
MVアグスタから本格派アドベンチャーモデル「ENDURO VELOCE(エンデューロ・ヴェローチェ)が登場。国際試乗会が開催されたイタリアのサルディーニア島からモーターサイクルジャーナリストのケニー佐川がレポートする。
目次
【マシン解説】
ダカールラリーの覇者をオマージュした美しき野獣
エンデューロベローチェ[MV AGUSTA 2024]2023年発売の限定モデル「LXPオリオリ」に続いて登場したアドベンチャーツアラーモデル。国内導入時期、価格は2024年5月時点では未発表。
MVアグスタは“走る宝石”にも例えられるイタリアの名門ブランド。100%イタリア製の世界一美しいバイクを自負し、MVの栄光の歴史に裏打ちされたパフォーマンスとテクノロジーを詰め込んだ高品質なプロダクトを誇っている。
’50~’70年代にはロードレース世界グランプリで最高峰500ccクラスをはじめ各カテゴリーでタイトル量産するなど黄金時代を築いてきた。その後2輪事業から一時撤退するも、同じイタリアの新興2輪メーカーだったカジバの下でブランドは生き残り、紆余曲折を経て現在はKTMグループの傘下に入ったことで生産体制も強化され、開発も一気に加速している。
さて、「エンデューロ・ベローチェ」だがVELOCEはイタリア語で「速い」の意味。MVには前後17インチのツーリスモ・ベローチェという長距離ツアラーがあるが、それに比べるとオフロード色を強く打ち出していることがネーミングからも分かる。
それもそのはず。デザインコンセプトは90年代にパリ・ダカールラリーで2度の優勝に輝いたカジバ・エレファント900がモチーフになっている。当時アフリカの砂漠を200km/h近いトップスピードでぶっ飛んでいった怪物マシンを駆ったのがイタリアの名手エディ・オリオリで、彼の名を冠した「LXPオリオリ」が世界限定500台のプレミアムモデルとして昨年のEICMAで登場したことは記憶に新しい。エンデューロ・ベローチェはそのスタンダード版量産モデルの位置づけである。
完全新設計3気筒逆クランクに最新電子デバイスを投入
エンジンは水冷並列3気筒で新世代MV同様、車体の姿勢変化を抑えてハンドリングを向上させる発想の逆回転クランクを採用しているのが特徴。排気量を931ccに拡大した完全新設計で、最高出力124ps/10.000rpmの高回転パワーを稼ぎつつも3000rpmで最大トルクの85%を発揮するなど低中速トルクも両立させている。車体については骨格となるメインフレームがスチールとアルミ鋳造を組み合わせたダブルクレードタイプと比較的オーソドックスな作り。足まわりは前後210㎜のホイールトラベルを持つザックス製全調整式サスペンションにブレンボ製前後ブレーキを装備。エキセル製の前後21/18インチ軽量ワイヤースポークホイールにBS製A41タイヤを標準装備するなど本格的なアドベンチャー仕様となっている。ちなみにエンジンから車体まで基本スペックはLXPオリオリと共通だ。
電子制御も充実。4種類のライドモード(アーバン、ツーリング、オフロード、カスタムオールテレイン)に8段階のトラコン(5ロード、2オフロード、1ウェット)を搭載する他、装着タイヤの種類(オン用、オフ用)によってトラコン介入度を自動調整する最新機能も装備。また、2段階のコーナリングABSとエンジンブレーキコントロールや急制動時に後輪リフトを抑えるRLMも搭載。クルコンに加え、最大効率での発進加速を可能にするローンチコントロールやクイックシフター(アップ&ダウン)も標準装備された。また、これらの電子デバイスやMVライドアプリの情報を見やすく視覚化するフルカラーTFTディスプレイを装備。往年のラリーマシンを思わせる力強さとMVらしいエレガントな上質感の中に先端テクノロジーが盛り込まれている。
DRLと一体化したヘッドライトとコンパクトなテールまわりにMVらしいスポーティさと上質感が漂う。ウインカーを含め灯火類はフルLEDタイプだ。
【試乗インプレッション】
3気筒パワーと官能サウンドに酔いしれる
見た目は大柄だが、跨るとタンクがコンパクトでハンドルも近いためサイズ的な圧迫感はあまり感じない。燃料タンク容量は20Lと比較的コンパクトで、調整式のシート高は850㎜/870㎜とこのカテゴリーとしては標準的。224kgの車重はイメージよりも軽い。
