーザーの多くは、バイクに速さを求めてはおらず、ゆったりと流すような乗り方をしたため最高出力よりもトルク特性に重点が置かれていた。このエンジンはXR230やCB223Sなどにも搭載され、ホンダの2000年代初頭を支えるエンジンとなった。
カスタムされることを意識した車体
FTRのフレームは軽量ながらも高い剛性を発揮するセミダブルクレードルタイプで、ステーやガセットを極力抑えたシンプルな構成として、乗り味だけでなくフレームそのものの美しさにもこだわった設計がされているという。また、ステーの一部をボルトオンタイプとするなど、カスタムを意識したフレームであったと考えられる。実際多くのFTRはタンクを残して外装が取り外され、エアクリーナーボックスの代わりにK&Hなどのカスタムフィルターが取り付けられて、フレームは剥き出しになっていた。
サスペンションはフロントが37mm径のテレスコピックタイプフロントフォーク、リアはモノショックユニット+スチール製角パイプスイングアームでトラックでの高い走破性と、ストリートでの路面追従性に優れる柔軟なフットワークを両立させている。ブレーキはフロントがシングルディスク、リアはドラムで、必要にして十分なストッピングパワーを発揮した。ホイールはスクタイプの前後18インチで、タイヤはストリートトラッカーの定番であったダンロップのK180を標準装着している。タイヤサイズは当時のカスタムトレンドを意識した、前後120/90-18とボリュームのあるサイズをチョイスしている。
ライバルモデルと共にストリートトラッカーというひとつのブームを牽引したFTRだが、今回の撮影車のようにノーマルスタイルを留めている個体は少ない。カスタムベースとして売れた車両なのでそれは仕方のないことではあるが、カスタムされた車両はエンジンなどに負荷がかかってしまった車両が少なくないので、もし手に入れるのであればできるだけノーマルに近い個体を探すべきだろう。
FTR主要諸元(2007)
・全長×全幅×全高:2080×830×1090mm
・ホイールベース:1395mm
・シート高:780mm
・車両重量:128kg
・エンジン:空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒223cc
・最高出力:12kW(16PS)/7000rpm
・最大トルク:18N・m(1.8kgm)/5500rpm
・変速機:5段リターン
・燃料タンク容量:7.2L
・ブレーキ:F=ディスク、R=ドラム
・タイヤ:F=120/90-18、R=120/90-18
・価格:40万9500円(スタンダード・税込)/43万500円(デラックス/トリコロールカラー・税込)
撮影協力:バイク王つくば絶版車館
住所:茨城県つくばみらい市小絹120 電話:0297-21-8190 営業時間:10:00~19:00 定休日:木曜日
若者の心をつかみ、ストリートトラッカーブームを牽引したFTR (30枚)この記事にいいねする