
2014年に登場したスポーツモデル「ヤマハMT-07」をベースに、「Fun Master of Super Sport」をコンセプトとして2022年に発売されたのが「YZF-R7」だ。MT-07の基本構成に最新スーパースポーツのスタイルとスポーティなハンドリングを調和させ、幅広い技量のライダーが楽しめることも目指して開発されたスーパースポーツモデルだ。
文:小川浩康 写真:コイズミユウコ目次
スポーティな走りのために専用装備を採用
MT-07に搭載された水冷DOHC4バルブ直列2気筒688ccエンジンは、実用域での粘り強いトルク特性を狙ったクロスプレーン・コンセプトという思想で設計され、「CP2」とも呼ばれている。YZF-R7のCP2は、パワー感とトルク感をより引き出すためにハイスロットル化し、2次レシオをMT-07の43/16から42/16へと変更し、さらにスポーティな乗り味になっている。またMT-07、XSR700、テネレ700といったCP2系モデルでは初となるアシスト&スリッパークラッチを採用している。
スポーティな乗り味に合わせて、フレームにアルミ製のセンターブレースを装備。スイングアームピボットまわりのねじり剛性を向上し、フレーム全体の剛性バランスも調整している。フロントサスは新設計のφ41mm倒立フォーク、リヤサスは減衰特性、ばね定数をYZF-R7用に専用開発している。フロントブレーキにはブレンボ製・純ラジアルマスターシリンダー、メーターは新作フル液晶、ヘッドランプも新作LEDなど、MT-07をベースとしながらもYZF-R7独自の機構が装備されている。
そうした最新機能を装備したYZF-R7の車体は、「YZF-R1」が持つRシリーズのイメージを継承しつつ、「Skinny Proportion for Perfect Control」をコンセプトとしてデザインされている。カウル形状はCP2のスリムさを生かし、前面投影面積を小さくすることで空気抵抗を低減し、アンダーカバーは極力エンジンに近づけてバンク角を確保するためにアルミ製を採用するなど、マシンを操る楽しさに貢献するデザインとなっているのが特徴だ。
ギアポジション、ガソリン残量などを表示するネガポジ反転液晶メーターも専用設計。
シート座面後方をワイド化し、自由度の高いポジションを実現。タンデムシートはYZF-R1/R6と共用。
樹脂製タンクカバーはニーポケットをえぐった形状でホールド感を向上。容量は13Lを確保している。
YZF-R7の足着き性をチェック
前輪の接地感が分かりやすく、マシンコントロールが楽しい
クセのないハンドリングで、低速域でも操る楽しさがあり、扱いやすさも感じる。
YZF-R7の全長/ホイールベースは2070mm/1395mmで、YZF-R125は2030mm/1325mm、YZF-R15は1990mm/1325mm、YZF-R25は2090mm/1380mmと、全長はR125とR25の間に収まっている。車重はベースとなったMT-07の184kgに対して、カウルを装着した分4kg増えた188kgだが、これはXSR700と同一。YZF-R7はミドルクラスのスーパースポーツとして、軽量コンパクトにまとまっていると言えるだろう。また、フロントサスのキャスター角をMT-07より1.1度立てて前輪分担荷重を増やし、コーナリング時の安定感を向上しつつ、直進安定性も確保しているという。
実際に跨ってみるとハンドル幅はややタイトに感じるが、ハンドルグリップ位置が遠すぎず、シートの前後長にも余裕があってライディングポジションの自由度が高い。ハンドルグリップを握って、両腕が力み過ぎない位置に着座すると、軽い前傾姿勢となった。筆者は個人的にオフロードモデルを乗り続けてきたが、それでもYZF-R7の前傾姿勢がきついとは感じなかった。むしろ、自然とフロント荷重できるライディングポジションが決まり、前輪のグリップ感が分かりやすくなる安心感が好印象だった。ハンドリングも市街地での左折といった極低速域でも切れ込みすぎたり、逆に立ちが強くて粘るといったこともなかった。速度を上げていっても前輪の接地感は分かりやすく、高い直進安定性を発揮し、それでいてライダーの操作に対して車体がスムーズに反応するので、中高速域でのコーナリングではマシンとの一体感が感じられた。
こうしたマシンコントロールのしやすさは、前後サスの作動性と衝撃吸収性のよさも大きく寄与している。低速域からスムーズにストロークするので、コーナー進入時などのブレーキングでフロントサスがスッと入り、しっかりとフロントに荷重がかかる。けれども不必要に入りすぎず踏ん張ってくれるので、狙ったラインでコーナリングしていける安心感を得られたからだ。
CP2が操る楽しさを加速させる!
軽量コンパクトで取りまわしやすく、直進性とコーナリングでの安定性を両立しているYZF-R7は、市街地でもマシンコントロールする楽しさが感じられた。そんな楽しさをさらに増してくれるのが、CP2のエンジン特性だ。
アイドリング(メーター目視でおよそ1350rpm)付近から太いトルクが立ち上がり、3000rpmでも交通の流れに乗れる加速力を発揮する。その回転域ではシフトチェンジによるトルク変動が少なく、マシン挙動もギクシャクしないので乗り心地も非常にスムーズ。高速道路では6速4000rpmで時速100kmに到達するなど、低中回転で実用的なトルクとパワーを発揮するクロスプレーン・コンセプトの乗りやすさが体感できる。さらにMT-07系で初搭載されたアシスト&スリッパークラッチのおかげでクラッチレバー操作も軽く、スロットル操作に対するエンジンの反応もダイレクトで、フロントブレーキも初期からカチッとした制動力が発揮されるなど、操作系の軽さがライディング中の車体を軽く感じさせるので、幅広いライダー層が扱いやすさを感じるはずだ。
そうした扱いやすさを実現しつつ、3000rpm以上回すとトルクとパワーはさらに増し、ミドルクラスらしい加速力を発揮する。中高回転域では速度も増していくが、前後輪の接地感は分かりやすいままで、セパレートハンドルによる正確かつダイレクトなハンドリングも安定しているので、マシンとの一体感も損なわれない。
そのYZF-R7にはエンジン特性を変化させるモード選択やトラクションコントロールは装備されていない。それは低中速域での扱いやすさと高速域でのスポーティさが両立した、CP2本来のエンジン特性のみでライディングするということでもある。YZF-R7のタイトなライディングポジションは極低速から高速域までつねに一体感を感じやすく、マシンコントロールもしやすいので、MT-07系の中では、舗装路でCP2らしさをいちばん体感しやすいマシンになっていると思った。
スロットル操作に忠実に反応する270度位相クランクを採用しているCP2。蹴り出すようなトラクション感を発揮する。
【2022年型ヤマハYZF-R7主要諸元】
・全長×全幅×全高:2070×705×1160mm
・ホイールベース:1395mm
・車重:188kg
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒688cc
・最高出力:54kW(73PS)/8750rpm
・最大トルク:67N・m(6.8kgf・m)/6500rpm
・燃料タンク容量:13L
・変速機:6速リターン
・ブレーキ:F=ダブルディスク、R=シングルディスク
・タイヤ:F=120/70-17、R=180/55-17
・価格:105万4900円
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