
スロットルを開けた瞬間に、僕の身体の全ての細胞が生き生きとしていくような気がした。ドゥカティの「ハイパーモタード698モノ」に搭載された市販最強単気筒エンジンである「スーパークアドロモノ」が、最初に教えてくれたこの感動的なまでの興奮は、忘れ難いものになりそうだ。近年、これほどインパクトのある単気筒エンジンがあっただろうか……。
目次
超ショートストロークとデスモドローミックが生み出す、抜群のドゥカティらしさ
小さなメータ内で感度よく動くタコメーターはあっというまに高回転に飛び込み、シフトアップを促してくる。デスモドローミックが生み出す、高回転での異様なまでのフリクションのなさが次々と感動の波として押し寄せる。
信じられないほどの超ショートストロークエンジンである「スーパークアドロモノ」を搭載する「ハイパーモタード698モノ」を振り回しながら、素直に「バイクに長く乗っていてよかった。このエンジンに出会えてよかった」と思った。
僕は昔から大のビッグシングル好き。多くの市販車に乗ったし、チューニングされたSR、SRX、GBなども多くのショップに経験させてもらった。もちろんドゥカティやビモータのスーパーモノにも試乗。特にドゥカティ スーパーモノの素晴らしいハンドリングやエンジンのフィーリングを知れたことは、一生の宝物だと思ってきた。
だからこそ、デスモドローミックを搭載したドゥカティの単気筒エンジンをこの日まで待ち望んでいたのである。そしてドゥカティらしさに溢れたその完成度は想像通りの素晴らしさ。この時代にこのエンジンをつくるドゥカティは、やっぱりとても面白いメーカーだと痛感した。
茂原ツインサーキットのコースインの前に、「スポーツ」「ロード」「アーバン」「ウエット」のライディングモードの中から、「スポーツ」を選ぶ。期待通りのレスポンス、2速、3速とシフトアップしていっても鋭い加速は変わらず、さらに4速、5速に入れても高回転まで軽々と回る。この伸びこそがドゥカティだ。
そこには誰も体感したことのない未知の加速がある。最大出力を発生する9750rpmを超えてもレスポンスの軽さはそのまま。レブリミッターが働く1万250rpm(1速のみ1万rpm)まで綺麗に回っていくのだ。市販単気筒エンジン最大であるφ116mmの超大径ピストンが、こんなに軽く高回転まで回る感覚は脅威でしかない。また、スロットルを開けた際の後輪が路面を掴む感覚もダイレクト。ドゥカティのツインやV4エンジン同様にトラクションを作りやすいのだ。
そのパワフルさは、切り返しや立ち上がりで前輪が浮かないように走るのに苦労するほど。積極的に上半身を動かし、押さえつける。「ハイパーモタード698モノ」は、そのくらいレスポンスがよく、運動性が高い。前後サスペンションの減衰力を強めると、車体はさらに機敏に。軽快さは痛快さに変わり、より精度の高い操作に応えてくれようになる。
また、「スーパークアドロモノ」とモタードパッケージの相性もよく、様々な乗り方を許容してくれる。座る場所を前にすればモタードのような挙動になるし、後にすれば車体のピッチングモーションの出方が変わり、ネイキッドっぽいフィーリングに。ようはライダーは自由にその走りを謳歌できるのだ。スリムで軽快な車体は深くバンクしなくても簡単にコーナーをクリアでき、このヒラヒラ感は、当然だが近年のドゥカティにはないもの。シングルエンジンならではのキャラクターである。
ハイパーモタード698モノは今回試乗したスタンダードと派手なグラフィックとクイックシフトを標準装備するREVを用意。価格はスタンダードが170万円、REVが182万円。
厳しい規制をクリアし、長いメンテナンス距離も実現!
このエンジンのプロジェクトは4年前からスタート。技術会議で1人のエンジニアが「1299パニガーレのエンジンを使って単気筒エンジンを作ったら、市販最強の単気筒ができる」と提案。その会議に出ていた全員が賛成したのだという。最も苦労したのは厳しい規制をクリアすることと、メンテナンス距離を伸ばすことで、こういったハイパフォーマンス単気筒の弱点も完全に克服してきた。
「ハイパーモタード698モノ」は今回試乗したスタンダードと、派手なグラフィックとクイックシフトを標準装備するREVの2機種を用意。価格はスタンダードが170万円、REVが182万円となっている。
「車両価格が高い……」そんな声も聞くが、それはこのエンジンの中身を見てから発言した方がいい。各パーツの作り込みはもちろん、その材質の選定や表面処理を見れば、これほどまでに手間とコストのかかった市販単気筒エンジンが、今までに存在しなかったことがわかるだろう。
ロードスポーツとしても楽しめる広い守備範囲
スーパーモタードと聞くと、どうもピンとこない方も多いと思う。僕も昔はそんな1人だし、進入スライドといったモタード乗りもできないのだが、ドゥカティのモタードはロード乗りもきちんと許容してくれる。
「ハイパーモタード698モノ」もそんな1台。国内仕様はサスペンションが変わるため、ハンドリングの印象は変わるが、軽量、スリムでパワフルな単気筒エンジンの魅力を生かしたパッケージは様々なバイクライフにマッチすると思う。自分の色に染めていけば良いのである。
サーキットの後は一般道へ。「ロード」「アーバン」「ウエット」のモードを一通り試し、国内仕様のシート高が下がることを踏まえると様々なライダーにマッチする姿が浮かんだ。「アーバン」「ウエット」にすれば、強烈なレスポンスはないし、電子制御もわかりやすく介入してくれるからだ。当然、軽量&スリムなメリットも大きい。
実は「ハイパーモタード698モノ」はかなりの台数の予約が入っているとのこと。市販最強単気筒エンジンへの期待が大きいことに嬉しくなる。誰も感じたことのない未知のエンジンなのだから、当然かもしれない。冒頭にお伝えした僕の感じた『忘れ難い興奮』を多くの方に知っていただきたい!
ドゥカティ ハイパーモタード698モノRVE&ハイパーモタード698モノ [2024]主要諸元
・ホイールベース:1443mm
・車重(燃料含まず):151kg
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒659cc
・最高出力:77.5PS/9750rpm
・最大トルク:6.4kgf・m/8000rpm
・燃料タンク容量:12L
・変速機:6速リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70-17、R=160/60-17
・価格:182万円(170万円)
()内はハイパーモタード698モノ
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この記事で試乗した意味あるの?
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