250クラスでは貴重なネオクラシックモデルのカワサキ「W230」と「メグロS1」に試乗。KLX230系をベースとする232cc空冷単気筒は専用チューニングでトコトコ感と中低速トルクを強化し、抜群に乗りやすく仕上がっていた! さっそくレビューしよう。
目次
車体は軽くてコンパクト、足着き性は超優秀だ
250ccクラスにおいて、オーソドックスなネオクラシックは選択肢が少ない。日本メーカーの国内ラインナップを見ると、カワサキのエストレヤが2017年に生産終了して以来、登場していなかったのが現状だ。
そんな中、カワサキが伝統的な2大シリーズに連なる「W230」と「メグロS1」を投入。エンジンはKLX230譲りのSOHC2バルブ233cc空冷単気筒で、これを専用設計のスチール製のセミダブルクレードルフレームに搭載する。
「W230」はW800の末弟としてスタイリッシュなモダンクラシックな装いを採用。兄弟車の「メグロS1」は、カワサキに吸収されたメーカー=メグロの誕生100周年を祝うモデルで、メグロK3の弟分にあたる。
基本設計を共有するW800とメグロK3と同様の派生展開で、これまで大型二輪免許でしか乗れなかったシリーズが普通二輪免許で乗れることになった。
11月29日にプレス向けの試乗会が実施され、発売されたばかりの2車をテストする機会に恵まれた。本記事では主にW230についてインプレしていきたい。
実車はコンパクトで、いかにも軽快かつ足着きがよさそう。そして丸みを帯びたフォルムとカラーリングがモダンだ。
またがってみても、やはりコンパクトで両足がベッタベタに接地する。一方、スッと手を伸ばした場所にハンドルがあり、ヒザの曲がりもさほどキツくない。コンパクトな車体だと足が窮屈になりがちだけど、実に自然かつリラックスしたライポジだ。
乾いた低音サウンドと大らかな特性が心地いい
エンジンはKLX230系の空冷単気筒がベースだが、見た目も味わいも別物のようだ。
外観は、大型の空冷フィンを与え、クランクケースカバーもW800風の専用設計。さらに独特な取り回しでエキパイを旧車風のストレートな形状に見せているなど、こだわりが満載だ。
セルを押すと低音の効いたビートがアイドリングで響く。232ccにしては発進から力強く、KLX230より低音で「バルルル」と乾いたパルス音を伴いながら加速してくれる。KLX230に比べて中低速トルクを重視したセッティングで、ゼロ発進からのダッシュは確かに一段上だ。
4000rpm程度からはフラットな特性で振動も収まる。走行中にスロットルを開けた際のレスポンスはKLX230より穏やか。しかもエンジン回転が落ちにくく、エンジンブレーキもガツンとかからない。そのため急かされず、大らかな気分に浸れる。
これはW230向けに採用した重めのフライホイールによる効能。低回転でもエンジン回転数を維持しやすい。さらにFIセッティングや二次減速比の変更(W230=2.714、KLX230=3.214)も含め、低回転でゆったり走る特性となっている。
走行中はとにかくサウンドに魅せられる。これは開発者がこだわり抜いたポイントの一つで、メグロ・ジュニアS8の音質を解析し、可能な限り現代に再現しているとのこと。他のライダーが走らせているW230のサウンドも聞こえたが、バッバッバッと乾いた低音が心地良い。
得意なのは街中だが、100km/h巡航でもエンジン回転に余裕があった。6速6000rpm程度で、6速はオーバードライブ的な高速向けの設定。回転数が落ち、振動も少ない。ここでもやはり低音サウンドがよかった。KLX230ベースと知っていても、同じエンジンとは思えないほど差別化できている。
車体が軽くコーナーが楽々、高回転ではキビキビ走れる
車体が軽いため、取り回しやハンドリングもラク。スッと倒し込めて、前後輪が一体となって曲がるフィーリングが楽しい。穏やかなエンジンのレスポンスをはじめ、落ち着いたセッティングのサス、唐突感のないブレーキも相まって、安心して旋回できる。
車体が軽く、スロットルの反応とエンブレがマイルドのため、街中や渋滞路を走っていてもラクチン。中速域の加速感はやや薄いため、ワインディングなどで攻めたい時は積極的にスロットルを開けて高回転まで回すとキビキビ感が出てくる。高回転まで回しても振動があまりないのも美点だ。
細かい所では、ミラーが見やすいのがマル。同時に試乗したKLX230シェルパとKLX230Sより断然見やすい。また、サイドスタンドが後ろ気味なので出す時に戸惑ったが、慣れれば問題ないだろう。