ハンドリングは穏やかだが軽快。フロント21インチのどっしり感があり、しなやかな前後サスによって車体の姿勢変化を作ることで、タイトなワインディングも気持ち良く曲がっていく。逆回転クランクの慣性力によって加速でのフロントの浮き上がりや減速でのピッチングが抑えられるためか、足が長い割にコーナーへの進入や脱出での車体姿勢が安定している。
新開発の並列3気筒エンジンは全域で力強くアグレッシブだ。2,000rpmでも粘るし、10,000rpmでピークアウトしてからも伸びていく。排気量アップとともにロングストローク化されたメリットだろう。エンジンのレスポンスは鋭いがそこに慣れれば扱いやすい。そしてサウンド。下はワイルドな鼓動感に溢れ、回せばイタリアン・スポーツカーを思わせる官能的なエキゾーストノートが轟く。走りもどことなくスーパースポーツ的でエキサイティング。まさに3気筒MVの真骨頂だ。コーナリング中でも自在にギアチェンジできてしまうクイックシフターも秀逸だ。
ライドモードは全体的にアグレッシブな設定で「アーバン」が通常のツーリングモードとすると、「ツーリング」はスポーツモード並みに鋭く加速する。モードによってABS、トラコン、エンジンブレーキなどの設定も最適化され、乗り味もはっきりと変わるのが楽しい。大型スクリーンと一体化したカウルのおかげで高速巡行でも上体を伏せなくても快適。一日かけてワインディングや高速道路を400km近く走ったが疲労は少なく、街中でもサイドラジエターからエンジンの熱風を横に逃がしてくれるので快適だった。
フロント21インチとは思えない軽快さでオンロードスポーツ並みのコーナリング性能を楽しめる。そして官能的なサウンド。
MVの3気筒パワーと逆回転クランクの安定感、最新の電子デバイスによる安心感に支えられた上質で快適な走り。ウインドプロテクションも効果的。
ガチオフも行けるオフロード性能に脱帽
オフロードにもトライした。高級品のMVでしかも初のアドベンチャーだ。フラットダートを軽く走る程度かと思いきや、目の前には山を切り開いただけのヒルクライムコースが続いていた。覚悟を決めて飛び込んでいく。3気筒パワーでフロントを浮かせ気味にしつつ砂地をいなし、所々に岩がむき出したガレ場を飛ぶように走る。フルサイズの大径ホイールと専用設定のザックス製前後サスがしなやかに衝撃を吸収してくれるし、トルクがあるので低速ターンも安定している。車体の軽さも手伝って予想以上に楽に走れる印象だった。ちなみにタイヤはオプション指定のBS製AX41に履き替えられ、ライドモードも「カスタムオールテレイン」でオフロード用に最適化されていたが、走破性とドライバビリティの高さには脱帽だった。開発者の話では、3気筒逆回転クランクのエンジン特性に加え、エンデューロ・ベローチェ専用に開発したフレームが効いているようだ。伝統的なダブルクレードル形状ではあるが、アルミとスチールを組み合わせることで強度と剛性バランスを最適化。MVがアドベンチャーバイクに求める上質で快適な走りを実現できたという。
今回エンデューロ・ベローチェに乗ってみて、自分の中でのMVアグスタのイメージが「所有欲を満たす高級品」から「実用的なハイブランド」へと変わった。日本での発売時期や価格は未発表だが大いに期待したい。
瞬発力のあるエンジンと軽量な車体、衝撃吸収性に優れる長い足によって、少々のガレ場などは軽々と走破していく。
ちょっと躊躇しそうなヒルクライムもアクセルさえ開ければガンガン登っていく。見た目以上のオフロード性能の高さに驚く。
エンデューロ・ベローチェ[2024]主要諸元(海外)
・全長×全幅:2,360×980mm
・ホイールベース:1,610mm
・シート高:850mm
・乾燥重量:224kg
・エンジン:水冷4ストローク3気筒DOHC4バルブ 931cc
・最高出力:124HP/10,000rpm
・最大トルク:10.4kg-m/7,000rpm
・燃料タンク容量:20.0L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=ダブルディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=90/90-21、R=150/70R18
・価格:未発表(2024/05)
この記事にいいねする