
取材協力:レッドバロン
カワサキにおいて正道を行くのはやはりZ1の血を引くZシリーズだが、メグロ時代のK1を起源とするWシリーズも忘れてはならない存在だ。ここで紹介するW800は1999年に登場したW650をベースにボアアップやフューエルインジェクションなどの改良が行なわれ、その後現行のW800シリーズへと発展していくことになったモデルだ。
目次
1960年代、「W」はカワサキを代表する高性能モデルだった
1960年代までバイクの最高峰はまだ英国にあり、高性能といわれたトライアンフやBSAなどに積まれるエンジンは単気筒か2気筒のバーチカルツイン(並列2気筒)であった。国内メーカーもまだ黎明期にあり、高性能なバーチカルツインエンジン搭載車の開発に力を入れていた。1960年にメグロが発売したK1は、497ccのOHVバーチカルツインを搭載したスポーツモデルであった。1964年にメグロはカワサキへと吸収合併され、K1は各部に改良を受けてカワサキ500K2として1965年に発売された。
翌1966年、カワサキは高速道路網の拡大を視野に入れ、排気量を624ccに拡大した「W1」ことカワサキ650 W1を発売する。W1は当時のカワサキのフラッグシップモデルとして国内で人気を博し、北米向けにはツインキャブ仕様のW2SSとして輸出されていた。1968年にはW2SSの国内仕様となる650 W1Sとして発売、1971年にはそれまでの右足シフト・左足ブレーキから左足シフト・右足ブレーキへと変更された650W1SAへとモデルチェンジされた。W1SAはW1シリーズの中で最も販売台数を伸ばしたが、1969年にホンダから発売されたドリームCB750FOURの登場によって時代は4気筒バイクへと移ろうとしてはじめていた。
1973年、カワサキは、Z1を国内向けに746cc化したZ2こと4気筒の750RSを発売。1974年にW1Sはフロントにディスクブレーキを採用した650RS W3へとモデルチェンジしたが、Z2人気の影に隠れ1974年にW3Aへとマイナーチェンジを行なうもそのまま生産中止となり、初期のWシリーズはその歴史に幕を下ろすことになった。
メグロがカワサキに吸収合併され、メグロK1は各部に改良を受けたカワサキ メグロK2へとモデルチェンジ。当時高性能バイクの代名詞であった英国車を脅かす存在として生まれ変わった。
メグロ系技術者と川崎航空機工業の設計で改良されたエンジンを搭載した650 W1は、47PSを発生する624ccのOHV2バルブエンジンを搭載した高性能車だった。
復活した「W」は、テイストを楽しむ大人のバイク
カワサキの歴史に再びWの名称が現れたのは、1998年のことであった。その年の12月に発表されたW650は、翌1999年に発売されることになる。このW650はSRブームに端を発するネオクラシックカテゴリーに投入されたモデルで、1950〜1960年代の英国車や初期のWシリーズを彷彿させるデザインを纏っていた。
エンジンは完全新設計の空冷SOHC4バルブ675ccのバーチカルツインで、ボア×ストロークは初期Wシリーズが74.0×72.6mmというショートストロークだったのに対して、72.0×83.0mmというログストロークに設定されていた。このエンジン最大の特徴とも言えるのがハイポイドべべルギアを使用したカムシャフトの駆動方式で、エンジンの左側にあるクランクケースとシリンダーヘッドをつなぐべべルギアシャフトが存在感を示していた。
高性能を狙っていた初期Wシリーズと異なり、新しいW650はいわゆるテイストを楽しむのがメインのバイク。旧Wシリーズに倣った360°クランクを採用し、最高出力48PS/6,500rpm、最大トルク5.5kg-m/5,000rpmとこの時代としては控えめであったが、このスペックは最高出力47PS/6,500rpm、最大トルク5.4kg-m/5,500rpmであったW1とほぼ同じであった。完成度の高いクラシックスタイルや、セルフスターターとキックスターターの両方を装備するといったこだわりの装備を持つW650は一定の成功を収め、2006年には普通自動二輪車版となるW400が発売されている。このW400はカワサキには珍しくストロークのみを短くすることで排気量を399ccに落としており、ボア×ストローク72.0×49.0mmというかなりのショートストローク設定となっており、スペックは最高出力29PS/7,500rpm、最大トルク3.0kg-m/6,000rpmとされた。しかし、W650/400は2008年の排出ガスの規制強化によって生産中止となり、Wシリーズは再びカワサキのラインナップから姿を消すこことなった。
