
取材協力:レッドバロン
ゼファー400が引き起こしたネイキッドバイクブームによって、各メーカーは各排気量にネイキッドタイプをラインナップした。当然250ccクラスにもネイキッドモデルが投入され、その多くはレーサーレプリカ由来のエンジンを搭載していた。カワサキからはZXR由来のエンジンを搭載したバリオスが1991年に登場し、1997年にバリオスIIがラインナップに加わった。
各社の戦略が異なる、各社の250ccネイキッド
1989年にスズキがバンディット250を発売し、1991年までに他メーカーも4ストローク直列4気筒エンジンを積んだ250ccネイキッド市場に本格参入した。ホンダからはジェイド、ヤマハからはジール、そしてカワサキからはバリオスが発売された。レーサーレプリカブームからネイキッドブームへと時代が移り行く中、レプリカ由来のエンジンを持つこれらのネイキッドバイクの登場は必然だったと言える。
バンディットは400と共通のヨーロピアンデザイン、ジェイドはCB系統のデザインを持つネオクラシック路線、ジールは「ジャンプするイルカ」をイメージしたという先進的なデザインを採用していた。ダブルクレードルフレームとそれに合わせたマッシブなデザインのタンク、そして流れるようなデザインのサイドカウルとテールカウルを持つバリオスは、個性的でありつつも最もスタンダードなネイキッドのデザインだったと言えるだろう。
これらのバイクの全盛期、筆者は某バイク用品店に勤務していたのだが、今考えると最も売れそうなジェイドは苦戦し、シート高の低いジールは女性に人気、若い男性ユーザー(高校生や大学生が中心だった)の人気はバンディットとバリオスに集中していたという印象がある。
ネイキッドバイクブームは長く続き、1996年にバンディットがフルモデルチェンジし、可変バルブタイミングを採用したバンディット250Vもラインナップに加わった。ジェイドで苦戦したホンダは1996年にホーネットを投入。アップタイプのマフラーを装備するなど、元からカスタムバイクのような成り立ちを持つホーネットは、若者の心を掴み販売台数を伸ばしていく。
ライバルが先進的な装備を加えたモデルチェンジを行なったのに対して、バリオスは1997年にリアサスペンションをツインショック化したバリオスIIをラインナップに加えた。ちなみに、ヤマハに関しては2ストロークのR1-Zに人気が集まったためか、マイナーチェンジを重ねつつジールが継続生産されている。
バンディット250は400と基本的に同じデザインの車体に、GSX-R250系のエンジンを搭載。トラスフレームが印象的だ。
ジェイドは後に発売されるPROJECT BIG-1コンセプトのCBシリーズに繋がるデザインだが、販売は苦戦。「CB250SF」と名付けられていたら、また少し違った展開だったのかもしれない。
個性的なデザインを採用したヤマハのジールは、シート高が低かったこともあって女性の人気が高かった。
何にも似ていないバリオスはこの時代の250ccクラスにおいて、最もベーシックなデザインだったのかもしれない。
バリオスのエンジンはZXR250由来のもの。1989年に登場した初代ZXRには、45PS/15000rpmという仕様で積まれていた。
フルモデルチェンジしたバンディット250には、可変バルブタイミング機構を採用したバンディット250Vが上級モデルとしてラインナップされた。
ホンダのホーネットはアップタイプのマフラーを採用し、カスタムテイストを押し出したモデル。250は大ヒットモデルとなり、600、900もラインナップされた。
ツインショックとなり、扱いやすさもアップしたバリオスII
時代に逆らうようにツインショック化されたバリオスIIだが、しばらくの間はモノショックのバリオスが併売されていた。このツインショック化は好調な売り上げを続けるゼファーシリーズの影響を受け、より強くネオクラシック路線に舵を切ったものと考えられる。当然スイングアームは新造されたものになり、フレームにも大幅に手が入っている。スペック上では1380mmだったホイールベースが1400mmになっている。同時にハンドルの高さとステップの位置が変更され、ポジションはよりリラックスしたものになっている。
撮影車はバリオスの最終年式となる2007年型。レーサーレプリカZXR250譲りのパワーユニットは、馬力規制によって40PSとされていたものの、レッドゾーンが17000rpmから始まる超高回転ユニットであった。最高出力の40PSは14000rpmで、後期型のZXR250が同じ40PSを15500rpmで発生してことを考えると多少ではあるが中低速型にチューニングされたと考えられる。ただ、トルクはバリオスの後期モデルが10000rpmで2.4kg-fを発生していたのに対して、バリオスIIは13000rpmで2.1kg-fと高回転化した上に若干ダウンしているのだが、スロットルポジションセンサー「K-TRIC」付きのキャブレターを装備するなどして扱いやすさを損なうことはなかった。
バリオスIIはフロント周りはバリオスと大きく変わらないが、ハンドルやステップも変更されるなど細かく手が入れられている。
ツインショック化されたバリオスIIは、リアから見るとネオクラシック要素が強くなっているのがよくわかる。
ZXR由来の高回転型エンジンだが、4気筒の250ccバイクとしては低速から扱いやすい印象。回せば1万回転まですぐ届くレスポンスの良さも兼ね備える。
ベストセラーとなったバリオス
結果としてバリオスIIはユーザーたちに受け入れられ、バリオスは生産中止となりバリオスIIに一本化された。このバリオスIIはスズキとのOEM契約により2002年からGSX250FXとして供給されている。バンディット250が1997年に生産中止になっていたことを考えると、長く続いたネイキッドブーム、いやバイクブームそのものに陰りが見え始めたのがこの頃だったのだろう。
バリオスIIは2007年に排出ガス規制によって生産中止になるまで、バリオスから数えると17年もの間生産が続けられたロングセラーモデルとなった。生産中止からさらに17年が経過した2024年現在においても人気は高く、稼働している車両も多く見られる。バリオスシリーズはゼファーシリーズと共に、「一部マニア向け」と捉えられがちだったカワサキのバイクをベストセラーに押し上げた名車であったと言えるだろう。
タンクのエンジレムには「BALIUS II」のロゴと、名前の由来となったギリシア神話に登場する神馬が描かれている。
バリオスII(2007)
・全長×全幅×全高:2070×735×1055mm
・ホイールベース:1400mm
・シート高:745mm
・乾燥車重:151kg
・エジンン:水冷4ストロークDOHC4気筒4バルブ 249cc
・最高出力:40PS/14000rpm
・最大トルク:2.1㎏m/13000rpm
・燃料タンク容量:14L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=110/70-17、R=140/70-17
・価格:54万4950円(税込当時価格)
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