取材協力:バイク王つくば絶版車館
ヤマハを代表するシングルバイクであるSR、その新世代を担うスポーツモデルとして登場したのがSRX600/400だ。結果としてSRの方が長寿モデルとなったが、その先進的なデザインや技術は今も多くのファンを惹きつけて離さない。
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真のシングルスポーツバイクを目指したSRX
1978年に発売されたヤマハSRは、シングルロードスポーツモデルというジャンルを切り拓いた。このSRの原型と言われているのが「モト・ライダー」誌の企画を通して島英彦氏が製作した、XT500のエンジンを搭載したロードスポーツモデル「ロードボンバー」である。このロードボンバーは鈴鹿8時間耐久レースで8位に入賞するという快挙を達成し、シングルエンジンを搭載したスポーツモデルのポテンシャルを証明した。
SRは好調な販売を続けていたが、キャストホイール化が不評であったことなどを考えると、本来意図されたシングルロードスポーツというよりもベーシックなバイクとして購買層に受け入れられていたと考えられる。しかし、本来スポーツバイクを得意とするヤマハは、SRの次の一手としてよりスポーツ性を高めたモデルを企画した。
ヤマハの歴史にSRXの名前が登場したのは、1984年のSRX250である。同年代のSR400が搭載するSOHC2バルブ399ccエンジンは、最高出力27PS/7000rpm、最大トルク3kgm/6500rpmだった。それに対してSRX250にはDOHC4バルブ249ccエンジンは、最高出力32PS/10000rpm、最大トルク2.4kgm/8500rpmという高出力・高回転型のシングルエンジンを搭載していた。デザインも最新のヨーロピアンスタイルで、当時流行していた角形のヘッドライトを採用、翌1985年にはフレームマウントのカウルを装着したSRX250Fもラインナップに加わった。デザイン、性能共に優れたバイクであったSRX250は、当時巻き起こっていたバイクブームの中で、車体のコンパクトさや扱いやすさから多くの女性ライダーにも愛用された。
しかし、ヤマハのシングルロードスポーツ戦略はここで終わるわけではななく、1985年にSRの後継として開発されたSRX600/400が発売された。SRX600と400は車体のほとんどの部品を共用しており、見分けるポイントとしてはオイルクーラーが装着されているかやフロントのブレーキがダブルかシングルか、リアショックにリザーバータンクがあるか、そしてサイドカバーのデカールが「6」か「4」かなどであった。
技術陣、デザイナーのこだわりが生んだ稀代のシングルスポーツ
SRX600/400に搭載されたエンジンはXT600/400をベースにしたSOHC4バルブで、始動はキックスタートオンリーとなる。このエンジンはSRX600にはボア×ストローク96×84mmの608cc、400にはボア×ストローク87×67.2mmの399ccという仕様で搭載される。スペックとしてはSRX600が最高出力42PS/6500rpm、最大トルク4.9kgm/5500rpm、400は最高出力33PS/7000rpm、最大トルク3.4kgm/6000rpmを発生する。SRX600の排気量が「608cc」に設定されていたのは、当時のTT-F1クラスの排気量レギュレーションが4ストロークエンジンの場合600〜750ccとされていたことに起因するという。これはヤマハの技術陣の、鈴鹿8時間耐久レースで8位に入賞したロードボンバーへの対抗心であり、オマージュだったのかもしれない。
細部にまで宿る、ヤマハのスポーツマインド
SRX250はDOHCエンジンを搭載し、セルフスターターも装備していたのに、SRX600/400がSOHCのキックオンリーとされたのは開発陣のこのバイクに対するコンセプトに対する強い思い入れによるものだとヤマハはホームページで公開している「SRX600 開発ストーリー」で語っている。SRXの600/400の開発において徹底されたのは、「必要なものにコストを惜しまず、不必要なものは絶対につけない」ということだったという。SOHCエンジンという選択は「シングルらしい図太くトルキーな走りを追求するなら、DOHCは単なるギミックだ」といい、「少しの労力を厭わないキック始動こそ男のシングル」とセルフスターターの装備が拒まれたという。
車体は角パイプのスチールフレームを使ったダブルクレードルタイプで、セミダブルクレードルタイプだったSRとは全く異なる。ここだもう一度ロードボンバーの写真を見ていただきたいのだが、ロードボンバーのフレームは丸パイプを使ってはいるがダブルクレードルタイプである。これは島氏と親交の深かった筆者の恩師である高橋矩彦氏から伝え聞いた話ではあるが、島氏はSRではなくSRXの方がイメージしていたロードボンバーの量産バージョンに近いと話していたということだ。このフレームに組み合わされる足回りは前後18インチのホイールで、リアはベーシックなツインショックを採用。ブレーキは前後ディスクで、SRX600はフロントがダブル400はシングルとされていた。
SRXの開発においてそのショートマフラーはデザイナーであるGKデザインの一条氏の強いこだわりによって採用されたというのは有名な話だが、その結果このショートマフラーはマスの集中化にも貢献している。現在のスーパースポーツの多くはこのSRXのように腹下にまとまったショートタイプのエキゾーストシステムを採用しており、SRXの開発コンセプトがいかに先進的であったかということが後に証明されたと言っても良いだろう。
1987年に大幅なマイナーチェンジが行なわれ、フロントのホイールサイズを17インチ化すると共にブレーキを大径のシングルディスクに統一。また、5速の変速比が0.806から0.791へと変更され、オーバードライブ設定に変更。さらに1988年にはラジアルタイヤが採用されるなどの変更も加えられ、完成度が高められていった。
レーサーレプリカではないスポーツバイクとして
SRX600/400が登場した1985年はレーサーレプリカブームが始まっており、400ccクラスは水冷のDOHC4気筒で59PSというのが当たり前になっていた。ヤマハにもFZ400Rがあり、スペックだけで見ればSRX600でさえ400ccクラスに遠く届かないものであった。しかし、その軽さから来る運動性能の高さや、エンジンのフィーリングは多くのライダーの心を惹きつけ、当初の販売計画を大きく上回る結果を残した。
1990年にSRX600/400はフルモデルチェンジし、リアをモノショック化した新しいフレームや前後17インチホイール、そしてセルフスターターを備えた3SX/3VN型へと進化した。セルフスターターを装備したことについては賛否両論あったが、乾燥重量は149kgと初期の1JK/1JL型と変わりなく、SRXとして正しく進化していたと言って良いだろう。
SRX600[SRX-6]主要諸元(1987)
・全長×全幅×全高:2085×705×1055mm
・ホイールベース:1385mm
・シート高:760mm
・乾燥重量:145kg
・エジンン:空冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒608cc
・最高出力:42PS/6500rpm
・最大トルク:4.9kgm/5500rpm
・燃料タンク容量:15L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=100/90-17、R=120/80-18
・価格:55万3000円(当時価格)
撮影協力:バイク王つくば絶版車館
住所:茨城県つくばみらい市小絹120 電話:0297-21-8190 営業時間:10:00~19:00 定休日:木曜日
スポーツバイクの可能性を追求した、稀代のシングルスポーツ「SRX600」 (26枚)この記事にいいねする