
取材協力:レッドバロン
DT230ランツァは、長い歴史を持つヤマハの2ストロークオフロードバイク、DTシリーズ最後のモデルである。オフロードでの速さを求めて進化し続けてきたDTシリーズであったが、ヤマハがこのDT230ランツァに与えた使命はそれまでのDTシリーズとは少し違っていた。
オフロードバイクの先駆者DTシリーズ
ヤマハにおける「DT」というネーミングは、オフロードバイクに与えられてきた。1967年に東京モーターショーで発表されたDT-1は、国産初のオフロードバイクである。DT-1以降「DT」と名付けられたバイクはヤマハの公道用オフロードバイクのエースであり、多くのライダーと共にオフロードを駆け抜けた。
1990年代まで、2ストロークエンジンはスポーツバイクの主流と言えた。それはオフロードバイクの世界においては特に顕著であり、ホンダのCRM250R、ヤマハのDT200WR、スズキのRMX250S、カワサキのKDX250/220SRなどスポーツ性の高い2ストロークの200〜250ccモデルがシーンの主役であった。他社の250ccモデルに対してヤマハのみ排気量200ccのDT200WRで、馬力も40PSに対して35PSであった。しかし、モトクロッサーYZ125の流れを汲むフレームにDT200Rベースの熟成されたエンジンを積み、ライバルに少しも引けを取らない走行性能を発揮していた。
国産初のオフロードバイクであったDT-1は、18.5PSを発生する空冷2ストローク単気筒エンジンを搭載。オフロードバイクというカテゴリーを作り出した。
DT200Rは水冷化されたエンジンをコンパクトな車体に搭載し、クランクケースリードバルブを採用した後期型のエンジンは、195ccの排気量で33PSという最高出力を誇った。
DT200WRはフロントに倒立フォークを採用し、エンジンもメッキシリンダーを採用した199cc仕様。最高出力は35PSを発揮し、モトクロッサーYZシリーズのレプリカと言える装備を誇った。
ライバルCRMと共に、250ccクラス最後の2ストロークモデルとなる
多くのオフロードバイクユーザーは軽くパワーの出る2ストロークエンジンを好んだが、排出ガス規制への対応が難しく2ストロークエンジン搭載モデルは次々と姿を消していった。ホンダは1997年に自然着火を抑制し、不完全燃焼を減らすことで燃焼効率を上げる「AR燃焼技術」を用いたCRM250ARを発売。ヤマハは同時期にDT200WRのエンジンをベースにロングストローク化されたエンジンを搭載した、DT230ランツァを発売した。
CRM250ARとDT230ランツァ、この2台をスペックで比べてみる。CR250ARが最高出力40PS/8000rpm、最大トルク4.0kg-m/6500で、乾燥重量が114kg。対するDT230ランツァは最高出力40PS/8500rpm、最大トルク3.7kg-m/7500で、乾燥重量が114kgである。つまり、スペックだけを見れば、この2台はほぼ同等の性能を持っていると言える。「セルフスターター=重量増加」というイメージがあるかもしれないが、実際にはキックスタートオンリーのCRM250ARと乾燥重量は同じであった。
CR250ARはCRM250Rから受け継いだ倒立フォークを採用した車体に、排気量を246ccから249ccにアップしたエンジンを搭載、そしてキックスタートオンリーというモトクロッサーレプリカ路線を継承していた。それに対して、DT230ランツァはロングストローク化で排気量を224ccにアップし、扱いやすくなったエンジンを搭載していた。また、オフロードバイクとしては珍しいセルフスターターオンリーという始動方式を採用し、トラクションコントロールを搭載するなど扱いやすさを向上。車体周りではフロントフォークにベーシックな正立タイプを採用し、シート高も865mmとオフロードバイクとしては低めに設定されるなどトレールバイク色が強められていた。後期型ではオイル吐出量を最適化するYCLS(ヤマハ・コンピュータライズド・リュブリケーション・システム)を搭載して白煙やオイルの消費量を軽減、スイングアームがアルミ製へと変更されている。
DT230ランツァのパッケージングは、モトクロッサーではなくセローのようなマウンテントレイルに近いものだった。
CRM250ARは、排出ガス規制に対応したAR燃焼技術を投入した新エンジンを搭載。わずか2年しか生産されなかった、ホンダ最後の250ccクラスの2ストロークオフローダーだ。
DT230ランツァのエンジンは、DT200WRのエンジンをベースにロングストローク化することで排気量をアップ。最高出力は40PSで、ヤマハの公道用オフロードバイク用最強ユニットであった。
DTシリーズらしくコンパクトにまとめられた車体。撮影車のカラーはライトグレーメタリック3で、それまでのモトクロッサー的な派手なカラーリングから脱し、都会的な印象を受ける。
スリムなデザインのリアビュー。ライトグレーメタリック3にはブラックのリムが組み合わされ、引き締まった印象を強める。
2ストロークエンジンらしいパワー感や吹け上がりの良さを持ちつつ、扱いやすさも持ち合わせるエンジン。車体の軽量さもあり、オンロードからオフロードまで幅広いステージで高い性能を発揮する。
再評価されるべきランツァのパッケージ
DT230ランツァの目指したところ、それはモトクロッサーレプリカではなく2ストロークのセローとでも言うべきマウンテンとレールであったと考えれば全ての変更は合点がいく。軽く、足つき性が良く、エンジンの再始動が簡単なランツァはあらゆる場面での扱いやすさに優れていた。
ただ、ユーザーの多くは2ストロークエンジンを積む「DT」という名前のバイクに高いスポーツ性をイメージしていたのは間違いなく、どちらかと言えばモトクロッサーレプリカ路線を求めていた。そのため、ユーザーフレンドリーになったランツァのパッケージは少し受け入れにくかったのかもしれない。筆者の友人のカリカリのオフロード乗りも、「2ストのオフ車にセルはいらない」と当時断言していたのを覚えている。
生産中止から20年以上が経過し、ランツァの稼働台数ももうそれほど多くはないだろう。ただ、当時のオフロードバイクの常識からは異端扱いされたセルフスターター付きの2ストロークエンジンだが、セルフスターターが当たり前となった現代においてランツァは再評価されるべきモデルなのかもしれない。
エンジン右サイドでは、2ストロークエンジンらしいチャンバーが存在感を示す。また、この車両にはキックスターターキットが組み込まれているため、キックペダルが確認できる。
DT230ランツァ主要諸元(1998)
・全長×全幅×全高:2140×800×1200mm
・ホイールベース:1410mm
・シート高:865mm
・乾燥車重:114kg
・エジンン:水冷2ストローク単筒クランクケースリードバルブ 224cc
・最高出力:40PS/8500rpm
・最大トルク:3.7㎏m/7500rpm
・燃料タンク容量:11L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=3.00-21、R=4.60-18
・価格:43万5000円(当時価格)
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そもそもランツァのコンセプトは『2st版セロー』。
DT200WRの後継車と思われがちだが、性格がまるで違う。
セローと違うのは、整備性が極悪ってとこ。
2015年までLANZAの前期型で良く林道を走っていました。旧セローもに1年半ほど乗ってましたが確かに「2スト版セロー」で旧セローだと軽く殺意が湧くほど馬力がなく、LANZAはそれを完全に払拭し好調時は燃費もそれほど悪くなかったのですが、YPVS不調で何度か入退院を繰り返し最期にはエンジンが掛からなくなって10万円で売却しました。
できればアルミスイングアームの後期型のLANZAにも乗ってみたいのですが10年前とは価格が倍になってしまい、手が届かなくなってしまいました。