W650のエンジンをベースにもストロークを短くすることで、排気量を399ccに落としたW400。約3年という短命ではあったが、魅力的な普通二輪規格車であった。
FI化で排出ガスの規制に対応し、三度舞い戻った「W」は800cc
2010年海外輸出モデルとしてW800が発表され、2011年より国内にも導入されWシリーズは復活を遂げる。W800はW650のエンジンをベースにボアを72.0mmから77.0mmに拡大して排気量を773ccにアップ、燃料供給装置はキャブレターからフューエルインジェクションへと改められた。このフューエルインジェクション化は排気ガス規制に対応するための選択であるが、W800は燃料ポンプをタンクの外に配置することでタンクのデザインや容量を犠牲にすることなく、サブスロットルを採用する事で自然なスロットルフィールを生み出している。スペックにおいては最高出力は48PS/6,500rpmとW650と同じだが、最大トルクは6.3kg-m/2,500rpmという低回転域から大きなトルクを発生するように仕立てられていた。低速域から発生される豊かなトルクと、エンジンの爆発を感じるロングストロークの大排気量バーチカルツインエンジン、リラックスしたライディングポジョン。このようにW800は各所に余裕を感じさせるバイクであり、スピードだけではない大排気量バイクの楽しみ方を多くのライダーに選択させた。
復活したW800ではあるが、2016年に再度強化された排出ガス規制のために生産を終了。カワサキの大排気量ネオクラシックラインは空席となる。
垂直にシリンダーが立ち上がる空冷のバーチカルツインエンジンは、それだけでも存在感がある。OHVからSOHCとはなったものの、W1のエンジンを彷彿とさせた。
W650系のエンジン最大の特徴は、エンジン右サイドに取り付けられたべべルギアシャフトだ。カムシャフトをわざわざギア駆動にしたこのエンジンは、デザインの上でも重要な存在となっている。
Wからメグロへ、伝統は引き継がれていく
2016年W800は再び排出ガスの規制強化によって生産中止となり、Wシリーズは三度カワサキのラインナップから消えることとなる。しかし、2019年「W800ストリート」と「W800カフェ」という2つのモデルが発表され、Wシリーズは復活を遂げる。さらにその年の東京モーターショーでスタンダードな「W800」も発表され、この3種類のWは現在も販売が継続されている。この新しいW800はエンジンは基本キャリーオーバーだが、スペックは最高出力52PS/6,500rpm、最大トルク6.3kg-m/4,800rpmへと改められた。車体はフレームを新設計し、ストリートとカフェはフロントに18インチのホイールが与えられている。また、リアブレーキがディスク化されてABSも装備、ライトもLED化されるなど各部がアップグレードされている。さらにメグロK1の登場から60年目に当たる2020年、W800をベースにした「メグロ」の名前を冠した新型車が発表された。「メグロK3」と名付けられたそのバイクは、K2をイメージさせるメッキタンクやカタカナのメグロロゴ、ブラックアウトされたフェンダーなどを採用しオールドファンの心を掴んだ。このメグロを含むW800シリーズは、今後もカワサキのスタンダードバイクとして永く走り続けることだろう。
2020年にフルモデルチェンジしたW800は、新設計のフレームにLEDライトやリアのディスクブレーキなどを装備。現在もラインナップされており、高い人気を誇る。
W800主要諸元(2012)
・全長×全幅×全高:2180×790×1075mm
・ホイールベース:1465mm
・シート高:790mm
・車重:216kg
・エジンン:空冷4ストローク並列2筒SOHC4バルブ 773cc
・最高出力:48PS/6500rpm
・最大トルク:6.3㎏m/2500rpm
・燃料タンク容量:14L
・変速機:5段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ドラム
・タイヤ:F=100/90-19、R=130/80-18
・価格:80万9524円(税抜当時価格)
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現行型をレンタルしましたが排気音が静か過ぎて記事中にある「爆発力」は感じられませんでした。
無闇に大きな排気音は論外ですがせめてYAMAHAボルト程度の「良い音」ならなぁ…