ホンダがEICMA2024(ミラノショー)で初公開した「電動過給機付きV型3気筒エンジン」は、シャーシについての特徴は一切触れられていなかった。ここにもホンダの長年のこだわりがあるので解説してみたい。
V型エンジンの難点を克服したSPLフレーム
ホンダのSPL(スイングアーム・ピボット・レス)は、スイングアームを支えるシャフトのマウント=ピボットがないフレームのこと。1997年のファイアーストーム(VTR1000F)で初採用されたが、「電動過給機付きV型3気筒エンジン」に久しぶりに投入されているのだ。
1997年頃のオンロードスポーツは、直4エンジンを前輪に近づけてフロント荷重を確保し、前後輪をつなぐ高剛性フレームで操縦安定性を確保していた。一方、VTR1000FのVツインは前側シリンダーが大きくエンジンの搭載位置が後方になり、フロント荷重が高められなかった。
そこで開発されたSPLはシャーシ構造を前輪系と後輪系の2つのユニットに分割。ヘッドパイプまわりの前輪系と、スイングアームを直接エンジンにマウントした後輪系で構成される。これらをエンジン上部にある左右各3か所のハンガーボルトで一体化している。
この設計により、後輪から働く外乱を大きな質量のエンジンが受けとめ、エンジンハンガーまわりの剛性で減衰させ前輪系に伝えにくくし、高速走行時の安定性を確保したのだ。同時にV型による軽めのフロント荷重と車体のしなやかさによる低速域での軽快性も両立した。
様々な変遷を辿ったSPLフレーム
「SPL」は、元祖であるVTR1000Fのわずか一代で名乗ることをやめてしまった幻と言える技術。以降、2000年頃まで様々なモデルでピボットレスタイプのフレームが採用されてきたが、改めて新V型3気筒モデルでシンプルな構成に原点回帰している。
SPLは、1998年のVTR(250cc)に派生。1982年のVT250F由来の90度V型2気筒エンジンを使用していたため、エンジンにピボットブラケットを装着することで、シャーシ構造を前輪系と後輪系の2つのユニットに分割した。前輪系は鋼管フレームなのでV型3気筒に最も近い構成だ。
1998年のVFR(800cc)は、「ピボットレスツインチューブフレーム」という名称で90度V型4気筒エンジンのフレームに採用。エンジンにはスイングアームマウントを新設し、さらにサイドラジエターとすることでVTR1000FのV4版として完全新設計された。
2000年にはなんと並列4気筒エンジンのCBR900RRにも展開。下側にブラケットがあることから「セミピボットレスフレーム」とされた。ここでは後輪からの外乱をエンジンが受けとめる効果だけでなく、スイングアームピボット位置を20mm前方に配置できたメリットも強調された。
SPLはガチのレース車には使われなかった
1997年に登場したVTR1000Fはストリートマシンという位置づけで、当時のホンダはレースにはV型4気筒のRVF(750cc)を主力にしていた。しかし、当時のスーパーバイクでは1000cc級のドゥカティが圧倒的な強さを見せており、モリワキが独自にレースで開発を行った。
そして、ホンダも腰を上げ2000年にホモロゲーションモデルのVTR1000SP-1を発売し、VTR1000SPWがワークス参戦。ついにライダータイトルを得るに至っている。一方で、VTR1000FのSPLフレームは通常のツインチューブに、サイドラジエターはレースでは撤廃された。
ただし、VTR1000Fの技術が消えた訳ではなく、2002年のRV211Vではユニットプロリンクサスペンションに発展。これはリアサスの上側のマウントを廃することで後輪からの外乱をフロント側に伝えにくくすることを目的にしており、SPLのエッセンスを応用したものと言える。
そして、2020年のCBR1000RR-Rでは、リアサスペンションの上部をエンジンに直接マウントし後輪からの外乱をフロント側に伝えにくくしている。ユニットプロリンクとともにフレーム側のリアサスマウントがなくなることで軽量化にも貢献している。
これら約30年に渡る蓄積が、新V型3気筒マシン「RCV850(仮名)」に生かされていることを期待したい。
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VTR1000Fのピボットレスはエンジンに負荷がすごかったようで、
シリンダー内壁にリングで擦れた傷がつきまくってたんだよね。
個人的には、もう採用してほしくないなぁ。
現代ではフレームにピボットありの一般的な形状でもハンドリング良いじゃん。
FEM歪解析が手軽になったのでエンジンの動きを阻害しない設計がやりやすい現在でこそ面白いバイクが作れそうな気がします。
レースのための探究心すごいですね。
市販では難しいかと思いますが、何かしら市販に反映してくれると期待してむます。