
バンディット400リミテッドというバイクのことを語るとすれば、それは「ロケットカウル」という言葉から始めなければならないだろう。それほどこのバイクに装着されていたロケットカウルはインパクトが大きく、ネイキッドバイクブームに風穴をあける存在であったと言える。
目次
「ロケットカウル」という呪縛
「ロケットカウル」それは元々は1970年代に生まれたバイクパーツのひとつで、当時のレーサーが装備していたカウルにライトを取り付けたものだ。ラベルダやノートン、ドゥカティなどのヨーロッパ車が装着し始めたが、当時の日本ではまだカウルが認可されておらず、ロケットカウルはアフターパーツとして普及した。
その代表格とも言えるのが「コミネカウル」であり、このコミネカウルをデザインした故・高橋矩彦氏は筆者の恩師の一人だ。正当なカフェレーサースタイルをイメージして作られたアフターパーツのロケットカウルだが、最もこれに反応したのは当時絶頂期を迎えつつあったいわゆる「暴走族」である。セパレートハンドルと同時に装着されることを前提にしていたロケットカウルを、彼らはアップハンドルのまま取り付けたため、カウルの装着位置が高くなるいわゆる暴走族スタイルが定着。派手なカラーリングを施したり、2段や3段に取り付けるといった日本の暴走族特有のスタイルへと発展していった。この手のバイクを見かけるたび、高橋氏が「俺はこんな使われ方をするためにコミネカウルをデザインしたんじゃない」とぼやいていたのが懐かしい。
と、まあ、ロケットカウルは日本においては少々独特の発展を見せ、1983年にRG250γでカウルが認可された以降、ヘッドライトは角形が主流になっていた。しかし、1985年にホンダから発売されたGB400TT Mk IIにはロケットカウルが装着されており、正当なカフェレーサースタイルを纏った数少ない生産車として注目を集めた。
ゼファー、CB-1、バンディットが巻き起こしたネイキッドブーム
1989年、カワサキから1台のバイクが発売される。400ccクラスでは59PSの水冷4気筒エンジンを搭載したレーサーレプリカが主流の中、そのバイクは2バルブの空冷4気筒エンジンを搭載し、最高出力も46PSと250cc並しかなかった。Z2を思い起こさせる懐古的なデザインを持つ「ゼファー」と名付けられたそのバイクは、翌年には売上台数でNSR250Rを抜いてしまった。
各メーカーはこの後対ゼファー用の400ccネイキッドバイク開発を進めていくことになるのだが、ゼファーと同じ1989年に発売されていたネイキッドモデルがあった。それはホンダのCB-1とスズキのバンディットであり、どちらもレプリカモデル由来の水冷4気筒エンジンを搭載していた。ゼファー、CB-1、バンディットの3台は同じ400ccのネイキッドではあるが、コンセプトが大きく異なっていた。それでも同時期に投入された3台は何かと比較され、ネイキッドブームの礎を築いていった。
懐古的デザインのゼファー、機能的デザインのCB-1に対して、ヨーロッパ的なデザインをベースに新しいバイクのデザインを模索したバンディットのデザインは、「艶」といデザインキーワードそのままに、誰が見ても美しいバイクに仕立てられていた。結果としてゼファーが最もヒットし、各社懐古的デザインのネイキッドバイクのラインナップを拡充させていくことになる。カワサキはZ1000R系のデザインを引き継ぎ水冷エンジンを搭載したZRX400、ホンダはCB750FやCB1100R系をオマージュしたCB400SF、スズキはGS1000イメージのGSX400インパルス、ヤマハはXJ400を現代風にアレンジしたXJR400と各社のラインナップが揃う中、何にも似ていないバンディットに関しては、その独自性から一定のファンが付いて独自の発展を遂げていくことになる。
バンディットの美しさは、フレームをデザインの一部に取り込んだところにある。ドゥカティの初代モンスターのデザインと重なる部分があるが、モンスターが発売されるのは4年も後の1993年のことだ。
GPZ400系のエンジンを使用しつつ、パワーダウンしたエンジンを積んで登場したゼファーだか、その懐古的デザインはバイク本来のデザインを再認識させ、ネイキッドブームの起爆剤となった。
