カーボンニュートラルの実現に向け、4輪車だけでなく、2輪車の電動化も進めているホンダが、次世代バッテリー「全固体電池」の研究開発拠点を公開。また、独自開発の全固体電池を、2020年代後半から市場投入する電動モデルへの搭載する予定であることも明らかにしました。
いわゆるEVモデルの航続距離や充電時間など、多くの課題を解消することが期待されている全固体電池。しかも、ホンダ製が完成すれば、将来的に、2017年公開のSFアクション映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」に登場した近未来バイクのような、高性能EVマシンの市販化も期待できそうです。

EVの性能アップが期待できる次世代バッテリー

全固体電池とは、ざっくりと言えば、電気をためたり放出したりするのに必要な「電解質」に、従来の液体ではなく固体を使うバッテリーのことです。

現在、EVなどに使われている一般的な液体リチュウムイオン電池と比べ、エネルギー密度が高いなどで、走行距離を大幅に伸ばし、充電時間の短縮が期待できるなど、さまざまなメリットを生むといわれています。

そのため、4輪や2輪のメーカー各社が、それぞれ研究開発を進めており、実用化されれば、現在のガソリン車やハイブリッド車などと同等の性能を持ったBEVモデルが登場することが期待されており、クルマやバイクの電動化は一気に進むといわれています。

全固体電池の研究開発用施設を公開

今回、ホンダが公開したのは、そんな全固体電池の研究開発を独自に進めるために、栃木県さくら市の本田技術研究所(栃木Sakura)の敷地内へ建設したパイロットラインです。

パイロットラインとは、いわゆる自動車メーカーの工場などで使われる専門用語。通常の生産ラインとは別に、新しい工法やその作業性などを検証するための研究開発用ラインのことです。

ホンダによると、新しい全固体電池用のパイロットラインは、約2万7400平方メートもの広大な延床面積を持ち、建屋はすでに建設済み。また、開発や検証に必要な主要設備の搬入もほぼ完了しており、2025年1月の稼働開始を予定しているといいます。

また、ここが稼働すれば、ホンダ独自の全固体電池を開発研究するだけでなく、量産で必要な一連の生産工程を再現することで、各工程の量産技術や量産コストなどの検証を行うことが可能に。結果的として、より短い期間で量産化を実現することを目指しているそうです。

ホンダの全固体電池は何が凄い?

このように、ホンダが開発を進める全固体電池ですが、実用化はいつ頃で、一体どのような性能が期待できるのでしょうか。

ホンダによれば、まず、実用化の時期は2020年代後半を予定。性能的には、従来の液体リチウムイオン電池を搭載したEVモデルと比較して、まず、航続距離が、2020年代後半で2倍。例えば、現在の航続距離が500kmだとすると、1000kmまで伸ばすことが可能になるといいます。

また、技術革新などで全固体電池の性能がさらにアップすれば、2040年代までには現在の2.5倍、500kmの航続距離を1250kmまで伸ばすことができるといいます。

さらに、例えば、航続距離を従来の液体リチウムイオン電池と同じに設定すれば、全固体電池は50%のコンパクト化も実現。重さも、2020年代後半で35%低減するほか、さらなる技術革新などにより、2040年代までには45%軽くすることも可能だといいます。

加えて、電池の生産コストも、2020年代後半で25%、2040年代までには40%それぞれ低減する予定。

ほかにも、全固体電池は液体リチウムイオン電池と比べ、可燃性ガス放出が少ないことで車両火災のリスクが低く、安全性も向上。80度など高温でも安定的に使用できるため、急速充電のポテンシャルを挙げられる(充電時間の短縮)など、数々のメリットを持つといいます。

現在のEVモデルでは、航続距離を伸ばそうとするとバッテリーをたくさん積載する必要がありますが、車体が重くなり、電費やハンドリング性が低下。また、価格が高くなるという問題があります。また、充電時間も、現状では急速充電でも30分近くは必要。ガソリン車がスタンドで給油するほどの短時間での充電は難しいなどの問題もあります。

ホンダが開発中の全固体電池は、これら課題を解消し、EVモデルをもっと(今のガソリン車などのように)普通に使えることが期待できるだけに、今後かなり注目だといえるでしょう。

2025年登場の新型EVバイクの性能は?

ちなみに、ホンダでは、2025年に初の電動スポーツモデルを発売予定。2024年11月に、イタリア・ミラノで開催された2輪見本市「EICMA2024」で、「EVファン コンセプト(EV Fun Concept)」を発表しましたが、このモデルの場合はどんな性能を持つのでしょうか? 

まだ、詳細は未発表ですが、2025年に発売ということでいえば、バッテリーは全固体電池ではなく、従来の液体リチウムイオン電池だと考察できます。それでも、走行性能は、ホンダによると、中型クラスのガソリンモデルと同等だといいます。

ただし、「航続距離は100km以上」と発表。100km以上とは、具体的にどれほどの航続距離かは不明ですが、バイクで従来の液体リチウムイオン電池を搭載する場合、航続距離を伸ばすには、前述の通り、バッテリーをたくさん積まなければなりません。

でも、積載スペースの少ないバイクでは、あまり数を積めませんし、もし積めても車体が重くなります。そう考えると、結果的に、1回の満タンで300km前後は走れる今のガソリン車ほどの航続距離は期待できそうにありませんね。

ひとまず、2025年に登場する新型EVモデルに関しては、まだまだ発展途上となるのかもしれません。

近未来のEVバイク登場に期待!

あと、ちょっと気になったのが、ホンダが今回の発表で公開したスライドにあるイラストです。これは、ホンダは新しい全固体電池を、4輪車だけでなく、2輪車や航空機など、幅広い自社製モビリティに採用する予定であることを紹介するためのものです。

そして、そのなかにある次世代EVモデルらしきバイクのシルエットが、あるバイクにそっくり。それは、前述の通り、2017年公開の映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」に登場した近未来バイクです。

この作品は、世界的に評価の高い士郎正宗氏原作の漫画「攻殻機動隊」を題材とし、ハリウッドで実写化された近未来を舞台とするSFアクション映画です。

当時、この映画に協力したホンダは、大型2輪車の「NM4」を提供。それをベースに、映画制作スタッフが主人公の少佐(草薙素子)役を演じたスカーレット・ヨハンソンさんが乗る近未来のバイクを製作し、劇中に登場させたのです。

ちなみに、NM4は、「近未来」と「COOL」をテーマとして開発され、2014年4月に発売された750cc・2気筒エンジン搭載のロードモデルです。大きな特徴は、画期的で先鋭的なスタイル。また、クラッチ操作が不要のAT機構「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」など、最先端の技術が盛りだくさんだった新感覚のバイクでした。

ただし、当時は、登場する時代がちょっと早すぎたのかもしれません。残念ながら、現在ラインアップから外れてしまっています。

ただ、次世代のバッテリーといわれる全固体電池を搭載する新型EVバイクであれば、NM4ベースの近未来バイクはなんかは、かなりアリではないでしょうか。こうしたデザインなら、革新の技術を盛り込んでいることが一目瞭然。結果として、近未来風のスタイルを活かすことができるかもしれません。

ともあれ、ホンダが、このマシンのシルエットを今回の資料に使ったのは、「たまたま」だったのか、「意図的」だったのかは不明ですが、今後の動向に注目したいものです。

ホンダが次世代バッテリー「全固体電池」開発! SF映画に出た近未来バイクに投入? ギャラリーへ (11枚)

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