ちなみに従来のエストレヤは車重161kgで鉄のカタマリ感があったが、W230は143kgで全く別物の印象だ。
[まとめ]クラス最軽量のネイキッド、気負わず“フツー”に楽しめる
143kgの車重は現行の国産250クラス最軽量で、CB250Rの144kgよりも軽い。ネオクラシックのスタイルと合わせて、W230は独自のキャラクターと言える。
それでも走りはいい意味で“フツー”。気負わずに走れるため、日常からツーリングまで活躍でき、風景を見ながらトコトコ走るのが似合う。そして停まっている姿も絵になる。生活に寄り添って付き合うことができそうだ。
64万3500円の価格はスペックを考えるとライバルより割高に感じるかもしれないが、トータルでのコスパは高いと思う。スポーティ派には向かないが、マッタリ走りたい人や足着きに不安のある人、ビギナーにオススメしたい。
メグロS1に試乗、乗っていてもレトロ感アリ
兄弟車のメグロS1にも簡単に触れたい。外装以外はW230と共通だが、ブラックの部分を手塗りで仕上げたメッキタンクの存在感が強く、とても高級感がある。
ゆったりした特性と低音の効いたサウンドはW230と同じだが、まさにメグロらしい。走行時に違いを感じたのはシート。W230はややソフトな座り心地だが、こちらはやや硬質。メーター文字盤とメッキが覗くタンクによるコクピットの見た目と相まって、“レトロなバイク感”が強まっている。
[開発者インタビュー]メグロS8の音質を現代に再現、軽さとデザインにもこだわる
W230とメグロS1は、若い人や女性をターゲットとしながら、初心者からリターンライダーまで幅広い層を狙って開発したという。
苦労したポイントは「全部」ながら、特にこだわったのは「音質」。「メグロのS8を実際に走行させて音質を解析し、音作りをしました。当時と今では規制値が全く違うので、試行錯誤の連続でした。試作マフラーはゆうに30以上あります」という。解析に加え、最終的にはライダーがまたがった時に聞こえる音を重視し、造り込んだ。
エンジンに関しては「エストレヤの空冷単気筒エンジンを使う選択肢もあった」。しかしエストレヤのエンジンは重い。「初心者にも扱いやすい車両に仕上げるため、できる限り重量を落としたかった。また、メグロブランドはよく走るバイクのメーカーだったので、そこを造り込みたいという思いがありました」という。
エンジンはKLX230をベースに中低速トルクを向上。これがトコトコ走るためのキモになっており、エンジンで重視した部分の一つという。街中の渋滞をはじめ、全シチュエーションでの乗りやすさを考慮。「特に風景を見ながらゆっくり走れるという所がメインテーマです」と話す。
デザインを可能な限り崩さないよう、部品一つ一つから設計。マフラーは音質に加え、美観も追求している。KLX230のようにエキパイはエンジンから左出しにした方が管長を稼げるため設計しやすい。しかしクラシックバイクは右出しが定番。敢えて右出しとし、エンジン下で管長を稼いで触媒を設置した。その右サイドにカバーを装着することで、エキパイからサイレンサーまで一本でつながって見える工夫がなされている。
W230のスタイルに関しては、メグロS1より若い層に受け入れられるように可愛らしいスタイルを目指し、質感やカラーリングを造り込んだという。
最後に高谷さんは「開発リーダーとして代表で今日は来ましたが、この機種は開発してもらった関係者の協力で出来ています。見た目から中身まで全てを造り込んでいますので、その一つひとつをユーザーさんに感じていただき、とにかく楽しく気持ちよく乗っていただきたいです。KLX230とは全く別物に仕上がっているので、そこも体感してほしいですね」と締め括った。
W230主要諸元(2025)
・全長×全幅×全高:2125×800×1090mm
・ホイールベース:1415mm
・シート高:745mm
・車両重量:143kg
・エジンン:空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒232cc
・最高出力:18PS/7000rpm
・最大トルク:1.8kgm/5800rpm
・燃料タンク容量:11L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=90/90-18、R=110/90-17
・価格:64万3500円
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