CB-1はスタンダードなバイクの再定義を狙った、意欲的なバイクであった。マッシブさを感じさせる機能的なデザインは、バイクという機械の美しさを感じさせる。
本当に時代が求めたバイクバンディット400リミテッド
バンディット400リミテッドが投入されたのは1990年で、スズキの70周年記念車という位置付けだった。セパレートハンドルとハーフタイプのFRP製ロケットカウルを装備し、レーサーレプリカともネイキッドとも違う独自路線が爆発したモデルである。デビュー当時バイクショップでこのバイクを見た筆者は、暴走族御用達アイテムと化していたロケットカウルが、使い方によってはこんなにも美しいフォルムを生み出すのかと驚いたものだ。ハンドルはセパレートタイプだがレプリカほど低くなく、シートもしっかりとした厚みがある。レプリカブームにバイクに乗り始めた人たちはそろそろ社会人となり、ポジションのきついレプリカに疲れはじめ、峠を攻めるのも卒業する歳になっていた。そんな人々にこのバンディット400リミテッドはぴったりとハマるバイクであった。
バンディットのエンジンはGSX-Rベースなので59PSあるため充分に速く、性能的にはレーサーレプリカに引けを取らないというのも魅力である。フレームは鋼管丸パイプを強調したダイヤモンドタイプで、直線基調で無機質だったアルミフレームとは違う、デザインの美しさもあった。足周りは前後17インチホイール+ディスクブレーキ、ステンレス製のエキゾーストシステムなど各部の装備は非常に充実していた。1991年には可変バルブタイミング機構を備えたVCエンジンを搭載したバンディット400リミテッドVが投入された。バンディット400は1995年にフルモデルチェンジされるが、新型には残念ながらリミテッドが設定されることはなかった。
1996年に大型自動二輪の免許が教習所に取れるようになり、第三京浜あたりを中心ににわかに大型バイクブームが起こった。スズキは1995年にバンディットのビッグバイク版としてGSF1200を投入しているが、カウル付きGSF1200Sにはロケットカウルではなく角目のオーソドックス、というか地味なデザインのハーフカウルが装着されていた。このバイクを見た時「これがロケットカウルだったら買ったのに」と思ったライダーもいたのではないだろうか? ちなみに筆者はその一人だったりする。
サイドビューはこのバイクのデザインの秀逸さを再確認させる。低すぎないハンドル位置とロケットカウルのマッチング、カウルとタンクそしてフレームへつながるラインが美しくまとめられている。
ロケットカウルはコストが高く生産性の悪いFRP製で、細部までこだわった作り。クラシカルな金属製ミラーもよく似合っている。
BMW RnineTレーサーやトライアンフ スピードトリプル1200RR、そしてホンダ HAWK11と、近年ロケットカウルを装着したモデルは時々メーカーから発売され、それなりに注目を集めている。スズキさんもこの辺でバンディットを1,000ccで復活させて、ロケットカウル装備モデルもラインナップしてくれたらうれしいのだが。
国産の現行モデルで唯一ロケットカウルを装備するホンダHAWK11。アフリカツイン由来の並列2気筒エンジンを搭載し、テイスティなスポーツバイクに仕上げられている。
バンディット400リミテッド主要諸元(1990)
・全長×全幅×全高:2055×705×1155mm
・ホイールベース:1430mm
・シート高:750mm
・乾燥重量:172kg
・エジンン:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 398cc
・最高出力:59PS/12000rpm
・最大トルク:3.9㎏m/10500rpm
・燃料タンク容量:16L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=ダブルディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=110/70-17、R=150/70-17
・価格:66万6000円(税抜当時価格)
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