取材協力:レッドバロン
現在ではバイクのカテゴリーとして定着しているネイキッドは、カワサキが時代に反抗するようにデビューさせたゼファーが生み出したと言って過言ではないだろう。そして、そのゼファーを4バルブ化したゼファーχは、ブーム末期に登場したネイキッドバイクの完成形と言えるだろう。
目次
GPzに積まれ、現役を続けていたFXの空冷エンジン
ゼファー400が登場した1989年、バイクメーカーのラインナップの中心はレーサーレプリカであった。400ccは規制値一杯の59PSの水冷エンジンが当たり前であり、空冷エンジンは過去のものになりつつあった。各メーカーの主力であった400ccの4気筒エンジンは水冷化されていったが、カワサキに関しては水冷のGPZ400RやZXR400と並んで、空冷のGPz400F/F- IIという空冷エンジン搭載モデルの販売を続けていた。
GPz400F/F- IIはZ400FX由来のDOHC空冷2バルブエンジンを搭載し、Z400FX搭載時に43PSで始まった最高出力はGPz400F/F- IIでは53PSまでパワーアップされていた。スタイル的にはFがGPz1100系のハーフカウル、F-IIは当時流行していた角形ヘッドライトを採用したカウルレス仕様であった。
カスタムZブームが、ゼファー誕生へとつながる
1980年代中頃から、レーサーレプリカブームと並行して、カスタムバイクのブームが始まっていた。そのカスタムの素材となったのはZ1/Z2を中心とした一昔前の空冷大排気量車で、最新のレプリカの足回りを組み合わせて走行性能を高めるという手法が流行した。このカスタムバイクブームの起因の一つとして、漫画「あいつとララバイ」の主人公である研二のZ2という存在は見逃せない。作中でライバルとバトルする中で次第に改造されていく研二のZ2は、エンジンがチューニングされ、足回りも極太のタイヤを履く仕様へと変更されていく。これはカスタムバイクブームを確実に加速させた要因であり、その中でさらにZ1/Z2のカスタムブームを巻き起こした。
Z1こと900スーパーフォーとZ2こと750RSは、カワサキというメーカーだけではなく日本製高性能バイクの代名詞にもなっている。ゼファーシリーズは、このZ1/Z2のイメージを強く受け継いでいる。
カワサキはこのZ1/Z2のカスタムブームを知ってか知らずか、この時期にZ1の復活計画を検討していた。しかし、この計画はコストの問題から、「空冷400ccプライスバイク計画」という計画に変更された。その結果生み出されたのが、Z1/Z2をイメージさせるタンクやテールカウルデザインに、キャリーオーバーされていたGPz400F/F- IIの空冷エンジン、フロント17インチ、リア18インチのキャストホイールを組み合わせたゼファーだった。カウルを持たない古典的スタイル+現代的な足周りというスタイルのゼファーは、当時のカウル付きバイクを見慣れた目には新鮮に映った。しかし、スペック至上主義の中で育ってきた当時のライダーたちは、46PSとベースになったGPz400F/F- IIよりも低い最高出力を見て少しがっかりしたに違いない。
ゼファーが巻き起こしたネイキッドブームは、カテゴリーとして定着
ゼファーが登場した1989年、ホンダとスズキからもゼファー同様に「カウルのない」新型バイクが発売されている。ホンダ CB-1とスズキ バンディットである。クラシックバイクのデザインをリブートしたゼファーに対して、CB-1は新しい時代のカウルレスバイクを模索したデザイン、バンディットはヨーロピアンスタイルをベースにした洒落たデザインを採用していた。この2車種のエンジンはどちらもレプリカモデル由来の水冷で、CB-1は57PS、バンディットは59PSという最高出力を誇った。これらの元々はスタンダードなデザインであったカウルレスのバイクは、多様化したバイクカテゴリーの中での呼び名が求められ、「ネイキッド」というカテゴリーを生み出した。
この「ネイキッド」カテゴリーを生み出した3台のバイクだが、結果として勝利したのはゼファーであった。ゼファーは発売翌年には1万台以上を売り上げ、1992年までの3年間ベストセラーを記録した。結果としてホンダからはCB400SF、スズキからはGSX400インパルス、ヤマハからはXJR400が発売され、トドメとしてカワサキからもZRX400が発売された。さらにネイキッドブームは大排気量モデルにも波及し、カワサキからはゼファー1100/750とZXR1100、ホンダからはCB1000SF、ヤマハからはXJR1200が発売されてネイキッドラインナップは充実していった。
4バルブ化されたエンジンで、ゼファーは完成した
ネイキッドバイクというカテゴリーを作り出したとも言えるゼファーは、ライバルたちと共にネイキッドをレーサーレプリカの次のブームにまで押し上げた。しかし、高性能なライバルたちの登場は、当然ゼファーの売上に影響を及ぼす結果となる。それでもゼファーは1995年まで大きな変更が加えられず、カラーチェンジ程度のマイナーチェンジだけが繰り返された。
ゼファーに大きな変更が加えられたのは1996年のことで、4バルブ化されて53PSのパワーを得たエンジンを搭載した新型は、「ゼファーχ」という新しい名前が与えられた。登場した1996年モデルはエンジン以外はゼファーと大きく変わらなかったが、翌1997年には前後ホイールが3スポークタイプの17インチに変更され、フロントのブレーキキャリパーが4ポット化。ラジアルタイヤを採用し、さらにフロントフォークも41mm径へとグレードアップされた。2003年には排出ガス規制に対応するために改良が加えられ、フロントブレーキキャリパーも変更されている。ゼファーの弱点を全て補ったゼファーχは、ゼファーの完成形であったと言って良いだろう。
ゼファーχの1996年モデルは、ゼファーのフロント17、リア18インチをそのまま継承。4バルブ化されたエンジンは、53PSへとパワーアップされていた。
撮影車は1998年モデルなので、本来は火の玉カラーは設定されていない。1997年型から前後のホイールが17インチとなり、デザインは3スポークタイプになっている。
前後17インチになったことで、よりバランスの良いデザインになったことを確認できるサイドビュー。この車両はリアサスペンションが社外品に変更されている。
「必要にして充分」なパワーと、ちょうどいいサイズの車体が生み出す走りは軽快さを感じさせるもの。エンジン特性を含めて非常に扱いやすく、ベテランから初心者まで幅広いライダーにおすすめできる。
Z1/Z2をリスペクトしたカラーは、ゼファーχだから許される
エンジンや足回りをグレードアップされたゼファーχだが、ゼファー時代ともうひとつ大きく異なることがある。それはカラーリングだ。ゼファー時代には単色ペイントを貫いてきたが、ゼファーχになってからは火の玉やイエローボール、タイガーといったZ1/Z2のカラーリングをモチーフとしたカラーリングが採用されたのである。おそらく最初のゼファーの開発者たちは、ゼファーをZ1/Z2の縮小コピーという位置付けではなく、ゼファーという新しいバイクとして提案したかったのだろう。
しかし、多くのユーザーはゼファーをZ1/Z2レプリカの素材と捕らえ、Z1/Z2カラーにリペイントされたカスタムが多数作られた。ゼファーχにZ1/Z2に由来するカラーが初めて採用されたのは、1999年に発売された10周年モデルの火の玉風カラーリングだった。翌年の2000年には玉虫カラー風がレギュラーカラーにラインナップされ、2004年モデルではついにタンクのエンブレムが「ZEPHYR」から「Kawasaki」へと変更、それ以降は単色モデルはラインナップから消えることになった。
ゼファー/ゼファーχというバイクに、Z1/Z2というカワサキのマスターピースをイメージするなというのは難しい話だったのかもしれない。それでもゼファーというバイクの独自性を模索し、当時のデザイナーはタンクのエンブレムを「ZEPHYR」にしたのであろう。しかし、ユーザーは素直にZ1/Z2の幻をゼファー/ゼファーχに求め、モデル末期に本来の姿を取り戻したのかもしれない。そして、20年近く続いたゼファーシリーズにも、排出ガス規制によって最後の時が訪れる。
最後のゼファーχは2008年に発売されたゼファーχ Final Editionで、そのカラーリングはZ1/Z2を代表する火の玉カラーをモチーフにしたものであった。ただ、それはゼファーがZ1/Z2の縮小コピーだからではない。カワサキの空冷4気筒エンジンを継承した、Z1/Z2の正当な末裔であるからなのだ。
ゼファーχ Final Editionに採用されたのはZ1/Z2の火の玉カラーをイメージさせる、キャンディダイヤモンドブラウン/キャンディダイヤモンドオレンジだ。
ゼファーχ主要諸元(1998)
・全長×全幅×全高:2085×745×1100mm
・ホイールベース:1440mm
・シート高:775mm
・車重:183kg(乾燥)
・エンジン:空冷4ストローク並列4筒DOHC4バルブ 399cc
・最高出力:53PS/11000rpm
・最大トルク:3.6kgf-m/9500rpm
・燃料タンク容量:15L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=Wディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17、R=150/70ZR17
・価格:58万円(税抜当時価格)
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